ことりは制服に着替えた後師走の所に向かった。
「チーフすみません!休憩終わりました!それと海斗先輩が呼んでくれと頼まれました。」
「りょうか~い。」
師走は違和感を覚えたが、すぐにことりが海斗を名前で呼んでいたことに気付く。
「ことりちゃん、海斗を下で呼ぶようになったん?」
「はい!ことりから呼んでもいいか聞いたんです。そしたらいいって言ってくれました!」
ことりは嬉しそうに言う。
「ほ~う。だからさっきよりテンション高いのか。ひょっとして海斗に惚れたとか?」
師走はニヤニヤしながらことりに聞く。
「ちっ違いますよーっ!」
ことりは顔を赤くし手を前に出し振りながら訂正した。
「恋とかそんなんじゃなくて、海斗先輩は『優しいお兄ちゃん』って感じで好きなんですよ。」
「お兄ちゃんね~。もし惚れてたらあいつはどうなってたかな~。」
師走は意味深に言ってみる。
「望くんはそんなんじゃないですよ~。」
「知ってる。てかなんで望が出てきたんだ?俺は『あいつ』しか言ってないのに。」
「もうっ!チーフ!」
ことりは師走の思惑に引っかかたことに気付き怒って頬を膨らます。
「まぁまぁ、そんな膨れないで。・・・でも話さないとわからないこともあっただろ?」
「っ!」
師走にはことりが海斗を避けていたため、どうにか仲良くならないかと考えていた。
「・・・はい!ありがとうございます!」
ことりは師走にお辞儀をしてホールに戻った。
「・・・さてと、今は暇だし行くか。」
師走はそう言って奥にいるキッチンスタッフを呼んだ。
「海斗ー、お待たせ~。」
ことりが戻ってから5分も経たずに、師走はもう1人連れて海斗のいる席に来た。
「お前にしては早いな。で、誰なんだ?」
「こいつが前言った会わせたい奴だ。」
「初めまして、夏木 望(なつき のぞむ)です。よろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく。」
望の背丈は海斗と師走より少し低く髪型はショートで何処にでもいそうな容姿の高校生だ。
「望は俺らと同じ音ノ木坂でことりちゃんと同じ1年だ。」
「そうなのか。」
「相変わらず関心ねぇな。」
師走の言葉を聞いて、望は僅かながら不機嫌な顔をしていた。
「関心はあるにはあるさ。以前ことりが話していた幼馴染はお前のことか?」
「ことりから聞いていたんですね。それと、俺が休んで先輩に迷惑かけてしまってすいませんでした。」
望は海斗に謝罪する。海斗が手伝った日に休んだスタッフは望のことだったらしい。
「気にしなくていい。困ったときはお互い様だ。」
「そう言ってもらうと助かります。」
「んじゃ顔合わせも済んだことだし俺らそろそろ戻るわ。」
「本当に顔合わせるだけなんだな。」
「まぁ色々話したいことがあるが、いくら暇でも俺ら仕事中だからな。」
今は忙しくないとは言え、一応ここのチーフでありキッチンスタッフの師走がここにいるのは流石に不味く戻ろうとする。
「わかった。俺も帰るとするか。」
海斗もあまり長居するのも悪いと思い、目の前にある伝票を取ろうとすると師走が先にを取った。
「前に奢るって言っただろ。それに俺が呼んだんだからそれぐらいさせろ。」
そういえばそうだったが・・・。
「いや、たかがコーヒー1杯だから別にいい。」
「俺の店のコーヒーをたかがとか言うな!」
師走は少し喧嘩腰に海斗に言った。
「そういう意味で言ったんじゃない。人の話を理解してから物を言え。」
師走の言葉には海斗も呆れるしかなかった。望はその横で必死に笑うのを我慢している。
するとことりが慌てて3人の元へ駆け寄ってくる。
「チーフ!望君!オーダー入ったから早くして!お客さん待たせちゃうよっ!」
海斗が来た時には2組しかいなかったが、いつの間にか客が4組いた。ことりの言う通り、客を待たせたら店の信用を失いかねない。
「マジで!ことりちゃんごめん!」
「ごめんことり、すぐ行くよ。」
これ以上言い合ってる時間はないと海斗は察する。
「荒波、奢られるから早く行け。」
「おーそうか、わかった。じゃあ明日の昼からミーティングな!」
師走はそう言い残しキッチンに戻る。
「それじゃ先輩、バタバタしてすいませんが俺も行くんで失礼します。」
望は師走の後を追った。
2人が去った後、海斗は立ち上がり会計をすまそうとレジへ向かう。
かと言って会計をするわけではないのだが。
ことりも海斗のことに気付き一足早くレジに着く。
「海斗先輩、もう帰るんですか?」
ことりは淋しそうに海斗にこぼした。
「まぁ長居しすげるのも悪いからな。ことり、荒波に奢られることになったんだが聞いてはいないよな?」
「そうなんですか?じゃあお代は大丈夫ですよ。」
海斗はことりに返答に耳を疑った。
「ちょっとまて、そんな適当でいいのか?俺を疑ったり、荒波に聞きに行くとかしないのか。」
「先輩は嘘は付かないし本音しか言わないじゃないですか。それにチーフ言うならそういうこともあり得るかなと。」
ことりはあっけらかんと言った。
「はぁ・・・ことり、今回はそれでいいが次からは確認はしろ。じゃあバイト頑張れよ。」
「はい!ありがとうございます。」
ことりが返事を聞いてから海斗は店を後にした。
海斗が帰った後、キッチンにいる師走と望は客に出す料理を調理している。
「海斗と話してどうだった?」
急にに師走が望に話しかける。望は少し考えて。
「そこまで感じの悪い人じゃないみたいですね。」
望は野菜をみじん切りにしながら師走にそう答えた。
「と言うと?」
「ことりから聞いた話しかあの人のこと知りませんでしたからね。会うまではことりを泣かしたクソ野郎と思ってましたし。」
「うわぁ・・・相当根に持ってたんだな。」
師走は自分の思ってた以上の言葉が返ってきたことに苦笑いするしかなかった。
「そりゃそうですよ。まあそれで、どうにかことりから原因を聞き出せたんで咲雷先輩と話をしようと思ってたんですが、チーフが根回ししてくれたみたいで。」
「せめてお膳立てと言え。だが当人同士で話をしてもらったけどな。それに俺としてもここの看板娘のことりちゃんがいつまでも暗いと営業に関わってきちゃうからな。それで海斗にここに来いって言ったんだ。」
「経営目線ですか?」
望はため息交じりで師走に言う。
「それもあるが純粋に俺の知り合い同士がギクシャクするのは嫌だからな。だから勝手に話せる環境を作ってみたが、いい方向に行って良かったよ。」
「そうですね。ことりにも笑顔が戻ってきましたし、感謝します。」
望はそう言った後、2人は調理に集中する。
・・・ふと思い出したかのように、望は師走に尋ねる。
「そう言えばチーフ、何で急にダンスやろうと思ったんですか?」
師走は器をオーブンに入れセットし、望の疑問に答える。
「ん?あぁ~いやさ、文化祭で何かしようと考えてたらお前がダンス出来るのを思い出してな。」
「・・・はぁ、誰でも考えそうな理由ですね。」
望はハンバーグのタネをフライパンで焼く。
「まあ、あれだ、高校生活の思い出ってやつ?要は限られてる時間を楽しみたいんだよ。」
「何時になく力説してますね。俺も思い出を残したいですし、それに俺のバイト代上げてもらう約束でオーケー出しましたからね。」
「ったく下手にでたら調子に乗りやがって。そうだ!ことりちゃんを誘って華のあるメンバーにしよう。」
師走が思いついたかのように言うが、それを望は止める。
「多分断ると思いますよ。でもことりは服を作るのが好きなんで衣装作り頼んでみましょうか?」
「そうなのか?でもことりちゃんそんなこと出来るの!?すげぇな。じゃあ聞いてみて。」
「わかりました。」
するとオーブンから音が鳴り料理が完成する。
「よし・・・。ことりちゃ~ん、3番卓のドリア上がったよ~。」
望もハンバーグが焼く上がり、盛り付けを終える。
「ことり、2番のハンバーグとコーンポタージュセット出来たぞ。」
「は~い。今行きま~す。」
時間は18時を回ろうとする、今日もこの店は客足が絶えないでいる。
師走の店から出た後、海斗は家に帰る途中ケータイが鳴り取り出す。
そこには、アレックスと表示されていた。
「なんだ?」
『よう、学園生活楽しんでるか~?』
スピーカーからは陽気な声が聞こえる。
「そんなもの報告書を確認すればいいだろ。」
『紙切れで確認出来るんなら態々連絡しねーよ。』
海斗は少しイラついたがそのまま話し続ける。
「それで、何の用だ?」
『7月頃、契約の関係で日本に行くからホテルの手配を』
「なんで俺がするんだ。暇な奴は山ほどいるだろ?そもそもどうして日本なんだ、俺がいた時にはそんな計画なかっただろ。」
『質問は1つずつしろ。まず1番暇なのが俺だからだ。まあただの暇つぶしみたいなもんだがつい最近思いついたんだわ、それにこの計画は日本でないと出来ないから契約の序でにお前の様子を見ようと思ってんだ。』
海斗は聞いて呆れていた。
「トップであるお前が暇とは、経営方針間違ってないか。」
『なぁに、その俺に雇われている幹部のお前が日本で学園生活送れる程だから間違ってんじゃねぇのか?』
海斗は厭みを言ったつもりだが、アレックスはそれを肯定する。
「俺に聞くな、アホ。」
『まあそんなことしても今の経営には何も支障はない。最初に暇つぶしっつっただろうが。』
海斗は時間の無駄だと思い話を進めた。
「まあいい。それで日本に何があるんだ?」
『海斗、スクールアイドルって知ってっか?』
「スクールアイドル?」
海斗には聞き覚えのない単語だった。
『なんだ知らねえのか。ここ数年、日本の全国各地の学生達がアマチュアでアイドル活動するのが流行ってるんだ。しかもその中には本格的なプロになるやつもいるようだ。』
「そんなもんの為に態々日本に来るのか。」
『お前ならそう言うと思ったが、まあ聞け。だが今までナンバーワンを決める大会が一度もないんだ。・・・あとはわかるな?』
「大会主催者になって運営し盛り上げ、スポンサーでもつけ広告料をせしめるのか?」
『そんなとこだ。だが今のところ殆どのスクールアイドルは小粒だから本格的に始動するのは来年以降になるだろうな。』
「なら来年から動けばいいじゃないか。その時間を他にまわせ。」
海斗の言う通り来年以降に始めるのであればその時でも遅くわない。
『確かにそうだ。別に急ぎじゃねし土台だけ固めときゃすぐに取り掛かれるだろ?思い立ったら吉日って言うだろ。』
「お前は日本人じゃないだろうが。話はそれだけか。」
『お前も日本人じゃないだろうが。まあスクールアイドルについてはな。あと、お前も楽しそうにやってるみたいだから聞きやしねえよ。じゃあホテルの手配任せたぞ。』
アレックスはそう言い残して通話を切った。
「・・・ちっ。」
海斗は舌打ちをし、頼まれたホテルの手配を済ませる。
「何で俺が楽しそうだと思ったんだ?」
普段と変わらずに話していたが、アレックスはそう捉えたようだ。