「すいません!お待たせしました!」
海斗は廊下の壁に寄りかかり待っていた。その5分後にことりは更衣室から出てきた。
「気にするな。じゃあ帰るか。」
「はいっ。チーフ、先上がります。お疲れさまでした~。」
「お疲れさん。ことりちゃん気をつけてね。海斗、ことりちゃんに手だすなよ~。」
その瞬間ことりが顔を赤くして海斗から少し離れた。海斗は面倒くさいと頭をかきながらことりに言う。
「南、そこまで警戒するな。あれの言葉に耳を傾けるな、手はださないから安心しろ。」
「はっ、はい。」
「じゃあ荒波、また明日。」
「おう!今日はありがとな~。」
海斗とことりは店を後にする。残った師走はいつものように後片付けを始める。
「荒波はいつも1人で後片付けしてるのか?」
「はい。いつも遅くなるからって先に私達を上がらせてくれるんです。あっ、私達って言うのは、もう1人は今日休んだ私の幼馴染で同じ音ノ木坂なんですよ。」
「そうなのか。」
「はいっ。ってすいません、私ばっかり話しちゃって。」
海斗とことりは他愛のない話をして帰って行くが、殆どことりの話になっていた。
「別に構わない。俺は南の話を聞いてて楽しいぞ。」
「ありがとうございます。でも私は咲雷先輩の話が聞きたいです!」
海斗は少し考える。話すことは本人自身はたいしたことないと思っているが、内容はとても高校生とは思えない程現実離れをしている為、正直戸惑っていた。
そんな時、物陰から何かが飛び出してきた。
「きゃっ!?」
ことりは驚き海斗に抱き着くが、だが海斗は微動だにしない。
「南、安心しろ。ただの猫だ。」
「ねっ・・・猫?」
にゃ~ん
ことりは恐る恐る目を開く、そこには1匹の猫がいた。
「急に出てきたんだ。驚くのも無理はない。」
ことりは安堵した様子で一息つき冷静になる。顔を海斗の方に向けると距離が近かった、そして自分が海斗に抱き着いていることに今気が付いた。
「!?ごっ!ごめんなさい!」
ことりは慌てて離れる。海斗は表情を変えず何事もなかったかのように接する。
「気にするな。それと夜だからあまり声を張らない方がいい。」
ことりはコクッコクッと頷く、だが海斗があまりにも反応がないため女としての魅力がないのかと考えてしまい徐々に表情が暗くなる。
すると猫はことりの方に寄って来て頭を足に擦りつけてきた。
みゃーぉ
ことりはその仕草に魅了され先程の暗い顔がなくなっていった。
「ふふっ、可愛いですねこの猫。」
「そうだな、だが何処から来たんだか・・・。」
海斗は辺りを見回し、何かに気付いた。
「・・・確かこの先に公園があったか、この猫はそこを寝床にしている野良だろう。」
「そうみたいですけど、何でこの子は人懐っこいんだろう?」
「おそらく誰かが面白がって餌をやってしまい、ここにいれば貰えると覚えてしまったんだろう。そして人に対しての警戒心がなくなって餌をねだるようになり、今では自分で餌を捕れなくなったってところか。」
「・・・。」
ことりは言葉が出なかった。そしたらこの猫は餌がもらえなければ餓死することになる。だが海斗が言った後では自分が出来ることがわからなくなる。
「先輩・・・この子どうにかならないですか?」
「今ここにいる2人のどちらかが飼えば話は早いが、無理だろう?」
「・・・はい。多分、親に言ってもダメって言います。」
「そうか・・・。じゃあ猫はそのままにして帰るぞ。」
そう言って海斗は歩き始めた。ことりはその場で立ち尽くしかけたが、どうにか一歩踏み出し海斗の腕を掴み止める。
「それじゃこの子可哀想じゃないですか!?」
ことりの言っていることは世間一般では間違っていない方に分類されるであろう。だが海斗の価値観は違っていた。
「可哀想とはどういうことだ?今飯が食えないことか?」
ことりは答えようと思ったがそれより早く海斗が話を続けた。
「本来動物は獲物を狩って生活している。それをただ興味本意や自己満足で餌を与えその結果この近辺に増え続け、最終的には周りの住民の苦情により区や市が動いて殺処分にまで発展する。」
話が殺処分と飛躍しているが間違いではなく事実だ。その言葉にことりは背筋が凍った。
「だからこの場合は何もしない。突き放すことがその猫への優しさになる。」
「・・・じゃあこの子は見捨てるんですね。」
ことりは弱弱しく海斗にたずねる。海斗はことりの足に寄っている猫はまだ2人をじっと見つめているのに気が付いた。
「傍から見ればそうだろうな。俺自身は野生でしっかり生きていけることを願っているんだが。」
海斗の腕を掴んでいたことりの手には力が入っておらず、するりと解け海斗は再び歩き始めた。
「早く帰るぞ。これ以上遅くなると南の両親迷惑がかかる。」
ことりは足元にいる猫に『ごめんね。』と謝り海斗の方へ走った。猫はことりに付いて行かず少ししてから公園の方へかけていった
2人は会話もせずただただ並んで歩いていた。とある交差点に差し掛かった時、急にことりは話しかけてきた。
「あの先輩、もう近くなのでここで大丈夫です。」
「そうか?気を付けて帰れよ。」
「はい。・・・送ってくれてありがとうございます。」
ことりは別れを告げ、足早に去っていった。
海斗はことりが浮かない顔をしていたのを気付いていたが、優しい言葉の1つや2つ言う事もせず何もしなかった。
月日が流れ、今日は金曜日、時間は放課後。来週からテストが始まる為、少しでも成績を上げようと努力する者はいる。海斗のクラスでもテストの話で盛り上がったいた。
「海斗!明日って暇か!?」
「ん?暇ではあるが、明日何かあるのか?」
「いやさ、来週からテストじゃん?だからお前に勉強教えてもらえないかなぁって思ってさ。」
「仮に教えるとしても場所はどうするんだ?」
「それは海斗ん家だ。」
「何故俺ん家なんだ?この場合は図書館でもいいだろう。」
「あんなとこで勉強できるか!静か過ぎて死んじまう!」
「勉強できる環境だから静かなのは当然だろ?だったらお前の場合料理してる時みたく、静か過ぎるなんて気にしない程集中すればいいだろう。」
「それはそれ、これはこれ。そんな上手くいく話があるわけないじゃん。」
「そうか、なら残念だが1人で頑張ってくれ。俺は土日を有意義に使わせてもらう。」
「まっ!待ってくれ!頼む、見捨てないでくれ!」
師走は海斗に飛びつくように腰に抱き着いた。正直暑苦しく、海斗は対応するのが億劫になり溜息を付く。
「2人とも盛り上がって何しとるん?」
隣で帰り支度が済んだ東條が声をかけてくる。師走はここだっ!と思わんばかりに希に話を振った。
「希ちゃん!ナイスタイミングッ!明日海斗ん家で勉強会しない?」
「ええな~!楽しそうやし。」
希は間髪入れずに師走に言った。
「おい荒波、話を大きくするな。しかも俺は了承していない。」
「ウチも咲雷君に勉強教わりたいし、1人でやってるよりは効率はええで。ダメかな?」
希は上目使いで海斗に尋ねる。だが海斗には通じなかった。
「断る。勉強なんて本に書いていることを覚えればやる必要ないだろう。それに東條とは今回のテストは俺と勝負するんじゃなかったか?」
「あ~そうやったね。でも咲雷君はそんなことを気にして、本当はウチらに勉強教えたら勝てなくなるのが嫌なんやろ~。」
すると希は海斗を煽ってきた。
海斗にとっては程度の低い煽りだが、この2人はここまできたら人の話を聞かない。収集が付かない為やむを得ず、海斗は煽りに乗ることにした。
「はぁ・・・わかった、いいだろう。」
まさかこんなあっさり首を縦に振るなんて思わず、2人は海斗の返答に驚いた。
「よっしゃ!サンキュー希ちゃん!まさか海斗を煽るなんて思わなかったよ。」
「ありがと~。でも咲雷君は何やかんや言っても優しいんやな~。」
「何が優しいだ。2人は諦める気さらさらなかっただろう。」
「さぁ?どうなんやろうね。あっ、咲雷君、えりちも呼んでええ?」
「あぁ、構わない。今から1人2人増えても変わらない。」
「ありがと~。えりちに伝えてくるね。」
希は絵里の近くに行き経緯を話した。
「でも私までお邪魔していいの?」
絵里と東條は海斗と師走の近くに行き、絵里は急に呼ばたことに少し戸惑っていた。
「大丈夫。ウチと咲雷君が友達やから、ウチと友達のえりちは咲雷君とも友達やろ?」
「希・・・随分滅茶苦茶なことを言うのね。」
絵里は呆れたが、海斗が続けて言った。
「そうだな。だが俺も絢瀬の事を友達と思っているぞ?」
「えっ!?えっと、ありがとぅ・・・。」
絵里は素直に友達と言われ少し恥ずかしがっていた。
「なぁなぁ海斗、俺はどうなんだよ?」
「・・・お前は『トラブルメ-カー』がお似合いだ。」
「心の友でもないのかよ!?」
賑やかな放課後が終わり、2人に場所を教え明日の10時に海斗の家に集合になった。