次の日、今日は10時に希、絵里、師走の3人が海斗の家に勉強しに来る。
9時半をまわり、リビングの隣には和室がありそこで勉強しようと考えて軽く掃除をし換気をし終え、海斗は一息つく。
ピンポーン
「ん?まだ時間には早いが・・・東条か。」
海斗はそう思い玄関に行き、扉を開けた。
「・・・ごめんなさい。早く来過ぎちゃって。」
海斗の読みは外れた。まさか希ではなく絵里とは思わなかった。それにしても30分前は流石に早すぎる、仮に準備が出来ていなかったらどうするつもりだったのか。
「いや、俺は構わないが?入ってくれ。」
「ありがとう。お邪魔します。」
絵里はそう言って家に入る。
2人はリビングに行き海斗が隣の居間を指さし伝える。
「居間で勉強するから荷物はそっちに置いてくれ。あと絢瀬、コーヒーでいいか?」
「えぇ、ありがとう。」
絵里は荷物を置き、座ってから周りを見渡す。海斗は1人暮らしと言ったがワンルームマンションではなく一軒家とは思はなかった。家具も必要最低限しかない為、1人では余りのも無駄過ぎると感じますます海斗の事が分からなくなった。
「そんな苦虫を噛み潰したような顔をしてどうしたんだ?」
「えっ!?」
不意を突かれたかのように驚く。すると絵里の目の前にはコーヒーカップと砂糖とミルクが置かれていた。
「砂糖とミルクは適当に使っていい。」
「あっ、ありがと。」
絵里は礼を言って砂糖とミルクの両方を手に取る。海斗もカップを手にし絵里の向かい側に座るり一口飲んでから、そして問いかけた。
「さてと、俺に何か話でもあるのか?」
「っ!?」
海斗の言葉に絵里は飲もうとしたカップの動きが止まる。
「・・・図星か。」
「どうしてそう思ったのかしら?始めて行く場所なら早めに着くこともあるんじゃない?」
「仮にそうだとしても、絢瀬程しっかりした人間なら少なくとも早く行くと連絡するはずだ。ましてや用があるとすれば俺にというより、東條の事についてじゃないか?」
絵里は海斗に全てを見透かされたような感覚になった。だが絵里にとって海斗に話そうとしている内容は聞かれたら困るものではなかった。
「・・・それもそうね。話って程じゃないけど君に用はあるわ。」
絵里は1つ深呼吸をし海斗の眼を見て言った。
「ありがとう。希を助けてくれて。あの子あまり自分から辛いとか言わないから。」
「君は友達思いだな。気にするな、それより何か言われるかと思った。」
海斗は軽く安心した。主に東條の事について説明した以外を聞くかと思っていたが、礼を言われるとは思わなかった。
「何かって何よ?」
「いや、あの時の説明じゃあ腑に落ちないから聞こうとしたんだろ?」
「あれはあれで納得はしたわよ。ご不満だったら今から追求させていただこうかしら?」
「そんないい笑顔で言われてもな、御免被りたい。」
「冗談よ。」
いつの間にか2人は冗談を言い合える様になっていた。
「・・・希は大切な友達なの。」
不意に絵里は話し始めた。会って間もない海斗から見ても2人は仲の良い親友だ。
「私はクォーターなの、祖母がロシア人で幼稚園はロシアで過ごし小学校から日本に来たわ。でも周りの子はこの容姿を物珍しく見たり、時には意地悪もしてきたの。それが嫌で、あまりクラスの子とはかかわらない様にしていたわ。」
子供は周りと違うもを『異質』と感じ攻撃することがある。だが物珍しく質問攻め程度ならいいが、絵里は意地悪に耐えられず自分の殻の籠ってしまった。
「この学校でも同じだと思ったわ。でも、違ったの。私が他の子と距離をとっていたら、いきなり希が話しかけてきて『友達になってください。』って言ったのよ。」
絵里は思い出し笑いをした。
「驚いたわよ。あんなに必死になって友達になろうって言われたのは初めてよ。」
海斗は希も友達がいなかったことを思い出していた。
「多分東條にも自分と少し似ていた部分があったのだろう、だからそう言ったんじゃないか?それに絢瀬は考え過ぎだ、折角君の祖母からいただいた血であり容姿だからもう少し誇りを持て。周りの嫉妬なんか気にして逃げることはない。」
絵里は海斗が正直人に対し無関心に近いと思っていたが、ちゃんと見ていたことに驚いた。辛かったや可哀想という言葉ではなく、容姿に誇りを持てと慰められるのは初めてであり嬉しかった。
「ありがとう、今はもう他にも友達いるし大丈夫よ。それにしても似ていたって、咲雷君は何か知ってるの?」
「さぁ?どうだろうな。だが何故俺に話したんだ?」
「んー・・・なんとなくかしら。」
「なんとなくか。まあいいお陰で少し君の事を知れたからな。」
「じゃあ次は君の番ね。私も君の事知りたいな。」
「俺の話はまた今度にするさ。さてと勉強の準備でもするか。」
「もう、すぐはぐらかすんだから。」
2人は同時に笑った。
海斗は日本に来て一週間経ち、だいぶこの生活に慣れ楽しめるようになってきていた。
「そういえば君が笑ったとこ見るの初めてだわ。」
「そうか?・・・あぁ、こっちに来てから想像以上に感情豊かにはなったな。」
「来てからって、今までどんな生活送っていたのよ。」
「想像に任せるさ。」
すると、インターホンが鳴る。海斗は時間を確認した。
「15分前か、多分東條だろうな。出てくる。」
海斗は絵里に言って立ち上がり玄関へ向かう。
扉を開けたら希が立っていた。
「おはよう、咲雷君。」
「あぁ、おはよう。早かったな。」
「うん、向かいに住んでて遅くなるのは不味いなぁと思ってなぁ。お邪魔しま~す。」
希は玄関に入り靴が一足あるのに気付いた。
「あれ?えりち、もう来てたん?」
「あぁ、君と同じで遅れないようにしたら早く来過ぎたらしい。」
「ふ~ん、そうなんや。」
希はわざとらしく言いながら靴を脱ぎ、2人はリビングに向かう。
リビングに着き海斗は希のコーヒー用意しながら言った。
「居間でやるからそっちに行ってくれ、絢瀬もそこにいる。」
「うん、わかった。えりち、おはよう~、早かったんやな~。」
「おはよう、希。えぇ、早く出たら思いの外早く着いちゃってね。」
「そうなんや。そんで、2人きりで何してたん?」
「っ!?なっ!何もしていないわよ!ただ話をしていただけ!」
「へぇ~、話ってどんななん?」
「もうっ、今日の希は意地悪ね。咲雷君に希が必死になって私に『友達になってください』って言ってた時の事をよ。」
絵里はにやけながら言い、希は逆に恥ずかしがっていた。
「へっ!?何でそんな話になったん!?」
「さぁ?どうだったかしら?」
「む~、えりち~いじめんといて~。」
いつの間にか絵里と希の形勢が逆転していた。そこへ海斗が希のコーヒーを持ってきた。
「随分騒がしいな。ほら東條、コーヒーだ。」
「うん、ありがと~。」
希は海斗からコーヒーを受け取り、テーブルに置いてあるミルクと砂糖を入れて飲んだ。
「さてと、そろそろ始めるか。」
「あれ?荒波君まだ来てないわよ?」
絵里は海斗に聞いた。まだ全員集まっていないなか先に始めるのは気が引ける。
「多分あいつは進んで勉強しない、だから先に始めてせざるを得ない状況を作る。」
『あぁ~』
「そうやね、ウチらは勉強しに来たんやし。んー、何から始めよう。」
「点が取れる教科からだな、その方が苦手な教科を後から時間をかけて出来る。」
「なるほど、じゃあ私は数学からやろうかしら。」
「じゃあウチは英語からやな。」
ピンポーン
「出てくる。2人はそのまま気にせずやっててくれ。」
10分前に師走は来た。時間にルーズだと思い意外だと海斗は思いながら玄関へ行く。
「おはよう海斗!今日はよろしく頼むな!」
師走の第一声はこれだった。海斗は呆れていた。
「おはよう、だが頼む前に自分で勉強しろ。」
「何言ってんだ、人間1人じゃあ何も出来ないんだぞ?」
「初めから努力しない奴は何をやっても一生出来やしない。」
2人はそんな話をしながら希と絵里のいる居間に向かった。
「おはよう!希ちゃん、絵里ちゃん!」
「おはよう、荒波君。今勉強してるからちょっと待って。」
「おはよう。もう始めとるよ。」
2人は勉強に集中しているため師走に対しそっけない態度をとる。
「おぅ、もう始めてたんですね・・・。」
「あぁ、お前が来たら勉強を始めず話し続ける可能性があるからな。だから先に始めてもらった。」
「ちっ、先手を打たれてたか。」
「いいからお前もやるぞ。」
海斗は師走の肩を叩き、これから勉強会が始まる。
「東條、そこ計算間違えてるぞ。」
「えっ!?あっ、本当だ。」
「海斗ーこれどうやって解くんだ?」
「1つ前の問題とほぼ同じだぞそれは。さっき教わったようにゆっくり解け。」
「咲雷君、この和訳なんだけど。」
「ん?・・・合ってるじゃないか。」
「よかった。正直自身なかったのよ。」
時刻はもうすぐ12時に差し掛かる。絵里は数学から始め英語に切り替え、希は英語から苦手な数学に、師走は数学を、そして海斗は師走にほぼ付きっきりで勉強していた。
だが今まで集中していた為、そろそろ休憩を取らなければならない。
「みんな、そろそろ飯の時間になるが何か食いたいものでもあるか?」
3人は手を止め海斗の質問に答えた。
「ウチは咲雷君の料理ならなんでもええで。」
「俺も何でもいいぞ。まぁ俺の場合はお手並み拝見ってことで。」
「いいえ、私は何でもいいわ。でもその言い方だと咲雷君が作るの?」
希と師走は任せると言ったが、絵里だけは申し訳なさそうに言う。
「そのつもりだ。俺の意見は外に出るのが億劫だからその方が都合がいい。だが荒波、お前は手伝え。」
「はぁ!?何故故に!?」
「勉強教えてもらって飯食えると思うな。」
「ちょっと待った!それなら2人も海斗から教わってるから含まれるんじゃねぇか!?」
「お前の場合は限度がある。ほら、早くしろ。」
「先生ーっ!これは差別だと思いまーすっ!」
「差別じゃない、区別だ。いいから来い。」
海斗は師走を首根っこを掴みキッチンへ連れていく。希と絵里はそのやり取りを見て思わず笑った。
「あの2人とても仲がいいのね。でもいいのかしらご馳走になって。」
「何やかんや言いながら咲雷君は荒波君わかってるかね。本人が言ってるからええんやない?」
「確か彼は学校にお弁当持って来ていたわよね?」
「うん。咲雷君の料理めっちゃ美味しいで。」
「じゃあ期待しよっかな。あと希に話したいことがあるの。」
「なんやえりち?急に改まって。」
「咲雷君って優しい人なのね。色々疑ってたけどとんだ勘違いだったわ。」
「・・・うん。優しいし頼りになるし、何よりちゃんと見てくれる。ちょっと不愛想やけどね。」
「ふふっ、言えてる。」
2人が楽しく話している間、キッチンからいい香りがしてきた。