「共にこの宇宙で謳いあげよう、大いなる祝福を!私は全てを愛している!」
「「黄金の獣、修羅道至高天!」」
布都主と摩利支天の視線の先には、聖槍、ロンギヌスの槍を握る墓場の王、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイトリヒがいた。
「斬らせて、もらいます.....!」
抜刀する宗次郎の体は震え上がっていた....否、これは武者震いだ。天狗道の神、波旬とは別ベクトルの威圧感が黄金から放たれていた。修羅の化身....一瞬でも気を許したら、彼の神威に呑まれてしまう。そして、彼が今まで取り込んできた魂の桁と、自分の切ってきた魂の桁が違う。故に次元が違う....とひしひしに感じていた。だからこそ、切ってみたい!自分の刃が黄金をどこまで両断できるか知りたい!肉か?それを越して骨か?はたまた魂まで届くか?今の彼の頭はそれだけで満たされていた。
「まさか、龍明さんの男と戦える日が来るとはね.....」
対して紫織は震えるどころか呆れ果てていた。これが、自分たちの知ってる御門龍明が、憧れ焦がれ続けていた黄金の輝きの正体。一目見た感想は、差し詰め山を見上げるような感覚に落とされた....と彼女は言うだろう。追いつきたいと願うが、追いついてはいけない....そりゃそうだろ、人が山になってしまったら文字通り化け物だ。山とは登り超えるものであって、成り果てるものではない。紫織の知ってる龍明には、そんな化け物になって欲しくはないだろう。恐らく龍水に聞いてもおそらく同じ答えが返ってくるだろう。だが、その化け物の正体がついに目の前に現れた。だったらどれほどの最高の男か、試さずにはいられない。紫織はそう思いながら構えをとった。
「ふふ.....卿らの殺意、流れるように感じるよ。私を殺さずにはいられないか.....いいだろう、私が全てを許そう!来るがいい、私を失望させないでくれ!」
そしてラインハルトは期待で満ち溢れていた。ああ、これが求道の神か。発狂するほど接触を拒んだあのシュライバーですら至ることのできなかったその極致が、今この場にいる。一振りの剣になりたい、常に最高の己になりたい。ああ、なんと愛らしい渇望か、愛さず(壊さず)にはいられない!ゆえに簡単には壊れてくれるな、私を失望させないでくれ!私は全てを愛している!ゆえに全てを破壊する!さあ、怒りの日をたたえようではないか!と、ラインハルト破壊の愛が流れ出た。
そして三者は自分の祈りを歌い上げる。
「「壱 弐 参 肆 伍 陸 漆 捌 玖 拾
(ひ ふ み よ い む な や ここの たり)
布留部 由良由良止 布留部
(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)」
」
「曰く この一児をもって我が麗しき妹に替えつるかな
(いわく このひとつぎをもってわがうるわしきなにものみことにかえつるかな)
すなわち 頭辺に腹這い 脚辺に腹這いて泣きいさち悲しびたまう
(すなわち、まくらへにはらばい、あとへにはらばいてなきいさちかなしびたまう)
その涙落ちて神となる これすなわち 畝丘の樹下にます神なり
(そのなみだおちてかみとなる これすなわち うねのこのもとにますかみなり)
ついに佩かせる十握劍を抜き放ち 軻遇突智を斬りて三段に成すや これ各々神と成る
(ついにはかせるとつかのつるぎをぬきはなち かぐつちをきりてみきだになすや これおのおのかみとなる)
劍の刃より滴る血 これ天安河辺にある五百個磐石 我が祖なり
(つるぎのやいばよりしたたるち これあまのやすのかはらにあるいほついはむら わがそなり)
謡え 詠え 斬神の神楽 他に願うものなど何もない
(うたえ うたえ ざんじんのかぐら ほかにねがうものなどなにもない)
未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者
(おとめらが そでふるやまの みずがきの ひさしきときゆ おもいきわれは)
八重垣・佐士神・蛇之麁正――神代三剣、もって統べる石上の颶風 諸余怨敵皆悉摧滅
(やえがき・さじのかみ・おろちのあらまさ――かみよさんけん、もってすべるいそがみのかぜ しょよおんてきかいしつざいめつ) 」
「ここに天の数歌 登々呂加志宇多比あげて 浮かれゆかまくする魂結の 聞こしめして幸給う
(ここにあめのかずうた とどろかしうたいあげて うかれゆかまくするたまゆいの きこえしめしてさきわいたまう)
我が身に阿都加倍奈夜米流 夜佐加美安倍久病をば
(わがみにあつかいなやめる やさかみあえぐやまいをば)
いと速やかに伊夜志たまいて 堅磐に常磐に守りたまえ聞こえしたまえと
(いとすみやかにいやしたまいて かきわにときわにまもりたまえきこえしたまえと)
天の八平手打ち上げて 畏み畏み申す
(あめのやひらてうちあげて かしこみかしこみもうす)
唵・摩利支曳薩婆訶
(オン・マリシエイソワカ)
唵・阿毘哆耶摩利支薩婆訶
(オン・アビダヤマリシソワカ)
鬼縛――隠身・三昧耶形・大金剛輪
(きばく――おんしん・さんまやぎょう・だいこんごうりん)
ここに帰依したてまつる 成就あれ
(ここにきえしたてまつる じょうじゅあれ) 」
「怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し
(Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla. )
ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る
(Teste David cum Sybilla. )
たとえどれほどの戦慄が待ちうけようとも 審判者が来たり
(Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus, )
厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える
(Cuncta stricte discussurus. )
我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ
(Tube, mirum spargens sonum Per sepulcra regionum, )
皆すべからく 玉座の下に集うべし
(Coget omnes ante thronum. )
彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん
(Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla )
されば天主よ その時彼らを許したまえ
(Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus. )
慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン
(Pie Jesu Domine, dona eis requiem. Amen.) 」
「「太・極」」
「流出
(Atziluth)」
「神咒神威 経津主神 布都御魂剣」
「神咒神威 紅楼唇夢 摩利支天」
「混沌より溢れよ 怒りの日 (Du-sollst――Dies irae)」
剣、蜃気楼、修羅の理が具現し、三者の宇宙がここれ形をなした。
「梵天王魔王自在大自在、除其衰患令得安穏、諸余怨敵皆悉摧滅
(ぼんてんのうまおうじざいだいじざい じょごすいがんりょうとくあんのん しょよおんてきかいしつざいめつ) 」
先に動きを見せたのは宗次郎だった。彼の剣に殺意の塊が形を成す。
「首飛ばしの颶風――蝿声 !
(くびとばしのかぜ――さばえ)」
宗次郎の剣の一振りから、殺意の斬撃がラインハルトへと迫る。もともとこの技は凶気を相手に当て、気勢を削ぐ技なのだが、宗次郎の相手に対しての殺意は驚異的なもので、剣気と合わせて放つ形となり、結果として遠当ての斬撃を放つ技となった。加えて、宗次郎の太極の理も付属されている。その効果は無謬の切断現象。太極に至った壬生宗次郎の存在自体が剣となり、彼に触れるということは肉体のみならず視線・念波・生気・空間・精神・寿命・運気・法則・魂など有形無形を問わず何かしらを切断されることに他ならず、同時に彼に断ち切れないものは無いので対象硬度は関係ない。渇望の具現を極めた末に「外れる」という事象は吹き飛んでおり、空振りという概念は存在しないため総て命中するし、相手の太刀に弾かれようと必ず何かを斬っている。さらに距離という概念自体が切られており、彼の剣は無限の間合いを得ることができた。この切断を極めた斬撃に当たれば、恐らくラインハルトと言えど即死はまぬがれないと、宗次郎はその期待を胸に、ラインハルトへと斬撃を飛ばした。
「第十 SS装甲師団(フルンツベルク)」
しかしラインハルトが指を鳴らすと同時に、彼の背後の軍勢から無数のパンツァーファウストの弾幕が放たれた。それが斬撃とぶつかり合い、相殺され結果、斬撃はラインハルトの首に届くことは叶わなかった。
「先手を取ったのは悪くなかったが、その程度では私の軍勢(レギオン)は崩せんよ。」
「ちぃっ!」
恐らく宗次郎の攻撃によってラインハルトの軍勢の何人かは斬り殺されたであろう.....だが、ラインハルト自身が軍勢であり、彼の総軍は数百万を超える。さらにラインハルトの渇望は端的に言えば「死者蘇生」の具現化。ゆえに大将たるラインハルト本人を殺さない限りは軍勢が滅びず、無限に蘇生されるのだ。加えて、太極の理の強さはラインハルトのほうが宗次郎より圧倒的に上であり、宗次郎がどれだけあらゆる概念を切ろうとも、ラインハルトの蘇生力が上回る。それを見た紫織は.....
「だったら、あんたに届くまで殴り続けてやる!」
「ほう、やってみるかね?」
闘気を込めながら宗次郎の前へと躍り出た。ラインハルトが期待の眼差しを向けると、紫織は自身の奥義の唄を歌い上げた。そして....
「玖錠降神流、奥伝――
大―宝―楼―閣―善住陀羅尼!」
紫織の存在自体が蜃気楼のように薄れ始め、加えて彼女の存在が一十百とどんどん増えて行く。最高の自分でありたいと願った彼女の能力は即ち可能性操作。無限に拡大した可能性の内、彼女は数百億を超える彼女を呼び寄せた。そしてそこから、全ての紫織がラインハルトに向かって殴りかかってくる。
「なるほど、可能性操作か。」
さらに彼女の拳には、裏打ち、通背拳といったものの極限であり、どのような防御も素通りして狙った個所に重層の大打撃を叩き込む。 さらに今の彼女のように陽炎と化した状態でこれを使えば、その威力は 倍々算 で膨れ上がることも容易に想像できるだろう。どのような防御も素通りという触れ込み通り、攻撃は最大の防御も素通りする。だが.....
「成る程面白い、ならば少し遊んでやるか。」
「え!?」
ラインハルトを殴ろうと接近した紫織の拳は、ラインハルトの眼前で止まる。まるで見えない何かに絡まったように。驚いた紫織はラインハルトをよく見ると、彼の指先から紅い糸が流れ出ていた。
「糸の結界?」
「辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)
膨大な戦闘においてはあまり意味のなさない聖遺物だが.....私は彼も愛してるのでな、彼の戯れに付き合ってはくれぬか?」
かつての夜刀.....つまり藤井蓮の最初の相手、ロート・シュピーネが使った聖遺物「辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)」捕獲に絞殺を得意とした武器だ。シュピーネ曰く聖餐杯ですら脱出不可能らしいが、恐らくシュピーネ自身の過信から生まれた妄言と思われる......が、ラインハルトが使えばこの通り一瞬で糸の結界を作り上げ、求道神すらも束縛可能し、さらに数億人まで増殖した紫織の分身の半分以上を捕獲した。
「ふむ、流石に絞殺は難しいな.....」
(けど、動けば動くほど.....この糸が体にめり込んでくる!しかも、糸の結界が邪魔でこいつに突っ込める可能性が探れない!)
だが流石に紫織を殺すことが叶わないと分かると、ラインハルトは少し残念そうな顔をした。しかし紫織は下手に動けば糸がどんどん体を縛り上げ、致命傷を負うため、下手に動けなかった。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
すると、宗次郎は刀を振り回しながら糸の結界へと突っ込んで行った。すると、刀に触れたものはもちろん、宗次郎の体に触れた糸も全て両断された。それは宗次郎自身も刀の化身であり、そもそも彼に武器の有無は関係ないと言えよう。そして宗次郎は刀をラインハルトの首へと振り抜く。
「聖約・運命の神槍」
その瞬間、一瞬にしてラインハルトは聖槍を形成した。そして、宗次郎の横薙ぎを聖槍で受け止める。すると....
「がっ!」
「ぐあっ!」
ラインハルトは右腕に切断傷が生まれ、宗次郎は切った勢いで聖槍に触れてしまい、その瞬間槍の劫罰を受け、魂ごと火傷を負ってしまった。
続く
宗次郎も紫織もだいすきです。あとおっぱい。