「第三十六 SS擲弾兵師団(ディルレワンガー)」
「ぐっ!」
「おのれっ!」
宗次郎と紫織の足元から、ラインハルトの軍勢の一部が現れ、剣山の如く銃剣を二人に向かって突き刺そうとする。二人は跳んでそれをよけた。
「甘いぞ、第九 SS装甲師団(ホーエンシュタンフェン)」
「くっ、まだだ!」
続いてラインハルトは軍勢を操って大砲の弾幕を二人に向かってはなった。その砲弾の弾幕の前に、宗次郎は迎え撃つ。そして、ラインハルトとの距離をほぼゼロにした。
「五障深重の消除なれ。執着絶ち、怨念無く、怨念無きがゆえに妄念無し。妄念無きがゆえに我を知る。心中所願、決定成就の加ァァ持!」
「ほう。」
級長戸辺颶風。至近距離での無拍子で放たれる精妙な一閃は事前予測が不可能であり、ゆえに回避もまた不可能。宗次郎はラインハルトに袈裟斬りを下した。無論宗次郎にも全ての砲弾が直撃した為、無傷では済まなかった。だがラインハルト相手に相打ちを討つことができた。だがその時、ラインハルトから膨大な殺意を感じ取った。その殺意に宗次郎は既知感を得たが、それどころではなかった。
「これは....刑士郎さん!?いや、違う....」
「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界
夜に無敵となる魔人になりたい
この畜生に染まる血を絞り出し、我を新生させる耽美と暴虐と殺戮の化身――闇の不死鳥
枯れ落ちろ恋人――
死森の薔薇騎士
(Der Rosenkavalier Schwarzwald)」
ラインハルトの詠唱が終えると同時に、はるか天上の月が赤く光った。そして......
「うっぐああぁぁぁぁ!!!」
「紫織さん!ぐっ!がぁぁぁ!!」
「ふふふ、ははははははは!!」
吸収、略奪の神威、ヴィルヘルム・エーレンブルグの渇望を具現化した世界であり、ラインハルトの流出とよく似た異能である。この月光に奪われるのは、精気・魂・運気・ありとあらゆる養分などである。唐突な脱力感に、二人は耐えられず膝をつけてしまい、逆にラインハルトのキズが癒されていた。二人の力を糧に回復しているのだ。つまり、宗次郎と紫織が力を奪われれば奪われるほど、ラインハルトは強化され、総軍が増えて行くのだ。その数、惑星単位で吸収されてることを考えれば言うまでもない。
「これは....きつい!」
「敵の弱体化は好みではないがね、卿ら実力を認め、発動したのだ。言ってみたかったのだよ、相手にとって不足なしとな。」
「ふ、ふふ.....あんた、面白いこと言うね。」
「紫織さん?」
しかし、敵の本気を望むラインハルトにとってはあまり好みではない能力だが、逆に言えば使った事実ラインハルトは二人を認めたのだ。ラインハルトがそう言うと、紫織は月光の圧力から立ち上がり、ラインハルトを睨み返す。
「つまりあんたは、同等の相手を望んでたってこと?」
「ああ、然りだ。」
「そう、だったら!上には上がいるってこと教えてやるよっ!」
ラインハルトがその事を肯定すると、紫織はそう叫びながら構えを取り、謳いを上げた。すると、紫織の両拳に気が練り上がっていく。
「玖錠降神流-陀羅尼孔雀王!!」
最大規模の気を練りあげて打撃力と化す、そのため直接的な肉弾戦という意味合いではこの場においても間違いなく随一であろう。その流星群の如く無数の拳がラインハルトへと迫る....かに見えたが。
「!?」
「誰があんたに向かってだと言った?崩れ....落ちろおぉぉぉぉ!!」
その気で練り上げた拳撃は、ラインハルトのはるか天上の紅い月へと向けてのものだった。そう、紫織の太極の最大の持ち味は可能性操作。故にどれだけ無理な射程距離だろうと、どれだけ無理な破壊範囲だろうと、可能性があれば探り得ることができるのだ。そして.....
ドゴォォォ!!
「やった!」
「凄い....まさか、気の練り上げだけで本当に届いて壊せるとは....」
「何言ってるの、宗次郎だってやろうと思えばできるんじゃない?」
「....やってみないと分かりません。」
吸血鬼の夜が摩利支天の拳撃によって破壊された。その事実に宗次郎は目を仰天させて驚いていた。まさかここまでやるとは.....と。そして、それに一番驚いてるのは彼だった。
「あははははは!素晴らしい!ツァラトゥストラがやったことを、卿らもするとは.....驚いたよ。卿ら、見事なり。」
「そりゃどうも」
「恐縮です....しかし、流石に辛いですねこれ。」
「うん、刑士郎そっくりさんの太極ヤバすぎ。しかも相性が最悪のあたしとは....特にね。」
「成る程.....」
月光からの吸収という性質である以上必中能力と言えよう。更にその上運気吸収ゆえに、可能性操作の紫織とは相性が最悪と言えるだろう。無論宗次郎も無事で済まなかった。
「こうなったら、次が最後の一手だね。」
「ええ、これで決めます。」
「ほう。賭けときたか。」
これ以上の長期戦は危険と察した二人をの目に決意が固まる。それを感知したラインハルトも、迎え撃つ体制を取る。聖槍から溶岩の如く強烈な熱気が発生した。
「我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い求める者
届かぬ故に其は尊く、尊いが故に離れたくない
追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい―逃げ場無き焔の世界
この荘厳なる者を燃やし尽くす―― 」
「神の御息は我が息、我が息は神の御息なり。御息をもって吹けば穢れは在らじ、残らじ、阿那清々し―」
「此処に帰命したてまつる――大愛染尊よ 金剛仏頂尊よ 金剛薩たよ衆生を四種に接取したまえ! 」
剣神、摩利支天、修羅の神威が極限まで磨きかかる。三者の理が、宇宙規模にまで振動した。そして、修羅の聖槍から溢れ出る灼熱の炎に2人は見覚えがあった。
「あれは....龍明さん?」
「この炎からして間違いないですね。」
「ほう、卿らは彼女と面識あるのか。ならば良し、存分に彼女へとその殺意(あい)をぶつけるが良い。彼女も喜ぶであろう。」
「勿論です。」
「言われるまでもなく!」
三者は自然にと笑みがこぼれていた。三者の全力がここにぶつかろうとしていた。
「陀羅尼愛染明王ォォッ!」
「石上神道流、奥伝の一 早馳風――御言の伊吹」
「焦熱世界・激痛の剣(Muspellzheimr Laevateinn)」
紫織の愛欲の気が黄金へと爆発し、宗次郎の無限の剣気が全てを切断し、修羅の炎が創り上げた逃げ場のない世界の全てを燃やし尽くした。
「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「私の、勝ちだな。」
最後に立っていたのはラインハルトだった。決めてはやはり魂の数。ベイの擬似流出によって膨大な数になった総軍を、宗次郎と紫織は削り落とすことはできなかった。
「もうだめ、立てない。」
「龍明さん、幾ら何でもやりすぎです。惚れた男の前とはいえ、張り切りすぎですよ。」
「卿ら、まだ余裕はありそうだな。どうかね、もう一度彼女の炎を浴びてみるか?」
「「勘弁してよね(下さい)」
ラインハルトが不敵な笑みを上げながらそういうと、二人は顔を青白くしながら首を横に振った。
「しかしそうだな、ここまでにしとくか。卿らの斬撃と拳撃のおかげて、私の左腕と内臓の幾つかがほぼ粉微塵に砕けたからな....ああ、生きているという実感、ここに得たよ。」
実際ラインハルトの左腕の骨は両断され、肝臓と腎臓は割れた風船のごとく潰れていた。対し宗次郎と紫織は真っ黒に焦げ、倒れていた。
「けど、確かに楽しかったな。龍明さんが惚れたのも、何と無くわかった気がする。」
「そうですね、しゅらどうの武威がこれ程と体感できて、まんぞくでした。」
「卿ら神威、見事であった。求道の極致、この目で見させてもらったよ。また会える日を願おう、さらばだ。」
こうして三者はそれぞれのあるべき世界へと帰って行った。
番外編 完
赤屍戦、どうやって終わらそうかな.....