「まあしかし、随分と混沌とした雰囲気になってしまったな。どうしてこうなったのだ?」
「いや、ほぼお前とあの変質者のせいだろ。」
金色の長髪を掻き上げながら、ラインハルトがそう呟くと、蓮が彼とその背後に立つメルクリウスを指差しながらツッコミを入れた。
「まあその件に関しては置くとして.....」
「いや、置くなよ。」
「とりあえず私の話を聞くのだ愚息よ。先程から、獣殿の総軍突撃後から赤屍の姿が見えないのだが?」
「あ。」
その間に割って入ったメルクリウスが、愚息の事蓮のツッコミをサラッと流しながら、赤屍の不在を芝居がかった口調で指摘した。その事で蓮はついポカンと呆けてしまった。
「おや、私がどうかしましたか?」
「赤屍(さん)!」
すると、唐突に赤屍がひょっこりとどこからか現れた。彼の足取り自体は問題ないが、服が所々破れ、かなり出血している。
「ほう、あれを受けてまだ満身創痍ではないとはな、卿はまだ壊れぬか。破壊のしがいがあるな卿は。」
「クス、御冗談を。流石にあれはしのぐしかなかったですよ。あんな突撃生涯始めて受けました、おかげでこの有様だ。」
「こいつらマジで壊れてやがる......」
ラインハルトは赤屍がまだ死んでいなかったことを、赤屍はラインハルトの破壊力を、互いに賞賛しながら不適に笑っていた。狂ってる、と蓮は2人をドン引きで見ながらそう呟いた。
「と言うかあなた!私の言葉を無視しないで!」
「む?女神よ、どうしたのか?何か問題でも?」
「大有りよ!特に前に来てしまった球磨川君はせっかく私が回復させてあげたのにあなたが容赦殺してしまったから彼、すごく可哀想だったじゃない!しかも世界をこんな悲惨な状態にして!私と蓮は....さっきも言ったけど、シローやカスミ達を守ることしかできなかったんだから、この責任とれるの!?」
「ふむ.......」
すると、さっきからスルーされ続けていたのが不満だったのか、マリィは今までにない位激怒していた。自分の作り上げた世界を壊された挙句
、仲間しか救えなかったことに遺憾を感じているのだ。すると、ラインハルトは目を細め女神に頭を下げた。
「確かに、少々暴れすぎたな。仮にも私は黄昏の守護せし者だというのに....すまなかった。この責任は必ずとろう。なぁカールよ?」
「え?」
「『え?』ではない、もとは卿がことの原因であろうが。何とかしてでも座を立て直せ。」
今までに傍観を貫き通していた彼は、唐突に話を振られ、つい間抜けた空返事をしてしまった。
「いやしかし、座に関しては獣殿がグラズヘイムの総軍突撃させたのが原因では.....」
「だから卿が直せと言っている、二度言わせるな。そも私が確認した時、卿はご随意にと言ったではないか。つまり責任は卿にあるのだ。元々私は修復など出来ぬし得意ではないのだ。」
「何で頼んでいるのにこんな偉そうなのだ?確かに私のせいと言ったらそうではあるが......」
実際このバトルロワイヤルをラインハルトに施したのはメルクリウスだったら確かに彼が悪いのではある。しかし、あまりにラインハルトが罪悪感のかけらもない態度をしているのが納得いかないのか、メルクリウスはまだ何かを言おうとするが......
「カリオストロ、出来ないの?」
「女神.....」
「私がみんなを抱きしめるのは、もう出来ないの?」
「.....ふ、ふはははははは!何を嘆くか女神よ、この黄昏がこんなところで終わりと?否、断じて否!私がそんな結末など認めんよ、故に任されよ女神よ、責任なんぞいくらでも背負ってみせようではないか。元より私は責任感に関しては定評があるのでな。」
「カリオストロ....ありがとう!」
マリィがやや涙目で問い詰めてくると、彼はまるで水を得た魚のごとく高らかに高笑いを上げた。おそらく彼女に頼りにされたからとても嬉しかったのだろう。この状況をなんとかして見せると宣言した。頼それを聞くと、マリィは太陽のような笑顔をして彼に感謝した。
「ああ、やはりあなたは笑った方が輝いておられる。ダイヤモンドの輝きなどもはや海の藻屑のように曇って見えるよ。ゆえにあなたの治世を修復した際、今一度褒美としてあなたの抱擁を『不倫になるからダメ』
.....ふふ、可愛いなマルグリットだが私にとってもそれはご褒美だよ。」
それを見て彼は頬をピンクに染めながら芝居がかった口調で彼女を褒め称えた、そしてさりげなく抱きしめて欲しいと頼もうとするも、即座に不倫になるから無理、とバッサリ切り落とされるが、彼にとってもそれはご褒美らしい。
「そこまでにしとけ変質者、取り敢えず座に関しては後回しだ。今はこいつらをどうするかだ。ここまで来た以上、無下に帰れとは言えないし、まだ帰る気もなさそうだしな。」
「だったらどうするんだよ?」
そこで、必要以上マリィに迫っているが苛立ったのか、蓮が二人の間を割ってそう言った。それを聞いた蛮はタバコに火をつけながら、これからどうするのか聞いた。すると、ラインハルトは口を曲げながら奪還屋と赤屍に黄金の魔眼を向けた。
「決まってる。卿らは3人いて、私達は女神を除けば3人、丁度いいではないか。」
「わざわざ乱戦に持ち込むのではなく.....」
「一体一の3掛けするってことだ!」
そう叫び、蓮は蛮、メルクリウスは銀次、そしてラインハルトは赤屍へと迫った。
「おもしれぇ!行くぜ、銀次!」
「うん、蛮ちゃん!赤屍さんも、あの人との決着つけちゃって!」
「クス、君もなんだかんだで乗り気ですね.....後で銀次君ともやりたくなってしまいました。」
「それについては、ノーサンキューで......」
対して、彼らもその意気込みに応えるかのごとく、蛮は右手から蛇のオーラを帯びただせ、銀次は体をプラズマで帯電させ、赤屍は赤い剣を召喚した。何気にノリノリの銀次を気に入ったのか、後で殺し合おうと赤屍は誘うが銀次は丁寧に断った。
「うらぁぁぁ!!」
「チッ!」
先に攻撃が届いたのは蛮の攻撃だった。右手から帯出る蛇のオーラは途轍もないもない威力を発揮して、蓮を弾き飛ばした。蓮はなんとか耐え抜き、蛮を睨む。
「レン!」
「大丈夫だよマリィ、俺がこんな奴に、こんなところで、負けるかよっ!」
心配したのか、マリィは駆け寄ろうとするも、蓮は彼女を制する。そして蓮は負けないと叫び、彼の渇望(祈り)を具現する。
「日は古より変わらず星と競い
Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettegesang.
定められた道を雷鳴の如く疾走する
Und ihre vorgeschriebne Reise Vollendet sie mit Donnergang.
そして速く 何より速く
Und schnell und begreiflich schnell
永劫の円環を駆け抜けよう
In ewig schnellm Sphaerenlauf.
光となって破壊しろ
Da flammt ein blitzendes Verheeren
その一撃で燃やしつくせ
Dem Pfade vor des Donnerschlags;
そは誰も知らず 届かぬ 至高の創造
Da keiner dich ergruenden mag, Und alle deinen hohen Werke
我が渇望こそが原初の荘厳
Sind herrlich wie am ersten Tag. 」
「へっ、だったらこっちも!」
それに感心した蛮は、それに応じて、彼の自身の呪い唄を唄いあげる。
「今こそ汝が右手に その呪わしき命運尽き果てるまで 高き銀河より降りたもう蛇遣い座(アスクレピオス)を宿すものなり されば我は求め訴えたり 」
蛮の右腕に悪魔の呪いが帯びる。それは人によっては芸術的な形をして見え、はたまた悪魔の如く醜い形に見える。
「創造
Briah――
美麗刹那・序曲
Eine Faust ouvertüre」
「喰らえ その毒蛇の牙を以て!」
そして、蛮と蓮の祈りと呪いが疾走する。蓮はどこまでも疾走し、蛮は爆発するかのように速度を上げ続ける。
「チッ!」
互いに無限の速度を保持してるが、やはり速さの競り合いでは蓮の方が上手だ、先ほどから殴り合い、蹴り合いを繰り返すが、悉く蛮の攻撃は交わされ、蓮の攻撃は喰らい続ける。
「なめんなクソガキァァァ!!」
「っ!」
「隙有りだな....おらぁ!」
すると蛮は、悪魔の右腕を地面に叩きつけた。蓮は予想外だったのか疾走を止めてしまい、それを狙った蛮の右腕が眼前に迫る。が.....
「隙有り?それはこっちのセリフだ!」
「!?」
だがそれこそ蓮の狙いだった。カウンターのカウンター、居合切りの要領でギロチンを振り切る。蛮は止まった自分を必ず狙うだろうとそう思い、蓮はそこを突つ事にしたのだ。無論、自分も喰らう可能性があるものの、ここを狙う他ない。結果は....
「がっ!」
「ぐっ!」
相打ち。蛮は左胸を切り裂かれ、蓮は右脇腹を少し抉られた。しかし互いに致命傷にはならず、互いに睨み返した。
一方銀次は
「わあぁぁぁぁ!!」
「やれやれ.....」
銀次は叫びながら放電するものの、メルクリウスはまるで藪蚊が飛んでるかのごとくまるで気にしていない。
(こいつ、効いてるのか?さっきからまるで俺を見ていない.....まるで相手にしていない。)
こう思ったのも、はや5回目。こればかりを繰り返した。直接プラズマを叩き込む気がないし、そもそも近寄りたくないと彼は思っていたのだ。何か危険な匂いが彼をそう思わせたのだ。
「いけないな。」
「え?」
「いい加減『彼』を私的には出して欲しいのだよ。言いたくはないが、 『君』では役者不足なのだよ、君では意味がない。私は彼に興味があるから、だから私はわざわざ君に近づいたのだからな。用済みの役者には退場願おうか。」
「!?」
メルクリウスがそう言うと、銀次の体が硬直した。こいつのこのセリフの意図を直感で理解したのだ。
「....嫌だ。俺は二度と逃げたりしない!」
「そうかね、ならば.....正直、荒事は苦手なのだが、私なりに君を全力で叩き潰すことにしよう。」
「俺は、二度とアレを出さないと、決めているんだ!うおぉぉぉ!!」
「無駄だ、君の雷じゃ私に届かんよ。ああ、なんだか面倒になってしまったな、獣殿ではないが、壊すとしよう。
Sequere naturam(自然に従え ) 」
「え、嘘.....」
メルクリウスが詠唱すると、いつの間に現れたのか、巨大な白蛇の鱗が億単位で流星のように降り落ちてきた。銀次がわずか呼吸する刹那に着弾した。
「ふは、はははははは.....」
「........」
メルクリウスは呟くように笑った。まるで子供のように、何故積極的に動くはずのないメルクリウスが銀次を相手に選んだのか、その答えが今、現れた。
「.....誰だ?俺の安らぎを壊したのは?」
「そうだ、彼を待っていたのだよ.....『雷帝』を.....」
姿こそ変わらないものの、常時高熱のプラズマを発し、自分以外をゴミのようにしか思っていない、最低冷血の男雷帝を、メルクリウスは待っていたのだ。
「ふふ、少々荒治療ではあったが、では、今宵の恐怖劇(グランギニョール)を始めよう。
怒りは短い狂気である
Ira furor brevis est.
自然に従え
Sequere naturam.」
「消えろ.....消えろォォォ!!」
メルクリウスは掌に無数の星々を掌大にまで凝縮して弾け飛ばし、宇宙規模の大熱波を発生させた。超新星爆発。対して雷帝は、手を前にだし、無数のプラズマ弾を弾け飛ばし超新星爆発を迎え撃つ。
「美しい......」
メルクリウスは巧妙な表情で雷帝の荒業に見惚れてきた。愚息のことも、無二の親友のラインハルトを、これが案外彼の素の姿なのかもしれない。
そろそろ新作を作ろうと思っているので、もう直ぐこの物語の幕を閉じようと思ってます。