らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
「……おいら、赤の国に帰ってる時以外はずっと外で過ごしてるんだ。それを不便だと思ったことはないけどね」
「ど、どういうことぉ〜?」
カイくんは困ったように笑う。
「どこに住んでるわけでもないんだ。ある日は学校の屋上だったり、公園のベンチだったり。ホームレスみたいなものだと思ってくれていいや」
『カイってほんと、不思議なヤツだよね』
そう話していたみんなのことを思い出す。そこに、悪意があったわけではないと思うけど、わたしはなんとなく気になっていた。
「でも、ハリーシエル学園に通えるんだから、家をかりるお金がないわけじゃないでしょぉ?」
学費は安くはない。
いくら奨学生があるとは言っても、学費以外のところでお金はたくさんかかってしまうものだ。
「前までは借りてたんだよ、アパートをね。けど一昨日、アパートごと火事で燃えたんだ」
「ええっ!?」
そういえば、今日の朝の新聞で見かけた。
緑の国のはじの方にある小さなアパートで大火事があり、周りの木々ももえたと。その木々の中に、樹齢がとんでもない木が混ざっていたりもして……かなりの大さわぎになったらしい。
その辺りの建築物はほとんどが木でつくられている。緑の国は、人工林もたくさんあってそこから切り出した家ばかりが立ちならぶまちなみもめずらしくない。
出来上がった家は自然と調和して美しいが、一度火事になるとすぐに火はもえ上がってしまう。取り替えしがつかなくなってしまうのが、木造のわるいところだ。
だが、それなのにどうしてここにいるのだろう。それなら赤の国に帰ればいいのに。
それをわたしの表情からくみとったのか、カイくんは困った顔をして「赤の国には帰れないんだよ」とすこし遠い目をしていた。
……カイくんにもいろいろあるのだろう、じゃあ、それなら。
「じゃあ、ここに住めばいいじゃなぁい。ここの部屋ならかしてあげられるわぁ」
「いや、それはさすがに……」
「大丈夫よぉ、ずっと住むわけでもないんだから。ね?」
カイくんは苦々しく笑うと、「そうだね」といった。
ママは「人が多い方が楽しいもの。カイくん、ぜひこの緑の城に住んでくださいな」と、よろこんでわたしに部屋のカギをわたしてくれた。
緑の城は、植物が門番の役割をになっているため、人間の働き手が少なかった。パパもめったに帰ってこないし、パパのいないフウカちゃんの銀の城よりも静かだ。
その点、お兄さんのたくさんいるチトセくんは、いつもお城が賑やかでうらやましい。
そのカギをわたしは後ろにひかえていたメイドさんに渡すと、部屋を整えておくようにと頼んだ。
「はい、かしこまりました」
メイドは嬉しそうに微笑むと、広間を出て行った。