ハンターは衰退しました   作:皇我リキ

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プロローグ
プロローグ


 前略、ハンターは衰退しました。

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 嵐の日でした。

 

 

「辞めてぇ!」

 小さな手はどうしても届かない。

 

 

「親父! 娘を———」

 最愛の父はそう言った瞬間、視界から消え失せる。

 四肢は飛び、血飛沫が視界を覆った。

 

 何が起こったか、分からなかった。

 

 

「お父……さん? どこ? お父さん? お父さん?!」

「……ぬぅ」

 小さな少女の愚行は、残り唯一の肉親であるお爺さんの左腕までも奪い去る。

 

 

「逃げるぞ! 早く!!」

「待ってよ! お父さんが! お父さんがぁ!!」

 

 鋼鉄の龍を尻目に、情け無くも『人間』は逃げていく。

 目に映るのは雨で薄れて行く血痕と、龍と戦う勇敢な『人類』達の姿をだった。

 

 

 はっきりと記憶がある訳では無い。

 

 ただ、きっとそれは———忘れられない記憶なんだと思う。

 

 

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「…………ん、ぅぅ」

 あんな事があった後だからか。とんでもなく嫌な夢を見ていた気がする。

 

 

「お、嬢ちゃん起きたかニャニャ! もう着くでニャニャ、ココット村」

 ゴトゴトと揺れる、ガーグァの引く車の上で目が醒める。目の前でそれを運転している『人』は優しい声でそう言ってくれた。

 もう……ですか。随分と寝ていてしまったのですね、あんな事の後で。

 

「あぁ……すみません。えっと、マタタビ何個でしょうか?」

「要らんニャニャ要らんニャニャ! 俺もココット村に用があったニャニャよ! それに『人間さん』が困ってたら助けるのが俺達だニャニャよ!」

 ここまで連れて来て貰ったこの方に『代金』を払おうとすると、彼はそう言って受け取ってくれなかった。

 

 なんて素晴らしい『人』なんでしょう。私だったらマタタビ十個はぼったくります。それでも安いかもしれない。

 

 

「ほーれ着いたニャニャ! ココット村。嬢ちゃんはこの村の人だニャニャ?」

 そう言いながら彼は軽快にガーグァを叩いて馬車を止めた。何故、馬の車と書くかは私も知りません。

 

 しかしこの『人』は独特な話し方をしますね。

 

 

「そうですねぇ……十年程前に住んでいて、今『オトモハンター』学校を卒業したばかりです」

 なんて、少し嘘の混じった言葉を溢す。

 

 言えない、我等が『人間最後の学校』がつい先週無くなったなんて。

 

「お! そうかニャニャ!! 嬢ちゃんみたいなオトモがまた増えたくれたなら俺達も心強いニャニャよ!」

 もう二度と、増えませんけどね。

 

 

「ほいじゃ、達者で暮らすニャニャ!」

 そう言う彼に私も手を振って返すと、彼も手を振りながらガーグァを軽快に叩いて馬車を走らせて行った。とても優しい方でしたね。

 

 

「さて……と」

 十年振りの故郷———ココット村。記憶の中の姿と少し違う所もありますが、時の流れの誤差という奴でしょう。

 

 そんな曖昧な記憶を頼りに、私は村を歩いて行く。確か村の真ん中を右へ———でしたっけ?

 うん、多分そうです。ならば早速と、私は歩き出します。

 

 

 

 ここで突然ですが。

 我々人間は———ホモサピエンスは滅びました。

 

 いえ、滅びたとまで言うと語弊があるでしょうか。正しくは、滅びそうになっています。

 

 何世紀も何世紀も昔。歴史書には、荒々しくも眩しかった数世紀と記されたその時代。

 人々はこの世界に溢れ、栄え、煌めいていたと言います。今じゃ信じられないんですけどね?

 

 

 しかし、時代は移り変わります。

 その荒々しくも眩しかった数世紀を人間の人生で例えるのなら、二十代前半ピチピチで人生の最長期とも言える時代。

 そして今、ヨボヨボしく光も見えそうに無いこの時代は———定年して年金を貰う歳老いと言った所でしょうか。まぁ、年金なんて制度数世紀前に消えたんですけどね。政府と共に。

 

 

 我々人間はいつの頃からだったか数を減らして行きました。

 理由は分かりません。諸説あります。

 それが急にだったのか、緩やかにだったのかも分かりません。

 

 しかし、文明が滅びた訳でもなく。今日も今日とて我々『人間』に成り代わって地上で最も栄えている『現人類』の方々は、このココット村でも活気として生きておられます。

 あ、手を振って挨拶して下さいました。こんにちわ。

 

 

 

「着きました」

 実に十年振りの我が家です。少しボロくなった気がしますが、ここはあまり変わって無いようで。

 お隣さんにあった筈の家は———無くなっていました。

 

「お爺さーん、居ますか?」

 ドアを叩いて残っている私の最後の肉親を呼ぶ。返事が無かったので勝手に開けて勝手に入ります。ただいま。

 

 

「え……臭っ」

 部屋は真っ暗でとんでもなく酷い匂いが充満していました。何これ……さびの匂い? 腐った生物の匂いまでする。

 そんな、まるで生活感の感じ無い部屋を散策する事数秒。部屋で倒れている老人の姿が目に入りました。

 

 昼間だというのに静かに閉じた瞼。その上の、先祖代々長い睫毛。左腕の義手を外して横たわる彼は正しく私のお爺さんでは無いでしょうか。

 なぜこんな場所で寝ているんですか、こんな汚い場所で。全くもぅ。

 

 そう思って肩を揺らすも、お爺さんは起き上がりませんでした。

 

「え……嘘」

 まさかお爺さん……こんな誰にも気付かれない場所で孤独死?

 確かに年齢は六十代後半。平均寿命が五十代にまで落ち込んだ我々『人間』の中では良く生きた方だとは思います。

 

 でも、そんな……話したい事だってあったんですよ?

 学校は辛かったんです。終わり方も酷かったし、村に帰ってくるのも大変だったんです。

 

 でも、私! 中退ですけど立派なオトモハンターになる為に勉強してきたんです。

 皆を守る事は出来なかったけど、それでも無事に帰れたらお爺さんと平和に暮らそうと———

 

 

「……誰だ」

 ———生きてました。

 

 私の涙を返して下さい。真剣に悲しんだこの心のままに本当に亡くなって下さい。

 

 

「お爺さん!」

「な———ぬぉっ?! だ、誰だ?!」

 目覚めたお爺さんが最初に口にしたのは、そんな言葉でした。実の孫に酷い。あなたの大切な孫ですよ?

 

「私ですよ、私」

「……誰だ」

 酷い。

 

 いや、良く考えれば当たり前なのかもしれません。

 私が最後にお爺さんに会ったのは十年前。あの頃は私十歳でした。幼女です。

 

 しかし、今の私は二十歳のスタイル抜群な美女。少し縦に長過ぎる気がしますが。

 あの頃のチビだった私を思い出しても、今の私とはとても繋げられないでしょう。

 

「んもぅ……私ですよ。わ た し」

「あぁ、孫か」

 だと思ったのですが、案外ゴリ押ししたら納得してくれました。本当に納得してくれたんですか?

 他の誰かにも同じ事されたら「あぁ、孫か」とか答えちゃうんじゃ無いですか? そんな感じの詐欺が昔流行りませんでした?

 

 

「もう十二年経ったのか。と、なるとワシは気付かない間についに七十になった事になるな」

「残念ながらお爺さん。まだあなたは六十八です」

「……?」

 目を擦りながら起き上がるお爺さんの身体を支える。心なしか、小さくなりました?

 

「お前は…………なんか無駄に縦に長くなったな」

「酷い」

 違います。私が大きくなっただけでした。

 

「お前は大喰らいだから、もっと横に大きくなると思っていた。人間思い通りに育たんもんだな」

 それって私がデブると思っていたって事ですか? 失礼です。私だって乙女なんですよ?

 

「だが……もう少し胸も膨らませたらどうだ? それじゃ男が寄り付かんぞ」

「だまらっしゃい!」

 パチンとお爺さんの頬を叩く。あ、勿論軽くですよ?

 

 お胸は努力では大きくならないんですよ……。それに決して無いわけでも無いじゃ無いですか!

 ただ身長に合ってないだけです。

 

 だって私、身長が百七十センチあるんです。

 

 

「歯が折れたかと思った」

 想像以上に効いていました。

 

「ご、ごめんなさい……」

「いんや。お前が大きくなってワシは嬉しい。……しかし、なぜ十年で帰って来た? 飛び級でもしたか?」

 ご期待していて貰ったのですが、残念ながらそんな事はありませんでした。優秀でもありませんでした。

 

「学校、無くなりました」

「……は?」

 

「つい先週……飛竜に襲わ———」

「あぁもう良い。分かった。充分だ」

 私の心境を察知したのか。お爺さんはそんな私の言葉を遮って、優しく抱擁してくれます。

 

 あぁ……暖かい。

 この優しが懐かしい。

 

 

 そんなお爺さんに抱かれ、私は何分だか何十分だが涙を流しました。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「お前、臭いぞ」

 そんな乙女の気持ちを抉る言葉で私は我に返ります。は?

 

 

「それが死に物狂いで帰って来た孫に対する言葉ですか?」

「臭いものは臭いんだ」

 酷い。

 

 

「とりあえず風呂に入って来なさい。今後の話をする」

「あ、はい」

 そうお爺さんに促されて、私は洗面台に向かいました。今後の話とは?

 

 

 鏡には久しく見る自分の姿。

 泥まみれになったロングの金色の髪。先祖代々長い睫毛。無駄に縦に長い百七十センチ。泥まみれのお洋服。

 

 これが、私です。

 

 

 

 

 

 

「あ゛ぁ……生き返りましたぁ」

「おっさんか」

 おっさんにおっさんと言われてしまいました。

 

 花も恥じらう乙女が約一週間ぶりにお風呂に入ったのです。極楽も極楽。

 

「で、今後とは?」

「服を着ろ」

 バスタオル姿で座り込む私を、そう注意するお爺さん。確かにはしたないのですが、しかし。

 

「着る服がありません」

 着てきた服は泥まみれ。無駄に縦に長く育ってしまったので、子供の頃の服なんて着れません。

 

 

「ほれ」

 立ち上がり、私がお風呂に入っているあいだに装着した左腕の義手で掴んだ女性用の洋服を投げつけて来るお爺さん。

 な、なぜそんな物が家に。お母さんもお婆さんも今は居ない筈。

 

「浮気ですか?!」

 その歳で?!

 

「ばかもん、お隣さんのだ」

「あぁ……お隣さん。家ごと無くなってましたけど、どうしたんですか? ていうかやっぱり浮気ですよね?」

 確か、若い女性が一人暮らししていた筈。姉のように慕っていて、良く遊んでもらっていた記憶があります。

 

「オトモ中に喰われたらしい」

「……」

 世知辛い世の中です。

 

 

「で、勝手にご拝借したと?」

「死人に口無しだ」

「この下着も?」

「ふむ」

 犯罪ですよ。

 

「胸以外良いサイズだろう」

「いいえ、完璧なサイズです。私お隣さんくらいには大きいみたいですよ」

「上は要らんだろ。邪魔にしかならん」

 泣きますよ?

 

 

「…………で、今後とは?」

 初めの話に戻ります。

 

「お前も帰って来た事だしドンドルマに行こうかと思う」

 ドンドルマ。それは『現人類』がもっとも集う大都市です。

 昔は『人間』が首都として使っていたらしいんですけどね、そこ。

 

 

「あれ、お爺さんオトモは?」

「引退した」

 この十年の間に色々変わってしまったみたいです……。

 

 

「そこそこ貯金も出来たから、お前が帰って来たら余生をドンドルマで過ごそうと思っていてな」

「住居件取れたんですか?」

 ドンドルマは『現人類』さんの首都。『人間』の住める住居は限られているのですが……。

 

「ワシのご主人がG級まで上がってな。誘われた」

 お爺さんのご主人化け物でしたか。

 

「それは良かったじゃ無いですか! で、出発は何時に?」

「今から」

 は?

 

「えーと……」

「お前が戻って来たらすぐ出発出来るよう準備を整えていたんだ。ほれ、家も綺麗だろう?」

 綺麗というよりは何も無い。ただ、掃除をしていないのは分かります。むしろ汚い。

 

 この家……かなーり古いから、捨てるつもりなのでしょう。お隣さんみたいに。

 

 

「話が急ですよ」

「つい先日決まったんだ。学校に手紙を送った筈だがな」

「学校なら無くなりましたよ」

「あー…………すまん」

 良いんです。過去の事です。気にしたって前には進めない。私は友の屍を超えて前に進みます。

 

 

「こんなボロ屋にいつまで居ても仕方無い。お前も身仕度しなさい」

 十年振りに帰って来たというのにもう身仕度をしろというのです。さっきの優しいお爺さんは何処へ。

 

「と、言っても私私物ありませんよ?」

「お隣さんの服と下着、好きなのを選べば良い」

「……」

 優しかったお隣さん。お葬式に出られなくてすみません。お洋服、とても可愛いものばかりで嬉しいです。

 上の下着のサイズだけは頂けませんが……ね。

 

 そうして私はこのデンジャラスな世界でデンジャラスに忙しい身仕度をする事に。

 せっかく故郷に帰って来たのに、見知ったどころか『人間』はお爺さんしか残ってないじゃ無いですか。

 

 

 軽過ぎる身仕度を済ませ、トランクにパンパンに詰め込んだお洋服を持って家を出る。

 

 一瞬しか帰って来れませんでしたが、さようなら。

 

 

 

「お爺さん?」

 そうしてお爺さんを探して家の裏に回ると、お爺さんは岩に向かって手を合わせて目を瞑っていた。

 

 その岩には一本の剣が刺さっています。大昔、ご先祖様の友人がこの村を作った村長から譲り受けた剣———という伝説があります。

 なんでも本当の勇者しか抜けない剣だとかいう噂です。まるで童話の設定ですね。

 

 

「ご先祖様……孫は無駄に縦に長く育ちました」

「無駄な報告しないで下さい」

 無駄で悪かったですね。

 

「おぉ、準備出来たか」

「お爺さん、お隣さんパッドは持ってなかったんですか?」

「まだ気にしてたのか……」

 年頃の女ですよ?

 

 

「そんなもんある訳無いだろう。ほれ、お前もご先祖様に挨拶したら行くぞ。最後に村長に挨拶してくるからお前も後で来い」

 そう言うと、お爺さんは村の村長の所まで歩いていってしまいました。むぅ……もう少し優しくしてくれても良くありません?

 

 

「ご先祖様……か」

 人類はもう滅びます。そう遠く無い未来に。

 

 それでも私達は、生きていきます。

 本当に滅んでしまうまで。

 

 そんな願いを込めて、手を合わせました。

 どうか…………楽な余生を送れますように。

 

 

「そういえば……」

 ふとした思い付きでした。

 それは、まだ私の心が幼かったから起きた過ち。若さ故の過ち。

 

「本当の勇者にしか抜けないんですって? あなた」

 無機物にそう語りかけながら近付いて、柄を持ちます。

 きっとこの時の私は悪ガキの表情をしていたのでしょう。

 

 

「えい」

 出来心でした。

 

「……あれ」

 出来心だったんです。

 

「…………抜けた」

 抜けました。

 

 

 あっさりと。べ、別に折った訳ではありませんよ?

 

 

「……おかえり下さい」

 私は表情を変える事無くその剣を元に戻します。

 はは、そもそも本当の勇者しか抜けないなんて設定が甘いんですよ。この世界に魔法は無いんですから。ははは。

 

 私は悪く無い。

 

 

「さ、さて……お爺さんの所に戻らなくては」

 そう言ってからもう一度手を合わせて。私はこの村の村長の所に向かうのでした。

 

 

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 突然ですが。

 前略、ハンターは衰退しました。

 

 

 人間は衰退の一途を辿り、人口は四桁だと世では噂されています。

 しかし、文明が滅んだ訳ではありません。

 

 人間に変わってこの現代社会を支配する『現人類』さんが居るのです。

 そう、世代交代。新しい時代を作るのは老人ではありません。

 

 

 私をここまで運んでくれたあの方や、先程挨拶をしてくれたあの方。お爺さんのオトモハンター活動のご主人様。

 

 そして……この村長。

 

「お爺さん」

「おぉ、来たか。お前も村長に挨拶しなさい」

 

「君が孫ちゃんニャか? 凄い縦に長く育ったニャぁ!」

 そう言う彼こそ、村長にして『現人類』。

 

 全長は私の半分くらい。真ん丸お目々と全身を覆うモフモフの毛。その毛は人によって様々な模様をしています。

 左右に開いた可愛いらしい耳と、フサフサしてそうなチョコッと可愛く伸びるお尻尾。二足歩行ですが、少し背は曲がっています。

 

 

「で、もう行くんかニャ」

 そんな彼こそ。

 

「うむ。これまで世話になったな」

「寂しくなるニャ。これでこの村に人間さん、一人も居なくなっちゃうニャ」

 そんな彼等こそが———

 

 

「それでもウチら、アイルーは人間さんの仲間だニャ。いつでも戻って来るニャよ?」

 

 ———現人類。獣人族食雑目アイルー科『アイルー』である。

 

 

 

 

 前略、ハンターは衰退しました。

 それもかなりの大昔に、ポックリと。いとも簡単に。

 

 これは、人間の衰退したこんな未来で生きる私の———私達のお話。

 

 





プロローグでした。
プロローグなのでネコ成分低めですが、これからはどんどんネコ出ます。ネコしか出ません。

一話完結にしたいので、一話あたり一万から二万文字になる事もあるかもしれません……。出来るだけ一万文字に止めたいと思います……。


基本的に月一更新で行きたいと思います。
週一更新の方も宜しくお願い致します。

もし読んで頂けるのならこれからも温かい目で見守って頂けたらうれしいです。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。
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