ハンターは衰退しました   作:皇我リキ

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衰退した世界で(後編)『第二話』

 風に靡く銀色の毛並み。

 その風に乗ってくる匂いはまるで彼の毛並みの感覚を運んでくるようです。

 

 

 モフい。

 アイルーは総じてモフいです。モフモフです。

 抱き抱えればそれはもう気持ち良い感覚で、この世界の全ての辛い事を忘れられます。

 

 そんな中でも、今朝方私のご主人になったこの銀色の毛並みのアイルーはかなりモフモフな感じが漂って来るのです。

 モフりたい。あぁ……モフりたい。

 

 

 この一週間ご主人様を取っ替え引っ替えして来ましたが(言い方が酷いな私)、このご主人に勝るモフモフはかなりレアです。

 なので、人間なんかよりアイルー大好きな私は是非ともこのご主人をモフりたいのですが———このご主人、かなり引っ込み思案なようでして。

 

 

「ご主人はどんな武器を使うんですか?」

「……ぇ…………にぁ」

 質問すると、こうやってたじろいでしまって返してくれません。これではスキンシップも取るのが難しい。

 でも、そんなご主人も可愛いです。

 

 

「……ぇ、えと……にぁ」

「どうしましたか? ご主人」

 

「……スナイパーライフルにぁ」

 ……またとんでもない兵器ですねぇ。

 

 

 長距離射撃を可能にしたそのスナイパーライフルという武装は、上手く使えば別エリアの敵すら射抜き、威力もアサルトライフル等のそれに引けを取りません。

 ただ連射性能が無いので接近戦では不利になる事が多いですね。———よって、私が自然と前衛に。

 

 ま、まぁ。ご主人の為なら?

 それがオトモハンターですから?

 

 

「……だから、オトモさんに負担が……にぁ」

「大丈夫です!」

 こんな可愛いご主人の為なら私、頑張っちゃいます。

 

 やってやろうでは無いですか。スナイパーライフルなら私が気を付ければ、誤射されそうになる事は無いはずですし。

 さっさと今日も今日とてイーオス三匹を狩って、正式オトモハンターにしてもらいましょう!

 

 

 そして、ビバオトモ生活。アイルーさん達と戯れながら、いつかご主人が立派にパーティに入って私を忘れ———家で永遠に待機するだけのニートにジョブチェンジ!

 

 では、一狩り行きましょうか!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「聞いてません」

 全く聞いていません。

 

 

「グェェッ!」

 枯れ木が並び、洞窟の入り口があって、不気味な雰囲気に包まれるこのエリア。

 そこで出くわしたイーオスはシャクれた嘴から火炎を吐き出して、私を上手に焼けさせようとする。

 

「———あっぶな!」

 なんて火力でしょう。昨日までのイーオスとは全く別物です。

 

 

 ———いや、それもその筈なんですけどね。

 

 

「グェェェッ!」

 私の眼の前に居るのはイーオスなんかではありません。

 

 シャクれた嘴に、開いた扇状の耳。イーオスと同じ鳥竜種でありながら、翼膜の付いた巨大な翼を持った彼。

 イーオスとは比べ物にならない巨大な体躯はピンクの鱗や甲殻で覆われていて。さらに、この人火を吐きます。

 

 

 名を———イャンクック。

 

 

 なんと、この一週間増えすぎたイーオスの個体数を減らすという目的で毎日イーオスを三匹狩っていました。

 が、そのクエストもついに無くなってしまったのです。そこでご主人の師匠が用意したクエストはイャンクックの討伐という事でした。———ハハ、聞いてない。

 

 

 これだけ巨大な体躯を有する彼ですが、ニャンターさん達の間ではさほど強力なモンスターとして認識されておらず。

 しかも初心者ニャンターを卒業する為の試験とか、飛竜種への立ち回りを教えてくれる先生だとか、かなりの低評価。

 

 大昔人間がハンターだった頃も同じ様な扱いを受けていたようですが、そんな事信じられません。

 

 

 だって普通に大きいし怖いし強いでしょこの人!

 火とか吐くんですよ? イーオスの五倍くらい大きいんですよ? 化け物ですよ化け物。

 

 

「グェェェッ!」

 もう一度口内から火炎を吐き出すイャンクック先生。口の中燃えないんですか。

 

「……っ」

 なんとか転がって避けます。あぁ、もうまたお洋服が!

 

「グェェェッグェェェッ!」

「———って、えぇ?!」

 避けたと思ったのですが、さらに火炎を連続で発射なさる先生。連続攻撃を避ける練習ですね先生! フザケルナヨ。

 

 

「っとぉっぉぉ」

 地面を這いつくばって、転がって、なんとかそれを避ける。さっきまで私が居た場所は火炎で焼かれ、丸焦げになっていました。殺す気ですか先生。

 

 

「ふ……当たらなければどうという事はありません」

 先生の火炎連打も落ち着いたので立ち上がり、褒めて欲しくて精一杯のキメ顏でそう言います。

 

 さぁ、何点ですか?!

 

「グェェェッ!」

 突進してしてきます。まだ単位は出してくれないようです。この鬼教授。

 

「……っ」

 しかもそれが身体の大きさに関わらず早いの何の。一瞬で距離を詰められ、眼前に先生。

 

 

 あ、死ん———

 

 

 瞬間。髪の横を風が突き抜けました。

 風はイャンクックの嘴を貫き、貫通。激痛に駆られ、先生は突進中にもかかわらず足を止めてもがき苦しみます。

 

 どうやらご主人の狙撃が命中したようです。ご主人最高、結婚して下さい。

 

 

 さらに続けて、もがき苦しむイャンクックの頭に一発二発。背後から撃たれているのに、響く銃声に怯える心配はありせんでした。

 ご主人はかなり的確にイャンクックの頭を狙い打っています。なら、私はその邪魔にならない足や腹部に攻撃をすればいい。

 

 

 銃弾に怯む先生の懐に入り、私はさびた片手剣を叩き付けます。———何も切れない。ただ甲殻に傷とさびを付け、鱗を弾き飛ばす。

 でもそれで良いのです。私達オトモハンターの役割はニャンターさんのサポート。ご主人は狙撃手なのですから、私はこうやってモンスターの気を引いていればいい。

 

 

「グェェェエエッ!」

 たまらず、先生は頭を持ち上げて暴れ出します。

 口からは火炎を漏らし、怒り狂っているのが見て取れる。

 

 私はとりあえず距離を取りました。その間にも先生の頭部に一発銃弾が叩き込まれます。

 

 

 やれる。

 ご主人の戦い方的に私は邪魔にならない。

 このご主人のオトモなら、竜だって倒せる。

 

 

 そうやって思って。私は調子に乗っていました。

 

 

「———っぁ?!」

 

 

 イャンクックは先程とは比べ物にならない俊敏さで私に飛びかかって来ました。反応出来なかった私は、その巨体の体当たりで吹き飛ばされ地面を転がります。

 

 そのまま地面に倒れ込んだ私。頭とか打ったのでしょうか。視界が揺らいで身体が言うことを聞かない。

 釈然としない意識。眠い。———でもそんな眠気は一瞬の内に消え失せます。

 

 

「———がぁ……っ?!」

 意識が戻った時には私の身体はイャンクックの足で押さえつけられていました。

 全身に感じるその巨体の重み。ぬかるんだ地面がクッションになっては居ますが、それでも胃の中のものを全部押し出されるような感触と、内臓の悲鳴が思考を支配する。

 

 

 怖い。

 

 

「グェェ……」

 目の前の巨体は「捕まえた」と言わんばかりに私を睨み付けていました。

 巨大な嘴を叩き付けられれば、それこそ本当に口から全部出してしまうでしょう。命ごと。

 

 

 怖い。

 

 

「———ぉ……とぅ…………さん」

 

 

 怖い。

 

 

 モンスターは非情です。いや、きっと情はあるのだけども人に対してそれを見せる事はほとんどありません。

 彼等だって生きている。彼等だって死にたく無い。だから戦う。アイルーも、モンスターも———人も。

 

 それは今も昔も変わらない。自然の理。———だけど。

 

 

 怖い。

 

 

 仕方の無い。しょうがない事だと分かっていてもそれは怖かった。無くなるのも、無くすのも。

 だから抗いたくて、オトモの道を選んだ。衰退した人類でも、私はもう失いたく無いから。

 

 

 怖い。

 

 

 でも、分かってしまう。もう人は———人間はダメなんだって。

 どれだけ頑張ったって人はもう終わる。滅んでしまう。

 

 

 怖い。

 

 

 こんな所で……私は。

 まだ、『あいつ』を倒せて無いのに。

 

 

「グェェェッ!」

 イャンクックはその巨大な嘴を私に叩き付けようと頭を上げる。それはまるで極刑に使われるギロチンの刃のよう。

 

「死———」

 諦めかけた———いや、諦めたその時でした。

 

「にぁああ!!」

『あの時』のようにそれは掛けてくる。

 

 

 

 前略、ハンターは衰退しました。

 

 それはそれは大昔。人々は荒々しくも輝かしい活躍を見せていました。

 人はハンターとしてモンスターと戦い、倒し倒され。この世界で輝いていた。

 

 でもそれも大昔の話。人類は衰退しました。理由は分かりません。諸説あります。

 

 

 そして、衰退した『人間』に成り代わり『人類』としてニャンターとして。今荒々しくも輝かしく活躍している彼等。

 

 

「———ご主人?!」

「……オトモさんを放すにぁああ!」

 

 獣人族食雑目アイルー科アイルー。現人類です。

 

 

「にぁああ!」

「グェェェッ?!」

 ご主人は手に持った小さな剣を、目一杯イャンクックの頭に叩き付けました。勿論、弾かれます。

 

 しかし、私を押さえるイャンクックの足の力が一瞬緩み、私はその隙に脱出する事が出来ました。命辛々とはこの事でしょうか。

 

 

「———ケホッケホッ」

 何とか体勢を整えて、落としてしまっていた片手剣を拾い上げる。

 直ぐにご主人に眼をやると、ご主人は勇敢にもイャンクックの正面に立って小さな剣を構えていました。

 

 

 いや、あれは剣というよりはナイフ。モンスターから素材を剥ぎ取るための道具です。

 武器としては成り立たない代物で、そもそもご主人はスナイパーなので接近戦は不得意の筈。

 

 なのに———私の為にそんな危険を犯している。

 

 

「グェェェッ!!」

「……にぁ、にぁっ」

 せっかく捉えた得物を逃し、怒り狂うイャンクックと震えるご主人。

 イャンクックは突進を繰り出してそんなご主人を吹き飛ばす。

 

「……にぁぁぁっ」

「ご主人!!」

 未だに痛みの引かない身体に鞭を打って、何とか走って空に浮いたご主人の小さな身体をキャッチします。

 転がって衝撃を緩くして、ついでにイャンクックから離れながらポーチに手を入れる。どこでしたっけ———これでも無いこれでも無い、これだ!

 

 そしてポーチから引っ張り出した球体を地面に叩き付けるようにイャンクックの目の前に投げました。

 瞬間。眼を焼くような閃光が辺りを照らした筈です。私は眼をつむっていましたが。

 

 

 閃光玉。球体の中に入った光蟲という虫が、球体から出る瞬間に発する光を増大化させ眼をくらます閃光を発生させるアイテムです。

 球体には発光能力のある光蟲の発光を増大化させる特殊な加工が施されているとか。光虫はその後逃げていくらしいです。

 

 光虫はボールに入れればポケットに入るから、ポケット昆虫。略してポケコン。

 

 

 そんな閃光を受けて思惑通り眼が焼かれ、暴れまわるイャンクックを尻目に。

 私は弱々しく腕の中で呻き声をあげるご主人を抱え、一旦ベースキャンプに走るのでした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……ごめんにぁ」

 謝るのは私の方です。

 

 

「いえ……私は命を助けて貰ったのです。ありがとうございます、ご主人」

「……にぁ」

 かなり落ち込んでいるようです。

 

 私達はベースキャンプで焚き火を囲み、魚を焼きながら体力の回復を待っていました。

 なんとか逃げてきましたが、先程の戦闘で身体はボロボロです。———また、オトモ雇用して貰えないんだろうなぁ。

 

 

「……ボク、スナイパーだからにぁ」

 唐突に、ご主人は話し出します。

 

「そうですね。とても狙撃お上手でした」

「……でも、ずっと後ろに隠れてるからボクのオトモさんはとても危険な眼に会っちゃうにぁ」

 まぁ、確かに今さっき死にそうになりました。———でも、それがオトモハンターな気がします。

 

「……ボクは人間さん好きだから、怪我して欲しくないにぁ。でも、ボクの武器はスナイパーライフルなんだにぁ……オトモさん、ボクはニャンターに向いて無いのかにぁ……?」

 そう言うご主人はとても自信なさげな表情をしていました。

 

「ご主人はなんでスナイパーライフルを担いでいるのですか?」

 今は狩場に置きっぱなしにしてしまって居ますが。

 

「……モンスターとか怖くて近付きたく無いにぁ」

「……それはとても向いて無いですね」

「……にぁ」

 正直に言いました。モンスターが怖いのになぜニャンターをやっているのか。

 でも、その理由が私には少し分かってしまう。———きっと、同じな気がする。

 

 

「私もね。モンスターなんて怖いですよ」

「……にぁ。オトモさんも?」

「そうです。とても怖い」

 モンスターは凶暴です。大きてくて強くて恐ろしい。

 踏まれれば死んでしまうし牙で噛まれれば死んでしまうしブレスを喰らえば骨も残らない。

 

 そんなモンスターが怖いのは当たり前なんです。

 

「でも私はオトモハンターをやってます。死ぬのなんて嫌だし怖いけど、やってるんです」

「……にぁ、なんでにぁ?」

 

「用済みになってニート生活を送る為に」

「……にぁ?」

 意味分かって無いでしょうね。ニートって死語ですから。

 

「ふふ……まぁ、色々ありますけど。本心は一つなんですよ」

「その一つって……なんにぁ?」

 

 

「昔、私はモンスターに襲われて死にそうになりました。それを助けてくれたのは……ニャンターさん達と、おじいさん…………それに、お父さん」

「……にぁ」

 思い出したくも無い記憶が蘇る。

 出来れば一生忘れていたい。そんな記憶。

 

 でも忘れる事なんて無いのでしょう。

 一生根に持って、私は生きていく。だからオトモハンターになったのだ。

 

 

「そのモンスターにお父さんを食べられてしまいました。……私が弱かったから。だから、そのモンスターを倒せるくらい……強くなりたいんです」

 本心では何もかも忘れてニート生活を送りたい。でもそれはきっと叶わない。きっとこの記憶は忘れられない。

 

 だから、私はご主人にそう語りました。

 

 

「……ボクも…………ボクもオトモさんと同じだにぁ」

 やっぱりでしたか。

 

 モンスターが怖いのに。ニャンターをやる理由なんてそう多くはありません。

 

 

「……ボク、オトモさんに負担いっぱい掛けちゃうにぁ。だから……オトモさんが嫌ならボクなんかのオトモにならず…………このクエストもリタイ———」

「狩りましょう」

 ご主人の話を遮るように、私はウルトラ上手に焼けた魚をご主人に渡しながらそう言います。

 

 

「……にぁ?」

「私はご主人が宜しければご主人のオトモで居たいです。ご主人が良ければですけどね」

「で、でも……ボク……オトモさんに負担いっぱい掛けちゃうにぁ。ボクは臆病で……ひ弱で…………にぁ」

 

「そんな事はありません!」

「オトモさん……?」

 

「そもそもご主人は私のピンチに助けてくれたでは無いですか。ご主人は全然私に負担を掛けてなどいません。むしろご主人に助けられて負担を掛けていたのは私です」

 

「それじゃ……ボクのオトモになってくれるのかにぁ?」

 そう言うご主人の表情は輝いていました。私なんてオトモとしては未熟も良いところ。他にもっと優秀なオトモハンターだっている筈です。

 それでもこんなに嬉しそうにしているのは、きっとご主人は本当に人間が大好きなんでしょうね。そして初めてのオトモが私なのでしょう。

 

 

 

 だから少しズルいかもしれないけれど。ご主人のオトモ権利は私が貰います。

 せめて、このご主人が立派になってパーティに入ってしまうまで。この臆病で私に似ているご主人と一緒に居たいのです。

 

 

「まだです」

「……にぁ?」

 

「私とご主人で、あのイャンクックを倒します。そこで私の腕を信用して下されば……私をオトモに雇ってください」

「か、勝てるのかにぁ……? あのおっきなモンスターに」

 

「人の武器は知恵ですよ。さっきは油断していただけです。私を信じて……もう一度戦って貰えませんか?」

「…………。……にぁ」

 少し考えてからご主人は首を縦に振りました。

 

 

 さて、ここが正念場という奴です。一狩り行かせて貰いましょう。

 

 元人類。哺乳類霊長目ヒト科ヒト目ヒト。人間の本気を見せてあげましょう。

 

 

 

 

 

「ここで待機でお願いします」

 私を助ける為に置き去りにしてしまったご主人の相棒であるスナイパーライフルを拾ってから先程までイャンクックが居たエリアに戻ってきました。

 

 イャンクックはどうやら居ないようですが、すぐにでも戻ってくる可能性もあるので———ようは急げです。

 

 

「……さてと」

 ご主人を丁度良い岩陰に隠れさせてから、私は狩りの準備をする事にします。

 

 

 人の武器は知恵と言います。

 大昔。我々人間がまだハンターをやっていた時代。人は知識を駆使し、自分より巨大な生き物と戦ってきました。

 

 

 その一つはこの武器。鉱石やモンスターの素材を使って作られた武器は、モンスターの堅い甲殻も切り裂けたようです。もっとも私が今持っているのはさびた片手剣ですが。

 

 そしてもう一つは様々なアイテムでした。先程の使った閃光玉しかり。辺りに煙を撒き散らすアイテムや毒を仕込んだ肉、爆弾。人は様々なアイテムを使って物理的に生物的に絶対的に有利なモンスターに勝利する事が出来るようになったのです。

 

 

「これでよしと」

 そして、今私が地面に設置したアイテムもその内の一つ。

 

 シビレ罠。踏むと内部に仕込まれた即効性の麻痺毒又は超高圧電流(対象によって選ぶ)が対象を襲って数秒間動きを封じる事が出来ます。

 その間にモンスターをボッコボコにして、ハンターだった頃の人類は効果時間以内にモンスターを倒す事が出来たとか出来なかっただとか……。

 

 

「グェェェッ!」

 して、件のモンスターは空を徘徊していたらしく。私を見付けて降下してきました。

 

 第二ラウンドの開幕です。———まぁ、すぐに終わらせますけど。

 

 

「グェェェッ!」

 地面に降り立つや否や、閉じていた耳を開いて戦いに集中するイャンクック。

 

 

 彼はその扇形の耳で音を良く聞く事が出来ます。簡単に言えば耳が良いのですが———そこが仇となる。

 

 

「これでもどうぞ!」

 片手剣はその軽さと持ち方の関係上、武器を構えたままポーチに手を突っ込んで、アイテムを取り出す事が出来ます。

 そこで突進してくるイャンクックに、私はまた球体を地面に叩き付けるように投げ付けました。

 

 

 次の瞬間。一瞬の感覚は目を焼く閃光———ではなく、甲高い高周波。

 

 音爆弾。小さな火薬が生き物の独特な鳴き袋の中で爆発する事により、高周波を生み出すという一品。こちらも元人類の遺産です。

 

 

「グェェェッ?!」

 音を聞いた瞬間。イャンクックは一瞬身体を痙攣させて頭を持ち上げ、フラフラと危なっかしく揺れ出しました。

 イャンクックの聴覚は人の五倍とまで呼ばれています。その高い聴力故に人が聞いても大きな爆音を聞いたイャンクックは、このように気絶してしまうのです。

 

 気絶しても倒れずに立ち上がってるその根性は見上げたものがありますが、関係ありません。

 

 

「やぁっ!」

 動きを止めたイャンクックにさびた片手剣を叩き付ける。堅い甲殻に弾かれるのも気にせずに何度も何度も叩き付ける。

 私の頭上ではご主人の放った銃弾がフラフラと不安定に動くイャンクックの嘴を的確に射抜いていました。———私の存在意義が。

 

 

 しかし、私のさびた片手剣も捨てたものではありません。

 イャンクックが意識を取り戻す頃には私が攻撃し続けていた場所は甲殻が剥がれ落ち、身体には痛々しい傷が出来ていました。我ながら酷い事を。

 

 

「グェェェッ!」

 たちまちイャンクックは怒り狂います。この場には私一人しか居なくて、今はご主人も狙撃を中止しています。

 

 つまり、イャンクックは私以外の標的を持っていない。怒り狂った彼がそんなただ一人の人間にする行動は一つでした。

 

 

 突進。聞けばただの体当たり。しかしモンスターはその体躯故、その体当たりだけでも人に致命傷を与える事だって難しく無い。

 しかし私は避けませんでした。———いえ、避ける必要が無かった。

 

 

「———グェァッ?!」

 その巨体が私を吹き飛ばす一歩手前。彼は激しく痙攣をして動きを止めました。先程仕掛けたシビレ罠への誘導大成功です。

 その瞬間、弾のリロードを終えたご主人の狙撃が再開されます。イャンクックのその眼から徐々に光が失われて行くのが目に見えて分かりました。

 

 

「……あなたには恨みがある訳じゃ無いんですけどね」

 私は攻撃しません。

 

「…………グェ……ァッ」

 ただ、一生懸命に生きようと足掻いているその存在に語ります。

 

「これが生きるって事なんです」

 人間はそう遠く無い未来に滅びます。

 

「…………グ……ェェッ」

 この方のように、どれだけ足掻いたって。いつかは滅んでしまう。

 

「命のやり取りなんです」

 それでも生きているなら———

 

「だから……あなたも私も悪く無い」

「グェ゛ェ゛ェ゛ア゛ア゛ア゛———」

 ———生きている内は。こうやって、足掻いていよう。

 

 

 

 

 次の瞬間。イャンクックを爆炎が包み込みました。

 

 罠にはめて、爆弾を使う。こんな原初的な作戦は元人類が必死になって彼等と戦う為に考えた知恵でした。

 昔は大きな木の樽に爆薬を大量に仕込んでいたみたいですけど。今はこの小さな『ダイナマイト』で事足りてしまいます。これはアイルーさん達の技術ですね。

 

 しかし大きな樽とかどう運ぶんでしょうか……。ダイナマイトは軽いから簡単に持ち運び可能でしたけど。

 

 

 

 音も無く、声も無く。爆煙が晴れた時、彼は地面に力無く倒れていました。

 

 

「……終わりましたか」

 脱力しました。人間だってやれば出来るのです。

 

「オトモさん……す、凄いにぁ」

 走って来たご主人はそう言ってくれました。いえ、私何もしてません。罠にはめて爆弾起爆させただけです。

 

 

「これで私の事、オトモにしてくれますか?」

 しかしここは手柄を貰っておきましょう。ご主人の正式なオトモになるためにも。

 

「……にぁ、オトモさんがこんなボクと組んでくれるなら。是非頼みたいにぁ」

 作戦大成功。

 

 

「じゃあ、これからよろしくお願いします。ご主人」

「……にぁ。宜しくにぁ、オトモさん」

 ご主人は小さな手を出し、私もそれに応えます。———肉球が最高。

 

 ふと、イャンクックに眼をやりました。

 力無く倒れていても。その大きさに威厳は残っています。

 

 

 今回は私が生き残りました。

 でも次は、その次は、いつかは、どうなるか分からない。

 

 人が、私が滅びるまで———あなたのように一生懸命抗っていきます。

 戦ってくれてありがとう、『先生』。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「集会所に到着だニー! またのご利用をお待ちしてる二!」

 気球の運転手さんにそう見送られ、無事に街に戻る事が出来ました。

 

 終わってみればあっという間。

 

 

 疲れたのでしょう。私の胸で眠るご主人はそんな運転手さんの大きな声でも起きる事はありませんでした。

 どうしよう……持ち帰りたい。

 

 

「お、無事にクエストはクリアしたニャン?」

 そんな事を考えていると、事の発端の犯人。金色の毛をしたアイルーの女の子がそうやって話し掛けて来ました。

 確か、ご主人のお師匠さんなんでしたっけ?

 

 しかしこの人のおかげで大変な眼に会いましたよ本当……まぁ、クエストがアレしか無かったのはお師匠さんのせいでは無いんでしょうけど。———むしろ私のせいですし。

 

 

「おかげ様で無事オトモにしてもらえました」

「おー、それは良かったニャン。こいつの事だから『……オトモさんはボクには勿体無いニァ』とか『……ボクじゃオトモさんのご主人は勤まらないニァ』とか言ってオトモを雇わないんじゃ無いかと心配だったニャン」

 少しバカにしたような口調でご主人の真似をするお師匠さん。多分それは、愛情表現のような物なのでしょう。悪気が全く感じられません。

 

「不束者ですが、宜しくお願いします。お師匠さん」

「こちらこそ、馬鹿弟子を宜しくニャン」

 お師匠さんとも握手を交わす。きっとご主人は立派なニャンターさんになります。

 だからそれまでは、宜しくお願いしますね。

 

 

「所でご主人がですね……起きてくれないんですよ」

 腕の中で未だに眠っているご主人を優しめに揺さぶりながらお師匠さんに相談します。揺らしてもやはり起きませんでした。

 

「あー、持ち帰ってどうぞニャン」

 まさかのお持ち帰り許可頂きました。

 

「いやいや、それは……ご両親に心配をお掛けしますしね? あ、まさかお師匠さんがご主人のお母様?!」

「んな歳じゃ無いニャン……」

 とてつもない失礼をしてしまいました。

 

 

「そいつに両親は居ないニャン」

「……ぇ」

 

「聞いて無いニャン?」

 いや、そういえば少しだけ聞いてます。

 ご主人は、私と同じ……そう言っていました。

 

「多少……は」

「……そいつは幼い時に両親を古龍にやられてるニャン。そこからは家で預かる事になって、先にニャンターになった私がニャンターとしても面倒を見てたニャン」

 古龍……。

 

 

「だから私はこいつの師匠でもあり、お姉ちゃんでもあるんだニャン。これからはオトモさんと行動する事が多くなるだろうし、むしろそいつの事は任せるニャン」

 本人が寝ているのにそんな事勝手に決めて良いのでしょうか……。

 

「……この子はもう私から卒業しなきゃダメニャン」

 そう言うお師匠さんの表情はとても優しい物でした。

 

 

 何やらとても重大な事を任されてしまった気がします。

 

 でも私は、このご主人に仕えると決めたのです。

 どんな事があっても。ご主人が立派にパーティな加わるまで。

 

 

「お師匠さん」

「ニャン?」

 

「ご主人———お弟子さんの事は私に任せて下さい!」

「ニャ、任せたニャン! オトモさん」

 そうして私とお師匠さんはもう一度堅い握手をしました。———ふふ、お持ち帰り。モフモフし放題。フフフ。

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で、私はまだ起きないご主人を抱えて自宅に戻って来ました。

 お爺さんは相も変わらず、武器のさびを取る事に熱中しています。

 趣味になってませんか? 大丈夫ですか?

 

「ただいまー」

「おぉ、帰ったか。また汚れて来たな。風呂に入って来なさい」

 それが一生懸命イャンクック大先生と戦って来た孫に対する答えですか。

 

「はいはーい」

 まぁ、いつもの会話なんですけどね。

 いつかは汚れずに帰って来てギャフンと言わせてやりたいです……トホホ。

 

 

 でも、今日は———いえ、今日からはいつもとは違います。

 

 

「———おま、そのアイルーさんはなんだ? ついに拉致したか?」

「人を誘拐犯みたいに言うの辞めてくれません?! ちゃんと保護者の許可を得ています! 私を雇ってくれたご主人です!」

 でも、良く良く考えると本人の許可は得ていないので誘拐と言ってしまえば誘拐な気が……。

 

「———にぁ? …………ここは……にぁ?」

 そんな大声でせっかく寝ていたご主人も起きてしまいました。

 

「おはようございます、ご主人。ここはご主人の新しいお家です」

「……にぁ?!」

 やはりお師匠さん、ご主人には無言での決定だったみたいです。説明が面倒臭い……。

 

 

「お前本当に拉致してきたんじゃ無いだろうな……」

「いやいや違います! 半分そうですけど違います!」

「半分そうなのか……」

 あぁもう。どう説明すれば!

 

「こ、ここはどこにぁ? オトモさんの家? どうしてボクはここに居るにぁ?」

 ハハ、もうどうにでもなれ。

 

 

「お風呂入って来ます」

「おい、こら待たんか」

「乙女のお風呂を覗かないで下さい変態お爺さん!」

「…………」

 私がお風呂の間になるようになれなのですよ、ホホホ。

 

 

 さて、これからやっと私のオトモ生活が始まるのです。

 ご主人が立派になって、パーティに入るまで。私は生き物として、精一杯抗います。

 

 だって私はまだ———生きているから。

 

 

 

 

 前略、ハンターは衰退しました。

 

 人類は荒々しくも輝かしい時代から何世紀も経ち、今はひっそりと数を減らしていっています。

 武器も、技術も失って行き。いつか私達は滅ぶでしょう。あのイャンクックのように。

 

 でも、だから、生きている内は争うのです。あのイャンクックのように。

 

 

 この衰退した世界で、現人類として活躍すら彼等アイルーの片隅で。私は、私達は生きて行く。

 

 

 これは、そんな私の———私達の物語。

 

 

 

 

 

 

「で、アイルー君。孫を雇ってくれたというのは本当かね?」

「……にぁ、そうだにぁ。……お、お世話になりますにぁ」

「うむ。こちらこそ、孫を宜しく頼む」

「……にぁ!」

 

 

「……銀色の毛並みのアイルーか、運命を感じる。…………ふ、まさかな」

 

 




読了ありがとうございました。
月一更新と言ったな、アレは嘘だ()
前後編分けだったので早めに投稿したしだいです。

さて、少しシリアス気味に書きましたがこれからはネコネコな緩いお話を書いていこうと思います。もしここまで読んで頂いてお気に召されましたら、続きも宜しくお願いします。
月一か二で更新出来たらなーとか思ってる。

女の子の主人公だから口調が難しい……。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。
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