ハンターは衰退しました   作:皇我リキ

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ミサンガが切れる頃に『第三話』

 前略、ハンターは衰退しました。

 いつの時代だったかユックリと。文明は衰退して行きました。

 

 

 理由は分かりません、諸説あります。

 自然災害だとか、人々の争いだとかなんだとか。

 

 とりあえず。

 荒々しくも眩しい時代は幕を閉じました。

 

 後は人間は絶滅に向けてゆっくりと衰退していくのみです。

 

 

 これは、そんな世界を生きる私達のお話。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「いぃぃぃやぁぁぁあああ!!」

 全速力で駆けます。

 

 

 いやぁ、こうして走っていると青春しているみたいではありませんか?

 フフフ、ワタシヲツカマエテゴランナサイ。

 

 

「グェェェエエエッ!!」

 そんな私を追い掛ける王子様は、頭に特徴的なトサカを着けた少し———いやかなりお太りなさった王子様です。

 

 ゴム質なお肌に天使のように生えた一対の翼。青い皮膚はまるで人では無いよう。———いや人じゃ無いですよどう見てもね! モンスターですね!

 

 

 ゴムのように伸縮する尻尾を振り回しながら、王子様———鳥竜種、ゲリョスは狂った様な走り方で私を追い掛けてくるのでした。

 フフフ、モテルッテツライナァ。

 

 

「もう来ないで下さぁぁい! ストーカーもここまで来ると悪質過ぎますよぉぉ!!」

「グェェェエエエッ!!」

 そんな私の悲鳴はただこの沼地に広がるだけ。ゲリョスは聞く耳持たずといった感じで無限とも思える程追い追い掛けて来ます。

 

 私、強走薬を使って半ばチートモードなのにこのゲリョスったらそんな私にも付いて来るんですからもうどうしたものか。

 

 

 彼はそのゴム質な皮のせいで麻痺毒も高電圧も効かないので、シビレ罠が使えません。

 さらに自らが閃光攻撃を持っているので閃光玉すら使えないという厄介なモンスターなのです。

 

 

「ひぃっ、ひぃっ! ひぃぃっ!」

「グェェェエエエッ!!」

 全力で走りながらも彼はついに痺れを切らしたのか口から毒液を吐きながらもやはり走って追い掛けて来ます。

 私は走って逃げながら、さらに毒液まで避けなければならないという酷い状況。今の人間がここまで頑張ってるのって本当稀だと思いますよ?

 

 

 しかし、ただ逃げているだけでは無いのです。

 

 人間にはシビレ罠以外にも罠があるのですよ!!

 

 

「こ、ここまで……はぁ……はぁ…………やっと……」

『落とし穴』の設置場所まで走って自分の格好も気にせずに地面に倒れこむ様に座り込みます。

 観念したとでも思ったのでしょうか。追ってきたゲリョスは私の目の前に掘って仕掛けておいた落とし穴にそのまま身体を埋める結果となりました。

 

 

「ギェェッ?!」

「ふぅ…………お疲れです」

 次の瞬間。落とし穴に仕掛けておいた爆弾が弾け、遠方からの『ご主人』の狙撃がゲリョスの特徴的なトサカを蜂の巣にする勢いで撃ち抜きます。

 

 そのままゲリョスは力尽き、落とし穴から出る事もありませんでした。

 彼、賢いので死に真似とかするんですけどこれは本当に亡くなったみたいです。

 

 お疲れ様、今回も勝つ事が出来ました。

 

 

 

「……オトモさん、大丈夫だったにぁ?」

 手を合わせてゲリョスを労っていると、背後から先程の狙撃の主が小さな身体にスナイパーライフルを背負った姿でそう話しかけて下さいました。

 

 垂れ下がった耳にモフモフな銀色の毛並み。

 現人類である所のアイルーである私の『ご主人』は私を気遣うような上目遣いで。

 それはもう堪らなく可愛い訳ですよ。主従の関係を超えてモフモフしたいくらいには!

 

 

「ご主人、私を誰だと思っているのですか?」

「……オトモさんは…………オトモさんにぁ」

 あ、はい。仰る通りでございます。

 

 格好を付けてみましたが、ご主人には伝わらなかった様です。

 ご主人に仕えて一週間。まだまだ溝は深そう……。

 

 

 そんな訳で無事クエストを終えた私達はいつも通り気球に乗ってドンドルマに向かうのでした。

 

 

 

 

 突然ですが。前略、人類は衰退しました。

 人口は減り、ハンター家業も成り立たなくなった人類は人類の座をこのアイルーさん達に明け渡してもう何世紀が立った事か。

 

 この世界の理である所のモンスターと人類の共存。その担い手は現人類であるこのご主人のようなアイルー、ニャンターが担っておいでです。

 そして私達旧人類はオトモハンターとしてニャンターさん達に着いて行くのでした。

 

 そうする事でしか、生きていられないから。

 

 

 

 

「ただいま」

「……にぁ」

「臭い、風呂に入って来なさい」

 今日も無事にクエストを終えて、帰って来た孫に対してこのお爺さんの反応はいつも通り。

 

 先祖代々長い睫毛を義手の左手で弄りながら、もはや趣味になりつつあるご先祖様の武器のさび取りに勤しむ白髪の老人は私の唯一の血縁者です。

 

 

「もぅ、たまには労いの言葉をですね。聞いてますー?」

「お疲れという言葉は本当に疲れた者に掛ける言葉だ」

 さび取りに使っていた鋭利な鉄板を私に向けながらお爺さんはそう言います。

 いや、私物凄く疲れましたから。ドーピングはしたけどずっと走ったんですからね?!

 

 

「それに狩りとは家から出て、狩りでの疲れを取って初めて終わる物。飯は用意するから早く終わらせて来い、そしたらおかえりと言ってやる」

 厳しくも優しいおじいさんはそう言うと、料理の為に席を立ちます。なんやかんやで孫思いなんです。

 

「……はーい。ではご主人! 今日は一緒にお風呂に入りましょう!」

「……っぇ、遠慮するにぁ!」

 もうまたぁ、恥ずかしがり屋さんですね。そんなご主人も可愛いです。

 

 

「そんな事言わずにぃ」

「お、オトモさんの眼が何か狂気的だにぁ……っ!」

 そう言うとご主人はお爺さんの所に逃げて行ってしまいます。

 

「……お爺さん助けてにぁ!」

「むぉ、アイルーさん。孫が何かやらかしたかな?」

「私はただご主人とお風呂に入ろうとしただけですよぉ!」

 むぅ、中々ご主人との距離が近付かない日々に内心傷付いております。

 

 

「アイルーさんだって男女の折り合いがあるんだ。お前はアイルーさんが現人類だという事を全く理解して居ないのか?」

「そ、そんな事分かってますよ! でも私は人間とアイルーの架け橋に成るべくしてですね?」

 勿論ただの自分の欲望なのですがここは見栄を張って格好良く。

 

 

「お前アイルーさんと交尾でもする気か……?」

「どうしてそうなるんですか……ッ!!」

 最低ですこの変態お爺さん。

 

 

「……にぁ」

 しかしご主人もお爺さんの後ろに隠れてしまっていますし、しょうがないのでお風呂は諦める事にします。

 

 

 

 そんな訳で一人でお風呂へ。中々ご主人との距離が縮まりません。

 

「どうしたものか……」

 イャンクックを倒し、ご主人のオトモになってから早一週間。ご主人のお師匠さんに言われ、我が家にご主人を引き取った訳ではありますが。

 中々にその態度はおどおどしく、慣れない場所に連れて来られた子供のように過ごしています。

 

 仲良くなりたいのもありますけど、このままだとご主人はずっとストレスを抱える事に。

 な、なんとかしなければ。

 

 

「よし」

 ここは色々作戦を考えて実行しましょう。時間が解決してくれるとは言いますが今はそれは甘えなのです!

 

 では、いざ参ります。

 

 

 

「きちんと髪を乾かさんか。……今日はキレアジのフライだ」

 風呂から出た私にそう言うと、お爺さんは上手に揚げられましたキレアジを食卓に並べます。

 ご飯とお味噌汁を人数分並べ、食事の準備は完了。

 このお爺さん、不器用に見えて基本的に何でも出来てしまうスーパーホモサピエンスなんですよね。孫の私? 聞かないでくださいまし。

 

 

「「「頂きます」」にぁ」

 食材に感謝を込めて、頂きます。

 

 でわ早速、ご主人との友好度上昇作戦を始めますよ!

 

 

「ご主人、あーんして下さい!」

「に゛ぁ?!」

 突然の私の提案にご主人は目を丸くして口を開けたまま固まってしまいました。

 お爺さんはそんな光景をジト目で見ながら「はぁ……」と溜息。

 

 して、ご主人の気持ちはどうあれ今はチャンスです。

 

 

「はい、あーん」

「……にぁ」

 パクりと、その小さなお口に箸で細かくしたアジフライが入って行きます。

 困ったような表情でもそれをちゃんと噛んで飲み込む必死な仕草はもうそれはそれは可愛い訳でありまして。

 

「どうです? 美味しいでしょう!」

 私が作ったんじゃ無いですけどね。

 

「……うにぁ、美味しいにぁ。え、えーと…………オトモさん? どうして……あーん、にぁ?」

 この常時困り顔のご主人は本当に見てて飽きません。虐めている訳じゃ無いですよ?

 

 

「スキンシップです」

「……にぁ」

 ご不満なようです。

 

 

「くだらん事してないで食べなさい」

「あ、はい……」

 うぅ、お爺さんにも怒られる始末。作戦は失敗ですね。

 でも、挫けません!

 

 

「ふむふむ、この絶妙な揚げ加減がたまらないですよねぇ」

 砥石にすらなる硬い背ビレを取って、その身をふんだんに使ったフライは外はサクサク中はフワッと仕上がっていて絶妙な感触。

 お爺さんは万能でなんでも作れますが、やはりお魚料理が一番美味しいです。それは子供の頃から変わらない、祖父の味。

 

 

「お前は昔から好みが変わっとらんな」

「成長してい無いみたいな言い方は止してください」

「いやいや大きくなっとるぞ。身長だけ」

 百七十超えをネタにするのそろそろ辞めて貰いたいものです。気にしてるんですよ?

 

 勿論胸の事は関係ありません。全くもって。はい。オオキクナリタイナァ。

 

 

 

「所でご主人はどんな食べ物が好きですか? アジですか? それともマグロ?」

 ここで友好度上昇作戦第二弾を発動します。名付けて、好きな食べ物の話題で盛り上がりましょう作戦! そのまんまです。

 

 

「……カ○リーメイトにぁ」

 まさかの携帯食料。お魚じゃ無いんですか。

 

「え、えーと……それって…………ご飯?」

「……チョコ味とかプレーンとか色々あって飽きないにぁ」

 変わったご趣味をお持ちでした。

 

「ちゃ、ちゃんとしたご飯も食べないとダメですよ!」

「……うにぁ」

 いや、普通に食べているのに私はなんて早とちりな言葉を。うぅ……また失敗です。

 

 

「はぁ……」

 お爺さんそんな明らか様なため息は辞めて下さい!

 

 

「そうだアイルーさん、明日は狩りに行かず孫と買い物に行って来てはくれないか?」

「……うにぁ?」

 お爺さんのそんな急なお願いに首を傾げるご主人。お、お爺さん……私とご主人の友好度の為にそんな提案をしてくれ———

 

「サビ取りにキレアジや砥石を使ってみたんだがまるでダメでな。今度は都市部に売ってるサビ取り用のヤスリというのを使ってみようと思うんだ」

 ———自分の欲望の為でした。私の感動を返して下さい。

 

 

「……んにぁ、お世話になってるしボクは良いにぁ」

 む……ご主人がそう言うなれば、着いて行くしか無いのがオトモ人生。初めての都市部でのショッピングにも中々胸が踊ります。

 

「ふむ、宜しく頼むよ。お前は都市部は初めてだったか? アイルーさんにきちんと着いて行って逸れるなよ?」

「子供じゃ無いんですから……」

 馬鹿にし過ぎです。

 

 

 

 さてさて、そんな話の最中でご飯を食べ終わりました。ご馳走様。

 

 食器類を片付けて、もうご主人は就寝モード。この一週間毎日狩りに出かけてましたもんね。お疲れのようです。

 私も囮になったり囮になったり走ったり突かれたり転がされたり走ったりと———あれ、私の方が大変な思いしてません……?

 

 あぁ……多分気のせいですね、はい。

 

 と、いう訳で私も疲れていたのでそのまま就寝。ご主人とはかなり離れた所にお布団を引きます。

 近付くとご主人逃げてしまうんですよ……。一緒に寝たいなぁ……モフモフな抱きまく———おっと欲望が。

 

「おやすみなさい……ご主人」

 手の届かない所で寝ているご主人にそう語り掛けてから、私も眼を閉じました。

 明日には……もう少し近付いていると嬉しいです。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 意識はゆらゆらと、妙にハッキリしない景色が映し出される。

 

 

 これは夢なんだ。それがハッキリしているのに、なんだかモヤが外れない。

 

 感覚がフワフワして、目に映るものは全部捻じ曲がって見える。

 

 

 

 これは多分嫌な夢だ。

 

 そう思って起きようとしても、中々意識は戻らない。

 それどころか引きずり落とされるように、視界がハッキリしてくる。

 

 

 

「グォォォォッ!!!」

 

 聞いた事がある、鳴き声。

 

 見た事のある、景色。

 

 一対の翼と四本の脚。鋼の肉体は嵐を纏い、全てを地に返して行く。

 

「お父さん!! お母さん!!」

 その世界で『私』はそう叫んだ。気のせいか、視線が低い気がする。

 

 大きいとは思っていたけど、こんなにも大きかったっけ……?

 

 

 それはもう恐怖で大きく見えていたのか。それとも『私が小さかったのか』。

 

 私、お母さん……なんて叫びましたっけ?

 そもそもお母さんはあの時以前に亡くなっている。

 

 

「嫌だ、一人にしないで―――」

 その世界の『私』は小さな手を伸ばしながらそう叫ぶ。

 

 大丈夫ですよ。一人じゃ無い―――なぜか、そんな言葉が頭を過ぎりました。

 それはまるでその『私』に語りかけるような『自分』の声。

 

 でも、そんな声は『彼』には届かない。

 

 

 何も出来ない自分があの時のように腹立たしい。でも、これは何の夢? この『私』は私じゃ無い気がする。

 

 夢なんて、そんな物か。

 

 でも本当に、嫌な夢だ。

 

 

「グォォォォッ!!!!」

 巨大な龍に飲み込まれるように、意識はフェードアウトしていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……ん…………んぅ」

 とてつもなく嫌な夢を見ていた気がしました。

 

 

 ただ、人間便利な物であまり夢に関して記憶に残る事は少ないみたいです。

 嫌な感じも眩しい朝日に燃やされるように消え、小鳥の鳴き声が揺らいだ心を落ち着かせます。

 

 今日も素敵な一日になりますように。

 

 

 

「おはようございます」

「やっと起きたか」

 そう言うお爺さんは朝食の用意を終えて手を洗っている所でした。

 

 食卓を見るとご主人が出来たてのエッグトーストを運んでいる所。フラフラと危なげですがしっかりと成功。そんなご主人も可愛い。

 

 

「わ、わ、そんな事私がやりますよご主人!」

 しかし、ご主人に仕える身として見ているだけという訳にもいきません。急いで救援へ。

 

「……にぁ、この位やるのにぁ。住まわして貰ってるんだから」

「そ、そうは言ってもですね……」

 ご主人はご主人な訳ですから。

 

「……はぁ」

 またお爺さんの溜息。わ、私何か変な事でも?!

 

 

「オトモはニャンターさんの召使いじゃ無いぞ」

 続けてお爺さんはそう言います。

 

「はい?」

 何が違うのでしょう……?

 

 

「オトモは確かに雇われ形式だ。だがニャンターさんは我々オトモハンターを信じて背中を預けている。それは……昔ハンターとオトモアイルーという関係だった頃と同じだ。つまり、言うならば『相棒』だな」

「相棒……ですか」

 横文字にするとパートナー。

 

 

「……うにぁ?」

 そういう考えはこれまでありませんでした。

 

 人間は衰退し、もう滅びるだけの存在。

 それでも、アイルーさん達は私達を使用人でなく相棒として迎え入れてくれている……?

 

 

「……パートナー、ですか」

「終わったからもう座れ。十時だぞ? とっとと食ってサビ取りヤスリを買ってこい」

 たまに良い事言うと思ったらこれですか。見損ないます。

 

 

 そんな訳で例の如く三人で食卓を囲み、頂きます。

 ガーグァの卵をふんだんに使ったエッグトーストはふんわり卵にサクサクの感触がベストマッチしていて朝食にはもってこいでした。

 

 

 さて、朝食も食べ終えた事ですしお洒落に着替えて都市部に向かうとしますか。

 中々に田舎暮らしが板に付いていてそういう所の情報に疎いんですよね。なので結構楽しみだったりします。

 

 ちょっと頑張ってフリフリのついた可愛いワンピースで自分を着飾り、麦わら帽子で爽やかさを演出。

 身長さえ、身長さえこんなに高くなければもっと無理して可愛い系を着るのに!!

 

 コホン、落ち着いた所で身仕度もここまでとして出かける事にします。

 

 

「似合いますかね?」

「似合っとるぞ。半世紀前の嫁に良く似とる」

「孫に発情しないで下さいよ……?」

「せんわ」

 ですよねー。

 

 聞き慣れた会話を終えて玄関へ。既にそこにはご主人が待機していて、中々ラフな格好で待っていました。

 

 

「私服のご主人も素敵ですよ」

「……にぁ、そ、そんな事ないにぁ。出発するにぁ?」

「そうですね、行っちゃいましょう」

 そうしてお爺さんにお小遣いとヤスリ代(マタタビ)を貰い都市部へ。

 

 

 

 現人類、アイルーさんの首都ドンドルマ。その中心部から私の家は一キロほど離れております。

 家を出て直ぐにガーグァの引く街内タクシーを引き止め乗車。街の中ならどこまででもマタタビ二個で運んでくれる良心的な家業を営むアイルーさんに運ばれて十数分程で街の中心部に。

 

 

 集会所のある中央広場を超えたその先、沢山のお店が立ち並ぶこの区域は首都ドンドルマでも都市部と呼ばれていて毎日沢山の人(アイルー)で賑わっていました。

 

 

「こ、これは……」

 足元に敷き詰められたアイルーさん達。視界をアイルーさん達が多い、まさにアイルーパラダイス。

 

「……オゥ、マーベラス」

 思わずそう口にしてしまう程です。

 

 

 さ、さて見惚れるのは良いですけど迷子にならぬように気を付けね———ってあれ?

 

 

「あれれ?」

 開幕ご主人が見当たらない。

 

 お、おかしい。さっきまで隣にいたじゃ無いですか。ご主人?

 

 

「ご主人ー」

 声を掛けても帰ってくる事はありません。

 

 

 辺り一面はアイルーさん。どこを見てもアイルーさん。

 

 でもその中からご主人を見つける事が出来ない。

 

 

 

 当たり前でした。

 

 私はご主人をアイルーとしてしか見ていなかったのですから。そう、他のアイルーと同じ存在としてしか見ていなかったから。

 相棒としての、パートナーとしての自覚が無かったんです。私は彼の事を殆ど知りません。

 

 だから見付けられない。私の中で彼はまだただのアイルーさん。パートナーとは程遠い存在。

 

 

 

「……ぅ」

 罪悪感。それが心を支配します。

 

 彼と一緒に成長していこうと誓ったのに。

 ご主人は私を信頼してオトモに選んでくれたのに。

 

 

「ご主人……私……」

 一人は怖いです。何がアイルーパラダイスですか。

 私は結局一人に———

 

「オトモさん?」

 ふと、私の手を柔らかい物が掴みました。

 まだ綺麗なプニプニの肉球。こんなに身近に感じたのは初めてでは無いでしょうか。

 

 

「ご、ご主人?!」

「……にぁ、はぐれちゃダメにぁ」

 そう言うとその小さな手にご主人は力を入れて私を引っ張って下さいます。

 

 私は見付けられなかったのに、ご主人は見付けてくれた。今この場に人間は殆ど居ないので当たり前といえば当たり前なのですが。

 

 それがとても嬉しかった。

 

 

 

 

「ご主人……ごめんなさい」

「……にぁ? な、なんでオトモさんが謝るのにぁ?!」

 サビ取りヤスリ(マタタビ三個分)を色々な場所を探し回り迷子になりながら買ってお昼ご飯の時間。

 

 私は人間用の椅子に腰掛ける前に頭を下げました。それはもう深々と。

 

 

「私……ご主人の事なんにも分かってませんでした。それなのに自分からはスキンシップを取ろうなんておこがましく攻め寄って……すみません」

「に、にぁ……それはボクも…………その、コミニケーションが苦手で……ごめんなさいにぁ」

 私がそう言うとご主人もなぜか頭を下げてそう口を開きます。とんでもない、私が悪いのです。

 

 

「私、少しずつでもご主人の事知りたいです。これまで無理に聞いたり無理矢理連れていこうとしたり、すみません」

「……ん、んにぁ」

 なおも頭を下げ続ける私にご主人は何時もに増して困り顔になってしまいます。これ以上困らせるのも『相棒』としてはダメダメです。

 

 

「ご主人!」

「……にぁ?」

 

「私、ご主人の事が大好きです。他のどんなアイルーさんより、あなたの事が大好きです」

 まるで、愛の告白ですが違います。

 

 だって、私と彼は種族が違うのだから。

 

 

 それでも、私は彼の相棒になりたい。

 

 

「……に゛ぁ?!」

「だから、ご主人も少しずつでも私の事好きになってくれると嬉しいです。パートナーとして、これから一緒に居るのですから。……も、勿論、嫌気がさしたのなら……その……解雇という形で…………お願いします」

 

「……に、にぁ」

 私の言葉を聞いたご主人は何故か顔を真っ赤にして固まってしまいました。

 ど、どうしたのでしょうか。まさか熱?!

 

 

「ご、ご主人?!」

「に、にぁ?! あ、あ、あふん、ぼ、ボクも……お、オトモさんの事は好きだにぁ! 不束者だけど宜しくだにぁ!」

 なぜか改まってご主人はそう言ってくれました。とても嬉しい。

 

 

「ご、ご主人……。……では今日から一緒にお風呂ですね!」

「そ、それはまだ早いにぁ! ちゃんと段階を踏んでからにぁ!!」

 しまった私の悪い癖が。でも、ご主人はなんだかいつもより表情が豊かでした。

 

 

「とりあえずパフェ頼んじゃいましょう。ご主人の好きなパフェは何ですか? こんな細かいところからでもご主人を知っていきたいのです」

「……に、にぁ。えーと……ボクはちくわパフェが好きにぁ」

 そこは魚入ってるんですねぇ……。ご主人、中々変食家なのかも。

 

「じゃ、じゃあ私もそれ頼んじゃいます!」

 ていうかちくわパフェって何ですか。パフェにちくわ入ってるんですか?!

 

 

 

 そんな訳で、私達は二人でちくわパフェを食べて(私のちくわはご主人にプレゼントしました)から少しだけお店を見て回って今日のお遣いを終える事にしました。

 都市部はかなりの数のお店があってずっと居ても飽きない感じです。今度はもう少し財産に余裕を持ってゆっくりと見て歩きたい。

 

 しかし、学校で友人達と作ったパフェ以来のパフェでしたがアレですね……ちくわパフェって人気商品らしいです。メニュー表に「オススメ!」とまで書いてありました。

 アイルーさん達から見ればこれがオススメなのでしょうか? 私には全く理解でしませんでした……。食べず嫌いなのかも、なのですがねぇ……?

 

 

 

 そして、またガーグァの引く街内タクシーを捕まえて帰宅します。

 帰宅時間は午後4時と言った所でしょうか。お金もなく買えもしないのにお店を回った結果がこれです。

 

 一応お小遣い貰ったんですけどね? パフェとお土産三個で消えました。お爺さんはケチです。

 

 

 

「遅かったな」

 帰宅すると例によってお爺さんはキレアジの背ビレでさびた大剣のさびを取ろうと頑張っていました。無駄です。

 ていうかお店は? 加工屋のお仕事してるんですよね?!

 

「これ買うのに一生懸命探してたんですよ」

「……にぁ? オトモさん、何か何処かで買ってたっけかにぁ?」

 ご主人が知らないのも無理はありません。ご主人に隠れて買いましたので。

 

 

「はい、ではご覧あれ! ジャジャーン、ミサンガ」

 いつか流行ったかもしれない狸の真似をしながら私は今日買ってきたお土産を取り出します。

 

 机の上に、三個の糸で出来たリングを置く。

 これがミサンガという物で、手首に付けて毎日肌身離さずリングが切れるまで持っていると、お願いが叶うとされる一緒のお守りです。

 この現代科学時代に何を言うかとも思うかもしれませんが、アイルーさん達はこういう文化を大事にする風潮があるたいですね。私もそういうの好きですよ。

 

 

「ほぅ、どれどれ。お前にしては中々オシャレな物を買って来たな」

「普段私がオシャレじゃないとでも言いたいのでしょうか?」

 

「いや、お前はこういうのに興味が無いと思っていたんだがな」

 そう言いながらお爺さんはお守りを一つ手に取って自分の手首に括り付けます。あ、受け取ってくれるんですね。

 

 

「どんなお願いにするんですか?」

「この大剣のさびが早く取れますように」

 夢もロマンも無いですこの人。

 

 

「もぅ……。……はい、ご主人も」

「ぼ、ボクも貰っていいにぁ?」

「当たり前です。付けてあげます! その代わり、私のも付けて貰えます?」

 

「……はぁ」

 そんな私達の会話を聞いたお爺さんはまたいつものように溜息をつきました。

 あぁ……私の悪い癖が。どうしてもこう、グイグイ行ってしまう。

 

 

「……ん、んにぁ、分かったにぁ」

「「……あれ?」」

 しかし、そんなご主人の言葉と態度に私とお爺さんは目を合わせました。

 

 お爺さんは目で「お前何をした」なんて聞いてくる始末です。いや、私が聞きたい。

 

 

「あ、え、えーと。私も付けますね!」

 そうして私とご主人はミサンガをお互いの左手に括り付けました。私、左利きなのでやりにくかったです。

 ご主人も中々苦戦していたので、左利き何ですかね? これまで注意していなかった事も、今はそうやって感じ取れます。

 

 

「ご主人はなんてお願いをするんですか?」

「……んにぁ? ……んーにぁ…………立派なニャンターになりたいにぁ、って」

 可愛過ぎる。

 

「……オトモさんは?」

「私……? 私ですか?」

 願い事は沢山あります。ご主人と仲良くなりたいですし、一生楽して生きたいですし、お金持ちになりたいですし、美味しいものも食べたいです。

 

 

 でも、多分一番は———

 

「あいつを———」

 そこまで口から漏れて、慌てて口を閉じました。

 

 そんな事は、願う事では無い。

 

 

「ご主人が立派なニャンターさんになりますように、と」

「んにぁ。ありがとうにぁ」

 ミサンガを付け終わって、お揃いでなんだか嬉しな気分です。

 

 

「はい、では少し早いですが一緒にお風呂に入りましょう!!」

「それはまだダメにぁ!!」

 残念。

 

「調子に乗るな」

「……テヘ」

 アハハ。

 

 でも、少しずつでも近付けたら良いなって。このミサンガが切れる頃にはお互い最高の相棒———パートナーになっていたら良いなって。

 

 私は、そう思いました。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 いつものように、私はご主人からかなり離れた所にお布団を引いて就寝の準備をします。

 また明日から狩りの毎日ですからね、今日はゆっくり寝ましょう。

 

「おやすみなさい、ご主人」

 まだ届かないご主人への距離。しかし、ふと手を伸ばしてみると、ご主人のプニプニへと手が届いてしまいました。

 

 あれ? 私そんな近くにお布団敷きましたっけ?

 

 

「あ……オトモさん」

 そんな私の手に反応して、ご主人はそう返事をしてくれました。

 

「あ、いや、すみません。そんなつもりは!」

「……んにぁ」

 しかしご主人は眠かったのか。その手に触れた私の手をキュッと掴むとそのまま目を閉じて、

 

「おやすみにぁ、オトモさん」

 そう言って下さいました。

 

「は……ゎ……ゎぁ…………ご主人……」

 柔らかい感触に包まれながら、私も目を閉じます。優しくて、暖かい小さな手です。

 

 

 

 

 こうやって、少しずつでも近付けたら良いなって。私はそう思うのでした。

 





第三話でした
短編って難しいですね。物語の進展がある場合とかは特に。文字数調整が本当に大変。
楽しんでいただけると良いのですが……さてさてどうなのでしょうか。


あと同時連載というのも中々難しい物です。
このお話はあまりにも時間が無くて二日で書きました。誤字脱字多そうでヤバい。後で見直さないと。絵も着けれないし(誰も待ってない)。

余談ですがメインで書いている作品よりこっちの方がお気に入り数が多かったりします……。話数は少ないのに。ま、まぁこっちは感想もまだ貰ってないのでどうとも言えませんが。
こっちの作品もですけど、あっちも頑張りたい所です。


あ、駄文失礼しました。では次回があれば、また。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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