Only Sense Online 〜幻想抜刀の戦士〜 作:蒼井しの
『始まり』の衝撃、暖かさ
「これ! 売ってください‼︎」
「や、辞めてって。確かにこれは売り物だけどさー…」
露店広場。様々な生産者や、冒険者が素材やアイテムを持ち合い、独自で設定した値段で売り出し、賑わう広場で僕――『和宮金成(かずみやかなり)』は一人の生産職の方に土下座をしていた。
「い、いやこれが凄く欲しいっていうのは分かるんだけどさ。これは…」
一本の武器。
それと出会った時の衝撃を僕はまだ覚えていた。
黒々く、闇を感じる表面。だが、切っ先はそれに反し光を浴びて輝いている。
長さは63センチ。重さは1.5キロ程、種類は打刀。戦国時代に良く作られた刀だ。
俺はこの刀を見た時から、ゲーム「Only Sense Online」に夢中になってしまっていた。
「バーチャルの世界で現実と違う日常を。君だけのOnlyを!」
こんな広告が始まったのは何ヶ月前からか。
β版と言われるテストランが終わり、もう直ぐ発売間近となった「Only Sense Online」は何処でも予約が一杯だった。
もう既に一次出荷分を超える予約が入っており、今予約しても二次出荷に回されてしまうとニュースに流れた時は、「僕も予約すれば良かったかな」とすら後悔している。
しかし、もう間に合わないモノだ。
そんな事をウジウジ考えていても仕方ない。と強がりながら、今僕は家の広間でダラダラしながら「Only Sense Online」の発売日を迎えているのだった。
「宿題終わったし、何するかな」
中学で出た宿題は終わったし、それからの事を考えていると、家の備え付けのチャイムが鳴った。
「はーい?」
立ち上がり扉を開けると、そこには見知った顔。
「金成‼︎ Only Sense Onlineやっと届いたよ!」
「へ?」
何やら衝撃的な発言をしたのは幼馴染の『八生少小(よいしょうしょう)』学校ではショウと呼ばれている女の子がだ……、
「ショウちゃんどうしたのそれ?」
ショウちゃんの手には袋が二つ。その袋を覗くとエプソニー社のVRが、つまりは『Only Sense Online』がプレイ出来るVRが一つずつ入っていた。
「何言ってるの金成。あんたが勝ったからこれ予約出来たんじゃない」
「勝った?」
何に勝ったのだろうか? 懸賞とか?
「あれ、覚えてないの? 私のじーちゃんとの麻雀」
「麻雀…」
ショウのおじさんは大の麻雀好きで、良く僕たちが休みに入ると、麻雀を打ちに来る。
ショウは見てるだけでおじさんと遊ばないせいか、まるで僕を孫の様に扱い、麻雀を手取り足取り懸命に教えてくれる。
「何回も打ってるから覚えてないよそんな…あ」
思い出の中に微かな手掛かり。
「思い出した様ね。そう私がおじいちゃんにVRを強請った。そしたら…」
おじさんが「俺に勝ったら勝ってやるわい!」って言ったんだっけな。
その後、見事僕の勝利!
点差は2500差と際どい勝負だった。
今まで黒星ばかりだったおじさんとの闘いの初白星!
だが…、
「あれの商品が'これ'なんて話は初耳だけどさ」
VRが入った箱を見ながら、僕は心の高揚を抑えられなかった。
タブレットをおじさんに見せただけで僕は何の商品か実際分からなかったのだ。
負けても俺には損はない話だったし、受けた事だったが…
「嬉しかった?」
「それ以上。最高のサプライズだよ。入って!やろう!」
そう言って、ショウちゃんを家に案内して、広間でVRが入っている箱を袋から出す。
最近では徐々にゲーム内容が公開され、β版の噂と合わせドンドンと欲しいという欲求が強まってきた。
だが、今更予約してもいつ届くか分からないモノにお金は掛けられないと親に言われ諦めるしかなかったが、
「俺も遊べるんだ」
「私と一緒に、だけどね」
「あ、う、うん。ありがとうショウちゃん!」
しまった。嬉しさの余りショウにお礼を言うの忘れてた。
「忘れてたな…」
「ごめん忘れてました…」
「いいよ。私もさ、そういう嬉しい顔見れたから満足だし、暗い顔させてごめんね。早速やろう?」
箱の中からVRを取り出す。
ヘルメット状の形に白と黒がおり混ざりシンプルに仕上がっている。大きさもかなり大きい。大きく実ったスイカぐらいの大きさだろうか。
「うわぁ…」
全く未知の世界がこれで出来てしまう。そのことに僕は衝撃を受けていた。
どんな感じがするのだろくすぐったいのか? 痛いのだろうか? 重いのだろうか?
「ショウちゃん! 早速……ぷっ」
心の準備が出来、ショウちゃんに声を掛けたら、既にショウちゃんはVRを付けていた。
にしても…
「ぷははははははははは!」
「な、何よ! お、オカシイ?」
「い、いや体とVRのバランスがさ…」
そう、体が細いショウちゃんとVRのバランスが悪い。頭だけ大きい3Dキャラの容姿になってしまっている。
「だけどね。軽いのよこれ」
「そうなの?」
「ええ。何だか付けてるって感じがしない…。真っ暗何だけどさ」
ショウちゃんが、何故か体を近づけて……来ている。
「どうしたの?」
「金成こっち?」
どうやら俺の場所を探しているらしい。心細くなったかな?
「う、うん。こっちだよほら」
手を取って誘導してあげると、安心したか、動きを止めた。
「ごめん。何も見えなくてさ。あ、のさ。背中合わせていい? 手……握るの恥ずかしいし」
「いいよ。ほら、これでいい?」
周りが見えないショウちゃんのために自分から背中を合わせる。
何だか…これはこれで恥ずかしいな。
「私、先に行くよ。金成の分も出してあるから…」
「うん」
ヤバイ? 顔が熱い。ショウちゃんVRで見えてないよな…。
「後で会おうね。私、プレイヤーネームは『シゥ』だ、から…」
そう言って、ショウちゃんの声は途切れた。
「ん…」
気恥ずかしいながらも背中を、ショウちゃんと背中を合わせながら、自分のVRを手に取る。
ドキドキが止まらない。
「ふ、深く考えなくていいんだ。とにかく…被ろう」
そう一気にVRを装着した。
暗い。真っ暗闇。
それが、電源ボタンを押す事で明るくなっていく。
「設定? お任せでいいか。自分じゃわからないし……」
設定を幾つか合わせていくと、「ゲームをスタートしますか?」という選択肢がは流れていく。
「ショウちゃん既に設定とか終えてたのか。そりゃ早い」
そして、そのボタンを見た。どうやら選択肢などは視線を合わせると選択する様になっているらしく、操作も思いのほか簡単だった。
「あ、…」
意識が遠のいていった。
新しい世界へ。
自分が紡ぐ、新たな物語へと。
僕たちはスタートした。