Only Sense Online 〜幻想抜刀の戦士〜 作:蒼井しの
呪いは相手を憎むこと。
呪いは自分を削ること。
人を呪わば穴二つ。
相手を呪うとはすなわち、自分も呪うことである。
「夜になると、ガーブスさんのところの甥っ子が『苦しい。苦しい』と唸るのさ。
毎晩毎晩。何故か原因を見ておくれ。
あの声が恐ろしくて、夜眠れんのさ」
クエストを受けたあと、依頼人のゲンコおばさんのところに訪れると彼女はこう言った。
ゲッソリした姿は彼女の身をつい案じてしまうほど真に迫っている。
「ガーブスさんの家は、何処なんですか?」
「この家の裏手さ。近所のみんなも迷惑しとる。
依頼料はみんなで集めたもんさ。何とかしたらそれを支払おう」
「裏手か。ばーさんが死ぬ前には終わらせてやるよ」
「頼むぞ若造」
かなり被害が広がっているらしいところもそうだが、なんて重い話なんだろう。
「おいおい。暗い顔するなよ。ゲームだぞ。ゲーム」
「まぁ……そうなんですけど」
ここまで現実味を帯びてしまうと自分の中で整理が付かない。
何とかしてあげたい。そう思ってしまう心が、自分の足を掻き立てる。
「第一クエストは調査クエスト。
報酬はないが、調査系に向いてるセンスが育ちやすいな」
「『発見』ぐらいなら持ってますよ」
「お、ホントか。俺は『罠解除』しか持ってないから頼むよ」
『罠解除』とはトラップ解除のセンスなのだろうか。
にしても、『罠解除』だけじゃトラップは発見できないはずだ。バランスが悪い気がする。
それとも……何か隠してる?
「着いたぞ。ガーブスさんの家だ」
その家は木造の2階建てだった。二階にはベランダが設置されていて、そこには家庭菜園の植木鉢が幾つか置いて……
「植木鉢……倒れてる?」
「そうみたいだな。どうやら荒れているようだ」
ノックをしてみても、中々呼びかけに応じてくれない。
「こりゃダメだな。勝手だが入ろう」
ガチャっとティースが扉を開くと、白く、冷たい吐息のようなものが中から溢れ出してきた。
「な、なんだこりゃ?」
白い煙に触れ、ステータスを確認するティース。
「ど、どうともなってない……か」
バットステータスは見受けられなかったようで、ホッとした顔を見せるティース。
「なんだこれ。前来た時こんなのなかったぞ?」
「クエスト受けたんですか? 前に?」
「そりゃそうだ。そうでなきゃ誘わないさ。ボスまで行って結局仲間がいなかったから負けたけどな」
「もしかして、俺がいるから?」
「そういう可能性もある。だとしたら、全体的な難易度が変わったのかもな」
「難易度が、変わる?」
そういうこともあるのだろうか。
「ああ、そうだ。このゲーム一人の時と多人数の時の難易度が違うらしいぜ。
センスのレベルにも反映されるらしいし、クエストにしか現れないボスはセンスレベルを一定源超えると追加行動とかが発生したりな」
難易度調整のための措置だろうが、二人でこんなにも変わるものなのか。
「……もしかしてセンスのレベル。20レベル超えているもの一つもなかったり……」
ギクッ、という効果音が聞こえた気がする。
「悪いか?」
「いえ、全然」
20レベル超えてないとわかっただけで良かった。
なら、攻撃は自分が引き受ければいい話だ。ゴーレムのときのポーカスさんのように。
「弓使いなら、前に出ないでくださいね」
「任せるよ前線。俺はレンジャーなんで。な」
ムスっとしながらもティースは前を俺に譲ってくれる。
「でも、暗いですね。松明あります?」
まるでダンジョンのような暗さ。前は見えるに見えるが、2M先は中々見えない。
薄気味悪い白い煙は、まるでホラーのようだ。
「あるぞ。だが、家の中だからな。燃えたりするかもしれないから出すのはやめたほうがいいだろう」
ホラーからいきなりコメディになるような発言。
確かに家が燃えたら洒落にならないが、この暗さ……『発見』のセンスだけでは補えない。
「奇襲に注意してください。見えないと『発見』のセンスも弱まるので」
「ああ、了解」
俺はショートソードを、ティースは短弓を構える。
ティースの武器も見たら初心者武器ではなく、誰かの手に作ってもらったようなNPCの店売りでは見たことがない武器だ。
ならば、ゴーレムに挑んだ時の俺よりは充分戦えるはず。
『うっ……うう……』
上から、声が聞こえてくる。
苦しみの声だ。嘆きの……声も混じっていて、色々な感情が、負の感情が見て取れた。
「上か、ということは二階だな」
玄関から廊下に上がっていくと、階段があり、そこから二階にいけるようだ。
声が……ドンドンと大きくなっていく。
「上がるか? 他のところにアイテムとかあるかもしれないぞ」
当たりの道は外れ。こういうのはアイテム回収からが上策だとティースは言っている。
「……アイテム……あるかな」
「あるんじゃねぇか? 俺は前来たときまっすぐ行っちまって後悔したんだが」
「行こう!」
アイテムに目が眩んでなんかいませんよ?
ただ、トラップの落とし穴に落ちて、落ちる場所を確認してMAPを埋めるのが好きなだけです。
「何かあるかな……何かありますかね……?」
「お前もゲーム好きなやつだな」
「MAPとか全部制覇したくありません?」
「わかるが、このゲームでそれをやる気はないな。やっぱり2DゲームでMAPを一マス一マス地味にちょこちょこ埋めるのが一番楽しい」
「あの地味さが楽しいですよね」
「やったあとMAP全部確認するのが楽しいよな」
「トロフィーとか出たとき興奮します」
「違うな! 制覇したっていう快感だけで俺は満足するッ!」
「変態!」
「オマエモナ!」
あははははー……。
「真面目に行きますか」
「そうだな。罠があるかもしれない」
「そういえば、薬草とかあるか? あったら『合成』でポーションにするが」
「あ、お願いします。イベンドリが結構パンパンで困ってたんです」
トレードに出すと、『合成』のセンスを使ってすぐにポーションとして物が帰ってきた。
「一つはもらっとくぜ。手数料としてな」
「安いですよ。今のレートだと」
「いいんだよ。これからよろしくって証だ」
気に入って、貰えたのかな。
素直にポーションを受け取り、まず階段近くの扉を開ける。
そこはキッチンと、料理を食べるためのテーブルが置いてあった。
「誰も、いないですね」
「あ、ああ。た、確か……って俺があんまり言うとネタバレだし、言わねぇ」
始めての俺に気を使ってくれるティースに、感謝しつつ、周りに気を配る。
「保管庫とかに、アイテムないかな」
「いや、もしかしたらほかのところに。壺とかないか壷」
勇者行為と言われる物色を始める俺とティース。
結局ここを探しても何もなかった。
「うーん。ないか。他あたってみるか」
そうして、食事部屋を出て、階段の奥にある扉に進んでいく。
『うっ……うーうー』
廊下に出ると再び唸った声が響き渡るが、こうなれば声の主にはしばらく待ってもらうしかない。
「なんか。可哀想になってましたね」
「こんなもんだ。ラスボスが勇者の寄り道を待つ時間よりマシだと思おうぜ」
「アハハハハ……」
心当たりがあり過ぎて苦笑しか浮かばない。
扉の前に立ち、扉を開く。
「次は何の部屋でしょう」
「うーん? リビングとかか。それとも倉庫とかか。俺にはそれぐらいしか想像できん」
「ですよね」
そうして、扉を開くと。
「「GAYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!!」」
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
腐った腕、ドロドロの肉体。
腐った特有の鼻にツーンと来る腐臭。
モンスター『グール』が二体襲いかかってきた!
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