Only Sense Online 〜幻想抜刀の戦士〜 作:蒼井しの
闇がドンドンと広がる地下。
既に松明があっても1M先は暗闇である。
「どうする?」
ティースと背中を合わせ、お互いがお互いを確認し、敵の攻撃に備えた。
「光魔法は覚えてないですよね……」
「ああ、覚えているのは風属性だけだ」
「だったら」
策を練る。
相手の攻撃がどこから襲ってくるかわからぬ以上、ケーブスを罠に嵌めなければならない。
「いきますよ」
「ああ、行くぜ」
作戦を伝え、背中合わせをやめる。
これからは、お互いがお互いを確認できぬ闇の中へ入る。
僕たちはこの暗闇から、勝ちを、光を見出さねばならない。
『無駄!無駄無駄ッ!』
ケーブスの声がすると、脇腹に衝撃が走る。
敵の魔法攻撃だ。先程手に入れたアクセサリーによってダメージは軽減されているが……。
「っ!」
ダメージが無慈悲にHPを奪い取っていく。
『この暗黒は私が発生させたもの! 貴様らの動きは手に取るように分かるぞ。侵入者ども!』
「はっ、ノックはしたんだがな。出ない方が悪いんだよ!」
『入っていいとは誰も言ってないんだよ!』
「うっせぇ! こっちはばあさんから頼まれた依頼なんだ。強引に行くに決まってるだろケーブス!」
何処かケーブスを知っているようなティースの口ぶり。
おそらくは、失敗したときいくらかケーブスと話し、人となりを知っているのだろう。
「さぁ、火矢だぜ。燃えるなよ!」
『あははは! そんな見えぬ矢で何処に当てるというのだよ!』
ティースがケーブスと喋っている間に、ポーションを飲み、HPを回復させる。
死ぬわけにはいかない。
時々火矢が横を通り過ぎる中、走り出す。
地下の作りは石造りなので、何かに燃え移らなければ、ひどいことにはならないが、この場合燃えていればいるほど良い。
『なるほどな! わかったよ貴様ら! 火矢で明かりを作ろうというのか!』
「はっ! どうかな!」
『確かにな。何か物が燃えれば私の闇とて照らせるだろう。だが! おれこそ貴様を狙えばいい話!』
まずい。ターゲットがティースに集中してしまう。
「……見えた」
だが、それも終わりだ。
コトン。
『何?』
俺は松明を投げた。
「もう見えた。これで戦える」
火矢で攻撃するのは確かに作戦の一つだ。
それにより、ケーブスにダメージも狙いつつ、明かりを作る。
そうしてティースがちょっとずつ時間を稼いでいるところに、俺は松明をどんどんと配置していく。
俺が持っていた松明は、十本。
そしてティースの火矢何本かと、松明五本。
「ケーブス。反撃の開始だ」
と言っても、全部カバーするには致命的に松明が足りないのがこの作戦。
だからこそ。先制の速攻が必要になっていく。
『何!?』
一回見えるだけでいい。あとは、敵を逃がさない!
「『フィフス・ブレイカー』!!」
弱点に叩き込む五連撃。
「『連射弓・二式』!」
更に、ティースが追撃を入れる。
「『ショック・インパクト』!!」
「『ウインドカッター』!!」
まだ、まだ続く。
「『致命の一撃』!!」
「『剛弓・一式』!!」
急所のクリティカルヒットダメージを上げる『致命の一撃』。AKT依存で弓の威力を上げ攻撃する『剛弓・一式』この二つの一撃が、ケーブスのHPを削り取っていく。
そして、フィニッシュ!!
の前に、
「まだ生きてるよね。ケーブス」
『……なんだ』
「話をしよう。ケーブス。君に一体何があったんだい?」
「おいおい。悠長してたら……」
ティースが止めるのも最もだが、やっぱり気になる。
スキルの連撃をしておいてなんだが、俺は真相が知りたかった。
大体この手のイベントって一定源ダメージ与えないと成立しなかったりするとかいうメタ読みもちょっとだけあったのだが。
『……よかろう。話そう。私たち家族に起こった顛末を』
ビンゴ、だった。
ケーブスは見ると、黒いクロークで顔まで覆われており、その見た目も顔もわからない。
さっきまで暗かったのでわからなかったが、いかにも黒幕っていう格好だな……。
『このような格好で失礼する。まずはお二人方の名前を聞いて良いか?』
「なぁ」
予想以上の礼儀正しさに、おどけた俺にティースが声をかけてきた。
「やっぱりケーブスが黒幕じゃないってことかこれ」
「みたい……だね」
『どうかしたかね?』
敵からただのNPCに戻るといきなり手のひらがくるくると回るこの態度。
「あ、ああ。カイと言いますよろしくです」
「ティースだ。よろしく」
とにかく挨拶しないとNPCの会話が始まらぬらしいと感じた俺たちは指定通り挨拶をする。
『それでは、話をしよう。あれは……ほんの数週間前のことだった』
顛末としては、こうだ。
数ヶ月前。とある魔法使い(ザダーブ)がこの街に来て、ガーブス一家はそれを受け入れたらしい。
そうすると、ザダーブは密かにこの地下で研究を始めガーブス(この家の当主)がそれを見抜き、魔法に通じているケーブスに相談を持ちかける。
そうして、ケーブスは牽制のためガーブス家に住み込む。
だが、それでもザダーブは止まらなかった……。
『彼の狂気は本物だ。
全ての属性の魔法を操りながらも、彼はまだ研究をやめなかった』
「全部の属性……」
プレイヤーでやったらロマン構築と言われそうなセンス構築だ。
だが、こうしてNPCになれば話が違う。
それこそ、彼らは本当に全ての属性魔法を駆使し、戦えるのだ。
「やつの目的は何なんだ?」
『わからない。それは私の調べが足りなかった』
ティースの質問に、彼は首を振り、また顛末を話しだした。
『そうして彼は、私に分からぬようガーブスさんを殺し、グールにした。
グールにすれば、最低限怪しまれぬと思ったのだろう』
実際それは成功している。
俺たちが受けた依頼は、あくまでケーブスさんのことだけ。
『そうして、私にも彼の魔の手が迫った。
そうしたとき、私は彼に呪いをかけたのだ』
「呪い?」
『そう、彼がこの街に寄り付かぬようにすることと、彼に生きている間激しい痛みを伴わせる呪いだ。
呪いはその術者が倒れても続く。最悪の場合更に呪いは強くなるケースもある。
それを知っていた彼は、私からは手を引いた』
「二つの呪いか」
どうやら、ケーブス自身もかなり高位の魔法使いらしい。
……ん? ケーブスのHPが?
「ケーブスさん。体大丈夫ですか?」
『……実は最近かなりまずいことになっていてな』
「というとどういうことだ?」
『私がザダーブにかけた呪いが、私自身に呪いが跳ね返されようとしている』
「へ?」
『先程からHPバーが減っているのはそのせいだ。私はかなり今まずい』
HPを表示するバーが今赤に達した。
「ポ、ポ、ポ、ポ!!」
「おう。ポーション飲め」
『ありがたい。私は回復魔法が使えなくてな』
説明の途中で死にそうになるとは本当にNPCなのだろうかケーブスは。
当の本人は、ポーションを一気にがぶ飲みしてHPを回復させている。
『ゲプッ。実際、今は体を見せられぬ具合でな。
やつの呪い返しがかなり本格的になってきた。
これが本当に成功してしまえば、やつはこの街に混乱の渦に落とすだろう』
「この家のせいで混乱に陥ったが、次は街か。洒落にならないな」
「そういう話じゃないと思います……」
『そこでだ。カイ殿。ティース殿に折り入って頼みがある』
「もしかして……」
『ああ、彼――ザダーブを倒して欲しい』
――クエスト「呪いの破壊」が終了いたしました。
――続き「呪いの夢」を開始いたします。