世界の始まるその日まで   作:スノウレッツ

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なんだか無駄に風呂敷を広げるのが楽しくなって来ました。今回からがっつりオリジナル要素が入ります。
オリ鯖も1人…?
ちょっと長くなりましたが、まあサクサク読めるくらいかと……たぶん。


第10話 [捻れる世界]

 //

 

 ……ああ、なんてこと───

 

 黒い少女は嘆く。

 突如落とされようとする、物語の終幕に。

 理不尽に襲いかかる世界の意思に。

 

 でも、終われない。私はまだあの子に再会してないんだもの!

 この世界の何処かにいるはずよ。私がこの姿をしているんだもの。ぜったいにぜったい。

 

 ……でも、もう私はどうすることも出来ないの。

 あの子がいなくちゃ、私はワタシでいられない。

 

 ジャバウォックだって、ウサギさんだって、マッドハッターだって、みんなあの子についていかせた。あの子が寂しくないように。

 それで私が悲しいなんて、なんて滑稽なのかしら。

 

 

 私のなまえはアリス。あの子が名乗っていた名前。私はあの子の鏡写し。けれど鏡は割れてしまったの。どこにも姿が見えないの。

 

 ねえありす、寂しいの。またひとりぼっちになってしまいそうなの。バッドエンドを迎えてしまいそう。

 

 アンデルセンとおじ様は私に後を託して行ってしまった。私は召喚されたときからずっとあやふやな存在で、何かをできるというわけじゃないのに。

 

 エレナお姉ちゃんはそもそも私たちが守るべき人なのに。

 

 せっかく、楽しいピクニックになると思ったのに…… どうしても私は幸せになれないの……?

 

 

 ───ねぇありす、助けてよ……

私、もう、諦めてしまいそうなの……

 

 

 

 //

 

 

 うーーむ。

 

 ……改めて見るとデカいなあの犬ころは。

 

 何処ぞの山の主のようだ、そんなはずはないがな。なにしろコイツは無から出てきた。

 無から出てくるなぞ普通はあり得ることではない。

 そんな世界の規則を破れるのは、他でもない世界そのものであるはずだ。

 

 星の具現者───

 

 恐らくは"七天が挑むための一"だろう。まさかこんな早くに、しかも俺たちが相手することになろうとは……

 しかし冠位なくとも知覚が出来るということだけでも、是非持ち帰りたい情報なのだがな。

 

 

「シェイクスピア、貴様の宝具はアレに有効そうか?」

「ふぅむ…どうでしょうか…… アレは元から忌むべき記憶なぞ持ち合わせていないように思われますがな。」

 ああそうだった、コイツの宝具の真価は相手の心を壊すことだったな。

 こちらに突進してくる白狼をよそに作戦会議を繰り広げる。もちろん速攻で中断することになるのだが!

 

『Guugaaaaaa!!!』

 

「くっ! ……とにかく距離を取りつつ策を練らせてもらう!

 ───”白鳥のように飛び立て。

 この池は、お前の棲む場所ではない”!」

 ”みにくいアヒルの子”は真実を知り、外界へと飛び立つ。それを詠唱に組み込んだ術式。俺が使える数少ないスキルの一つだ。

『Griaaaaa---!?』

 白狼が吹き飛ぶ………それこそ彼方の壁まで。

「っぐうう……!! さすが聖杯と直結しているだけはある…!」

 

 だが、一発撃つだけで身体も弾け飛びそうだ…!

 そう連発は出来んな、こちらが先に倒れるはめになる。

 これで回廊の向こう側まで吹き飛ばせればいいんだが、俺ではこれくらいがせいぜいということか……

 

 

「おい! お前の宝具をそのままヤツにぶつけたらどうなる!? 」

「ただ弾き返されるだけかと! ドラゴンにも通用しないような代物なのですから、同じく巨獣には効きづらいでしょう!」

「ええい、それでは本当に役立たずだぞ! 」

 

 しかも此処にはなぜか石ころ一つ転がってない。おかげで投擲も封じられてる! なんて綺麗な庭だここは。庭などもっと汚くていい!

 

 シェイクスピアは不敵に笑う。

「……ふっふっふ、ですが!これだけの魔力源が有るのです! ならば呼ぶしかあるまい、わが戯曲の出演者たちを!」

「呼ぶ……? 影ではなく本物をか!?」

 もしそれが出来れば、こちらがサポートに回れる、いつもの体制にもっていけるが……

 

 仰々しく劇作家は語りだす、かの者を呼び出す詠唱を。

 

「ええ! 吾輩の作品でも一二を争う名作、そして此度の演目にもっともふさわしい、生と死にもっとも向き合った人物!」

 

 ───彼は北欧デンマークに座するエルノシア、その王家に属する悲劇の王子!

 彼は真実求め、様々な思いをその身に受ける!

 果たすべき復讐を前に男は問う、

『果たして殺すべきか生かす(To be, or not to be )べきか』と!

 しかして!それは、もう一つの問いを生んだのだ!

 そう、『この身は果たして生きるべきか、死ぬべきか』!

 これすなわち人間の極問!

 ですが! 今は敢えてそれに答えを示そう!

 

 まさに絶望を前にして! 生きる光と捻れる闇もつ男!その名を今告げようぞ!

 

 ──────『王子ハムレット』!

 

 

 かの宝具、

『開演の刻は来たれり、此処に(ファースト・フォリオ)万雷の喝采を』より生まれ落ちる、悲劇背負う男。

 

 ハムレット王子とは、父の敵討ちにその人生を狂わされるも、その身を滅ぼしてまで遂には復讐を達成し、死んでいった男である。

 

 自らの運命だけでなく、周囲の運命すらねじ曲げ、多くの哀と死を撒き散らすことになるのだが……

 

 閉じられた庭に、新たな演者がその地を踏む。

『………ほう、再びこの俺を舞台に上げるか。ここ数年はついぞ観客に徹していたのだがな……と、これはこれは我が主。顔を合わせるなど実に久しいな、いったい今回はどのような愉快な死をご所望か?』

 

「ふむ! それでは是非ともお願いしたくある情景がありましてですな!あちらの獣をご覧下さい!」

 

 ───その全身は黒煙で覆われ、その姿は見えない、しかし確かにそれは”ハムレット”と認識出来る。

 背は高く、細身で、恐らくは貴族正装にその身を包んでいる。声は青年とも老年ともとれるくらいの低さだ。

 

 

 ハムレットは視線を移し、笑みをこぼす。

『おぉ…… あれはまさに凶貌の神狼か! なるほど、アレに殺されれば良いと?』

「いえ、是非とも生き延びて今日を終えて頂きたい! そして満足して明日死ぬのです!

 ”今日を生きねば明日にて死ねぬ(It survives today, in order to die tomorrow )”!それが新たな主題であり、貴方への解答である!」

 

 なんとまあ無理難題を強いる。

 

『それではいきなりクライマックスからということになるか? ふぅむ…… それではかの毒剣が必要だな! ……おい! そこの子、いやホレイショー! 剣を我が手に!』

 俺か? ハッハッハ

「誰がホレイショーだ、誰が。それに剣を用意したのはホレイショーではあるまい。

 ……だがいいだろう、主役がいるならそれに添うのが俺の生き方だ。」

 

 さあ!我が宝具を開いてやろう!

 

 ───ああ、俺は名乗るぞ!ホレイショーはお前が信じた只一人。お前を語る只一人!

 

 酒だ酒だ!ぶどう酒を飲むがいい!

 お前は今から死ぬのだ!

 突きつけられた虚実を認めろ!

 清き精神をもったと勘違いし、ただ俺だけを信じ、復讐を成し遂げた末に死ね!

 それが貴様の終幕となる!なんだ?不服か!

 いいだろう!、ならば問うぞ?

  今、貴様は何を欲す!ハムレット!

 

『───剣だ!剣をくれ! 俺を狂わす全てを切り伏せる!俺とあいつと世界とを見事にねじ曲げ、そう!俺が俺であるための証をだ!』

 

 ああ承った!ならば受けとれ、この剣!

 光すら知らぬ無銘の剣だ!

 これが貴様にふさわしい、最上の死器よ!

 

 新たな物語を創ろう、王子ハムレットは死に挑む!

 

 ──────『貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』!

 

 まさか他人の物語の登場人物に使うことになろうとは。運命、分からんものだ。

 さて、そろそろその姿、見せてもらおうか。

 

 "ハムレット"を覆う黒煙が消えていき、その人物が形成されていく。背は高くも低くもなく、赤がかった茶髪、鋭い眼光のつり目、華奢な見た目、そして腰には鞘に入れられた剣を携え………!?

 

「………なぜ貴様がソレを持っている? それは騎士王の光剣、エクスカ───」

「待った! それから先を言うんじゃない。

 それにコイツはそれでは無いさ、そんなに大したしろものではない。けれどその名は言ってはいけないんだ。」

 男はアンデルセンの言葉を制した。

 

 そこに現れた男は、既に漂わせる雰囲気が変わっていた。

 ───そう、今目の前にいるそいつは、まさしくサーヴァントの闘気を纏っている……!

 

 

 なんだ……コイツは誰だ!? 黒煙が晴れたと同時に明らかに変容した!

 少なくともコイツは”ハムレット”なんかじゃあない!

 

「おい劇作家! 貴様いったい誰を呼んだ!? コイツは何処のどいつだ!」

 シェイクスピアは、驚きつつも愉快そうに笑う。

「はっはっは! 私は確かにハムレットを呼んだつもりだったのですが…… ふむ!やはり聖杯の魔力援護とはすさまじいものですな! なんと起源(オリジナル)を呼んでしまったようですぞ!」

 オリジナルだと……!?

 だというならばコイツは───!

 

 ”ハムレット”だった男は名乗る。

 

「まさかハムレットのがわを剥がされるとは……

 どうにもサーヴァントなるものはよく分からんな。まあ俺を呼ぶなどという酔狂はついぞやらんだろうが。

 ……ああ、現界したならば是非とも言う文句があったな。まったく、不思議な慣例だ……

 

 ───サーヴァント、アヴェンジャー。

 真名をアムレート! 召喚に応じ此処に推参した! シェイクスピア、今は貴様のサーヴァントだ。お前を根こそぎ削りつつ闘ってやろう!」

 

 その男は高らかに名乗った、そう、自らは座から来たりし英霊である、と。

 

 ───コイツは驚いた! アムレートだと?

 ということはコイツは北欧の大英傑!

 数々の策略のもと仇敵の勢力を殺戮した、その冠にふさわしい復讐者ではないか!

 しかし……

 

「貴様がアムレートだということは百歩譲っていいとしよう。ただその剣はなんだ?何故お前がソレを所持する?」

 アムレートは鞘をみて言う。

「これか。 コイツはブリテンの王から掻っ懼って来た。だがただの剣だぞ? そもそも抜けないしな」

 そう言って、柄を持って振り回す。……それではほぼ意味がないじゃないか。ただの鈍器だそれでは。

 

「再び地を踏めたことは貴様らには感謝するが、共に恨むぞ。無理やり呼んだ挙げ句にいきなり死地とは。いったいどういう了見だ?」

 男は不機嫌そうな、歓喜しているような、妙な笑みを作り、こちらを睨む。

「………シェイクスピア、貴様へ言っているようだぞ」

「ふむ! ですが恐らく脚色したのはアンデルセン殿かと!」

 ……なるほど、お前が呼んだ”ハムレット”だったものを俺が”アムレート”に変質させてしまったと?

 …………むぅ。

 

「まあいいだろうさ、ところでアムレートとやら。背後に今回の敵が居るわけだが」

 またもや雑談に時間を消費してしまった。

 そんな隙をヤツが見逃すはずもなく、俺たちの傍らで既に攻撃態勢に移っている。

 

『───Graaaaa!!』

「……ほう、絶体絶命だな。だが、”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。」

 アムレートはヤツを見もせず、何かを唱えると同時にスッと右足を後ろに捌く、すると白狼の爪は空を裂き、男の前に落ちる。

 

 ───さも当たり前かのように、もともと白狼は当てる気が無かったかのように、その男は攻撃を避けた、いや攻撃が避けたという方がこの場合は適切か。

 そんな訳のわからない一連の行動。しかもこれはまだ始まりに過ぎない。

 

「……ふふっ、いいぞ! 調子は上々だ!

  ───さてぇ!」

 アムレートは左手で白狼の鼻先を乱暴に掴み潰す。

『Gaaaraaa!!!?』

「ほうほうそうか!! なるほどなるほど!

 ……貴様も出来損ないということかぁ!!!

 ───ハッハァ!!”()()()()()()()()()()()”!」

 いつまでもいいようにされている白狼ではない。その身を回転させ、アムレートを振り払おうとする。しかし。

 逆にアムレートは白狼を蹴り飛ばした。その平凡な身体で。

 

 再び起きる不自然な流れ。

 

「ほう、華奢な身体でよくアレを振り飛ばせますなぁ。しかして出来損ないとは如何に?」

 

 振り向きもせず、呆れたように男は返す。

「貴様のことだシェイクスピア。なんだあの『ハムレット』というヤツは。綺麗すぎる。あまりにも人間臭いじゃないか! 俺を見ろ! 欺瞞に惨殺、浮気に死体蹴り! どっから見ても人とは思えん非道ぶりだぞ!

 どうだ!此れを機に心踊る狂気の英雄譚でも記してみるというのは!」

 バッと、遂にはこちらに振り向いた。余程我慢出来なかった様子だ、いや、苦笑している?

 

「吾輩は人を書きたかったものですからなぁ、それに貴方をそのまま描写するとなると……ほら、法とか。いろいろ大変でしてな……」

 

 あのシェイクスピアが圧されているとは……どんなレアシーンだこれ、というかあり得んだろう。それよりもだ。

「……ヤツが出来損ないだと言ったな。それはどういうことだ?」

「む、なんだホレイショー。貴様は気づいていなかったのか?」

 だから俺はホレイショーではない。そこだけ気に入ったか、同じく親友に助けられた身としては。

 

 男は一つ指をたてる。

「アレはこの星の触覚だ。ただ、恐らくは本体が行動出来ないために造られた分体とみた。もし本体なのだとすれば流石に我らでは全く太刀打ちできまいて」

「それはなんとなくだが理解している。少なくとも世界を創っているのは明らかだしな」

 なるほど、それならばこの状況も少しは解明出来る……

 

 そして二つ目の指がたった。

「まだあるぞ。あの格好はまさしく『白い獣』、だが外面だけだ。これも推測だが、俺たち人を殺すのには最も良い姿、だと選択されたのであろう」

 

『白い獣』……?

 

「………聞いておいてなんだが、なぜそんなことが分かる。貴様の宝具か?」

 そもコイツはなぜふつうにアレと戦える?

 

「……ああ、少しカラクリがあってな。詳しくは話せないが、つまりは俺には出来ないことを逆て『Agraaaaaa!!!』

 

 ───! ……ダメだな。我ら作家は戦場で相手だけに気を配るということが出来ん。だが。

 

 再び白狼が腕を振りかぶる、今度は横に薙ぎ払うように。

 

「───ええい! 人の話の邪魔をするな!

 ”()()()()()()()()()”!!」

 剣(鞘付き)にて白狼の頭に撃を打ち込む、またもや不自然に攻撃が止められた。

 

 よろめいた白狼に続けて振りかぶる!

「その姿をしておいてなんだ! 絶対殺害権限すら模倣出来なかった出来損ないが! それもそうだろうな、アレは月の触覚の力だからな!

 ……そうだ!気づいたか? 貴様がその姿を選んだことがそもそもの間違いだ! そのことを記録してさっさと本来の仕事に戻れ!!」

 

 剣が振り下ろされる。

 ────────グチャッガキッ

 

 

「…………!!」

 しかし、時間切れだ。

 

 カランッ

 潰れたのはアムレートの両腕だった。肘から先が虚空に飛び、剣は地に落ちる。

「なっ」

 

 ばたっ

「……ぐふぅ! 申し訳ない……吾輩が先に倒れるようですぞ……」

 

 な、なんだと!? このタイミングでか!?

 サーヴァントの現界は流石に身体がもたないのか!?

「身体が焼け着きそうですぞ……ぐはぁっ!」

 

「はっ、もしろ良くもったな! 俺を現界させるなどという無茶をやったわりには随分頑張ったことだ! 」

 腕を失った復讐者は、既に端々から魔力が綻んでいっている、今にも消えそうだ。

「そ、それでは困るぞ! もうこちらには手が殆ど残されていない! 実質貴様が最後の手なんだ!」

 男は高らかに笑う。

「ハハハ、何を言ってる?まだ足があるじゃあないか!

 ……ほら、この通りだ!!」

 アムレートは足が崩れるのも気にせず白狼を蹴り飛ばす。

『Gyarrrrrrr!!!?』

 右足が脛からボキッと折れ、ぐらつく、が!

「流石に足一本じゃあもう何も出来まい……とでもおもったかぁぁあ!? まだ俺の腕は付いているぜぇっ!!」

 間髪入れず、もはや手としての機能を失い、骨すら崩れている右腕をヤツの左眼をめがけ潰し衝く。

 ゴギュチャ

 

 ……だ、ダメだ! コイツは自らの体すら道具と見なしている…… 死すら利用して戦っていやがる! 人間離れも甚だしいぞ!

 

 

 くっ、くそっ、それじゃあ残っている手が……

 アリスは、この世界のアリスでは……恐らく……あの力を使えない……!

 

「……アリス!」

 しかし、呼ぶしかない。もうこれしか行動が残っていない。可能性がまだある限り……諦める訳には……

 

 名を呼ばれた少女は、うつむいた顔を上げ。

 アリスは、今にも泣きそうに……言葉を紡いだ、行き止まりへの文句を。

 

「……ごめん、なさい、アンデルセン……わたしに、は……もう……」

 

 

 ───ああ、ああ。

 

 やはり、『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』だけでは足らないのか…… 何か、明確な媒介が必要である可能性は高かった。いくら英霊でも万能である訳ではない───

 

 終わった。今、道が消えた。

 ……いや、最初から道など存在しなかったのだ。

 アレが此処に現れた時、俺たちの運命は決定された、つまりは行き止まり(バッドエンド)

 

 

 

「……エレナ、すまない。 覚悟を決めてくれ」

 今回の一番の被害者だろう、俺たちに会わなければこんなことにはならずに済んだはずだ。

 責任はこちら側にある……

 

「……ええ、そんな予感はしてたわ、マハトマが囁いてくれてた。 でも私、寿命があと少しで終わるのよね。だから最後にこんな体験が出来てある意味嬉しいわ。貴方みたいな人たちに会えたから。」

 

 罵倒すらしないその優しさが今は辛いぞ……

 

 ……すまない、俺たちにはもう何も……

 

 

「───なんだ。諦めるのか?」

 男はそう告げた、その狂気の下に。

 

「お前に言っているんだ、そこの黒い小娘。」

 アリスに? ……なぜ?

 

 少女の目から涙が溢れる。

「………だって、だって! 私にはもう何も出来ない! 私の中の力じゃあアレに立ち向かえない! アンデルセンにはこれ以上無茶して欲しくない! シェイクスピアおじ様は今にも倒れてしまいそうなの! エレナおねーちゃんはそもそもこの場に居ちゃいけなかった!

 …………今回はあのときみたいに誰かに看取ってもらえない! みんな一斉に死んじゃうの! そんな……そんなのはもう……いやなの……」

 

 次々と決定されていく現実。しかし、非道の男は口を塞ぐことをしない。

 

「残念だったな、貴様には諦める権利がない。

 何故なら貴様は人の可能性の結晶だからだ。

 お前が諦めるということは、そのままヒトの滅亡に直結する。」

 

 男は再び告げる。それは新たな現実の決定。

 

「えぐっ……そんなこといわれても………」

「貴様にはもう何も見えないか? もう何も出来ないのか?」

「……そんな、もう……これ以上……知りたくないの……わかりたくない……っ」

 少女は膝から崩れ落ちた、絶望を抱えて。

 

「………そうか。ならば、君のために置き土産を遺そう。 ……シェイクスピア!最後の仕事だ! 俺と共に死ね!」

 

 稀代の劇作家(シェイクスピア)は呻く。

「ぐうぅ……そういうわけにはいきませんなぁ…… 何しろまだ我がマスターの巻末を見届けていないのですから……!」

 うぐぐ、とシェイクスピアは立ち上がる!

 

「よし!よく立った! それでこそ俺を貸してやった甲斐があるというものだ!

 ───さて、始めさせてもらおうか!」

 

 既にアムレートは五体不満足だ。残っているのは頭と身体と左足くらいしかない。

「───そらっ!」

 ”左手だったもの”を今度は白狼の右眼に突き刺し、それを基点にぐるりと身体をこちらに向ける。

 もはや耳も殆ど使い物にならないほど壊れている、獣の苦悶の声など聞こえない。

 

 左足を振りかぶる、足元にはあの剣。

 ───切っ先は、アリスの方に向いている。

 

「何をする気だ!?」

「なんだ?そんな驚いた顔して。

 なあに、俺の宝具を見せてやるだけだ。その眼見開いてよく見とけよ?」

 

 

 

 ───フフフ……ハーッハハハ! さあ!今こそ見せるぞ!

 既に終わりは決定された! それが星の選択だ!

 

 人は絶望に崩れた!だがな、俺はそれを認めない! 世界よ!おののけ!

 新たな運命の誕生を!

 

 いいか!

 小娘!”()()()()()()()()()()()()()()”!!

 我が宝具の真名の下に!

 

 

 

 ───『約束された逆転の剣(■■■■■■)』!!!

 

 

 

 

 神代の復讐者は、自らの存在ごと魔力に変換し、宝具を開帳する。

 心の臓が消え、頭が消え、上から霧散していく。宝具の真名は途中で喉が潰れ発音出来なかった。

 最後に残った左足は、剣を蹴り出すと同時に消滅した。

 

 蹴られた剣はアリスの元へ翔ぶ、持ち主の消滅に呼応するように消え散りながら。

 

 鞘が消え、遂に現れた刃が剣先から融けてゆく。

 

 最後に残った柄は、アリスの胸にこつんとあたると、そのまま無へと消えていった。

 

 

 …………終わり?

 …………そんな、そんなバカな話があってたまるか!!

 

 

『───GRAAAAAAA!!!!!』

 眼が潰れた白狼は最後に聞こえた微かな音に向かって駆ける。

 そう、黒い少女へと。

 

「………………あ、あああ」

「───アリス!!」

 咄嗟にアリスの前にたち塞いだのはエレナ。

(くっ、こんなことで止められるなんて思わないけど……!)

 

『───Gryyyaaaaaaa!!!!』

 潰れた(あぎと)を無理やりこじ開け、凶牙を剥き出して襲いくる。

 

 くっ! マハトマ……私に天啓あれ!

 

 

 ───ゴギュチャ

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………?

 

 恐る恐る目を開けると、そこには───!

 

「……どうやら間に合ったようだ。急いだ甲斐がある。」

 そこには黒い巨人がいた。異形の豪腕が白狼を受け止めている………!

 

 

 

 //

 

 

 ──────間に合ったの!?

 

 ──────ひとまずは安心みたいだぜ。

 

 ──────早く! ジャバウォックが行けたならもう扉が開いている筈よ!閉じる前に急いで!

 

 ──────そう急かさないでくれお嬢、アタシはパワー型じゃないんだ。ヤツは無理やり空間壊して入っただけだから…… お、あれか!

 

 

 ──────オラァ!!!

 

 

 //

 

 

 ───なんだ!? 空間が割れる!?

 

「いったいなんなんだ! 今日はどんな厄日だ!? もういいからさっさと死なせてくれ!」

 

 割れた空間から声が響く。

「───てめぇアリス嬢の前で何をのたまってる! 御陀仏するにはまだ早ええぜ! よっと!」

 

 裂け目から出てきたのは、少女を抱えた女。

 二人とも……なんていうか……白い。

 そして少女の方は……!

 

「───下ろして? わたし(アリス)に顔をあわせなくちゃ。」

 アリスにそっくりだった。顔だけではない。まるでそっくりそのままだ。

 

 白の少女が、黒の少女に歩み寄る。

 

「まったくひどい顔よ。せっかくわたしがきたのだもの、笑って?」

 顔に手を添えて、こちらを向かせる。

「……え? ありす……?」

 

  にこやかに告げる、それは新たな運命。

「───ええ、わたしはありす。

 あなた(アリス)が呼んだ、貴女のありすよ。」

 

 

 ───”終わり”という決定事項はここに消え去った。

 それは、とある男の仕業か、はたまた彼女らの運命か。

 

 しかし、始まったのだ。これが新たな運命だ。

 

 そう、捻れた世界に、始まりの楔が打ち込まれた。

 変革の奇跡、二人の少女が今、ここに。

 

 




もういろいろぶっ込み過ぎました。
次回からはもっとですが。

オリ鯖について
アムレートとかいうマイナー英霊を採用させていただきました。作中でいってるようにハムレットの元ネタです。
史実でどんな人か知りたいひとはWikipediaにいくか、ぼく鯖を見てください。先人がうまい具合に纏めてくれています。一応後日キャラマテリアルに載っけますが。

宝具のルビ? 運命両断剣ツインブレードとかでいいんじゃないですかね?(真顔)
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