世界の始まるその日まで   作:スノウレッツ

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鬼ヶ島はアツい展開のオンパレードでしたね!
まあひとまず区切りがついたので、投稿する時間が出来ました。
やっと主人公のターンです。
ちょっと長い?かも。

それでは、しばしの間お時間頂ければ。


第12話 [三撃目の楔]

 

 昼間っから廊下で呆ける愚か者。私です。

 

 

 あーー

 

 いろいろぶらついているうちに昼になっちまった!

 ダメだな……牛若の相手は時間を潰すのに最適過ぎる。あのワンコのかまってオーラは流石に無視できないものがあるな!

 でもって、あれクラスのじゃれつきはこっちの身体がもたないな…… ほぼ直角の崖登りは人の身では危険だ……

 

 そしてふと、たどり着いたのは食堂。

私、食い意地張りすぎと違う? まあいいか。

今ならちょうど誰かいるかもな、アメリカへのデート相手。

 

「たーのもー」

 ドアを開けると近くから声をかけられる。

 

「おっ、マスターじゃねえか、今から昼かぃ?」

 カウンターに座っていたのはヘクトール。

ウチの数少ないランサー勢の1人。軍師だったこともあり、戦場ではより信頼のおける、気だるいオジサンだ。

 

「おうさ、そんで今日の昼飯番頭は誰だったっけかね 」

 オジサンの隣に席を落ち着けると、厨房側から声がする。

 

「私だよ、……ああ、ちょうど米が余ってるからね。茶漬けにでもするか? 」

 

 ああ、荊軻か。

彼女はなかなかに気の合う友人だな。英霊の中でも数少ない頭の先から爪の先までマトモな……あ、酒関連はマトモじゃなかった。でもまあ酔った彼女は可愛いよ、やりたい放題だし。

 

「いいねぇ。夕飯の為に昼はさっくりいこうかな」

「なんだ、今夜は誰かとディナーかい? いいけど遊ぶのも大概にしときなよ。後ろから刺されっかもよ、そちらのお方とかにな 」

 ケラケラと笑われる。そういやヘクトールって浮いた話ないよなぁ……とそんなことを思いつつ。

 

「そんなロマンチックなもんならいいんだけど。……今は色気より食い気ってね 」

「その食うってのも色んな意味があるがね」

「くれるものは貰っておく主義なんだ。……ひとときの楽園なんだもの、精一杯楽しませてもらわなくちゃ 」

 

「君、その割に自分からはあまり手は出さないじゃないか、………ほら、好きなの乗せて食べな 」

「ありがと。 ---そりゃそうだよ、自分から落としてどーすんの。相手から落ちてきてくれなきゃ 」

 自分から手を出すなんて怖くてできゃしない。一部除いてだけど。

 

 置かれた茶碗には具なしのシンプルなお茶漬けに、小皿には小匙と、椎茸の佃煮、おかか梅肉、わさび漬けっと。具が外に出てるってのはありがたいな、荊軻は気が利くいい嫁さんです。

 

「蟻地獄みたいだな。しかしいつまで経っても来てくれない餌もいるだろうに……… そこでこちらをちらちらと伺ってるお嬢さんとかさ 」

 

------はぅ!?

 

 あ、後ろに居たんか。

「ああ、エリザは大変だな。天辺から甘やかしてやってもいいんだけど………どうにも難しいね」

 適当に具と合わせてがしゃがしゃとかっこむ…… やっぱ旨いな。茶漬けは日本人のソウルフードである。こう……素朴な感じは実に性にあっている。

 

……あ、ちょうどいいかな。

 

 椅子ごと振り向いて呼び掛ける。

「そうだエリザ、このあと時間ある?」

 

 エリザベートはウチの数少ないランサーの一角………というかランサーは基本粒揃いだなぁ。

戦力としては充分にも程があるよ、ウチ五人しか居ないってのに。

 そしてそのなかでは紅一点だ。まあ……だいぶ性格は斜め上だったけども。

 

「な、何かしら? 急にお誘いだなんて……」

 とりあえず、戦場以外で声かけた時に顔を少しでも赤らめるのは止めようか、こっちまでなんか恥ずかしくなってくるから。

 あんた一応ウチの最古参の一人でしょうが。

 

「ん、午後に散歩でも行かないか、ってね」

「えっ、ふ、ふたりで……?」

 

 うっぐ、そうきたか!

……いいぜ、そっちがその気ならこっちも出来る限りの対応させてもらうっ

 

「うん、二人だけ、で。どうかな?」

 出来るだけ自然な微笑みで、手を少しだけ差しのべてみる。……あ、ちょっとまずったか?

 

 エリザの目がキラキラし始めた。紅み増し増し、期待の視線だ、こいつぁヤバい兆候ですよ!

 

 恋愛脳は取り扱い注意、手を滑らせたら爆発します。経験者は語るよ、ここに来るまえの話だけど。

 

「それじゃあ……エスコートお願いしようかしら………?」

 手と手が合う、その瞬間---

 

「旦那様」

 

 

「ひゃぁっ」

 

「っ!? いったい何処から現れやがった!?」

 戦慄は突然に、そして清姫も突然に。

ヘクトールは驚いたけどわたしゃ驚きませんよ。

 たとえ一瞬で私とエリザの間に下からカットインしてきようともね………

 

---ストーキングってワープスキルだと思うんだ。いや、妄言じゃなくて、現実の話よ。

 

「---旦那様、私という者がありながら、他の女性、いやトカゲ娘と逢い引きですか?」

「ちょっ……!誰がトカゲ娘よ!そして逢い引きって……逢い、引き……」カァー

こら、敵いるんだから噛みついて噛みついて。

 

…………落ち着け。

 

…………はぁー、ふぅー、よし。

 

「そう、だけど? 羨ましい?」

 挑発に回ってみよう。もしかしたら事態が好転………するわけないね。

 

「なっ---------」

 

 何故に焔が視認出来るんです?嫉妬の炎なんです?床は燃えないくせに私だけ燃えるように熱いんです?

 煽りは危険、風は炎を強くする。

 な、ならばー!

 

「そんな冗談を言うだなんて…… いけません、そんな嘘を言う口は閉じてしまわなくては……」

残念っ、嘘じゃあ無いんだよなぁっ!

 

「---そりゃっ!」

「ふぁぅ!?」

肩を掴んでぐるっとまわして後ろから抱く! 技は発動するまえに押さえれば問題ない!

カーブは曲がる前に叩けばいいって殿馬から教わった!

 

「やぁ……いけません……こんな……」

 

「ま、まあ落ち着いて」

 抱きしめた瞬間に若干、熱は引いた。

清姫は私より一回りちっちゃいから抱きしめた時の納まりがいい……新発見だな。

今まで怖くて出来なかったから……さあ次は舌だ!回すぞ!

 

「そ、そうだ!折角だから三人で行こうか?

ほら、アメリカ危険だし?まだケルト兵わんさかだし? 護衛が二人もいるとありがたいなー?」

 さっきと言ってることが違うが、場の空気を出来るだけかんまわしつつ、なんとか修正を図る。

 

「なに、アメリカ行きだったの?

……ふん、そこのヘビ女よりは、私のほうが頼りになるわね、そういう話なら!」

 

 そう、得意気に胸をはる。

 

「何を仰っているのかしら?アナタみたいな器用貧乏より、私のほうが敵の殲滅という点においては上ですわ? 」

 

 うーん的確すぎる。

 

「なんですって!?」

「なんでしょう? 」

 

 まあいい、死からは逃れた。後はヒートアップするまえに……

 

「ま、まあまあ。……そうだ、この機会にどちらが優れているか競ってみるってのはどうかなー? 」

 

「どちらが……?」

「優れているか、ですって……?」

 

 この二人とは付き合いが長いが、考えてみるとどちらがどうこうとは思っていなかった。

何故なら大抵ツーマンセル組んで戦ってんだ、こいつらは。

 いや多分、互いに互いを盾として動いているからなんだろうが、いつもそれが上手い具合にコンビネーションするわけだ。

 

「そうそう、良かったほうにはご褒美を……そうだな、一つだけなんでも言うことをきこう、かな 」

「おっ、マスター大きく出たねぇ。いいのかいそんな約束しちゃって?」

 ニヤニヤしないオジサン。私を餌にすりゃ大抵なんとかなる!というかそれぐらいしかこのプチ修羅場を乗り越えられる方法が思い付かんのだよ。

 

「勿論、私にできる範囲で!特に清姫、嘘のない世界は今すぐにはちょいと厳しいから無しでな?」

「それは聖杯にまでとっておきますわ」

 コイツらの願いは基本等身大だから大丈夫……なはずだ。

 

 

「ええ、いい趣向ねマスター! こんな根暗ストーカーよりは優秀だってことを見せてあげる!」

「弱い犬ほどよく吠えるものです。いいでしょう、不肖ながら清姫、全身全霊で挑ませて頂きましょう 」

 

 単純な競争は人を成長させるのに最も適したスタイルである……とは私の持論だが、一応これはサーヴァントにも当てはまっている気がする。

 

 まあ彼らは戦闘者として完成された存在なので、限界を超えて強くなる、というよりは限界に近づく、という解釈を私はしている。エミヤや黒トリアから聞いた話だが、英霊は生前の力を100%は奮えていない、らしい。

 

 ここカルデアにおいては更に特殊で、本来の力に限りなく近い状態まで成長できる者もいれば、半分程度の力しか発揮出来ていない、という者もいるらしい。

 

 うむ……それでも私の眼にはすべからく英雄として写るのだが。

 

 エリザと清姫は共に竜の因子を持っているから、基本的には相性はいいはずなんだがなぁ。

どうにもうまが合わない、ならばライバルに仕立てあげよう、という考えに至った。

 

「それじゃあ行こうかー! 」

 小脇に清姫を抱え、エリザベートの手を引き、足早に食堂を去る…… あ、そうだ。

 

 ちょっとだけ振り向いて、高速で口だけ動かす。

(ご飯残してゴメン! ヘクトール食べていいよ!)

(いや、オジサン読唇術とか苦手だからー)

 もぐもぐ

 

 伝わってんじゃん………

 

 ヘクトールも大概優秀だな。はやく駿足の大英雄迎えて困らせてや……あ、戦争起こるか?

 

 

---さーてこれからどうしようか……

 

 

//

 

「なあよ、あれは先手を打ったっていえるかね? 何でも屋さんよ」

「その呼び方はやめてくれ。---あれはただの後回しじゃないか?」

 

「ははは、違いないね。マスターも気苦労が絶えないことだわ 」

「君はいいのかい? 彼女をあのままにしといて 」

「オジサンもう歳だからねぇ…… 年寄りは若いのに迷惑かけられんでしょ?」

「何を言うか、この間の大国じゃあ、前線を単独で保持し続けてたじゃないか。ほっといて楽しんでるわけじゃあないのかい?」

「まあ、マスターに護るって言っちゃったからね。最期まで付き合いますよ? それにアンタもそういうクチじゃないのかね 」

 

「そうだな…… まさか死んだあとに正義の味方やらされるとは思わなかったけど。……私は、守るために殺すだけさね 」

「ストイックだねぇ、アンタみたいなのが俺の軍に居りゃあなあ 」

「お前ほどの男が人生に未練があると?」

「そりゃあ、俺だって負けるのは嫌だね。勝負は勝ってなんぼだろう? ……好き嫌いと得手不得手が合わねえってのはどうしようもねぇなあ 」

 

「ふふ、それもまた、君という英霊なのだろうさ」

「そういうもんか……そうだよな 」

 

 けらけらと、呑気に、陽気に、二人は笑う。

 

 敗者の英雄は、世界の窮地に何を思うか。

 武勲が示す、その道の先。光か、闇か。

 

//

 

 

 さて、アメリカに来ました。

昨日竜狩りに来てたから転送先はそのままデミングの町、ニューシカゴにございます。

 んで、目の前の二人はきっちり火花散らして凄んでおります。

 

「ふふふ、ようやく、ようやくです。アナタとの妙な因縁とも本日でおさらばです!」

「それはこっちのセリフよ! 思えばこっちに呼ばれて以来なんとなくいつも一緒にいる気がするけど、きちんと雌雄を決してやるわ!」

 

 やっぱわりと仲は良いのかもしれない。

長い間同じ所帯にいるからなぁ、少しずつでも性格は丸くなっていくものだと思うんです。

たぶん。

 

 私はマスターだけど、サーヴァントの心なんて全部わかるわけじゃあない。当たり前だけど。

 

 自分と他人では、これでもか、というくらいに距離があるものだ。だからこそ踏み込むことが必要になってくる。そして失敗する。

 

 そんな人生を今まで送ってきた。

気がついたら若干周りから浮いてたね。

まあ気にはしなかった、まだ友人はいたから。

 

 結局だんだんと他人に関わることをやめていった、協会は楽だったなぁ。材料がそこらかしこに転がってた。自分はそれをただ究めるだけで良かった。自己完結してたんだ、狭い世界だったけど。

 

 でもここじゃあそういうわけにはいかない。

 

 サーヴァントは人間の歴史上に存在した天才、偉人、武人、王族、神体と、色とりどりの英雄の結晶さ。此れこの者どもが私の配下だと。

 笑っちまうほど愉快だね、ああ。

 

 しかも世界の命運を握ってるときた。

 

 ふつう、なんて状況は一秒たりとも発生しない、毎日が波乱万丈ってな。

常人の神経じゃあやってられない、そも常人ってのが何か、っていう疑問は無しだ。

 

 何が言いたいかっつーとですね、後ろを見てられないっていうことです。

他人の心にもずけずけと入り込みますよそりゃあね。

 彼ら彼女らに関われるチャンスなんてこれ以降有るわけがない。必要以上に仲良くしたいってもんじゃない?

 

 まあ、結果中途半端で収まってるんですがね。

 

 清姫は私を見てるようでどうも違うみたいだし、エリザはなんとなく一定の位置から踏み込ませてくれない。

 一年くらい一緒にいるんだがなぁ……

 

 人の心は最も難しいパズルって誰かが言ってたっけな。しかも女性は更に難解だと。

 まだまだ精進が足らないんですかね、きっとそうだと信じてこれからも付き合っていきますかぁ……

 

……………………あ。

 

 おっと本来の目的を危うくロストするとこだった、危ないあぶない。

 

「それじゃあラーマ達探さないと。 魔力反応は………… ちょっと遠いな、こっちからも発信するか 」

 東側に強めの反応が二つ、たぶんこれだろう。

アレキサンドリアの辺りかな、感覚的には。

 

「ところで、何対決と致しましょうか?」

「ワイバーン狩り……とでも言いたかったけれど、全然いないわね…… ここら辺にはうじゃうじゃ湧いてたはずだけれど 」

 

 その通り、ここは牙狩りに丁度いい。だからだ。

「それ、昨日根こそぎ狩り倒したからだと思う」

「ええい!それじゃあアイドルらしく歌で勝負といき…………… っ!?」

 

------グオオォオオォォォオオ!!!

 

 頭上にて生じる、突然の異常。

 

 見上げる、我らの直上に莫大な魔力反応。

 

…………なんだ? レイシフトに似ている、しかし、あまりにも空は自然に割れた。

 

 異常であることは確かなのに、あまりにも素直に世界に溶け込んでくる。

 

---あれは、まずい。何故って?

 

……………なにも感じないのだ。空気のように発生しているよう。頭が理解するのを拒んでいるように、恐怖も焦りも感じることが出来ない。

 

 その状態に気づいてやっと理解した。消去法で敵だ、あれは。

 

 

-------ふと、視界の隅に何か輝く。

 

 それは、とんでもない速度で翔んできた。

 

「うおおおおおおお!?」

 

 空を一筋の光が疾り、その、”頭上の何か”に思い切りぶち当たった。

 

「なに、何なの!?」

「あれは………矢……でしょうか………?」

 よく視認できるな清姫! だが確かに矢のように……見えるような。

 

 

 天に輝くその矢は、神山の如き質量を持ち、遂にはその"何か"を吹き飛ばす。

 

 圧倒された"何か"は弾き落とされ、"矢"はこちらに落ちてくる。

 

---------ザクッ

 

 あぶねっ、こんなピンポイント落下あるか……ってこれ。

「これ…… ”ブラフマーストラ”か……?」

 ラーマの剣? それじゃあアレはラーマの宝具だったのか…… いやでも弓持ってなかったと思ったんだが……?

 

 いや、今はそれよりも。

 

「ねぇエリザ。アレってなんだと思う?」

「マスターでもわからないものなんて私が知るわけないじゃない」

「言い切ったなこの世間知らず! ……じゃあ清姫は? どう思う?」

「ええ、見たところ………なんでしょうね?」

「オーケー了解だ。 もうちょい近くに行こうか …………って、あっちからお越しのようだ 」

 

 猛然とこちらに向かって砂塵が立ち上ってくる、………あの勢いの技を喰らってピンピンしてる? どう考えてもおかしいね。

 

「あんまり良い手じゃないんだけど…… 強制帰還だ。ラーマとカルナにはあとで訳を話そう 」

 

 令呪を使った強制術式はわりと互いの身体に負荷がかかるんだ。

 

「カルデアに接続……… あれ? ---そんな 」

 

 反応が見当たらない、というか世界が孤立してるかのように他の領域に接触出来ない。

 

 カルデアとのリンクが切れてるの……!? そんな馬鹿な……!

 でもサーヴァントとのリンクは通じて……あ、マグか、あれと同位相にいれば現界分は賄える。

 ってことは、今は私の魔力だけか……一体何処までやれるか……

 

「清姫、エリザ。身体の調子はどう?」

「万全よ、と言いたいけれどそうね………何かいつもより力が入らないような……?」

「そうですか? わたくしはいつも通りですが……?」

 

 いつもより不安定だな…… この状況で未知の敵と交戦するのは危険極まりないけど……!

「仕方ない。二人とも、戦闘準備。とりあえずラーマ達と合流するまで防衛戦だ 」

 

「承りました。ええ、必ずやそっちのドラ娘より活躍してみせますわ」

「言ったわね、なりそこない竜風情が。ヤーノシュの"雷鳴の竜"の力、見せてやろうじゃない!」

 

 ああ、いつもの感じだ……この様子なら大丈夫だな。

 

 さあ、来るぞ……!

 

 

 

//

 

---修正目標、発見。特殊ナ反応アリ。太源ト断定。

---迅速ニ処理シマス。

 

//

 

 

 アレは……ウェアウルフ? いや、人型じゃないな! 白い狼か……?

獣なら立ち回るのはキメラで慣れてる!

 

「正面から向き合わないように! 側面から牽制して!」

 

「りょーかいっ!」

「あちらのお方、随分とせっかちなようですね…… サーヴァント並みの駆体をお持ちのように思われます……!」

 

 白獣は、他には眼もくれずこちらへ駆けてくる、………速い! アタランテと同じくらいかっ……!?

 しかも私を狙ってる………? マスターというものを理解しているとでも……!?

 

『------Gruuuu!』

 地を翔ぶ白き化身は、的確に使い魔(サーヴァント)を従える大元(マスター)を狙う。

 

 更に加速した!?

っく……! 身体強化、間に合え………!

 

 魔術回路の起動、エンジンに火を入れるように、まさしく”脚”を強化する。

 ひとえ、ただそれだけでいい、避けることが出来れば。

正面からくる相手をギリギリまで引き付け、避けるっ!

『Gruaaaaa!!!』

「------っぐぅうううう!!」

 

 間一髪、いやかすっただけで済んだ!

胸元がちょっと切れただけだ、あとでエミヤにどやされるなこれは!

 

 そして、行動と行動の間には必ず隙が出来る!

「---その隙、頂きましょう!」

「私たちをスルーするわけには行かないわよ!」

 着地の瞬間を狙い、二竜がかかる。

 

 戦闘でまずすることは相手の脚を奪うことだ、と教えた。それをきっちり実践してのけるのは流石と言おうか。

 

 エリザは左翼、清姫は右翼側から。

槍を突き入れ斬り飛ばす、竜腕と炎撃が焼き潰す。

 

 支えを失った白獣はよろめき倒れ………っ!?

 

「なによこいつ!? 切った端からくっついていくわよ!?」

 

 これは………! ただの狼じゃない!? いくらなんでも再生が早すぎる!

いや空から降ってきた段階で普通ではないが!

 

「旦那様、長引くとこちらが不利です。ならば一気に私の宝具で焼き払って仕舞いましょう」

それは………

「………出来そうなの?」

「私を信じてくださいまし。必ずや仕留めます」

「でもアイツ脚が尋常じゃなく速いよ?」

 竜化は確かに強力な技だが、避けられてしまっては意味がない。

 

「------だったら足止めすればいいんでしょ? いいわ、その役を引き受けてやっても 」

「アナタ……?」

 

 エリザが?ちょっと意外だけど……

「………アンタだけに手柄をやるわけにはいかないからね! 」

 清姫を指して言い放つ。

 

 少し……少しだけ不安が胸をよぎった、なんだ?これは……?

 

『---Gruuu……!』

「っ 、もう時間が無いわ。いい?必ず殺しなさいよ!」

 そう言い残してエリザは再び白獣へと向かう。

 

 始まってしまった、成功確率の示されない作戦が。いや、だが……打てる手は打っておく、その必要もあったにはあった。

しかし---

 

 

 白獣に立ち向かうは、深き業を背負った少女。

「---知ってたわ、私が出来ることなんてたかが知れてる。英雄として呼ばれるなんてなにかの間違いね。だけど………!」

『GRAAAAAA!!!』

「---アイツ……清姫の前で無様な姿は見せられないわ! 腐れ縁もここまでくれば立派なライバルだもの! だから、アンタはここで倒れなさい!

------『絶頂無情の夜間飛行(エステート・レピュレース)』!!」

 

 

 襲いくる大口に思い切り槍を叩き込む。しかしそれだけでは白獣は止まらない。

 槍を呑みつつ更に迫る。

 

「そんなに私が欲しいのかしら? ……ええ、いいわ!それなら特別に歌ってあげる!」

 槍はマイクスタンド、観客は目の前に。

ならば歌うしか無いだろう!

 

 マイクに手を携え、高らかに宣言する。

「とっておきのナンバーよ! 聞き惚れなさい!

------Laaaaaaaaaーーーー!!」

 かつて世界を呪ったその叫びも、今この時は、ただ流麗に響く雷声の咆哮。その名は『竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)』、ヤーノシュ山に舞い降りた雷竜の息吹。

 

 その歌はマイクスタンドを通して身体全体に響き渡り、神経を犯してゆく。

 

『--------!?』

 悲鳴はあげられない。叫ぶための声帯は既に潰れている。

内から全身がグシャグシャになっていく。再生を加速させようが、一旦は動きを止めざるを得ない。

 

 ポジションから離れ跳びつつ、バトンタッチの合図を送る。

「---今よ清姫!焼き尽くしてやりなさい!」

 

「ええ、アナタのつくってくれたこの好機!

逃しません! ---『転身火生三昧』!!」

 

 思慕、愛憎、悲恋を纏うは白炎の蛇。

幻想の最高位をその身に宿す、哀れな少女の成れの果て。

その身はすべてを焼き消す、遂には思い込みで至ってしまった禁断の領域。

 

------シャアァァァァアア!!

 

 正面からぶつかりあい、端から熔けてゆく白獣。だが、再生もそれに追い付く。

 

(まだ、足りない!もっと炎を……)

(………! これは……槍………?)

 白獣の身体に残されていたのはエリザベートの槍。

いまだ残響もつ歌姫のスタンドであった。

 

(---アナタの力も借りますわ!)

 極東の竜と、中洋の竜の力が交ざりあう。

地を這う怨火に、天に響く雷が寄り添えば、その姿は一層の昇華を果たす。

 

(これにて終局とさせて頂きます! )

-----『転身火生三昧・雷槍一閃』!!

 

---貫くっ!

 

『ッ----!!!!』

 

 白獣の身体を穿ち、竜は再び人へと還る。

 

「これで……どう……ですか………!」

 戦友の槍を携え、清姫は膝をつく。

 

 規格外の行動は身を滅ぼすもの、今回は互いに竜だったために、まだ波長が合っただけに過ぎない。

 そしてその余波はマスターをも確実に蝕む。

 

「ぐっ……ぁう…… やった……の?」

力が入らない……!私だけじゃあキッツいなぁ!

 

 まさかこんなにサーヴァントの使役が身体に負担をかけるだなんて………!

二騎同時だからってものあるからか……!?

 

 どっちにしてもカルデア様様だなこいつは………!

 

 

「あれだけの一撃だったんだもの!やれない筈は………!?」

 

 白獣は既にその身体の八割をえぐられている、なのに。

 

---ソイツは、死んだようには見えない。ゆっくりだが、確実に、元へと戻っている……!

 

//

 

---身体ノ86%欠損、再生工程ヲ急ギ………

 

---!

 

---コードA.D.1888トノ接続ガ断絶。緊急事態発生、緊急事態発生。帰還ヲ検討シ………

 

---現行ノ太源ノ処理………保留ニ決定。

 

---暫定処理トシテ対象ニ標印ヲ刻ミマス。

 

//

 

 な、なんだ……? 再生が止まった?

やった………のか?

ああ………なんだか………

 

 全ての時が一旦消え、白獣だった肉塊から何かが解き放たれる。

 

---その時、油断したわけでもない、安堵したわけでもない。

 

 ただ、意識が少しだけ不安定だったのだ。身体中の魔力を根こそぎもっていかれたかのように、意識が朦朧としていた。

 

 空間が歪み、それが近づく。視認は出来ない。

 

 透明な刃は気づかせない、意識は恐怖を感じてくれない。

 

 気づいた時には既に------

 

 

 

「があっ………ああぁぁ………!?」

 

 斬……られた? あ、ああ………あ…………

 

「マスター!?」

「旦那様!?」

 

 身体が悲鳴を挙げている。

 

 心臓から血が吹き出ている、ような。

 肋骨がまるごと粉々に砕けていく、ような。

 身体が天辺から真っ二つに裂かれた、ような。

 

 胸が、裂けるような感覚。

 脳は、遂にはそれに対応出来なかった。

 

 

 意識が遠ざかっていく、い、いやだ………

まだ……死ねな、い…………死にた、く………ない……

 

 最後の視界には、こちらを嘲笑うかのように写る白獣。歪んだその身体が消えてゆく……

 

 意識は、そこで途切れた。

 

 暗い。ただ、暗い何かに、私の意識は呑まれていった。

 

 




日常は日常、戦闘は戦闘、と分けたいところですがそうできるのはこれから先の展開です。

エリザと清姫が若干仲良くなりそうな、ならなそうな。
……すいません、私の趣味です。ケンカップルいいです、すごい好きです。
ライバル認定出来ただけでもいいかな。

エリザの槍突き立て→熱唱の流れ、響鬼思い出しました。書き終わってから気づきました。

片や、清姫とエリザの合体技とでもいいましょうか、
『転身火生三昧・雷槍一閃』は元ネタあります。
アカシックなんちゃらです、知ってる人は知ってると思います。

え、主人公がなんか死にそう?
型月主人公なんだもの、死の縁には立たせたいですよね!サブタイが駄洒落とか言わんといて……

※ちょっとだけ修正しました、いや一文字だけだけども。
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