世界の始まるその日まで   作:スノウレッツ

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新章とか言っときながら実際は二日目とかいう。
シリアスに耐えきれなくて逃げる私がよく現れた回だと思いますね、ええ。
夜這いされたり修羅場ったり殴られたり挨拶したり風呂入ったりとごちゃごちゃしてますけど、とにかく彼女に一区切りつけました。

それでは、暫しお時間を頂ければ、と。

(あ、今回からやっと罫線使い始めました。やっと打ち方分かったんですよね、ほんとなんも知らないな私!)



第二章 十人十色 -colorful palette-
第15話 [再開の始まり]


 

 

//

 

───ふと、微睡みが溶けてしまいました。

 

 もう、朝でしょうか? 宵に床につき、曙に目覚めるのが習慣でありますが。昨夜は……

 

───そう、夜もすがらマスターを殺しておりました。

 

 腕を、潰しました。頭を、噛み砕きました。

 その身を、焼ききりました。

 

 でも、殺すことは叶いませんでした。あの方はずっと、私を抱き締めておりました。

 

───許しを、請いておられました。

 

 ああ、あの時と同じ…… あの方と同じことを仰っておりました。

 

「一人にして、すまなかった。先に逝くつもりなんて、無かったんだ 」

 

 私は、あの時と同じく、怒りと恨みと悲しみを以て殺しました。

 

 違いは…………そう、ただ一つ。

 

 殺せなかった。私は拒絶したのに、あの方は、愛して下さいました。

 

 どうして、どうして? 安珍様は死んでしまわれたというのに、どうしてあなたは生きているのでしょう?

 

 私は、分からなくなってしまいました。

 

 あなたは……私にとって、何なのでしょう……

 

 御主人様……私は……

 

 私は、旦那様をお慕いしております、愛しております。

 御主人様は、私をお側に置いてくださいます、愛して下さいます。

 

 ああ……けれど。

 

───どうしてこんなにも遠くに感じるのでしょう? 心が届かないような気がするのでしょう?

 

 私は……貴女を、視ているのでしょうか……

 

 分かりません、分かりそうなのに、頭が止まってしまいます。

 

 ……ふふ、私に殺されたというのに、どうしてこんなにも穏やかな顔で寝ているのでしょう?

 

 まるで死んでいるよう。あの方の死に顔は見られなかったけど、貴女の寝顔は好きなだけ視ることが出来ます。

 

 なんて、不思議。

 

 

 清姫は、傍らで眠る想い人に添う。

 その姿は哀しみに満ち……だが漂うのは青ではなく朱の色気。

 悩む。少女は今までの自分を見返る、だが答えは出てこない、出てくるのは答えに繋がる何かしら。しかしそれを繋げようとすると、自分自身が邪魔をする。

 

 自分では、自分の築き上げたものを崩せない。いくらそれが崩れそうでも、自分では絶対に崩せない。他人がそれを崩そうとするとき、自意識は絶対にそれを妨害する。

 それでも崩れてしまったとき、意識は瓦解するのだ。

 

 しかし。自らが望み、誰かと共に崩したならば?

 

 …………そんなことは起こり得ない。人はそれほどまでに心に他人を侵入させることを許さない。

 

 

 ああ、しかし。狂えてしまえば、あるいは。

 

 

//

 

 カーテンの奥から、偽りの木漏れ日がさす。

 静かな、まるで山奥の寺院を思わせる寝床に二人の少女が身を委ねている。

 身を重ねている、仰向けの少女は死んだように穏やかであり、跨がる少女は主の起床を今か今かと待ち望む。

 よくよく見れば、眠り姫はその裸身を晒している。それはそのはず、何故なら昨夜、怒りと涙がそれを暴いてしまったからだ。

 

「御主人様……」

 

 上に乗る少女は、身に纏う白無垢を床に落とす。その幼肌は、病的なまでに儚く、淡い。

 

 ふと止まった。思えば添うことはあっても、襲うことは無かったように思う。

 何故だろう?

 

 理性などとうにトんでいるはず。つまり……

 

 本能が止めているのだ、溺れることを。それだけの矛盾が清姫の内にある。

 彼女は訳がわからなかった。しかし、ずっとこのまま見つめるだけというのも面白くなく。

 

「…………御主人様、お目覚めになって。もう、朝を迎えました 」

 

 主を死から起こす。頬を揺らして、意識の浮上を促す。

 んん、と少しだけ反応が返ってくる。段々と……目が開いて、私と視線が合う。

 

「…………ふぁ……もう、朝かい……?」

 ずいぶんと眠そうだが、起きてくれた。恐らく床に入ったのは丑の刻ほどであろう、眠そうなのは頷ける。

 

「そうですよ。ちょうど、陽が入りました。そろそろ床を出ましょう?」

 我ながら勝手だ。私が抑えているのに。

 

「……んにゃ…… どうして、裸なの…………?」

「貴女と契りを交わそうかと思ったのですが……」

「……ぅ………そう、なの………?」

 どうやら寝惚けていらっしゃいます、誰だって朝はこうなのでしょうか……

 

 

「んぅ? ………うわっ! 清姫!? これ……もしかしてヤっちゃったの私………?」

 

 赤須は真っ直ぐ清姫を見る。イヤです、そんなに見つめられたら身体が火照ってしまいます……

 けれども真実をお教えしなくては。

 

「……いえ、殺られておられました 」

「…………?」

 

 顔にも疑問が見えますよ、御主人様。

 なんとか正気になられたようです。

 しかし残念、清姫は遂には決断出来ませんでした。

 

「おはようございます、御主人様。 寝覚めはいかがでしたでしょうか?」

「…………うー、まあまあかな。清姫は眠れたかい?」

「ええ、それは良く眠れましたよ、何しろ御主人様をお側に感じることが出来ましたので 」

「ああ、私にとっては昨日と同じ朝なんだけどね、ただちょっと工程が進んだね 」

 

 裸身の二人が寝床で語り合っているのだ、端から見れば只の事後である。

 別にその認識が間違っているわけではない、二人の間で情事でなく惨事が巻き起こったという点を除けば。

 

 

 トントンと、扉を叩く音が部屋に鳴り。

「センパーイ、もうお目覚めですか?」

 

 赤須の頼み通りマシュが起こしに来たようだ。けれども、清姫はそれを知らないわけで。

 

「…………御主人様、どうしてマシュさんがここに?」

 おお、見える、嫉妬的な何かしら。具体的には口の端にチラリと火焔。

 しかし赤須は真実で切り返す。

 

「ああ、朝起こしてもらおうと思って 」

「そんなこと私が毎朝させていただきますわ」

「いやー、まさか清姫が私の部屋にいるとは思ってなくて。最初あなたの部屋に行ったのに居なかったからもしかしてと思ったけれども 」

 

 嘘は言ってない。きまりが悪い空気が漂い、互いに黙る。

 

───あれ、鍵かかってない? センパーイ?入りますよー?

 

 咄嗟に赤須は感ずく。いや考えること自体が馬鹿らしいことだった。

 

「あー! あー! 起きてる、起きてるよマシュさーん!!」

 

「もう起きてらっしゃいましたか、朝食も準備ができま………………!?」

 

 あー、あー。どうしたもんかね………

 

 少女が視認するには若干以上に過激な光景。

 事の巻末とは別の意味だが、表面上はただ寝床で絡み合っている二人に過ぎない。

 

 マシュは、なんとか、なんとか言葉をねじる。

 

「───せんぱい、さいてい、です 」

 

 それだけ言って、倒れた。

 

 脳のキャパオーバーの見本のような倒れ方である。

 

「ああ、マシュ!? 」

「うぶですわね、それだけ穢れていないということですけれど。……朝食ができたとのことです、向かいましょう? 」

 

「朝から私は胃が痛いね……」

 

 いや、ほんと。女性に手を出すってことは愛と引き換えにいろんなものが崩れ出すね。

 私はどんなに刺されようが止まらないけど。我ながらたち悪いな。

 

 赤須は、清姫を持ち上げ、隣に運ぶ。

 

 

 自分の身体を確認する、火傷の後もない、殺傷されたようには思えない。胸の傷は今まで通りあるのだが。

 

 んー、ちょっとベタつくかな……後で風呂入ろ。

 

 ベットから出て、クローゼットから服を取り出す。うーん、制服でいいか。再開の意味も込めて、初心に戻らせて頂きましょう。

 

「清姫も、ちゃっちゃと服着て。……ああ、今日私はどんだけ殺されんだか……」

 

「大丈夫です、私が護りますから 」

 

 清姫は、いつものように白い着物を身に纏う。頼りになるのは確かだが、頼りにし過ぎるのも問題である。

 

「私がやらないといけないこともあるから、そんときは私に任せてね?」

 

 ストッキングとバンドは……いいや、いつ切り裂かれるか分からんのに大事な服を脱げないのは大変だ。

 魔術礼装は貴重なのだ、直すのも一苦労よ。

 エミヤの負担を広げるのも悪い。

 

 それで、倒れてしまった後輩をどうにかせねば。

「…………マシュ? 大丈夫?」

「きゅぅ………」

 アニメのような表現だが、眼鏡の奥で目が回っている。

 

 

 ……どうやら私は、運ぶことに何かしら縁があるらしい。そのままマシュをおぶる。

 

「…………羨ましい」

「さいですか。さっきまで肌と肌で直接触れ合ってたでしょうが 」

「それとこれとは話が違いますので」

「そういうものですかね……」

 

 そんなやりとりをしつつ、赤須と清姫は部屋から出て歩み始めた。

 

//

 

 カルデアは、なんというか、円い。

 恐らく円形の階層が幾重にも連なっている構造なのだと思われるが、まあ長く外に出ていないし、外からはわからなかったしであまり内部構造が掴めていない。

 

 極端に言えばレイシフトルームと食堂と自室さえ覚えてれば良いんだけれども。

 いや、たまに迷うからやっぱ良くないんだけど。何処かしらに軟禁くらったこともあるよ、私の側歩いてる子に。

 

 ま、不死になっちまったこの身にはもはや意味をなさな……あ、カーミラの棺桶は痛いわ、ぶちこまれることも無いだろうが。

 

 

 そんなとりとめもないことを考えつつ足を進める。マシュはロマンより軽いのは当たり前だが、あまり変わらないように感じるのはやはり私の身体の構造が変わったからだろうか?

 昨日、頭がふっとんだのに思考は続けられたし、やっぱ人はやめてしまったみたい。

 

 

 そう、彼女の身体はだいぶ変質していた。しかし、そんなことはどうでもいい。

 

 肝心なことは、事情を知らない者にとって彼女が闊歩しているということは死人が徘徊しているのとなんら変わり無い、ということに尽きる。

 

 誰かと鉢合わせ。朝、食堂に向かうときにほぼ必ずと言っていいほど発生するイベントであるが、この日は事情が違う。選択肢のミスはそのまま死に直結するのである。

 

 

「あ、メアリー、アン。おはよう」

「………え?」

「マス、ター?」

 

 

 自然的に立ち会うこととなったのは、メアリーとアン。

 様々な伝説を打ち出した二人組の女海賊。

 ……であるが、今は目の前にボケッと突っ立っている死んだはずの主を、まるで信じられないものを見るかのように茫然と、しているはずもなく。

 

 目の前の異常に、メアリーは鋭く叫ぶ。

「───誰だアンタっ!今さら亡霊が何をしに来た!?」

 

 亡霊、亡霊か。

 それは赤須という復活者を良く表現した言葉であった。未練があったから死を否定して復活した彼女にとっては最適の単語である。

 

「亡霊がさまよってちゃいけない? まだやらなくちゃいけないことがいっぱいあって……」

「黙れ! 僕のマスターのカタチで言葉を吐くなっ!」

 

 ああ、なるほど。アンタは私が本人じゃないって思ってるわけだ。

 うーーん、それが間違ってるって言えないのが面倒だな…… 私自身、そこには疑問を持たないようにして来たんだけど。

 

 魂が解離した肉体は死を迎えたはずなんだ。

 でもたぶん魂は私が死んだ後も何故か憑依したままで……

 ここら辺は協会にいた時に研究してたテーマだったな。ネクロマンサーが同僚にいて、興味を持ったんだった。結局、倫理の壁に引っ掛かって乗り越えられなかったわけであるが。

 

「なにメアリー、そんなに私のこと好きだったの?」

 

 言い終わる前に剣を……カトラスを構えられる。おお、目にはきっちり殺意の波動。

 

「───うるさい!」

 

 ……ヤバいな、マシュおぶってるから両手塞がってるわ。なんとか……受けるには……

 

 メアリーは、小回りの利くカトラスを用いた円舞が得意だった。

 その死角には、アンの銃口が向く。まさに比翼の鳥、連理の枝にふさわしいコンビネーションを持ち合わせていた二人であった。

 

 だが今回、アンは動かなかった。真実を探すように二人を見守る。

 

 ──────ギィン!

 

 ぶつかる、刃を受け止めたのは竜の腕。

 

「……退()いてよ清姫、そいつ殺せない………!」

退()くのは貴女です、メアリー。あなた、眼前の主を信じられないのですか?」

 

 ぎりぎりと、つばぜり合いと問答が続く。

 

「……これまでをひたすらに信じていたから、だからそいつの存在が許せないんじゃあないかっ!!」

「愛しているのなら、虚像だとしても愛せばいいじゃないですか!」

「僕はアンタみたいに狂えるわけじゃない!

今さら顔出されて、それでそのままそれまでの関係に戻れる筈なんか無いんだよ!」

「この……色恋に頑固過ぎますわ!」

「アンタだけには言われたくないね!」

 

 再びギィンと響き、弾く。両者に再び間合いがとられる。

 

「……メアリーは私が偽物だって思うの?」

 私はそう投げ掛けた。

 

「……マスターは死んだんだよ! 死人が今さら戻ってきてなに食わぬ顔を……僕が流した悲しみを全部ひっくるめて否定する気か、アンタは!?」

 

 成る程、三週間なんて短いようで長かったらしい。自らの存在を忘れられるには十分な期間だったようだ。

 

 その挙げ句に還ってきてしまったのか、タイミング悪いなぁ、私は。

 

「…………そうか、でもゴメンね。私はこのザマだ。悪いけどもっかい私のこと好きになってくれると嬉しいな 」

 

 もし、昨日と今日の私が違うものだとしても。

 私は、あなたたちと共に前に進むしか選択肢が存在しない。私の中から後退の二文字は既に破り捨ててやった。

 

 メアリーはうつむき、小さく呟く。

「そんな、勝手すぎるよ…… 同じ恋を二度するなんて器用な真似、僕には出来ない……」

 

 遂には踵を返され、走っていってしまった。

 

 ……むむ。どうしようかな………

 

「……アンは? 行かなくていいの?」

「私は……」

 

 アンは少し考えるような仕草をする。

 すると、後ろから空気を読まない黒い声。

 

「朝っぱらからなーにを昼ドラみたいなコントやってるでござるか?」

 

「───ティーチ。おはよう、なんだか恥ずかしいところを見られたね」

 

 海賊は海賊を呼ぶらしい。やって来たのは希代の大海賊”黒髭”の名で恐れられたエドワード・ティーチ。

 もっとも、その恐怖は何故か別のベクトルで働いているが。

 

「素直にキマシタワーと声を張り出せませんぞ! もっと穏やかにいきましょう、百合は綺麗な花でごじゃるよ?」

「アンタが穏やかとか言うかよ? ……んで、ティーチは私になんか言いたいことあるかい? 甦ったわけだが、私。」

 

 ティーチはその巨体を張り、嘲るように、いや、ただ自らを証明するだけか。

 

「むっふー! たかが甦ったくらいでそんなに調子に乗ってもらっちゃ困りますなぁ! 拙者、これでも悪逆非道不倒不屈の黒髭と呼ばれ恐れられ……」

「あなたのはただ生き意地が張っていただけでしょう? 首なしの逸話だって尾ひれつきまくりじゃない」

「そんな、殺生な! アン殿ヒドイでごじゃります~!」

「ええい、気色悪い声を出さないで下さいまし!耳が腐ります!」

 

 この海賊どもはいつもこんな感じだ。これがこいつらの日常なんだろう。

 

「…………ともかく!メアリー殿が機嫌悪いと、拙者もなんと無く絡み辛いのでありますよ!なのでちゃっちゃと仲直りするが吉かと!」

 

「ティーチの為に動くのは癪だが、結果がそれを導いちまうんだよね……具体的な方法をくれ、アンタはコンセプトだけだして後ほっぽりすぎだよ」

 基本ふざけてるのがこいつの悪い面だ。……たまに良い方向に走るのがその悪い面に拍車をかけやがる。

 

「海賊に意見を求めてもろくな結果は獲られませんぞ! 自分の路は自分でしか踏むことなど出来ませんからな!」

 

 もっともらしいこといって逃げたな、いや全くその通りで困る。

 

 だがまあその口は一言多い。

「要は、金!暴力!!セッ」

「言わせねぇよ!!」

 モードレッド仕込みのヤクザ蹴りだオラァ!

 

「ホグワァッ!!」

 

 通路の奥にふっとんでった。おお、蹴りまで強くなったか? ……いや、咄嗟だっただけか。

 全く……何処のロッカーだてめぇは。

 

「きゅぅ…… はっ? セ、センパイ?どうして私ををおぶってるんですか?」

「あ、やっと起きたか……なんでだと思う?」

「………………思い出せません……」

 うん、顔真っ赤だから。もうちょっと隠す努力しよう?

 

 とりあえずマシュを降ろし、背中が軽くなる。

 

「んん~、朝からこんな調子だと朝食の席にたどり着けないような気がするな」

 

「大丈夫ですよ、みんながみんな、メアリーのように貴女を許せないわけじゃないと思いますし。メアリーだって、急だったから戸惑ってしまっただけだと思いますよ? あとで落ち着いたら迫ってハグすればきっとすぐ堕ちますわ!」

 

 さらっととんでもないこと言ったなこのスナイパー。まあ、メアリーを一番良くわかってる人っていったらアンかも知れないのは自明の理かな。

 

「……それで、君は? まだ答えを聞かせてもらってないよ 」

 再び問う、不死者となった私を受け入れるかと。

 

「私は、貴女の帰りを待ちわびていましたので……そうですね、おかえりなさい、と。そう、言わせて頂きます 」

 

 優しい笑顔で、帰還したものに対する文句を告げる。

 

「───ああ、ただいま。アンも一緒にいこうか?」

「ええ、ぜひ 」

 

 アンは、あまり生とか死とか気にしないのかな…… あ、けど聖言詠めるんだったよね、それじゃあ私はまだ死んでないって思ってくれてただけかな。

 

「……ティーチ、ティーチ! アンタも行くよ!

私の壁になってもらわないと!」

「ぐふぅ……せっしゃのあつかい……ひどすぎ……?」

 

 アンタはそういうポジションでしょうが。

 

 そんな感じで食堂へと。

 ……向かったわけですけれど。

 

//

 

 食堂にて。

 その日の食堂は、いつもより賑わっていた。

 

 それもそのはずである、死んだと思われていたマスターがサラッと出て来て朝飯食ってんだから。

 

 サーヴァント達は大わらわ、騒ぎが繋がり、いつもは来ないようなのも集結し、喜ぶの怒るの泣くの笑ってるの、まさしく喜怒哀楽が空間を席巻していた。

 

 

 赤須は、自らの配下……サーヴァント達に会い、とりあえず受け入れられた。しかし、彼女はうちひしがれて……

 

 うなだれて、いや、めり込んでいた。机に。頭が。

 

「───ぁががががっっと。………はー、マルタのやつ本気で殴りやがって…… 私べつにキリスト否定したわけじゃないのに……」

 

 

 なに勝手に生き返ってんのよ!、とぶん殴られ、小次郎はそれを止めもしないで茶しばいてるし。

 

 バベッジは、この機会に鋼鉄の身体へとチューンアップする気はないかね?、とか言ってくるし、アーラシュはアーラシュで不死の力欲しがってるし。いや、アンタが不死になったらそれこそ"お前一人でいいんじゃね?"ってなっちゃうでしょうが……

 

 え、なに? ずっと世界を救える? ちょっとメンタル強すぎやしない? 救世の大英雄かっこよすぎかよ……

 

 エウリュアレは、次は私の目の前で死んでみなさいって不死はそんな使い方しないから!

 

「にしても結構みんな色んな反応くれるな…… もしかして初めてじゃなかったり……あ、自分等がそうだったか 」

 

 そも英”霊”だったわ、私とはちょっと違う意味だけど。

 

 そんななか、数少ない心配そうな声が一つ。

「大丈夫でしたか……? マスターずっと叫んでましたけど……」

 

 リリィはほんといい子だなぁ!

 

「ああ、大丈夫大丈夫。みんななんとか許してくれたし。ちょっと頭痛いけど」

血はさっき止まった。塞がったのだろう。

 

「ふん、貴様の居ないカルデアは退屈で毎食のハンバーガーも五つしか腹に入らなかったぞ」

「貴重な小麦粉を節約したのは偉いよオルタ」

 

 もう突っ込まない、スーパーポジティブシンキングタイムに入りましたから。

 

「そんな哀しい目をするな…… 良ければ私の胸を貸してやろうか?」

「オルタ……貸せるような胸じゃな……」

「父上馬鹿にすんじゃねぇぇ!」

 ゴッッハァ!!

 

 再びテーブルにめり込むはめになった。幸か不幸かここギャグ時空じゃないから私一応この度に首とか鼻とか骨折してんだけどなーそっこーで治っちゃうからなー

 

「───モードレッドォ!!てめぇは加減ってものを知れ!! 」

「はっ、悪いマスター、ついいつもの癖で……」

 

 いつもっていつだよ!? 全く、死なないっても痛いのは痛いんだがな……

 

 ふと。目の前に、見知らぬ英霊どもがいた。もしかして、私が居ない内に召喚されたサーヴァントか?

 

 その内の一人、闘気をゆるりと纏う男の口が開く。

 

呵々(カカ)! なかなか愉快な主ではないか。呆気なく命を獲られたと聞いていたが…… よほど奇っ怪な呪術でも使われたか?」

 

「ほう?もしや我が尾柱のいずれかに既に寵愛を!?」

 

「おう、コイツ困ってんじゃ……なにニコニコしてんだ? 」

 

 そりゃニコニコするよ、だって仲間が増えるんだもの!

「ハハ、久しぶりだなぁ!サーヴァントが召喚されるなんて! ………ああ、私はここのマスター、赤須九波。君らの名前を教えて欲しい! 」

 

 新たな英霊は三人、先ずは青髪の、いかにも戦士といった雰囲気漂う青年。

 

「アルスターのクー・フーリン。ランサーだ。

一つ宜しく頼むぜ。……つっても俺の槍は今ちょっと無くてな……まあ直に見つかるさ 」

 

 ほお、クー・フーリンときたか。アイルランドの光の御子と称される珠玉の戦士だが……ちょっと若いような……? 冬木で出会った術師とは少しばかり異なる印象を受ける。

 

 続くは二人目……人?

 

「我こそは、タマモナインの一角、野生のキツネタマモキャット! ご主人、宜しく頼むぞ?」

 

 ああ、バーサーカーね。もうどうしようもないほど分かりやすいね。そしてね……

 

「どうしてメイド服着てんの?」

 

「これは奉仕の心を示した乙女の戦闘服であるぞ? どうだ?愛でたいか? 好きなだけ愛でるがいいぞ!」

 

 あー、こりゃ参ったな……初っぱなから好感度振り切ってるわ…… どうやって対応しよう?

 

「あぁ…… うん、今度二人で話し合おうか?」

「二人だけの逢瀬というヤツなのだな? ニャハハハ!」

 

 後に回そう。今の精神だと狂いもんに立ち向かうには心が削られすぎてる、後で愛でさせて頂きます。

 

「ふむ、それでは儂の番か…… サーヴァント、ランサー。真名を李書文と申す。存分に槍として使うがいい 」

 

 李書文……確か中国武術の極みに到達した者の一人だったか。

 アメリカで暴れてたな、そんくらいしかわからない。まあいい、これから知っていけば問題ないことだ。

 

「うん、三人ともよろしく。私のことは聞いてる? 昨日まで死んでたんだけど 」

 新たな仲間に、始まりの挨拶と、私について聞いてみる。

 

「ああ、てめぇもよっぽど意地汚ねえ生き方をしてるみたいだなぁ? いいぜ!そういうのは嫌いじゃない!」

「アハハ、キャットは今見える現実しか信じないっ」

「うむ……死から舞い戻る、か…… いつかのマスターも似たようなものだったが…… 主は怨念にとり憑かれているわけではないようだな 」

 

 ……怨念。生きたい、という意志は怨念に入るのだろうか。世界への怨みととればそうなるか。

 

 

 うん、頼もしい仲間が増えたことだ。

「ここは……だいぶ大変なとこだけど、みんなと仲良くしてやってな。ふふ、尋常じゃないやつらばっかりだけどな!」

 

 それはもう。ケルトも中華も似非和風も霞むほどの狂気塊が私たちのカルデアだ。

 

 ……そいや、さっきのゴタゴタでまだ知らん顔が居たな……? 白銀の髪の執事っぽいのとか。

 ま、いいや、此処にいるということは顔を合わせることになるはずだ。

 

「………モード。ヘクトールに伝えといて、午前の内に仕掛けるから準備させといてって」

「な、なんでオレなんだよ…… マスターから言っておいてくれよ…… 」

 

 地味にヘクトールのこと苦手になってんな?

 はっは、アレは付き合うのが非常に難しい部類に入る男だからな。私も苦手。

 

「私ちょっと今から用事あるから 」

 席を外してそのまま出口へ向かう。

 

「ちょっ…… どこ行くんだよ!」

 

 振り向き様に軽く告げる。

 

「─────風呂!」

 

 

//

 

 

 カルデアの風呂は…………何故か和風だ。ってか旅館っぽいデザイン。

 ま、私とか小次郎とかマリーとかが立案して後付けした施設だけれども。シャワー室だけじゃあ味気ないってものでしょう?

 

 これは日本人のエゴでもあるがね。

 

 しかも聖杯から源泉かけ流しだ、ほんと聖杯さまさまです。使い方絶対間違えてるけど。

 願望器とか知らんよ。

 

 

 とりあえず風呂用品一式もってやって来たわけだが…………

 

「……ほれ、出てこい。そこに隠れてないで」

 

 脱衣場の棚からじゃ見えないけど、そこの死角。たぶん誰かさんが潜んでる。まあ多分……

 

「よく、わかったね……」

 

 メアリーは、ちょっと申し訳なさそうな面持ちで、姿を現す。朝方に出会ったときのような殺気は解いている。赤須とは視線も合わせずにただ、うつむいている。

 

「一緒に入る?」

「……いいのかい?」

 

 断る意味などはない。ただ、そうだな。

 話しておかなくては、と。

 対話は、対人理解に繋がる最もポピュラーな手段だから。

 

 

 そこそこの広さの浴室は、ウチの女性陣がゆったり入れるのには十分、ましてや二人貸切状態だ。ひっろく感じるのは間違いじゃない。

 

 とりあえず、身体を洗う。思えば三週間入ってなかった割にはそれほど悲惨ではない。

 何がって?……まあ色々あるのである。聞くな。

 

「………………」

 

 メアリーは、無言で背中を流してくれる。

 時々、その手は止まってしまうけど、その手のひらには女性には似つかわしくないような剣だこ。そして、メアリーの身体には数えきれないほどの剣傷、銃創。それは、地獄にも似つかわしい戦場に生きた、紛れもない戦士の証。

 

 早々に頭まで洗い終わり、バッシャァとお湯を被ってリフレッシュー、とまあいきたいとこだが、本番は此処からである。

 

 深めに湯船に浸かる、メアリーは私の隣に収まった。

 

 この温泉みたいなの、効能っていうか魔力そのもので、浴槽くらいでかい聖杯に浸かっているとかいう訳のわからないことになっている。

 まさしく聖水である、(けが)れもつかないときた。

 

 お陰で、魔力補給とリラックスが同時に出来ると非常に好評であり、ダビデが一時期番頭として資金調達(かねかせぎ)をしていた。速攻で叩き落としたが。

 

 少しだけピリッとした静寂が空間を包むが、すぐに、無言は破られた。

 

「ねぇ、マスター 」

「なんだい?」

 

 ちゃんと呼んでくれる。マスターと。

 

「マスターは……どうして変わらないの?」

「……ああ、だって私は私だもの。これから先、何回死んでもこれだけは変わらない 」

「そっか…… はは、卑怯だよマスターは」

「何が?」

 

 別にお互いの顔を合わせる必要はない。すぐ側にいて、会話ができるなら問題はない。

 

「普通の人は死んだらそこで終わりじゃないか、そう思うじゃないか。なのにどうしてまだここにいるんだい?」

「そうだなぁ……まだやるべきことが終わってないからかな 」

「だからって生き返れるわけじゃないよ、人はそういう風に出来てない。未練がある死なんてそこら中に転がってる 」

 

「それじゃ人じゃあなくなったんだろう、私は。でもそれは大した問題じゃないよ、結局私の何が変わったわけじゃない。みんなからの認識はだいぶ変わったけどね」

 

 私は不死になっただけだ。別にサーヴァントのように戦えるわけじゃない、今までとなんら変わりない。数多の英雄を従えて、後方から指示を出すだけだ。……ま、無様に死なないように鍛えた方がいいとは思うけど。

 

「僕は……僕はどうすればいいんだい? アンも……皆はマスターを受け入れたじゃないか…… 惨めだ、僕は 」

 

 私は視線だけ彼女に送りつつ、告げてみる。

 

「…………別に、好きに生きればいいじゃない?」

「え?」

 

こちらを向かれた。私もちょっとだけ彼女に顔を向けてみる。

 

「海賊ってのはそういうものだろう? ティーチも言ってたよ、自分の路は自分しか歩めないって。 」

「で、でも!僕はあなたのサーヴァントなんだよ?」

「でもメアリー言ってたじゃない、縛られるのは嫌いだって。それとも得体の知れない私に縛られてもいいの?」

 

 メアリーは、こちらを見つめて。

 

「……マスターは、僕のこと許してくれるのかい? あなたを信じられなくて斬りかかったようなヤツだよ?」

 

 ははは、斬りかかられるくらいどうってことはない。こちとら何回も焼け死んでるから。

 

「許すもなにも、メアリーは大切な仲間だしね。ずいぶん長く放っておいちゃったし……

ああ、私の方が許されたかったんだよ 」

 

 そう、大事な仲間を残して死んでしまうとか、最悪にも程がある。なんで生き返ったとか、そんなことはどうでもいいんだ。ただ謝りたかった、不甲斐ない私を。

 

 ……謝る前に報いを受けたり、謝りながら殺されるってのもあったが、それはそれで。

 

「……また、マスターと一緒にいていいのかな?」

「そりゃもちろん…………実はね、私嫌われるのが苦手なんだ。だからなるべく嫌わないで欲しいな」

 

 自嘲気味に笑う。我ながら重いんだか軽いんだが分からんが、いつの間にか寂しがりやになっていたんだ、面倒な性格だ。

 

「はは、そんなこと前から知ってるよ 」

 とこっと、肩に寄り掛かられる。なんとなく安心する辺り、私もどうしようもないな……

 

「ん、そか。……メアリーは私でいいの?」

「……あなたがいいんだ、マスター」

 

 ちょっとだけメアリーの顔が赤いのは、湯にあたったからだろうか、それとも───

 

 

 それでも、なんとか二人の仲は保たれた。

 これで昨日の自分が私に渡した信用は、殆ど消化されたと言っていいだろう。

 信用は過去の財産、信頼は現在の元手だ。

 三週間という時間は、英霊それぞれに様々な想いを持たせたようだったが、現実とはそこそこ説得力をもつ事象である。

 

 とりあえず、再開は始まった。これからまた彼ら彼女らと付き合っていかねばな。

 

 はは、愉快に生きていこうじゃないか!

 

 

//

 

 

 あー。あと、鬼に会いに行ったんだが。

 

 ものすごい怯えてたぞ、ヘクトールあんた何やってたんだ?

 

───へへ、オジサンちょっと本気出しすぎちゃったかねぇ?

 

 世界で一番怖いもの、本気を出したおっさん。

 

 結局、本日付で京都は解放されましたとさ、まる。

 

 

 





なんとかなりました。何がって?
……初期プロットだと、アンが主人公の頭を撃ち抜いてたんです。でもそれやると流石に修正が効かなくなってしまったので、そこそこ緩和されました。

全体的に信頼をおいてもらって、その中の数人に好意を持たれるくらいが丁度いいですね。ハーレムはハーレムでいいですけれども。どっちも意味同じだ?まあニュアンスの違いです。

あと今さらだけど、主人公周りは百合色になります。
……今のところは、ですけど。

次回もそんな感じです。多分アタランテ娶り回です。

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