世界の始まるその日まで   作:スノウレッツ

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祝ハロウィン復刻!
嬉しい!けどドスケベ落ちない!

まあ、一応古参という認識でFGOをプレイしておりますが、ハロイベの礼装がボックスに残ってなかったことからもどんだけのざるプレイだったかが伺いしれます。

ま、今回はわりとこの作品の核心に迫る話、というかこれから先は全てですが。
そろそろ最終話までの筋が見えてきましたので、イベントの合間合間にサクサクと書ければいいなぁ……

それでは暫く、お時間戴ければ。



第21話 [Elicit revealing]

 箱庭より続く。

 飛び込んできた来訪者の持つものを、サッと覚めた目でじろりと眺めながら身を起こした。

 

「──日本刀?」

 

 パッと見の印象を口に出す。

 刀にしては若干刀身が短く、鍔もない。

 まあそれは主に見馴れている刀に問題がありそうだったが。

 どうにも、へし切り長谷部(信長の刀)物干し竿(小次郎の刀)を凡庸のソレに数えるのは実に大物すぎるモノであるからして。

 

 ダヴィンチは大仰な手振りを付け、その剣を掲げた。

 

「いやいや、これはねぇ! 世界のどの剣とも異なり、共に全てを包括する────

 私の持つあらゆる剣刃の知識を総動員した、まさしく刀剣の歴史に新たな世界を斬り拓く一振りさ!」

「な……! え、いや、あの、何を作ってる!?」

「はっはっはー! いい反応だ! そういう反応が欲しかったよ! ほんと、カリギュラ帝には感謝しなくちゃいけないなぁ!」

「あ、もしかして……デュールから回収されたっていう……」

 

 カルデアに指定された『未確認生物』、私を殺した狼にして、世界中の時間軸に現れた化物。

 なのだが、不甲斐なく死んだのは私だけであった。ほんと、サーヴァントってのは臨機応変に立ち回れるものだ。

 対獣戦は散々やってた筈なんだけどなぁ……

 

 ま、その時に現れたデュールの中で、運悪くカリギュラに仕留められた個体が無残にも解体され、その一部を回収したらしい。

 実物を見たことは無かったのだが、今こうして形を変えて私の目の前にやって来た。

 

「そ。 あれは面白い素材でね、魔力を通せば青竹のようにしなやかで、通さねば金剛石に比肩しうる程に堅い! 実に難敵だったけど…… 天才である私の手にかかればこの通りさっ」

「へぇ……で、それ。私にくれるの?」

「はは、サーヴァントには各々の武器があるし、芸術は誰かに評価されなくちゃ価値をつけられない。 護身刀にでも使って……って書文クンどうしたのかな何時にも況して凶相だけど?」

 

 なんとなく機嫌が悪そうな書文はぷいと横を向きつつ答えた。

 

「……何、槍をこさえておれば儂が教えを授けてやろうと思っただけだ」

「あはは、書文は槍術至上主義だからね」

「凡ての武術は六合大槍を前に霞む、そのように半端な間合いしか持たぬ剣なぞまともに取り回せまい」

「……言ったな? 良いだろ、ダヴィンチちゃんそれ貸して。 剣には剣の立ち回りがあるってこと教えてやろーじゃない」

 

 恐らく体は拒否反応を出しているが、理解しようとしなければまだ動く。

 自己暗示は重要な技能だ、世界すら騙せる域にまで達せば無敵だもの。

 たとえ死んでいても、生きているように見せかけられる。

 

 私はダヴィンチに手を伸ばした、が。

 当の彼女は渋い顔だ。

 

「…………やだ」

「ええ!? なして!?」

「だってー、書文クン絶対壊しちゃいそうだもの。ちょっと……初戦に相手するには肩の荷が勝ちすぎるっていうか…… 」

 

 む? なんだ、徹夜で疲れているのか、それとも別の理由か、難しい顔を崩さない。

 

「……弱気過ぎない? ダヴィンチちゃんらしくないね」

「これだけは如何ともね…… そもそもあれが何だったのか、遂に私には判らなかった」

 

 ──!

 なんだって? ……そうか、彼女でも知らなかったのか。万能の天才たる彼女ですらが……

 

 つまり、あれは本当に接触してはいけないものだったのかも知れない。

 あの白き狼は、けして出会ってはいけない存在だったのかもしれない。

 そして……それに接触して、殺された、のか。

 

 …………そうか。

 

 軽く頭を傾げながら、彼女は続けた。

 

「今まで見てきたどんな素材にも似ている気がするし、そのどれとも異なっている特徴があるんだ。 こんなのは始めてだよ」

「それで何故、剣を模した?」

 

 書文は疑問を投げ掛けた。

 うん、それは私も気にはなっていた。

 わざわざ剣にする意味はあまりない、だって私は別に剣の扱いが巧いわけじゃなし、そもそも徒手空拳メインだし、私。

 

 最近になってやり直し始めたばかりだからだいぶ体にくるものがあるが、これ以上はない師匠と、死ぬことがない肉体があるのだ。

 多少は鞭打って鍛えられる。

 ……特異点先の行軍では私に合わせて貰ってたりしてたから、体力もつけなくちゃいけない。

 全体の戦力の最底辺だとしても、少しは底上げして誰も文句はないだろう。

 

「ん~、それもね……」

 

 彼女はソレを眺めながら、困った顔をつくる。

 

「色々やってはみたんだ。切ったり、叩いたり、燃やしたり、電流を流してみたり。端的に言えば、全てにごく普通の反応があった。

 裂けるし、壊れるし、燃えるし、電気も通る。けど、直ぐに元に戻ってしまう。

 でも、ある時自然に、突然に形を為した。

 まるで、元々こういう形だったみたいにさ」

 

 ダヴィンチは、壊れ物を扱うかのように白刃を黒い鞘へと納めた。

 

「これはそういうものらしい、だったらそれに付随する機能なら追加出来るんじゃないかって。 私の持てる全力で改造してみたんだ」

 

 剣を渡される。

 余計な装飾が無い、端から見れば黒い棒のようなそれは非常に簡素なものだ。

 仕込み刀、と表現するのが一番か。

 

「あんまり魔改造した形跡は見えないけど……

 って、軽っ!何これ、柳みたいだ……」

「そう、それが特徴の一つ。 とにかく軽い、そして硬い、しかもしなる。 鞘と刀身は二つで一体、殴打、刺突から払い、家事曲芸までなんでもこなせる万能器具さ」

「そいつは……心強いな。銘はあるの?」

 

 ふと、訊いてみた。

 折角の一品だ、名前がないのも可哀想だろう。

 

「ん? うーん……そうだなぁ……

 じゃあ、『Vagus Clemen』とかどう?」

「ばーげす……?」

 

「微笑む首魁……甘く優しい君への贈り物だ」

「なっ……えぇ……?」

 

 色々言いたいことはあるが、そもそも自分を殺した者の遺骸を護身刀にするってどれだけ業が深いのか。

 

「ま、良いけどさぁ」

 

 真っ向から取り合う気もない。

 一つ、冗談の品として受け取っておきましょう。

 

 ……と。

 もう一人、箱庭の扉を叩くもの有り。

 

「──あれ、センパイ? もしかして朝のトレーニング中でしたか?」

 

 顔を出したのはマシュだった。

 するとそれに反応するようにダヴィンチは小さく声を漏らす。

 

「マシュ? ああ……そうだね。わざわざ呼びに来てくれたの?」

「あ、いえ、そうではなくて……」

「あははー、私に付いてきてもらってたんだった。九波ちゃんは朝いつも何処にいるかって聞いてさ」

 

 成る程、そうか。

 今日は特別早起きだったし、部屋にいなけりゃ探してくれるか。

 おまけにダヴィンチちゃんは滅多に工房から顔を出さない、私の日常を知らなくても問題はない。

 

「うん……最近はよくここにいたね、そういえば」

 

 書文に稽古つけてもらったり、一人で瞑想してたりしていた。

 部屋でやってもいいんだが、大抵何者かに邪魔をされて──ってあれ?

 

 なんだか、冷たい、視線を、感じる。

 

「……あの、センパイ。部屋で清姫さんが寝ておられましたが、何か弁明はありますか?」

「ええ!? あ、な、何もない! 何もないよ!

 ていうか清姫はもう仕方ないし何時もの事じゃない!?」

 

 慌てて、弁明にもならないような言葉をつらつらと。

 当然、納得などしてくれるわけもない。

 ぐいぐいと詰め寄られ、あっという間に劣勢に持ち込まれる。

 

「いいえ、いいえ。 センパイはきっちりと諌めるべきです! 少し、み……身持ちが軽すぎます!」

「う…… 」

 

 なんつーこと言わせてんだ私。

 其れにしても、少し顔を赤らめながら叱られるのは実に悪くない気分だ。

 末期だ。これ。

 

 ──がずん。いきなりマシュの盾が床に突き刺さるようにして出現した。

 

「……折角です。この辺りで一撃、誅を入れねばならないですね、センパイ!」

「えぇ!? な────」

 

 何時もの私服なのに、手にした厳つい大盾のせいで実に眼力がつようございます。

 

 流れるように眼鏡を外して、戦闘状態へと移行する。完全に殺る気だ、この後輩……!

 

「私、今結構ズタボロなんだけど……?」

「逆に好都合です、もし普段の状態だったら一太刀も入れさせてもらえませんから!」

 

「──、────」

 

 開いた口が塞がらん。視線をなんとか流して、後ろの二人に助けを求め……

 

「ふ、ひゅーーヒューー」

「……審判程度ならば儂も手を貸そう」

 

 一人はあまりにわざとらしい口笛でそっぽを向き、もう一人はどっちかというと乗り気だよ。

 今回は私がアウェーか……

 

「あ、ああ…… わかりました、是非やらせていただきます……」

「気合い落とさないで下さい!

 ……私も全力でいきます。私の実力を少しでも思い知らせてあげますから!」

 

 //

 

 二人して、トレーニングルームの一角──と言っても、全体が途方もない大きさなので、試合をやるには十分な広さがある──に、互いの間合いを開けて向き合う。

 

 赤須は黒き長棒を左手に構え、前傾に身を落とす。

 

「────まあ、これの使い勝手を試させてもらうには格好の機会、かな」

「……? それは……剣、ですか?」

「そう、ダヴィンチちゃんに作ってもらった。 名前は……そうだな、判りやすく『クレイメンの剣』。 武器の受け捌きの練習とも思ってやってよ!」

 

 私もきっちりやらせていただきます、マシュと試合なんてなかなか機会の無いことだ。

 その実力、存分に叩き付けてくれ!

 

 開始前、書文は先ほど決めた簡単な規定を二人に確認する。

 

「では……三撃を先に打ち込んだ者の勝利とする。ハンデとして判定有効範囲は武器を含めた全身……宜しいか?」

 

「ええ、構いません。センパイは?」

「ハンデもらってる身で意見は言えないね」

 

 マシュの盾を避けて打撃、斬撃をぶちこむとなるとスプラッタ指数がメーターを振り切ることになる。実際に出来るかどうかは関係ない。

 武器も自分の一部、と教えられているのもある。

 更に言えば試合の高速化でもある。

 

 つばぜり合い以外で打ち込みを三回、それが互いに課せられた勝利条件。

 

 両者の確認をとった審判、満足気に右の腕を振り上げる。

 

「ふむ。では────」

「開始ぃ!」

「な──?」

 

 書文の呼び掛けを思いっきりぶったぎるようにダヴィンチが試合の開始を告げた。

 何やら蚊帳の外では少々ないざこざが繰り広げられるが、こちらには何ら届かない。

 

 合図と同時に、奇襲をかけんが為に足を踏み抜いた。

 

「────行くよ、マシュ」

「ッ! 速いッ!」

 

 反射的に盾を正面に構える。

 そうだ、それでいい。

 身の丈越えし盾を持つもの、常に戦場の先陣に立て。

 確固たる守護の意志は、眼前に迫る何者をも弾き返すであろう。

 

「さぅ──ッ!」

 

 勢いに併せる、腕をひねり回転を加えた。

 そのまま柄を盾に捻り込む。

 ペースを乱されてはいけない、先手必勝を体現する。

 

「ぐっ……なんて、重い……ッ」

 

「もう、一つッ!」

 

 左手で鞘を抜き去り、慣性と引力揺らぐ刀を無理矢理に天へと向けて振り上げる。

 

 ──鈍い音が響く。高速の切っ先と盾に火花が咲き散る。

 

 これで盾に二撃、試合開始から刹那、既に窮地へ追いやった。

 

 審判二人は試合に実況をつけるように、第三者の目から戦闘を追う。

「巧い、一連の所作に二撃を交ぜたな」

「それよりも今のは反則気味だなぁ…… ちょっと急いてない?」

 

 丁度良く解説と実況で役割分けが出来たようだ。ダヴィンチの指摘に書文は笑いながら答える。

 

「何、規定上は問題ない。 そもそもこの試合に反則は存在しない、規定していないからな」

「凄い屁理屈! まあ確かに、レギュレーションってどんな競技でも曖昧なものだけどさ」

 

 書文は腕を組み、真剣にそれを眺め解説を続ける。

 

「……しかし、あれだけで気を失せる程に気骨が無い、ということも有るまい」

「そら、返せマシュー! まだまだだぞー!」

 

 ダヴィンチは思いっきりマシュについたようだ。そんな応援が、届いているのかいないのか。

 

 マシュは的確に、焦らず冷静に立ち回る。

 

「ふ──ッ、攻撃後が隙だらけですよ、センパイ!」

「………!」

 

 攻撃判定が成功した、とは言うものの実質的には通っていないに等しい。

 そしてマシュが眼をつけた通り、一連の動きが終了したとき、動きを次へと移行するその時こそ、限りある攻撃機会(チャンス)の一つである。

 

「ハァーッ!」

 

 突然だが、マシュの盾は攻防一体だ。

 その大きさから取り回しが利かない置物と思われ勝ちだが、そうではない。

 盾には盾の使い方がある、役目がある。

 味方を守護する壁を、敵を殲滅する(げき)へと置換する所作は──ある。

 

 得物を天に振り上げ、無防備になった一瞬に、その大盾を斜めから叩き付けるように打ち出す。

 

「がェ───ッ、あ゛ぁ!』

 

 盾のように大きなもので打撃を行う場合、ただ正面から打っても大したダメージが出るわけではない、衝撃が背後の空間に流れていってしまうからだ。

 よってその衝撃を少しでも外界に逃がさないよう、斜めに叩く。

 

 マシュの盾は更に言えば、身を隠すことにも長けている。 それは逃げる為のものではなく、自分の所作……足捌きや姿勢、息遣いすら相手の目線から隠すことになるまでのシロモノ。

 相手に次の動きを判らせない、これがどれだけのアドバンテージになるかは、もはや言うまでもない。

 

『────!!』

 

「弾かれた!」

「いや、あれは自力で跳んだのだ! しかし、無理な力を掛けすぎだ……! あやつでなければ四肢が有らぬ方向へひしゃげるぞ!」

 

 床に叩きつけられることを承知の上、無理矢理に後ろへ吹き飛んだ。

 しかしすぐさまに立ち上がり──否。

 

「残心がなってない、そう小次郎さんなら言います! これで一つ返……し……?」

 

 様子がおかしいことにマシュは気づいた。

 同じことを赤須も気づく。

 明らかに、疲労からくる苦しみとは違うものに取り憑かれている。

 けれど、よろめきながら立ち上がった。

 

『はぁ、はぁ、はぁ……あ、ああ………?』

 

 最初は、剣を抜いた瞬間だった。

 その瞬間から、全身に赤熱の鉄ごてを当てられたかのような痛み、熱がはしった。

 

 熱い、熱い、熱い、熱い、熱い……

 頭? 腕? 脚? 違う、違う!

 胸か。胸の傷が……裂ける……

 

 ふと、自身の胸元に視線を落とす。

 既に、肩にまで裂け目は広がっていた。

 黒い裂け目が、こちらへ迫る───

 

『あ……あああ………ぐッ……ぁ』

 

 ────いい、そろそろ舞台から降りろ。

 

 唐突に声が響いた。女の声だ。

 それは、私の声にそっくりだった。

 

 

 誰だ……? あんたは?

 

 

 ────私、だよ。

 

 

 何を…………

 

 

 ────時間だ。すぐそこに終わりがある。

 

 

 何を……言ってる……!

 

 

 ────世界を、救わなくてはならない。

 

 

 それは、私の役目だ……っ!

 

 

 ────そう。そして私の役目でもある。

 

 一層、黒い傷が広がっていく。

 頬が裂けた。

 太腿にまで裂け目は入る、進みは加速するのみ。

 

『あああああああああ!!』

 

「センパイっ!?」

 

 突然のことにマシュは叫ぶ。

 目の前の人間がいきなり壊れ始めたならば、冷静を保てる者など少ないだろう。

 

 

 目が潰れた。見えない、何も。

 鼓膜が千切れた。聞こえない、何も。

 喉が裂けた。叫べない、何も。

 

 

「あちゃー……藪つっついたら……ヤバいの引いちゃったかな……」

「ダヴィンチちゃん! 何を……言ってるんですか!?」

 

 ダヴィンチは飄々と、けれど顔をひきつらせながら武装を展開する。左手に杖を、右手にパイルバンカーを。

 

「なーに只の探求心さ。 それがなんなのか知りたかっただけだよ。

 けど……マズイかもしれない、この魔力量……神霊級……いや、それ以上の化け物だ……!」

「儂ともあろう者が……! 覇気を前に動けんとは……!?」

 

 空間は圧殺されていく。

 それは書文の放った奥義の如く、しかし乱すことなく只、威圧する。

 

 身体の自由が消えていく。

 自分のものが、自分の思う通りに動かない。

 

 

 黙れ……! 誰かも知らない奴に……この身体をやれるか……!

 

 

 ────いい、我慢するな。

 

 

『────!!! ァあ!!────!!』

 

 

 ────傷ではないよ。それは私だ。

 

 

『ぁ、ぁ──!gieeaaaaa!!』

 

 

 ────強情な所は流石に私か。

 

 ────だが、事は急くべし。 既に世界は二度も私を仕留め損ねている。

 

 

 なんだって……? 一体……何の事だ……ッ!

 

 

 ────ふむ……私もゆっくりと珈琲を飲みながら談話したい処だったが、何せ時間がない。

 

 ────〈仙道、極致開門〉、〈起動式玖番、心胆縁故(しんたんえんこ)〉…… 同期を開始する。

 

 

『ア──? ────!!!!』

 

「……! セン、パイ……身体、が…………」

 

 流れ込んで来る──裏返る。

 全身に、黒い裂け目がはしった。

 

 人の形は、既に無い。

 そこには黒い、(もや)のような人形が、立っていた。

 

『ああ……! は、はは…………なんて、ことだ』

 

 声が出る。喉など無いというのに。

 音が聴こえる。耳など無いというのに。

 景色が視える。眼など無いというのに。

 

『久しぶりの地上だ! ああ、でもなんでこうも白いんだろうここは? いやいや文句は言うまい、宿命の高座に遅刻しては相手に悪いというものだしね』

 

 ソレは、実に流暢にヒトの言葉を操った。

 ヒトらしいところなど何処にも無いというのに。

 黒い雲のような全身には目玉や口が散乱している。右手だったナニかには、未だダヴィンチの剣が備わっているが。

 

『さて……いやはや。 まだ御相手が居なかったか……そろそろ、目を醒ましてくれないか?』

 

「え……きゃ、何……!?」

 

 ソレを見た瞬間から、マシュの霊基が蠢いた。

 魔力が放出され、武装が追加されていく。

 

「───! 霊基が再臨(アップデート)していく?

 まさか、九波ちゃんが操ってるのか……!?」

『いいや、それは少しばかり異なる見解だ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれは抑止力さ、私という存在に対するね』

「何、だって……!?」

 

 装甲が展開する。手甲と腰掛けが新たに備わった。そして腰には剣が携わる。

 

 ────して、その剣を抜いた。

 

 身を横に構える。

 

 ────大盾を、自身の背後に突き立てた。

 

「違ッ、これ……私じゃない! なんで、動いてっ

 どうして……? 身体が……動か、ない……!」

 

 マシュの戸惑いに、しかし抑止は止まらない。

 剣を高く掲げ、更に強く魔力が放出される。

 彼女を中心に魔方陣が自動刻印(オートマティスム)されていく。

 それは、根源へと直結する──まさしく、魔法を使役するための魔力源。

 

「───え…… なに、何を………殺す?」

 

 概念武装(ロジックカンサー)の展開は止まらない。

 無限に等しい魔力源から召喚される黒紫の甲冑が鱗のように全身に張り付いていく。

 脚先から、手先から、腹部、肩、胸、背中。

 頭の天辺から仮面の兜が降り、彼女の明らかな周章狼狽を隠してしまう。

 

 過剰とも思われる重装の展開が終えると、再び熾烈な魔力放出が箱庭を疾った。

 鎧の狭間、全身から神々しい白の光が溢れ出る。

 

「あ、あああ……」

『さぁ…… 出逢え。これは運命だ』

 

 羽化が始まる。

 白光に紛れ、紫黒の外骨格が弾け飛ぶ。

 その弾かれた鎧が持つ魔力量は、一欠片ですら一介の宝具ほどの出力があっただろう。

 

 審判二人は余波を防御しつつ、感嘆、驚愕の言葉を叫ぶ。

 

「鎧をパージするのか!? くぅーッ、浪漫だなぁ!」

「ッ、なんという気迫……! これをあの娘が発しているのか……ッ?」

 

 まるで聖人降臨の如き魔力の奔流、その中心に佇む者。白光が晴れる間際、兜から蒼の視線が静かに煌めく。

 

 ────白騎士。

 

 それ以外に表現する言葉など無い。

 ただ、そこには純白の鎧を纏い、右手にはかの大盾、左手には十字の柄の剣を持つ。

 そう、この世でただ一人。

 全てを識り、世を去った騎士。

 

『──ああ、これ以上の悦びがあるものか。

 漸く出逢えた……勧善を以て邪悪を断つ者』

 

「セン、パイ……? これ、は……」

『……それが君の到達すべき、常世全ての善を敷く者の姿。 そして──』

 

 ……そう。

 私が此れまでに殺してきた者達の代弁者であり、星と人から選ばれた抑止力の発現(カウンター・ガーディアン)

 その剣はあらゆる穢れを裁ち、その盾は如何なる畏れをもはね除ける。

 

 そうだ。

 君は、三度目を数える世界からの刺客。

 一度目の回避は私にも気づけなかった。

 二度目の消去には為す術もなく、しかし〈赤須九波〉はそれを否定した。

 

 そうだった。

 夢にも観ていたじゃないか。

 近いうちにもう一度やってくる、と。

 相変わらず中身と外身の同期が上手くいかない体だ。今さら、ソレを目の前にして思い出すなんて。

 

 そう、なんだ。

 君は──いや。

 その、白騎士は───

 

『───私を、殺す為の姿に他ならない』

 

 不浄に冒された邪仙は、笑みを隠さずにはいられなかった。

 それは、愛しき伴侶を視るような微笑みで。

 恐ろしいことに、一切の邪気が感じられず。

 普段と変わらない、穏和な微笑み。

 

 けれど、その愛は────

 

 あまりに筋違いで────

 

 ────あまりにも、歪んでいたのだ。

 

 

 

 

 





Elicit revealing→導きに誘われ出でる者

出てきちゃいけないナニか(主人公)vs出てきちゃいけないナニか(マシュ)
ファイッ!

てことでアンリの親戚vs聖杯の騎士です。
超展開にも程があるな、まあでもしょうがない。
ちなみに最近決まったこの作品の主題は「主人公の戦う理由」です。
七章までには書ききる!(理想)
でも文章力足らねぇ……(現実)

それでは次回まで……さよなら。
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