Vanishing desire→消えてゆく願い
その日、突然の終わりがやって来た。
いったい何が起こったのか、その時は理解出来なかった。
ただごとではない何かが起きて、それに自分が巻き込まれた、ということは何となく判ったが、それ以上頭は回らなかった。
───ふと。
目の前に、誰かが見えて。
その時、あなたを見た途端、私の中から声がしたのだ。
若い男の声だ。
酷く、達観してしまったような、声。
『今すぐにアレを斃さなくてはならない。
その為に、私は貴女に託す』
───何を言っているのか、私には判らなかった。頭が理解することを放棄していた。
『どうした、剣を取ってくれ。
貴女がその剣を振るわぬと言うのならば、私がそれをやらねばならない。
大丈夫だ、案ずることはない。世界の全てが貴女の味方なのだから』
───そう、簡潔に。
───世界はそんな簡単なことで崩れ去る。
『アレを葬らなければ、世界は救われない。
邪悪の塊たる、あの怪物を世界から断絶せねばならない』
男は淡々と続けた。
しかし、私にとってはどうでもよかった。
どうでも、よかったのだ。
私は、そこで意識を手放した。
けれど、何時まで経っても私は私のままで、何処にもいくことが無かった。
苦しかった。
憤っていた。
諦めていた。
でも。
──気づけば、私の手は貴女に握られていた。
そして、告げたのだ。
女の声だ。既に、耳はその機能を為していない筈だったが、その声だけは、確かに聞き取れた。
最初に響いた言葉は、あまりにも。
「ありがとう、これで世界は救われる───」
安堵に、満ちていて────
//
黒い人形は訊ねる。
『気分はどうだい?』
優しい声、何時ものような。
私の身を案じる、貴女の、ような。
「────」
その姿は消えてしまった。
貴女は消えてしまった。
けれど──
『ふむ? ああ、喋ることを封じられたか。
私としても有難い、実に……実に残酷な配慮だ』
兜の隙間から、見える貴女は……
とても、哀しそうで。
「────」
声が出ない。
叫びたい、叫びたいのに。
『──では、始めよう』
嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
叫びたい、のに。
「────!」
動いてしまう。
この手に握られた剣は、あの人を消し去らんと。
背中を押される、世界全ての意識を以て。
只一つの、命を刈り取れと。
両者、共に神域の絶技を持つもの。
純白の騎士は紛れもなく、世界で最も偉大な騎士という名に相応しい。
然し、相対する黒い人形もまた、とある戦場にて、全ての武器において最も優秀であると謳われた。
その
詠唱を始める。
その身に封じ込めた、悪を開放せんと。
『段階を踏んでいる余裕はないな……
喰らえ──出でろ、
詠唱を終えると、人形の右腕らしきものが潰れた。
ぼたぼたと、断面から滴る黒い泥から獣が出現する。
それは竜頭を持った羊。頭にはねじまがった角が有り。口には虎の牙が見隠れす。
『続いて、北方に災禍在り。
我が左脚に成り代われ』
左脚が弾け飛ぶ。
一迅の風が吹き、それが脚を成した。
『仕上げだ。天仰げ、南方の凶人。
私の眼に写り、顕せ──
頭部、左半分が吹き飛んだ。
そこから、六つの翼が生える。
右半分には、三つの目玉が開く。
形容し難き異形、およそヒトの範疇にはあり得無い。
それはかつて、神代に存在したという悪神。
「な……なんという、邪気……! アレは、まさか……神獣、なのか……」
「四凶……! マズイなんてものじゃない、魔神柱なんて比較にならないぞ! 写し身なんかじゃない、本物の神獣だ!」
空間を占める圧力に、外部は動けない。
中世、近代の英霊には、堪えること自体が苦行と化している。
目の前の悪魔は、存在すること自体が許されない。
そして、それを認識することすら、神代より先の英霊には許されない。
「────!」
刹那、白騎士は駆ける。
走り抜ける跡には白き光が残り、影すら現れない。
光輝く十字の剣が、黒の化身に斬りかかる。
───しかし、それは獣によって阻まれた。
捻れた角が、聖剣を塞き止める。
その獣は、とある竜の子だった。けれども。
竜生九子、不成竜。
聖獣として生まれながらも、最後まで竜とは成れず、悪神として暴食の限りを尽くす。
故に、正義の名の下に征伐されることになる。
「く──ぁ……!」
『……! 抗うな、その意識に! 案ずるな、君は正しい善を為している!』
「そんな……わけ……! く──ッ!」
饕餮は角を振り上げ、剣を払った。
それだけで、白騎士は弾き飛ばされる。
「あ、あ……!! ────!」
一層強く、蒼の光が兜から漏れだす。
「────!!」
鎧が揺れた、次に気づけば。
竜頭が落ちる。
彼方の白騎士は、既に世界を置き去った。
残像が消え失せるより疾く、饕餮は斬り伏せられる。
連撃を繰り出す。十字の聖剣は一層の光を解き放つ。
『そうだ………! それで、いい!』
空を舞い、風纏う左脚がその剣筋に合わさった。
弾く、聖剣は風を捉えられない。
『還れ饕餮! 我が剣を成せ!』
再び右手が形成される──その隙を見逃す訳もなく。
騎士は盾を突き出す、これも神速に達した。
残像が幾重にも発生し、只の一撃が数千の連撃を持つ。
『くッ!』
身体を捻り、人体では不可能な動きだが、不定形のソレにはなんら問題なし。
再び
風は消え失せた。
たった二度目で、騎士は捉えられぬ筈のモノを破壊したのだ。
『ふッ……たぁッ!』
左脚を代償に、右腕を回収する。
搦め手は通用しない、故に単純な──
「────!」
拳を、捩じ込む。
白騎士は吹き飛ぶ、けれど。
残像が、残った。
本体は確かに彼方へ行った筈だ。
しかし、抑止力の援護を限界まで受けるそれには物理法則なぞ通用しない。
残像は霞み消える────こと無し。
そこから、攻撃が再開する。
『……!? そんな……凄い! そこまでか!!』
残像が実体となり、剣を振り上げた。
「────ヒカリ、ノ……ホン、リュウ……ヲ」
粒子が漂う。
輝く光が剣を包み、天へ柱を造り上げる。
───これは。
■■は、本能的に身を退いてしまった。
右腕が盾のように変化する。
まるで、主を助ける守護者のように。
また、危機を感じたのは■■だけでは無かった。
「くそ、動けない! 足が地面に張り付いているようだ!」
『ははは、すまない。 自らの地位を誇示するのはあまり好きじゃないけれど、これも皇帝特権の呪縛と諦めてくれ』
部外者を巻き込んでしまったことに謝罪する。
あまりにもねじれ曲がってしまった運命だ、けれど、私以外を道連れになぞさせない。
「皇帝特権だって……!? そんな、君は英霊なのか!?」
『英霊……か。 私は───』
ダヴィンチの問いに答えようとした、が。
やはり、そんな時間は無いようだ。
「────受ケ、よ、此の、輝キ……!」
もう、その英霊は表層近くにまでやって来ている。
深い眠りにつく筈であったものを、ここまで醒まさせたのは私であり、世界。
この世凡ての悪である私と、この世凡ての善を為した貴方は。
けして、相容れず───
「───〈
それは、
ましてや
真なる騎士のみが持つことを許された、清浄であれという呪いを受ける剣。
あらゆる不浄、穢れ、畏れ。
それら全ての悪を、断つ。
『ッッ……!!!』
光は、空間ごと飲み込んでいく。
不浄に冒された、■■がいる世界そのものを裂くように、箱庭が崩れていく。
しかし、受けきった。
右腕を代償に、更なる光を求めんと。
『饕餮……良い、働きだった。
一足先に、
光の柱は、天井を破り、外へとカルデアを繋げてしまう。
無間の如き、存在しない空間が侵食を始める。
無が、有を食い潰す。
「ああ!? 空間が……! 虚無に落ちる!」
「工房の! 手を取れッ! 引き摺り込まれるぞ!」
黒き風穴は光すら飲む、けれど、そんなことをさせはしない。
『陣地作成、空白の時空よ──閉じろ』
「……! 塞がった、だと?」
空間のひびを無理やり閉じさせた。
『大丈夫、此処を壊させはしない。
希望を潰やすことは──させない』
やっぱり……空間整形は、
今の私じゃあ、二度目は無い。
これ程の光……ああ、よくぞ行き着いた。
マシュ……君には、いつも苦労をかける──
「──あ、ぁ……セン、パイ……」
『っ…… 全く、君は……』
まだ、その意識に抗っているのか。
強い子だ。ああ、だからこそ、その英霊に選ばれたのか。
……全く、世界は何時までも変わらない。
君ならば、変えてくれる筈だ……それだけの力があれば、君はきっと全てを越える。
「だ、めです……こんな……こん、な………」
『違うんだ…… 君は、私を想ってはいけない。
────勧善であれ! 邪悪たる私を討て!』
それが、私の導きだ。
不完全なままの覚醒では変わらない。
勧善を以て世界を味方につけろ。
その為の私だ、世界を敵に回した愚か者が必要なんだ。
「どうして……いや……嫌!」
本当は、君を救いたかった。
その残酷な運命から、君を救ってあげたかった。
でも。
『君は、全てを救う聖なる光と成ればいい!
けして、けして一人なんかじゃあない!
世界の全てが、君の味方なんだから!』
「だったら……どうして……!」
「どうしてそこに貴女は居ないのッ?
どうして……私は貴女を救えない!?
何故、この身は……貴女を、殺そうと……」
君の慟哭を聞くたびに、私の心は酷く軋み、悲鳴を挙げてしまおうと暴れる。
でも、堪えなければならない。
悲恋で流す涙など、とうの昔に枯れ果ててしまったから。
『……いいんだ。だって私には救われる価値が無いんだから。それに此れは、私が望み、進んだ運命だ』
「───良くないです! だって……だって!」
心が、壊れてしまいそうになる。
君の叫びは、あまりにも正しくて。
私の行いは、これ以上無いほどに残酷なものだった。
「──私は、そんなことを望んでないッ!!」
──そう、君はこんなことを望んでいない。
けれど、私は望んだのだ。
私が抑止力に消去される前に、君を未来へと後押ししなければいけないんだ。
もう、時間が、無いんだ。
『……君にだけは、理解されずとも──』
良い。
君にならば、君の心にならば。
私は、私の命を捧げよう───
『───今一度、終の悪神を召還しよう。
我が心は
我が行いは
そして我が身、我が魂、ゆうに三千の刻を数えた!
そう、我が全ては!
久遠の果てより、正義に捧ぐと決めている──!』
堕ちろ、堕ちろ、堕ちろ、堕ちろ、堕ちろ。
それは自分自身に言い聞かせた、呪言の詠唱。
私という馬鹿者を産み出してくれた母上への感謝と、私を愛してくれたあの姉妹への懺悔と、私を信頼してくれた唯一の友人への手向け。
それと、忘れちゃいけない───
『───来たれ!
汝、永劫の闘いに身を投じる者!
汝、不屈を以て善を産み出すもの!
汝、世界を護らんが為!』
───アンタ、なんで俺なんかに構うんだ?
───だって君、強いんでしょう?
───何処の嬢ちゃんか知らねぇが、失せな。
此処はアンタみたいなのが来る場所じゃねえよ。
───君を登用したいんだ。宮に来ないかい?
───ハァ!? てめぇ馬鹿じゃねぇのか!?
───アハハ、馬鹿じゃなかったらそんなこと言わないよ。
───てめぇ……何もんだ?
───私? 私は───
『───善に仇なす悪となれ!』
───アンタよ……いいのか、天辺放ってこんな所までやって来て?
───だって君に会いたかったんだよ。
───はあ…… 何となくだが、てめぇがあんな所にいる訳が判ったような気がするぜ……
───一年に一回しか会いに来れないんだから……死なないでね?
───はっ、俺を誰だと思ってる? 〈傲狠〉にして〈難訓〉だぜ? アンタを殺すまでは死ねねぇな!
───アハハ、それは頼もしいね。ああ、きっと、君は死ねない。
───言ってろ! いいか、アンタも勝手に死ぬなよな!
『我が名の下、導きに馳せ参じるは──』
──ごめんね……こんな所までついてきてもらっちゃってさ。
──構いやしねぇよ。この命、三千年前からずっとアンタのもんだからな。此処までくりゃ、行き着くとこまで行こうぜ、主。
『──
自身の身体に残った、最後の欠片を解放する。
人形の姿が変貌していく、ここに来て初めて、ヒトの形を為す。
崩れていた肢体は虎のそれに補完され、頭部からは精悍な二対の角が生える。
その獣神はかつて四神白虎の如く白毛を蓄えていたが、今はそれも漆黒に墜ちた。
「──! い、嫌! 嫌! 動かないで!」
そして、その悪神の顕現により、聖光の白騎士は再び力を開放する。
右手は盾を投げ捨て、新たな宝具を精製していく。
「あ、ああ───」
それは黒い魔剣。
かの騎士の揺るがぬ信念を表す、粛正の剣。
白い兜から、強く、蒼の光が輝いた。
世界の意志を背に受けて、双剣の白騎士は地を踏み蹴る。
その身は人を通りすぎ、瞬く間に天へと辿り着く。
『───』
■■は、目を瞑り、軽く笑みを浮かべた。
それは目の前にいなければ判らないほど小さな笑みだったが、マシュには判ってしまった。
その小さな笑みには、安堵と諦め、悲哀と、怖れ。
もう、止まれない。
獣は、左腕を盾のように構える。
白き聖剣は、いとも容易く、それを斬り伏せた。がら空きになった懐を、今度は右の手のひらを向けるようにして守る。
「──! いやあぁぁあああ!!」
絶叫と共に、黒い魔剣を突き立てる。
揺らいだ心に、白き鎧、二振りの剣に亀裂が走る。
剣は、手を貫き、胴を抉り抜く。
正義の名の下に悪が討たれたのだ。
『が……ハッ……見事、届いた』
正義の呪縛を受けた鎧は砕ける。
身を貫いた剣も消え、支えを無くした身体が力無くだらりとマシュに寄りかかる。
「あ、ああ………センパイッ!!」
『……泣かない、で……? 可愛い顔が、見えなくなっちゃう……から、さ』
辛うじて残った右手、泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。
「セン、パイ……? どうして、身体が、薄れていって……」
『そりゃあ……身を貫かれたら……死んじゃうかなぁ……』
既に、私の身体は崩壊を始めていた。
当たり前だ、そうでなくては、この戦いの全てが無駄になる。
「何で……どうして……っ! センパイは、不死身だったんじゃあ……!」
『はは……世界から奪った力だ……
人に対しては絶対でも、世界を相手にする場合は機能するものじゃない……』
あの襲撃者に殺害されたとき、奴の体の一部を埋め込まれたのが幸いした。
かなり時間がかかってしまったが、権能を改竄して、私の身体に適応することが出来た。
お陰で、私が表層に出ることになってしまったが。
そして、私が表層に出るということは、抑止力の発現がより大きくなるということ。
あれ以上私が世界に居ては、カルデア全体に対して抑止力の修正が入ってしまう。
───仕方なかった。
『そう、か。 ようやく、か。
騙していてゴメン。私さ、幽霊なんだ。
役割があってね。 それを果たしたから、消えなくちゃならない』
「───! いやッ、いやぁ!! どうして!? 判りません! 貴女は……! どう、してッ……」
───仕方、なかったんだ。
『元々……私は居なかったんだよ。 あの日、惨状に巻き込まれ、生き残ったのは君一人だった。
君を助けようと……とある青年は……君に、手を差し伸べていたが……』
「それ、は……」
『でも……ダメだった。青年は、瓦礫に押し潰された……』
もう、私は。
君を見捨てることなんて、出来なかった。
『それでも、君は生きていた……だから、君だけでも助けようと、したんだ……』
「──っ……もう、もう、いいです……! どうすればいいですか!? センパイを、助けるには……っ!」
視線を合わせられる。
彼女は、諦めてなどいなかった。
まだ、私が世界に繋ぎ止められるだろうと。
その目には、未だ確かな光があった。
ああ、それこそ不撓不屈の精神だ。
世界を救う正義に相応しい、高潔で、輝ける意志。
それに比べて、なんて体たらくだよ、私。
自分から、手を差し伸べておいて……
自分勝手に、それを絶った。
『ふふ……でもね……私は、君も、助けられなかったんだよ』
「え──」
『……君が前へと進むのに、私は何時までも邪魔になる。 全て、忘れてくれ』
その上、自分のことを無かったようにさせようとしている。
最低、だな……
何が、君子だ……私は、こんなにも、エゴに侵されているじゃあないか……
「──!! や、やだ…… 嫌ッ……!」
一際、強く、抱き締められる。
もう、私に出来ることなんて、君の頭を優しく撫でてやるくらいしか出来ないや。
ああ─────
『ただ一つ……心残りが有るならば……
君を……救う事が、出来、な───』
言葉は、最後まで紡がれることなく。
まるで英霊のように、其れは光となって霧散した。
両腕に抱き締めていた、暖かな感触が消え失せ、両のそれは空を掴んだ。
「あ、ああ…………あ、あああああああああ!!」
彼女は慟哭する。
喉が、壊れてしまいそうになる。
涙が枯れてしまいそうになる。
心が、裂けてしまいそうになる。
彼女は恐怖する。
あれほどに大切な者を目の前で失っておきながら、心が死んでしまわないことに。
彼女が絶望に身を落として仕舞いそうになると、何者かわからぬが、揺らぐ心を固定してしまう。
それが正義という呪縛であることに、彼女は気づくことなく、あまりの狂気に精神がシャットダウンを始める。
───! ────!!
誰かが、私を呼んでいる。けれど、もう心が動かない。
薄れ行く意識の端に、只一つ思い出す。
あの日、あの地獄にあって、貴女は。
貴女は、ひどく安堵した声で。
涙を、流しているように。
私には、見えたのだ───
//
「────これで、良かったのかな……」
//
「良かったんじゃねえか?」
「世界は、在るべき姿に戻った」
「正義の光を残したままに」
「なのに、どうして貴女はそんなに悲しい顔をしているの?」
//
「それは………」
//
「ま、ようやく死ねたんだからよ。少し休もうや」
「少し生きすぎましたかね」
「大丈夫だよ。それくらいの暇は、天帝もきっと許してくれるさ」
「じゃあ、何処か旅行に行こうよ!」
//
「───いや。その前に、謝りに行こう」
//
「誰にだ?」
//
「あっちで待ってる二人にさ」
//
「ぜってぇ怒られるぞ?」
//
「でも、行かなくちゃ」
//
「絶交されるかもよ?」
//
「……それは、嫌だな……」
//
「今さっきオマエがそれをやったんだけどな」
//
「拒絶って苦しいな…… 泣きそうになる」
//
「泣いてるじゃんかよ」
//
「……ああ、そうか」
//
「これが、未練か─────」
//
「オマエは、何時まで経っても馬鹿野郎のまんまだな」
//
「うるさい。 ……じゃあ、行こうか」
「了解」
「はー、あいつらに会うのやだなー」
「もしかしたら忘れられているかも知れません」
「そんなわけないでしょ、いくらなんでも……」
「世の中に絶対はねえと思い知ったばかりだろうが」
「…………あぅ」
「別にいいだろ、また後で会いに行けばいい。
そんとき忘れられてたらてめぇは其れまでの存在だったんだよ」
「そっか……さよなら、カルデア。
ああ、出来ることなら──」
//
────次は、平和な世界で逢いたいな……
//
─────。
─────?
誰かが、呼んでいる。
「───様」
私の名前を、呼んでいた。
「旦那様、朝です。 起きてくださいまし」
「ん──っ……ふわぁ……? ……!?」
その娘は私に跨がって、今にもくっついてしまいそうなほど、密着していた。
「わーーっ!? 起きます! 起きますからどいて下さい清姫さーんっ! 」
「やっ……つれない方。 御召し物お手伝い致しましょう?」
「いいですー! いいですから廊下で待ってて下さぁい!」
そう、勢いよく両手で遮った。
すると、むにゅ、と。
「ひゃんっ」
「へ?」
柔らかな感触が、手のひらを伝って脳へと届く。
「ぁ……起き抜けから、積極的なますたぁ……」
慌てて手を引いた。
けれど、今のであちらのスイッチが入ってしまった。
「わっ! ごめんな、さ──きゃっ」
「それほどに求めておられるのならば、私は何時でも……今直ぐにでも……」
覆い被される。手を背に回され、深く、密着するように。
「あ───」
その時。
何か、妙な感覚が背骨を走った。
「…………旦那様? 泣いて、おられるのですか?」
泣いていたのだ。
悲しいわけではない。悲しいことなど起こっていない筈だ。
「す、すいません…… あれ、なんで……?」
「何か、悪い夢でも?」
そうだ、悲しい夢を見ていたかもしれない。
頭が悲しんでいるわけじゃない、心が軋んで泣いているのだ。
「───ごめん、なさい…… もう少し、このまま……」
涙は、暫く止まってくれない。
誰かを抱き締めて、抱き締められて。
私は……なんて、愚かなんだろう。
「ぅ────ぁ────」
夢か。
あれは夢だったか。
───私の名前は■■って言うんだけどさ。
否。
夢なんかじゃない。
───教えて、貴女の名前は?
私を救ってくれた、貴女の声も。
私に差し伸べられた、貴女の手も。
私を抱き締めていた、貴女の体も。
私を突き放した、貴女の心も。
ああ──私の、名前は───
絶対に、否定させない。
これが胡蝶の夢路であったととしてもだ。
私は、マシュ・キリエライト。
この地獄のような世界にあって、世界の命運を握った一人。
私の心に刻まれた、名前も知らぬアナタを救う為。
私は──貴女の為だけに、世界を駆ける。
そう、私は、決めたのだ。
あれは
もし、世界の誰もが、貴女を棄てたとしても。
今度こそ、私は──
────貴女を、救ってみせる。
//
「───一体、何が起きてるんだ……?」
管制室、メインモニターに写し出されたそれは、ロマニ・アーキマンにとっては難儀なものだった。
「歪みは、未だ残ったまま……っていうか、多分これは、此方の問題だと思うな、ロマニ」
そう、冷静に言ってのけるのは、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
「何か知っているのかい?」
「…………」
彼女は沈黙する。
しかし、少し考えた後、口を開いた。
「いや、これはどうでもいい。問題は目の前にしか存在しないからね」
「……? いや、まあ確かにその通りだ。
こんな急に、特異点クラスの反応が四つも増えるなんて……」
「第六、第七特異点への接続はどうなってる?」
「駄目だ、それどころか、第二特異点にすら接続出来ない! あそこはもう安定していた筈なのに……」
第六特異点へのレイシフト計画を寸前にしてこの異常の連鎖だ。
あまりにも不自然だが、起きてしまったことはしょうがない、ひとつひとつ解決するしか、彼らには手段がない。
「新たな反応は全部で七つか…… でも、そのうち二つはあまりにも微弱な反応だ。それは後回しで良いんじゃない?」
「そんな簡単には優先順位を付けられない、けど……今は、そうだな。やはり、第六特異点への接続を優先しなきゃならない」
「此処に来て、爆弾処理をやらされるはめになるなんてね」
はは、と乾いた笑いを溢すダヴィンチ。
けれど、ロマンは堅い顔を崩さない。
「……参った、笑い事じゃない。
今、ローマには小次郎君がいる」
「何だって? コロッセオか?」
「カルデアの食料供給線を断たれるのは非常にまずい、何とかして彼を引き上げなくては……」
「やれやれ、今日は一日中モニターから離れられないな」
そう言って、彼女はロマンの隣に腰を落ち着ける。
「手伝ってくれるのかい?」
「いや、君の話し相手にでもなっててあげようかなって」
「……はは。どんな気の回し方なんだか……」
「さて、と。ミスターサムライはどうなってるかな……?」
//
その時。
闘技場では、二人の武人が立ち会っていた。
観客は満員御礼、闘技場に突如として現れた超新星と、彼方より伝説を刻んだ風雅の剣士が試合をするというのだ。
これを見守らずして如何とす、ローマはかつてないほどの盛況を見せ。
大歓声の中心、隆々たる大男、高らかに声を挙げる。
「───如何にもッ、よいよい、オレの名を謳え無辜の民たちよ!
そう、我が名はヒコノイサセリ!」
愉快そうに、男は名乗る。
その男、実にロッカーなオールバック。
知り合いがいつの間にか染まっていた、明らかにゴールデンな影響を受けに受け。
「──いや! 今、ここで名乗るのならば!
我は四道将軍、
しかしまあ、中身は簡単には変わらずに。
「立てぃ、同郷の
自身に与えられた役を、今は外れて余興に勤しむ。
「否───何もかも、已然として始まってすらおらんぞォッ!!」
そう、何もかも。
始まりに、辿り着いてすらいない。
しかし、そんなことはどうでもいい。
「おうとも。飛燕斬りの戯れ……此なる妙技、とくとご覧あれ────」
サムライ、ゆらりと立ち上がり───
その者、名を佐々木某、雅な眼光
今再び、
完全に本家から分岐したと同時に区切り。
主人公をマシュに引き継ぎ、■■は何処かへ去った。
時系列的には五章~六章まで。
次回はキャラマテリアル三次更新。
さーてさっさと終わりに向けて書き綴りましょうかね……