ちょっと短めですが、新章突入です。
第3話 [倫敦・前]
ふむ…… そうだな、今回は男の話をしよう。
──────その男は失敗ばかりだった。それは自分のせいでもあり、周りのせいでもあった。
──────しかし、男は諦めることはしなかった。どれだけ世間が自分の才を認めなくとも、自分を信じ続けた。
──────また、男はあ「ねぇアンデルセン?」を求めて……
……………
──────男は生涯に死を求めていたが、同時に生に執着していた。彼は死を迎えたその時、その矛盾を理解した。
──────未練たらしくこの世を去った男。
その男の名は───
「ねえったら!」
「ええい五月蝿い! モノローグに思考を送り込んでくるな!お前はテレパスか!」
目の前の少女は顔を膨らます。
「だっていくら話し掛けてもずっと黙りこくったままなんだもの」
「なにか考えごとですかな?」
「……いや、なんでもない。 それよりきびきび歩け!少なくとも昼までには辿り着きたいからな」
自分の過去を振り返るなど、憐れな考えはすることもあるまい。俺は今の俺しかいないのだから。
「変なアンデルセンね」
「いや、彼はいつもこんな様子ですぞ。何しろ、常に何かに追われているのですから!」ハッハッハ
「実にブーメランだぞ劇作家。 相手を貶めつつ自虐も含めるとは、どれだけ悲劇好きだ? いや喜劇なのかもしれんがな」
これだから旅行は一人がいいと…… ううむ、これも縁というものか。
カルデアでは、呼んでもいないのにいつの間にかこいつらと一緒にいるしな。
さて、彼らについてだが───
片や、世界で最も有名な劇作家であり、俳優である。
名を、ウィリアム・シェイクスピア。
四大悲劇『ハムレット』、『リア王』、『マクベス』、『オセロ』をはじめ、多くの傑作を世に残した。
悲劇喜劇史劇を問わず、様々な物語を愛し、創り、演じた。
「世界の救済」を巡るこの「物語」も、この男にとってはただの"自らを満たすもの"である。
彼が最後に書くものは喜劇の勇者か、はたまた悲劇のヒロインか。
……どちらにせよあまりにもエピクロス的だ。逆にそこは敬するところであろうが。
そして片や"
名など存在する筈もない。
……もしあるとするならばアリス、と。
母体となるのはマザーグースをはじめとする「童歌」であり、数多の子供が求めた"ものがたりのえいゆう"。
しかし、彼女を今の彼女たらしめているのは、ただ一人の少女との絆であることを知る者は少ない。
アリスとはつまるところ"あの"アリスなのだが、まったくあの男も厄介な物語を生み出したものである。
俺もその一端を担っていると考えると頭が痛いのだがな。
……こんな妙な連中に挟まれている俺も相当の変人だ、ということは限界してから飽きるほどに実感している。
俺の名はハンス・クリスチャン・アンデルセン。生涯を作家という哀れな職に費やした男だ。
そんなただの作家が世界の窮地に呼ばれたところで何ができるというのだろうか。
……いや、俺だからこそ出来ることがあると、あの女も言っていたか。 だからなんだという話だが、あのマスターの言葉だ。
その虚言にも乗ってやろう。
そも常人が英雄だ偉人だともてはやされる訳もないだろう。
世界の危機を救うというのだ。まともな考えでは生き抜くことすら困難というものだろうさ!
「笑ってるの? アンデルセン」
「ああ、改めて愉快な現場に召喚された現状を振り返ってな」
振り返ったのは今だ。過去ではない。後悔などするだけ無駄だ。歓楽は愉快だがな。
「吾輩もそれは大いに思いますぞ。まさに"
「そうだな、俺達に出来ることはただ綴ることだけだ。 マスターもそれを望んでいるだろうさ!」
「マスターがいない時ばっかり素直になるんだから。其処だけは前から変わらないものね?」
「バカ者め! あの女に少しでも素直になってみろ。速攻で夜伽相手に選ばれるぞ。それにな……」
「それに……?」
(それはアンデルセンの偏見なのでは…?)
「は、恥ずかしいだろう。今更そうするのは」
………………
「ほんっとうに、昔から変わらないのね…」
「相変わらずですな……」
くっ
───テムズ川から流れる風が心地よいのは、けして顔が熱を持っているからではないはずだ……
「それで、今日の目的地は何処なの? もう三十分は歩いているけど。」
「うん? 言っていなかったか。安心しろ、もうすぐ見える。いや見えはしないか?」
───テムズ川に沿い歩き、ソーホーエリアへ向かう途中。
───今はもう無き大英博物館……その地下。
───つまりは、魔術協会本部。今日の目的地はそこだ。
とりあえず始まりました[抑止起動]編。
日常パート→襲来→戦闘が主な流れ…って単調極まりないな……
ロンドン編が割と長くなってしまったので、一先ず導入でぶった切りました。
次回をレムリア!(気長に待ってねの意)