「インプラント──!!」
キサゲは町中で叫んだ。
「なんだい!?恥ずかしいから叫ばないで欲しいんだけど!」
返事をしたのはこの町では見かけたことのない
少女の姿をしたインプラントが、住居の窓を開けてキサゲに返事をした。
「ああ、今日はそこか……!」
「もうさぁ、今日は
ぶつくさと文句を言いながらも、インプラントはこちらへ来る。
「それで、要件は?」
「ああ、それが……」
キサゲは男に言われたことをインプラントに話す。
こういった探し物は、インプラントに頼めば大体が解決するのでなかなかに便利だ。
「タガネが……?」
「そうらしい、一応罠ってこともある…本当かどうか探って欲しい」
「嘘であって欲しいって顔に書いてあるぜ。まあいいだろう、ちょっと探してみるよ」
そう答えたインプラントに、キサゲはキョトンとする。
「おいおい、なんだいその顔は」
「いや、あんたがこうもアッサリ私の頼みを聞いてくれるとは思わなくて…」
「キミはいったい僕にどんなイメージ持ってんのさ」
キサゲはインプラントに断られることを覚悟でここへ来た。それでもインプラントに頼んだのは、この町を虱潰しに探すより効率がいいからだ。粘っても無理ならば、諦めて自分自身で探すつもりだったが……。
「あのね、一応僕はタガネに罪悪感って物を感じているんだ。あの日は罪悪感の涙で枕を濡らしたね」
「はい、嘘」
「んん!?いやいや、本当だよ!?本当にインプラントさんは罪悪感を感じてるよ!」
「あんたが涙を持っているわけないだろう?」
「持ってるよ!世界で一番涙脆いよ!」
「いいから早く探せ!!」
「痛い!!」
キサゲに殴られたインプラントは、すぐに目を閉じる。
そのまま数秒間の沈黙の後、インプラントは口を開く。どうやらタガネを見つけたようだ。
「あー、いたいた。ここは、港の倉庫かな?」
「港……やっぱりアイツが言ったことは本当か……人数は?」
「ちょっと待ってよ…えーと、今タガネの視界を借りてるけど、ちょっとよくわかんないな、角度が悪いのかな……他に
インプラントは目を閉じたまま、また数秒沈黙する。
「ん、流石僕だ。個性の調子がいいよ」
どうやら人数を確認できたようである。
「ざっと見二十ってところかな?ここから見る限りでは、キサゲが苦手そうな個性の持ち主はいないだろうね」
「なるほど…すまなかったな、インプラント」
キサゲはそう言うと、その場を後にしようと立ち上がる。
「いや、そんなことは別にいいけれども…キミは一人で行く気かい?」
「当たり前だ」
そんな彼女にインプラントため息を吐いた。
「いやね、別にいいんだよ?でも、僕はキミが心配だ。手伝ってあげたいと思っているけども、キミはそう言ったんなら最後まで一人でやり遂げる気なんだろう?」
「何が言いたいんだ?」
「……まあ気を付けて行ってきなよ。奴らとの交戦は覗き見しない、これはキミの問題だしね。僕はつまらない嘘はつかないから、安心しなよ。
あと、帰ってきたら食事でもどう?」
インプラントはいつになく真剣な顔でそう言うと、すぐニッコリと笑いキサゲを食事に誘う。何回もそう言ってきたが、キサゲは何度もそれを断ってきた。
「そうだな…………………その金で、タガネと一緒に焼肉でも行くかな?」
「あれ?僕は?」
今日もそれは例外ではない。
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「だからさぁ、トイレ行きたいの」
「うるせぇ!垂れ流しとけ!」
「それしたらキサゲに怒られるよ」
その頃タガネはどうにかチンピラたちに隙を作ろうとしていた。
──キサゲが来るまでは、俺に手は出さないつもりなのかな?
交渉のため、とか?でも、それならもっといいやり方あると思うし……。
タガネは思考を張り巡らせる。
彼らの今までの会話、様子を見聞きしてきたが…キサゲを殺したいほど憎んでいる人間がいる中で、何を考えているかよくわからない人間がいることにタガネは気がついたからだ。
──本当にただのチンピラっぽいなぁ…キサゲ、この人たちに何やったんだろ?
「あの女遅せえな…」
「バカ、まだそんなに時間経ってねえよ」
男の一人がしびれを切らしてきた。こういった時、大体の矛先は人質に向かう。
「お前、キサゲに見捨てられたんじゃあないのか?」
その男がタガネを指差しながらそう言う。タガネをからかって、暇つぶしをしようという魂胆なのだろう。
しかしもうそんな挑発には乗らない、タガネはプイと顔を逸らす。
「生意気なんじゃないか?ちょっとは人質としての自覚をだな……」
ただでさえキサゲが来ずイライラしていたのに、タガネのこの態度。男はタガネの胸倉を掴む。タガネは個性を使うか思案する。タガネは自分の個性がそんなに好きではない、だからこそあまり使いたくはないが……。
その時だった。倉庫の扉が開き、そこから光が入ってくる。
そこから入ってきたのは太ももまで達するほど長い髪を持った女性……。
「タガネ!無事か!?」
「キサゲ?」
倉庫に入って来たのは、キサゲだった。
待ちに待ったキサゲの登場で、倉庫にいたチンピラたちは沸き立つ。キサゲに持つ恨みは様々だが、総じて目的は同じ……キサゲを殺す。ただそれだけで今、彼らは集まっている。
「へへっ!やっと来たな!」
「ノコノコ現れやがって……!」
チンピラたちの内2人が、キサゲへ近づく。
「邪魔だ」
キサゲはそう言うと2人のうち1人を殴り飛ばす。残された男は恐る恐る後ろを振り向いた。そこにいたのは、口から血を出し気絶している男……それを合図に、キサゲとチンピラたちとの戦いが始まった。
「お、おい…無個性、なんだろ?この女……」
「聞いてないぞ…」
どうやら、この場に集まったのは何もキサゲに恨みを持っている人間だけではないようだ。彼らは腕っ節だけには自身があった。何故、無個性の女1人にこんな人数を集めるのかは、よくわかっていないだろう。
無個性でも、行けるところまで行ける。そうでなくては、個性が発現するまでの人間という脆い生き物が、存在していることなんてできやしない。むしろ人間に個性なんて物、必要あるのか?それはかつてインプラントの言っていた言葉だ。その行けるところまで行ったのが彼女なのだ、チンピラ程度が敵うはずがない。
──やっぱり、キサゲって強い……!
いつも使っているワイヤーや、倉庫にある物を全て用いての戦闘はタガネを震えさせていた。
キサゲは20人余りいたチンピラたちを1時間もかからないうちに一網打尽する。この場で唯一のキサゲの弱点、タガネを捕まえている男が残るのみだ。
「ひ、ヒィ……っ」
キサゲは男を睨みつけながらタガネの元へ歩き出す。
「お、おい!止まれ!コイツがどうなっても……!」
しかしキサゲは止まらない。
キサゲに気を取られた男は忘れていたのだ、自分が今捕まえている少年は……この最悪の町で育ったことを。
───ブスッ
「な……んっ」
鈍い音がする。男の腹には1本のナイフが刺さっている。その刺した相手は、確認するまでもなくタガネだ。
「護身用に持っててよかった」
タガネはそう呟き男に突き刺したナイフを抜く。男はそのまま地面に倒れ込んだ。死んではいない…ただ、痛みで気絶しているようである。それを確認したタガネは、そちらへやって来るキサゲに向かって走り出す。
「キサゲ!」
「タガネ、怪我してない!?」
タガネとキサゲはお互い怪我をしていないか確認し、抱き合う。
「……タガネが無事で良かったよ……ごめんね、タガネ」
「ううん、俺の方こそ、ごめんなさい…」
キサゲはタガネを抱きしめる手に力を入れる。
「……謝るのは後にしよう。
コイツらは、インプラントに任せるよ……さあ、タガネ…-帰ろうか」
「うん!」
キサゲの言葉に元気よくタガネは頷く。しかし緊張が解けたせいか、タガネの目の前は黒く塗り潰された。
「タガネ?
………おやすみ、タガネ」
その言葉を聞いて、タガネは安心して眠りについた。
グダグダ?いつものことだろ、気にすんな!