barroco   作:千α

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遅くなりましたすみません!


ニオイ

 

 

 

 

「うぅ……鏨様は、大丈夫でしょうか……?」

 

 一方、鏨と別れた林子は食品売り場へやって来ていた。ここから、鏨にある物を持ってくるように言われたからだ。

 

「いいえ、森賀林子!鏨様を信じるのよ!鏨様なら、充分な時間を稼いでくれるはず……!」

 

 そうぶつくさと言いながら林子は奥へ奥へとやって来る。

 

──買い物なんて、普段行かないからでしょうか……何がどこにあるのか、さっぱり……。

 

 林子は棚ひとつひとつとにらめっこしながら進む。

 

「あ、ありましたわ!」

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「先生、一つ聞いていい?」

「……言ってみろ」

 

 鏨は人間の姿に戻った犬園に押さえ込まれ、うつ伏せになっている。

 予想以上に強い犬園に、やはりプロのヒーローだということを思い知らされる。

 

「……先生は、ヒーローだけど…()()()()()()よね」

「!」

 

 犬園は目を開く。

 

「何故そう思った?」

「だって、他の先生たちみたいに敵意を持って、戦ってないから。先生だったら、生徒と本気で戦ってくれると思う……」

「……普通逆だろ」

 

──まあ、この学校の教師ならやるか……。

 

 鋭いのか、それともただの感なのか。それは定かではないが、鏨の目は本気でそう思っている目だ。

 

「まあ、お前の言っていることは正解だ。俺は、教師ではない。俺はヒーローで、ただのスクールカウンセラーだ」

「スクールカウンセラー……アニマルセラピー的な?」

「まあ、それも時と場合によってはすることもあるが………今回は、特別にこの試験に参加している。まあ……俺みたいなカウンセラーを雇ってくれた根津校長の直々の頼みだ、聴くしかねぇだろ。

 で、だ…俺は二週間前からお前らヒーロー科の生徒全員を見ていた。そこで一番気になったのが……お前だ、地飛沫」

 

 犬園の手に力が入る。

 

 

 

 

 

【数日前…】

 

 

「イレイザー、なんだアイツは」

「アイツ……?」

「お前が逆推薦したっていう、地飛沫鏨だよ。

 こう言っちゃあアレだが、お前気が狂ったか?アイツ、俺が遠目から見ただけで、危険だとそう思った。地飛沫はどちらかと言えば、(ヴィラン)寄りだ」

 

 犬園は相澤の机を叩く。

 それに驚いた数名の教員たちがこちらを見ているが、犬園は気にしない。

 

「めちゃくちゃだ、なんだあの歪むところまで歪めましたみたいな……」

「犬園」

「なんだ」

「だからお前を呼んだんだ」

「!?」

 

 

 

 そして、そのまま現在へと時は戻る。

 

「俺はお前に問わないといけない」

「犬園さん、さっきから何の話……」

 

 相変わらず鏨は犬園に押さえつけられているが、何とかそれから逃れようとしている。しかし流石プロだ、鏨は思うように動けず、低く唸った。

 犬園は数日前の相澤との会話を思い出す。

 

──「俺は地飛沫に可能性を感じた」──

──「俺はアイツをこの三年間で……」──

 

──イレイザー、お前の本気具合はよくわかった。お前がそこまで言うなら…コイツには可能性が、ヒーローとしての素質が充分にあるんだろう……だからこそ、俺は早めにコイツを診ないといけない。荒療治になるが……文句は言うなよ……。

 

 

 犬園は一拍の間を置いてから鏨に問う。

 

「お前は、いったい何がしたい……?」

「なに……?」

 

 鏨はポカンと口を開け犬園を見る。

 

「……この試験、始まってからお前は一度も個性を使っていない。怖がってんのか?」

「怖いって、何のこと……」

「お前のことは、だいたいイレイザーから聞いている。その経験から来てんのか、お前は個性をあまり使いたがらないな」

「怪我してないし……個性、使う必要は無いし」

 

 犬園はため息を吐く。

 

「なら、お前は怪我でもすれば個性を使うのか……?」

「!」

 

 犬園がそう口にすると、鏨は急に激しく暴れ始める。攻撃される、と思っているのか……いや、おそらくこの様子から察するに、個性を使うことに対しての拒絶。

 

「……体育祭では、お前は森賀に対して個性を使った。それは使ってもお前にとってさして問題ではないと判断したから、違うか?」

 

 実際、その時以外で個性を使ったところを見たことがない。教室内では何度か使っているようだが、それだけだ。

 

──自分の個性を嫌う奴は何度も見たことがある。だが、地飛沫…ヒーローになるんだったら……お前、そうも言ってられないぞ……。

 

「いい加減……離せ!」

 

 鏨は犬園を睨む。先程までの顔つきとは大分違う。

 

「離せと言われて離すかよ。一応俺は(ヴィラン)役なんでな」

「なら、本気で来いよ!敵意も殺意も悪意もない奴と戦うの、苦手なんだから!」

 

 鏨はそう言うと、唇を噛み切る。流れた血が地面へ落ちると、その血液は針状になって犬園を襲う。それに驚いた犬園は、思わず鏨を離し、後ろへ後退する。

 

「やっとか……」

 

 やっと鏨が個性を発動させた。

 針になった血液はサラサラと霧散し消えてゆく。鏨はそれを見つめ、息を整えた。

 

「………」

 

──今、犬園さんと戦うのは避けた方がいい……俺の個性ならある程度は足止めできるし……気休めだけど。それに、そろそろ林子ちゃんが帰ってくるはず……。

 みんなと林間合宿行きたいし……今日は、頑張ろうかな。

 

 鏨は冷静になり、ここは林子と合流することを優先させることにする。少し躊躇いはあるが、鏨は犬園に背を向け走り出す。

 

「逃げる気か」

 

 犬園はドーベルマンに変身するとすぐに鏨を追う、しかしその足はすぐに止まった。目の前に赤い棒が現れたからだ。

 

「くそっ…アイツ……いつの間にっ」

 

 鏨の方を見ると、鏨の左腕から血が流れているのが確認できた。

 

──たしか、自分の血液なら流れる速度を調節することができるんだったな……あの一瞬だけ、血が流れる速度を早めたのか……。

 

 犬園は目の前から颯爽と消えてしまった鏨を探すため、匂いを嗅ぐ。だがそれも無駄に終わった。鏨の匂いが四方に散らばっているのだ。

 

「しかも、なんだ全部移動してやがる……?

 地飛沫の個性継続時間は…最近でやっと十秒……個性を使っている可能性はないはず……」

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「ふぅ……どうにか、巻けたかな」

 

 鏨はポーチの中から布を1枚取り出すと、左の二の腕に巻き付け止血する。

 

──こっちを追いかけて来なきゃいいんだけど……。

  ……一応、林子ちゃんのハンカチも一緒に移動させてるし…万が一俺と林子ちゃんと合流しても、何とか誤魔化せる、かな?

 

 鏨の足元には何かのコントローラーがいくつか転がっている。その内、最後の1つのコントローラーのレバー部分をガムテープで止めて、鏨は立ち上がる。

 

──らじこんが簡単な機械で良かった。電池入れてコントローラーで動かす…うん、上鳴くんに教えてもらっててよかった。

 

 最近、鏨はよく上鳴電気と話すことが多くなっていた。クラスメイト、特に耳郎響香は余計なことは教えるなと上鳴に強く言っていたようだが、今回はその余計なことと、鏨の手癖の悪さで危機を脱出することができた。

 今、鏨が持っているのはデパート内に置いてあった車のラジコンのコントローラーだ。ちなみにラジコンに使っている電池は流石の鏨も持っていなかったため、デパートの電化製品コーナーで手に入れた。

 

──足跡の匂いは、靴屋さんにあった新品に履き替えて服屋さんの人形に履かせたし……油断はできないけど、ひとまず安心かな。

 

「さて、林子ちゃんと合流しないと……」

「鏨様ー!」

「林子ちゃん、いいところに……でも声は抑えてね、犬って聴覚も凄いから」

「は、はい。すみません鏨様」

 

 鏨は現状を林子に伝える。

 

「今はとりあえず、犬園さんを撹乱させてるだけ。多分すぐに気付かれる、と思う」

「わ、わかりましたわ……」

「それより、アレ(・・)は手に入った?」

「はい、これですわよね」

 

 林子は()()を鏨に手渡した。

 

「ありがとう、林子ちゃん」

 

『報告だよ。条件達成、最初のチームは、轟・八百万チーム!』

 

 そこで、リカバリーガールからの放送が2人の耳に入ってきた。

 

「轟くん!」

「百ちゃん!」

 

 2人は友人の条件達成報告を聞き、驚きと喜びで顔を綻ばせる。

 

「…そっか、よかった……」

「ええ、そうですわね……まあ、百ちゃんがこんなところで躓くいたままなんて、有り得ませんから」

「気が付いてたんだ」

「ええ、親友ですもの……」

 

 体育祭以来、八百万は少々自信を無くしていた。それには、林子も気付いていたようだが……。

 

「でも、こればかりは百ちゃんがどうになしないことには……」

「うん、そうだね……とりあえず、俺たちも二人に続こう」

「はい!」

 

 

───────────────────────

 

 

 

「小癪な真似を……」

 

 そう言う犬園の手には鏨の持ち物である布が巻かれたラジコン。

 

「ずっと真っ直ぐに進むようにしてあんのか。そりゃ、同時に移動しているはずだ……」

「いましたわ、鏨様!」

 

 犬園がまたドーベルマンに変身した時、正面から林子の声が聞こえる。そこには林子が立っており、鏨の姿はどこにもない。

 

──地飛沫の奴、いったいどこに……!

 

 林子から目を離した時、林子が扇子を犬園に向ける。すると犬園の足を活性化したツルが絡めとった。

 

「なに!?」

 

 犬園がそれに焦ると、茂みの中から1つの影が現れる。それは何か液体の入ったトリガー式の霧吹きを持った鏨だった。

 

「くらえ!」

 

 そう言うと、鏨は犬園の顔に向かって霧吹きを向け、トリガーを引く。そこから噴出されたのは……。

 

──これは、酢の匂……っ。

 

「ぐわぁぁぁあああああ!!!?」

 

 犬の嗅覚は1000倍から1億倍。しかも、警察犬としても利用されるほどの優れた嗅覚を持つドーベルマンだ。人間でさえその酢の匂いを苦手に思う人が多いのに、犬が耐えられるはずがない。

 

「しかも、原料のままか!!水で薄めろ!顔面に掛かんな!鼻もげるかと思ったぞ!!」

「えー、でも犬園さん、これくらいしないと、止まってくれそうにないから」

「五倍ぐらいに薄めやがれ!!何の拷問だ!!」

「でも、これペットの躾じゃないよ、犬園さん」

「うるせぇ!!」

 

 悶絶し思わず変身を解いた犬園だが、人間の姿でも嗅覚は人並よりあるようで涙目になりながら鏨を睨みつける。

 

「けど、犬園さん、これで変身できなくなったよね」

「この悪魔が……!」

 

──正直、プロのヒーローとまともにやって勝てる気はしない。人数では、こっちの方が有利なんだろうけど……。

 

 スクールカウンセラー、そう言ったが彼もプロヒーロー。そう簡単には勝たせてはくれないはずだ。犬園が相澤と同じように、いくつか引き出しを持っている可能性だってある。

 

「林子ちゃん、援護お願いね!」

「はい!了解しましたわ!」

 

 




酢を使った犬の躾はマジで水で薄めて顔にかけないよう、鼻先を狙ってやりましょう。それでも匂いが嫌でのたうち回るので、マジで気を付けて上げてください。でも躾には最適です。

犬園「地飛沫は悪魔」
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