酢、と言う意外にして最強の武器を手に入れた鏨と林子は、犬園に対して有利に戦っていた。その酢のおかげで、犬園は2人にあと一歩というところで手が出ず、とうとう個性を使うことを諦めた。
「鏨様、お酢がもう少しで半分なくなりそうですわ」
「時間がかかり過ぎた、かな?
犬園さんが、早いところスキを見せてくれればいいんだけど…」
あくまでこの2人は犬園を捕まえるつもりだ。逃げるなんてことは、頭の端にもない。
──地飛沫の奴、攻撃に徹底しているようで、防御に徹底してやがる。酢は森賀に持たせて、攻撃を任せ自分はその援護に回る…「俺を援護しろ」…と言っていたが……。
犬園に酢を当てることに、必要以上に集中してしまっている林子を見て、鏨は彼女の援護に回ることにしたのだろう。
──これだけの個性があるのに、その視野の狭さはもったいないな……それがなければ、おそらくかなりの実力者になるはずだ。
「林子ちゃん!」
「はい!」
犬園が考え事をしている間に、林子が接近してきていたことに気が付く。犬園はすぐに人間の姿に戻り、林子から距離を取る。
ドーベルマンの姿のままでは、2人の持つ犬園にとって最悪の
しかし、犬園は焦ってはいなかった。
犬園はこちらへ向かってくる鏨を見据える。
「とりあえず、一番面倒くさいお前からだ」
「!」
犬園は拳を構え、鏨の前に立つ。鏨はそれに何かを感じたのか、一瞬迷ったがすぐに後ろへ後退しようとする。しかし一瞬、その一瞬が命取りとなった。
──カクン
犬園の手のひらが鏨の顎に当たった瞬間、鏨は膝から崩れ落ちる。
「鏨様!?」
「……気絶してるよ」
「え!?」
「ふぅ……まあこれで起き上がってきたら、コイツが人間かどうか疑うが……」
犬園は鏨が完璧に気を失っていることを確認すると林子と向かい合う。
「どうした森賀、手が震えてるぞ。地飛沫がいなけりゃ、まともに戦えんのか?」
「……っ」
犬園の言う通り、自分よりも数段強く憧れである鏨が一瞬で気絶させられてしまったことに、林子は驚き怯えていた。個性を使わなければいけないこの場面で、林子は動けずにいる。酢は、人間の姿の犬園にはあまり効果はない……。
「情けない奴め……」
犬園はそう言うと、次は林子を戦闘不能にさせようと歩み出す。
──お、終わっ。
終わる。
林子はそれを直感し、目を閉じる。
──情けない奴、そう言われた。そうだ私は一人じゃこんなにも弱い……ごめんなさい、鏨様!
林子は鏨に謝罪しながら次に来る衝撃に備える。
「いやいや、まだ諦めるもんじゃあないよ。お嬢さん」
「え?」
いつまで経っても来ない衝撃、そして浮遊感。
恐る恐る目を開ければそこにいたのは……。
「鏨……様?」
「やあ。
とりあえず林子ちゃん、キミはすぐにゲートへ。キミがここから脱出するまで、ぼ…俺が彼の相手になろう」
「え、ええっと……鏨様、大丈夫なのですか?それって……」
「最終手段だよ。犬園く…さんは、思ったより強かったし。
ほら、早く!」
「は、はい!」
急に起き上がった鏨を見て、林子は安堵と共に少しの違和感を持ったが、鏨にそう言われてしまえば従うしかない……そう思って、林子はゲートへ走り出す。
──足が動く、軽い……さっきまであんなに固まっていましたのに……。
林子が見えなくなった頃、犬園は鏨を睨み、敵意を鏨にぶつける。
「……お前、誰だ」
「何言ってるんですか、地飛沫鏨ですよ。犬園さん」
ニコニコと笑いながらこちらを見る鏨に、犬園の背中に冷や汗が浮かぶ。
「嘘付け、地飛沫は俺に対して敬語なんて一度も使ったことがないし、逃げるなんて選択するはずがないんだよ…」
「……ああ、なんだ。そんなところまで診てたのか。すごい、すごいね、あの短時間でタガネがどんな子か理解できるなんて」
「やっぱり別人か……答えろ!お前は誰だ!」
ケラケラと笑うソレを、犬園はジッと診る。もう犬園には試験のことなどは頭になかった。
「根津校長が、雄英がそんなに大切なのかな?その忠犬っぷりは流石犬って感じで、僕好きだよ」
「質問に答えやがれ!!」
ケラケラと笑うソレはさっきまでの雰囲気と売って変わり、どこか不気味なものへ変化する。
「タガネが林間合宿に来ないと、僕の計画が狂っちゃうんだ。だから、悪いとは思うけど、今回はちょっとおせっかいすることにした」
「……言葉が通じねぇのか?」
「ああ、大丈夫。僕のことはちゃんと話すよ」
犬園が瞬きをした瞬間、ソレの姿が消える。
「僕はインプラント。ただの、科学者さ」
犬園が振り返るとソレ…インプラントは一瞬で犬園の後ろに移動していた。
「───っ!?
インプラント……!?おいおい、世界最重要指名手配犯がなんで
「おっと、安心しろよ。普段からずっといたってわけじゃあない。僕はそこまで暇じゃないしね……ほら、タガネが無事にこの試験を終えるか、ちょっと心配だったから見に来たってだけさ」
犬園は腕を動かそうとする、が思うように動かない……視線を下に向けると、犬園の腕には手錠がはめられている。
「試験の合格内容は……たしか手錠はめるか、ゲートからの脱出だったよね。この木々の中じゃ、手錠はめたの確認できてないみたいだけど………まあいい機会だ。犬園くん、お話しようぜ」
「……やなこった。そもそもお前、自分の正体明かして大丈夫か?俺がこのことを話す可能性も……」
そう尋ねると、インプラントはまたケラケラと笑い出す。
「いや、それはない」
「なに……?」
犬園の眉間に皺が寄る。
そしてまた瞬きをした一瞬。犬園の目の前に手が現れる。
「何故なら、キミは僕のことを絶対に
手が、犬園の顔に触れる。
───────────────────────
「…これは……」
監視カメラで試験の様子を見ていたリカバリーガールは、その光景に驚いていた。
そこに映るのは、気絶した鏨と犬園……林子の個性でカメラに植物が被り、キチンと見ることができなかったが、両者は一瞬で同時に倒れ込んだ。しかし、犬園の腕には手錠が、そして林子はたった今、ゲートの外へ出てきたところ……つまり。
『地飛沫・森賀チーム………条件達成!!』
放送が試験会場に響く。
───────────────────────
【リカバリーガール出張保健所 】
「おいババァ!!」
「犬園、せめてガールとお呼び!」
出張保健所に、犬園が勢いよく入ってくるの後ろには、たと共に試験を受けていた林子の姿が。リカバリーガールはそう言ったが、犬園はフラフラになっており、その背に担いでいるのは、鏨だということに気が付いたリカバリーガールは、ベッドの上に急いで鏨に寝かせるように指示を出す。
出張保健所には、鏨のクラスメイトの出久がすでに来ており、鏨を心配そうに見ている。
「あ、あの!地飛沫くんは……」
「……気絶しているだけだ」
「犬園、あんたすごい熱じゃないか!あの一瞬で、いったい何が……」
「そ、それよりリカバリーガール!鏨様は!?」
保健所の中は大混乱である。
「森賀、お前は先に校舎に行ってろ」
「し、しかし……!」
「いいから!」
「……っ。わ、わかりましたわ……」
犬園にそう怒鳴られた林子は、しぶしぶ保健所を後にする。
「犬園……何があったんだい……?」
リカバリーガールが、犬園のために氷嚢を用意しながら尋ねる。
「それは………………いや、なんでもない。俺の体調管理の粗雑さが、ここで出てきたってだけだ」
「……そうかい。
緑谷、悪いけど地飛沫と犬園を校舎の保健室へ……」
「は、はい!」
出久はリカバリーガールに支持され、立ち上がろうとしたが…それは犬園に阻まれた。
「リカバリーガール、地飛沫はここに置いておいてくれ……俺は、オールマイトを、呼んでくる」
犬園はリカバリーガールの静止を聞かず、保健所をフラフラしながら出て行く。
「相澤……お前、とんでもない奴を連れてきたな……」
犬園は、この瞬間から鏨をなんとしても
雄英のために、生徒のために、最悪を招かないように……そのためには、鏨を守るということをしなくてはならない。
「畜生!!」
確かに、鏨は
だが、それでも……。
「あの野郎、うちの生徒に何やらせるつもりだ!」
試験、終了!!
ごめんなさい、もう書いてて途中から文がおかしくなったので、半分以上削りました。