【翌日、雄英高等学校・1-A】
「……とまあ、そんなことがあって、
「え───!」
昨日出久の身に起きたことを相澤は説明し、そして林間合宿の変更内容を伝えた。それに驚きざわつく教室。
「もう親に言っちゃってるよ」
「故にですわね…話が誰にどう伝わっているのか、学校が把握出来ませんもの」
「合宿自体をキャンセルしねえの、英断すぎんだろ!」
──
鏨はこのクラスが受けた、雄英高校襲撃事件を経験をしていない。そのためか、あまり
──なんだろう……すごく、胸騒ぎがする……。
そんな不安を覚えながら…学校生活前期が終わることで夏休みに入り、そして林間合宿当日。
集合場所にて、B組の林子と一言二言会話した鏨は、飯田の指示に従いバスに乗り込む。そんな鏨が窓から見ているのは、山と森。
まだそれでも見える数は少ないが、鏨のテンションは見える山と森が増えるのに比例して上がっていく。
「地飛沫、なんか目が輝いてないか?」
「ほら、山とか森とか、地飛沫のホームグラウンドだから」
前日に感じていた不安なんてなんのその。鏨は流れる風景を楽しみにながら、林間合宿に胸を膨らませている。
「ニヤニヤすんな気色悪い。あとちゃんと座れ、クソ女男」
「ごめん、ちゃんと座るね」
隣に座っていた爆豪に言われ、窓に引っつけていた顔を窓から離し、爆豪に謝る。しかし、鏨の口角は緩みっぱなしなだ。そんな鏨に爆豪はさらにイラついた。
「あ、爆豪くん」
「あ"?」
「筆記試験のテスト勉強、ありがとうね。爆豪くんいなかったら、俺も多分補習組だったからさ……」
「うるせぇ!何回言うんだよ!」
ニコニコと笑いながら、鏨は爆豪にテスト勉強の件について感謝を述べる。しかしその感謝は試験の結果発表日、その次の日、終業式の日と、おそらくは3回以上言っている。
「それでも、ありがとう。爆豪くん、意外と良い人ってわかって、良かった」
「はぁ?」
ダメだこいつ。
それが爆豪が鏨に持つ感情になっていった。
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【一時間後…】
「休憩だ──…」
「おしっこ、おしっこ…」
相澤の合図で、生徒たちはバスから降りる。バスが停車したのは展望台のような場所で、そこから山や森が一望できる。それを見て、鏨にはそろそろ限界が近づいて来た。
「つか、何ここ。パーキングじゃなくね?」
「ねえアレ?B組は?」
「お…おしっこ…」
困惑する生徒を差し置いて、鏨は相澤の元へ向かう。
「どうした、地飛沫」
「センセ、宿泊施設はどこですか?」
「……あの、山のふもとだ」
相澤はそう言って、山のふもと辺りを指さす。鏨はその方向を見て少し考え込んだ。
「バスで、何時間かかります?」
「バスならまあ昼前までには到着するな」
「今、何時ですか?」
「九時半」
それを聞いた鏨はグリンッと顔を山のふもとから相澤向ける。
「相澤先生!俺、今から走って行きます!多分、早くて昼までには着くから!」
相澤は鏨の宣言に満足そうにニッと笑った。
「行ってこい。他の奴らも後から行くだろうから、もし会ったら手伝ってやれ」
「はい!」
鏨は返事をするとすぐにバスへ行き、必要な物を取るとそのまま走り、嬉々として展望台から飛び降りた。
「え、ええええ──!?」
「地飛沫!?」
「なんで飛び降りた!?」
そんな鏨に、クラスメイトは驚き展望台の下を除き見る。しかしこの時、生徒たちは自分もここから降りることになるとは、誰も予想していなかった。
「よ──う、イレイザー!」
「ご無沙汰してます」
鏨が無事下まで行けたことを確認して、相澤は後ろから声をかけてきた人物に頭を下げる。
「煌めく
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド、プッシーキャッツ!!」」
そう言いながらポーズを決める2人のヒーロー。その横には、角が付いた帽子の少年が立っている。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
「連名事務所を構える四名1チームのヒーロー集団!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年になる…」
「心は十八!」
「へぶ」
出久がプッシーキャッツの説明を始めるが、途中で口止めをされてしまう。
「心は?」
「じゅ 十八!」
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどねあんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
「遠っ!!」
プロヒーローのうち1人、マンダレイは宿泊施設のある方向を指す。
「え…?じゃあ何でこんな半端なとこに……」
「いやいや…」
「バス…戻ろうか……な?早く…」
「今はAM9:30。早ければぁ…十二時前後かしらん」
「ダメだ…おい…」
「戻ろう!」
「バスに戻れ!早く!」
嫌な予感を走り出す生徒たち。
しかし、そんなことを許すはずもなく……。
「十二時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「悪いね、諸君」
もう1人のプロヒーロー、ピクシーボブが個性を発動し、展望台を巨大な土砂が襲う。
「合宿はもう、始まってる」
「……ん?なんか叫び声が聞こえた?」
その頃、鏨は動かしていた足を止めて後ろを振り向く。
「……気のせい?」
そう言う鏨の周りには、ピクシーボブの個性により土で作られた魔獣が、ワイヤーによって縛られていた。
鏨が腕を動かすと、土魔獣はボロボロになって崩れていく。
「コレがさっきのテレパスの人が言ってた、土魔獣か……うーん、相澤先生も結構無茶なことを……みんなを、待った方がいい、かな…?」
マンダレイの個性「テレパス」により、今A組が置かれている状況をなんとなく掴んだ鏨は、その場に立ち往生していた。マンダレイが言うには、相澤は「クラスメイトを待っても待たなくてもいい」とのことで、判断はすべて鏨に委ねられている。
鏨は今までのA組を思い出す。そこから導き出した答えは……。
「……みんななら大丈夫だよね!
USJでも、みんなすごかったらしいし!
鏨のA組への信頼は厚かった。
「あ、でも早く合流した方がいいだろうから……ちょっと道整理しながら行こう。その方が、みんな動きやすいし、俺も遅く進むし……そしたら、合流できる、かな?多分」
鏨はそう言うとサバイバルナイフを取り出し、余計な草木を薙ぎ払って進む。その間にやって来る土魔獣とも交戦し、鏨は森を突き進む。
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【PM12:50】
「ついた!」
「お前が一番か、地飛沫」
宿泊施設に鏨はやって来た。
「今何時ですか?」
「もうすぐ一時だ」
相澤がそう言うと、鏨は首をかしげた。
「もう少し、遅くつく予定だったのに……うーん、テンション上がりすぎた」
「他は置いてきたのか?」
「はい、みんなすぐに追いてくると思って。案外進みやすかったですし」
──そう思うのはお前だけだ。
「早かったね、君!」
相澤と会話をする鏨の元に、ピクシーボブとマンダレイがやって来る。鏨はそんなピクシーボブをキッと睨んだ。
「威嚇するな」
「痛っ」
ピクシーボブとマンダレイを威嚇してしまった鏨は、相澤に小突かれる。少し涙目になった鏨だが、2人を警戒するのは止めない。誰だコイツ…と声に出していなくても心の声がダダ漏れで、先程まで相澤に見せていた人懐っこそうな笑みも消え失せた鏨に苦笑するピクシーボブとマンダレイ。
「この人たちは、今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ。敵じゃあない」
「……はい。よろしくお願いします」
相澤に注意された鏨は一応頭を下げる。
「とりあえず、お昼にしよっか!」
「え、みんなを待たないの?」
「他の奴らは、もう少し掛かりそうだからな……」
──地飛沫が一番最初に来たのは予想外だった。全員待つかと思っていたが……。
──「みんなすぐに追いてくると思って」──
クラスメイト、仲間という存在を信頼することはいいことだ。しかし、今回はその信頼が厚すぎたようだ。それはズレた鏨の思考のせいなのか、それとも……。
「地飛沫」
「はい?」
プッシーキャッツの2人の手伝いをしようとする鏨を、相澤は引き止める。
「今回、この環境をお前は生徒…いやもしかすると俺たちプロよりも詳しく知っている」
「?」
「…………つまり、お前にできて他の奴らにできないことの方がここでは多いってことだ。それは、頭に置いておけ」
「………わかりました?」
本当にわかってんのかコイツ…と相澤は頭を抱える。
ここでハッキリとしてしまうであろう、鏨の他生徒のズレをきっと鏨は感じてしまうはずだ。それをどう思うかは鏨の勝手だが、1番厄介なのはそこで、自分と他生徒との間にまた線引きをしないかどうかだ。
「地飛沫、犬園もこの施設にいるからな」
「げぇ!!」
本当はA組みんなと行く予定だったけど、なんか独断で施設まで行かせてしまった……。
プッシーキャッツはラグドールが一番好きだったりする。