「個性の、強化?」
昼食を食べ終えた鏨は、相澤に今回の合宿内容を説明される。
「お前の場合、劣化している個性を元に戻すことがメインだ。欲を言えば個性をさらに強化させる」
「これでも……結構戻ってるんですけど……」
「今の個性使用の最大時間は?」
「五分です……」
「三年前は?」
「……一時間です」
鏨はそっと顔を背ける。三年というブランクは、鏨を苦しめていた。昔できていたことが、今できないというのはなかなかに堪える。
もともと自分の個性に苦手意識があるせいか、鏨は個性を扱うのが上手くない。そんな鏨の個性の課題……。
1・個性の使用時間の劣化。
2・自分の血液ならば、細かい形に変化させることができるが、他人の血液では大雑把な物にしか変化させることができないこと。
3・布やロープのような柔軟性のある物には変化させることができないこと。
大きく分けて、この3つである。幼い頃から変わらない課題だ、ステインにもよく指摘されてきた。やっとの思いで課題・1はクリアできたというのに、逆戻りしてしまった。
──あの時のステインの呆れ顔見たら、もう「ごめんなさい」としか言いようがなかったなぁ……。
「A組全員が到着するまで、おそらくまだ時間が掛かる。それまで、先に始めるぞ」
「先生、質問です」
相澤の説明を聞き終えた鏨は、はいはいと手を挙げる。
「なんだ?」
「犬園さんは、なんでいるんですか?」
鏨は、後方にこちらの様子を伺う犬園の姿に気が付いた。
「……お前は他の生徒とはやることが極端に違う。個性の劣化を直すことについては、基本的にお前の好きにやっていい」
「なんか話し逸らされたような気がしたけど……好きにやっていいんですか!?」
この豊富な緑を前にして、鏨の目はキラキラ輝いていた。そしてそれに加えて相澤の「GO」の言葉。興奮しないわけなかった。鏨はグイッと相澤に詰め寄る。そんな鏨に押されながら、相澤は「まぁ待て」と鏨を静止させる。
「俺は他の生徒の面倒を見るから、地飛沫の面倒は一切見れない。見れても、他の生徒のいないこの時間だけだ」
「えー…?」
鏨は不満の声を出すが、わがままを言うつもりはないようだ。
「そんなわけで、お前のことは犬園に見てもらうことにする」
「えー!?」
「俺じゃ不満か!?」
鏨の本気で嫌そうな叫び声に、犬園はキレた。
「不満っていうか!俺、犬園さん嫌い!」
「正直過ぎんだろ!もうちょいオブラートに包め!」
「だって俺、試験で、犬園に負けてるし……」
「なんだその俺を嫌いになる理由!?」
犬園は鏨の頬を引っ張る。それを引き剥がした鏨は相澤の後ろに隠れた。
「負けた、と言ってもお前…犬園に手錠を掛けたのはお前だろ?」
鏨の「負けた」発言に、相澤は疑問に思った。期末の演習試験でわ、鏨が犬園に手錠を掛け、そして両者気絶。それがリカバリーガールに聞いた2人の結末だ。それを聞いていれば、勝ったのはむしろ鏨のはず……。
「?
俺、犬園さんに顎に一撃貰ってからの記憶、ないですよ?」
「手錠なんて掛けたかなー?」と考え込む鏨を見てから、相澤は犬園を見る。
「……………俺に手錠を掛けたのは、地飛沫だ」
「……そうか」
それが犬園の答えだった。
「地飛沫」
「はい?」
「とりあえず、行ってこい。時間を無駄に使うな、合理的じゃない」
「俺、犬園さん嫌い!」
「ああもう!イレイザー、コイツ連れてくからな!!」
「おう、頼んだぞ」
相澤から鏨を引き剥がすと、犬園はそのままズルズルと鏨を引きずって森の奥へと進む。
「……犬園」
「なんだ?」
「隠しごとしてないか?」
犬園の歩みが止まる。相澤に背を向けているため、その表情は見ることができない、が動揺しているのはすぐにわかった。
「……今は、言えねぇ…けど、お前が心配しているようなことじゃねぇよ。いつか、絶対にこのことは言うつもりだ。それまで待ってくれ」
「…わかった」
犬園は再び文句を垂れる鏨を引きずって進む。
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【PM5:20】
「日が傾いてきたな……」
鏨は空を見ながら呟く。
「おい地飛沫、そろそろ帰るぞ」
「うん」
犬園に言われ、鏨は施設へ向かって歩く。
「で、どうなんだ?個性の劣化は直りそうか?」
「微妙」
「微妙なぁ……林間合宿中にどうにかなるのか?」
鏨は考え込む。
幼少期とは何かが決定的に違う。その違う何かがわかれば、こんなにも悩まなくてもいいのかもしれないが…鏨にはそれがなんなのかよくわからない。林間合宿中になんとかしたいが、よくて個性使用時間が少し伸びる程度が限界だろう。
──あの時の一時間も、六年ちょっとでできたことだし……。
あれこれ考えているうちに、鏨と犬園は施設の前に出てきた。
「地飛沫!」
「あ、みんな来てたんだ」
そこでバッタリとA組の面々と鉢合わせになる。
「荷物、今から運ぶの?」
「おう、この後夕飯だってよ」
クラスメイトたちがバスから荷物を運び出しているのを見て、鏨は質問する。
「おい女男」
「どうしたの、爆豪くん?」
見ているのもアレだし、と鏨は荷物運びを手伝おうとするが、それは爆豪に止められた。
「お前、ここについたの何時だ?」
「えーと………十三時前だった」
その言葉に反応したのは爆豪を含めたA組全員だった。
「昼にはついてたのか!?」
「嘘だろ!?」
「さ、流石……ホームグラウンド…」
鏨はその反応に、少々驚く。しかし相澤の言葉を思い出し、そういうことかと自分の考えを改めた。
──そっか、普通は山とか森に一人で行かせる親、いないもんね。
「ほ、ほら!早く荷物、部屋に運んでご飯たべよ!
男子の部屋は、俺もう一回行ってるから、案内するね!」
鏨はそう言うとそそくさと施設の中へと入った。
「いただきます!」
大きなテーブルを囲み、A組は夕食を取る。
「へえ、女子部屋は普通の広さなんだな」
「男子の大部屋見たい!ねえねえ見に行ってもいい、後で!」「おー、来い来い」
「魚も肉も野菜も…ぜいたくだぜえ!」
鏨が今日座っている位置は、上鳴の隣だ。その横上鳴の隣には切島が座っている。勢いよくご飯をかきこむ2人を見て、鏨は笑う。
「美味しい!!米美味しい!!」
「五臓六腑に染み渡る!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!いつまででも噛んでいたい!ハッ…土鍋…!?」
「土鍋ですか!?」
「うん。つーか、腹減りすぎて妙なテンションなってんね」
鏨も2人ほどではないが、ご飯を勢いよくかきこむ。
「あ、障子くん、そこのレバーのお皿、取ってくれる?」
「これか?」
「ありがとう」
好物のレバーが乗った皿を障子から受け取ると、鏨はそれを自分の皿に盛り付ける。
「地飛沫はレバーが好きなんだな」
「うん、大好物」
「って言うか、結構食べるよね地飛沫」
障子と耳郎と話しながら、鏨は次々に食事を胃袋に収めていく。ちなみにこれで、ごはんのおかわりは5杯目である。
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「あー、お風呂気持ちいい……」
夕食の後、大浴場へやって来た鏨たちは、湯船にゆっくりと浸かっていた。
「地飛沫、泳ごうぜ!」
「うーんと、今はゆっくりしてたい…」
「そっかー、じゃあまたなー!」
「うん、またねー…」
上鳴からの申し出を丁重に断り、鏨は肩までお湯に浸かる。
「地飛沫は、風呂が好きなのか」
「うん、いつもシャワーだったけど…お湯に浸かるのっていいね……」
常闇は顔の筋肉が全部解れてしまっている鏨を見ながら、フッと笑う。
「どうしたの?」
「いや、初めて会ったときならば、こんな地飛沫の顔を見れなかっただろうなと思ってな……」
「そう、かな?」
そう常闇に指摘された鏨は、自分の頬を揉む。
「壁とは超えるためにある!!"Plus Ultra!!!"」
「速っ!!」
「校訓を穢すんじゃないよ!!」
峰田たちの大声を聞いて、鏨と常闇はそちらに顔を向ける。どうやら峰田が女風呂を覗こうと、個性を使って壁を登っているようだ。
「………女の人の裸なんか見て、何が楽しいんだろ……」
「おま…峰田の奴も大概だけどよ……お前のそれも、どうなんだ?」
思春期の男子にあるまじき言動に、切島は鏨の肩を掴む。
「だって、胸とか…脂肪の塊じゃん?」
「もしやお前、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとか言わないだろうな……」
瀬呂にも肩を掴まれ、鏨は余計に首をかしげた。
「何言ってんの?子供は男と女がセッ……」
「ダメだ!地飛沫!それ以上はいけない!!」
「うん!お前も男だもんな!!」
「?」
切島と瀬呂に口を塞がれた鏨はチラリと峰田の方を見る。ちょうど、壁の一番上に届くか届かないかのところで、男の子…マンダレイの甥っ子である洸汰に突き落とされたところだ。
「やっぱり峰田ちゃん、サイテーね」
「ありがと、洸汰くーん!」
その女子たちの声が聞こえたかと思うと、洸汰も壁の上から落ちてくる。どうやら、女子たちの裸を見たようだ。
「危ない!」
流石ヒーロー志望者、結局出久が洸汰を助けたが、その場にいたほとんどの生徒が洸汰の元へ走ろうとしていた……。
「良かった…無事で」
「洸汰くんは、僕がマンダレイのところに連れていくよ」
「いいのか?緑谷?」
「うん、みんなはまだゆっくりしてて」
失神している洸汰はみんなに心配されながら、出久と一緒に大浴場から出ていった。
こうして、林間合宿1日目が終了した──…。
生徒の口調がわからんなるよ!!もうどないしようかなこれ!!
なんか違うなーと思ったら指摘してくださいね、全力で直しますんで。ってか、食堂の並びって…出席番号順?