「あらん、おかえりなさい!タガネちゃん」
鏨はその日、ボロボロになって帰ってきた。
もちもちアパートは、食堂や洗面所が共同のアパートである。一人暮らしで、忙しい人などがこのアパートに住んでいる。もちろん、家族で暮らしている住人もいるが、だいたいがそうなのだ。
アパートの大家をやっている元プロヒーロー・筋原理乃は筋肉質で、どこからどう見ても男にみえるが、彼女はれっきとした女性である。そんな彼女の最近の悩みは、今年からもちもちアパートに入居してきた、地飛沫鏨だ。
食堂は共同なため、ご飯は筋原と他の女性陣が入居者全員の食事を作っているのだが、鏨はその食事を食べず、自分で買ってきたコンビニ弁当を食べていた。それどころか、入居者どころか大家の筋原にも挨拶をまともに返したことがないのだ。
筋原の後輩であり、鏨の担任をやっている相澤に訳ありで、人間不信なのだと言われていたが、ここまでだとは思っていなかった。
「ってタガネちゃん!傷だらけじゃないの!?」
「……大丈夫です」
「ケ、ケンカ!?ケンカなの!?誰がタガネちゃんにこんなことを!?」
「あ、あの……大丈夫です」
鏨の肩を掴みガタガタの揺らす筋原に、鏨はタジタジになる。
「そう?鏨ちゃんが大丈夫なら…いいけど。
何かあったら、言いなさいよ。アタシこれでも強いんだからね!」
「はい………あの」
「何かしら?」
筋原はモジモジとし始めた鏨が話し始めるのを、ゆっくり待つ。
「……あの……た、ただいま……」
その瞬間、もちもちアパートに鏨の悲鳴がこだました。
「筋原さーん?鏨くんの叫び声が聞こえたのだけど、どうかしたのかしら?」
入居者の女性の一人が、鏨の悲鳴を聞きつけてアパートの玄関までやって来た。
そこにいたのは、泣きながら鏨に抱きつく筋原だった。
「タガネちゃんが!タガネちゃんが「ただいま」って!」
「落ち着いて、筋原さん!」
今日も、もちもちアパートは騒がしい。
────
「──ていうことがこの間あったんだけど。そんなにしゃべる俺って珍しい?」
「珍しいっていうか、今まで挨拶ろくにしたことがないなら、その反応も頷けるわ」
「でも、地飛沫って初めとイメージ変わったよな」
鏨は、クラスメイトのことが信用できると、そう思い始めていた。
初対面で酷いことを言った自覚はある。それをアッサリと許し、そうしてクラスメイトの一員として接してくれるのは、鏨にとってはとても嬉しいことだった。
「確かに、タガネちゃんって初めはもっとトゲトゲしてたわ」
「そう?」
「そうよ。教室によく来るようになってから、人が変わったみたい」
「………だろうね」
鏨は今まで彼女たちに向けていた笑顔を無に変え呟いた。その呟きに首を傾げる蛙吹梅雨に、鏨はなんでもないよ、とニッコリと微笑んでみせる。
ちなみに、彼女と同じく鏨に話しかけていた上鳴電気は、鏨の呟きに気が付かなかった。
筋原さんは結構気に入っているオリキャラです。この人はちょくちょく出していくつもりですw