barroco   作:千α

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遅くなりましたすみません。


3日目・鑢

 

足は動く。手は動く。

目は見える。音は聞こえる。

不思議と心がひどく落ち着いている。

まるで、これがいつもの自分かのように。

 

心はあるか。情はあるか。夢はあるか。理性はあるか。

まだ殺れるか。目の前の敵を殺れるか。今いる敵を殺れるか。この場にいる敵を全員殺れるか。

それまで動けるか。動けそうだ。なら動くしかない。ならば動こう。足を動かそう。手を動かそう。

 

そのための俺だ──。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

【出久side】

 

 それはほんの一瞬の出来事だった。

 

「彼なら 俺のマジックで "貰っちゃったよ"。

 こいつぁそちら(ヒーロー)側にいるべき人材じゃあねえ。もっと輝ける舞台へ俺達が連れてくよ」

「…!?っ返せ!!」

 

 爆豪と無事に合流できた出久たちは、(ヴィラン)の目的の一つである爆豪を守る陣形を立て、宿泊施設へ向かっていた。途中、お茶子と梅雨と合流したが、そこで爆豪がいないことに気付く。そして、出久たちの目の前には小さな玉を2つ持った(ヴィラン)・Mr.コンプレスが現れた。

 

「返せ?妙な話だぜ。爆豪くんは誰のモノでもねぇ、彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ!!」

「返せよ!!」

 

 轟は地面から、木の上にいるMr.コンプレスを捕らえようと、個性で凍らせるがMr.コンプレスはそれを軽々と避けてみせる。

 

「我々はただ凝り固まってしまった価値観に対し"それだけじゃないよ"と道を示したいだけだ。

今の子らは価値観に道を選ばされている」

「爆豪だけじゃない…常闇もいないぞ!」

 

 爆豪だけでなく、常闇もいないことに気が付いた障子は辺りを見渡す。しかし、やはりどこにも常闇はいない…つまり、常闇もMr.コンプレスに攫われたようだ。

 

──後ろ2人を音も無くさらったってのか。どういう個性だ…!?

「わざわざ話しかけてくるたぁ…舐めてんな」

 

 轟はMr.コンプレスの個性を見極めようとするが、わからなかった。

 

「元々エンターテイナーでね、悪い癖さ。常闇くんはアドリブで貰っちゃったよ。ムーンフィッシュ…"歯刃(しじん)"の男な。アレでもしけい判決控訴棄却されるような生粋のさつ人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する暴力性…彼も良い、と判断した!」

「この野郎!!貰うなよ!」

「緑谷、落ち着け」

 

 Mr.金プレスの言葉に出久は叫ぶ。おそらく爆豪、常闇を攫われたことで、冷静になれていないのだろう。

 

「麗日、こいつ頼む!」

「え、あ、うん!」

 

 轟は円場をお茶子託し、広範囲の木を凍らせMr.コンプレスを攻撃する。しかしMr.コンプレスはそれ避ける。

 

「悪いね、俺ぁ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか」

 

 Mr.コンプレスは、開闢行動隊のメンバーに通信を入れる。

 

「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後五分以内に"回収地点"へ向かえ!」

「幕引き…だと」

「ダメだ…!!」

 

 伝え終えると、Mr.コンプレスは空中を移動し逃走し始めた。

 

「させねえ!!絶対逃がすな!!」

 

 

 

 

 

「ばくごうって子もう捕まったの……まだ、二人分しか食べれていないのに…」

 

 その一報を聞いた葬儀屋(アンダーテイカー)は辺りを見渡し、周りにめぼしい人物がいないとわかると、少女の皮を被り渋々と回収地点へ向かう。

 

「まあ、私たちの目的は達成しているしいいわ。でも、開闢行動隊の人たちが納得するかしら?」

 

 ブツブツと呟き、葬儀屋(アンダーテイカー)は開闢行動隊のスピナーとマグネがいた広場へ向かう。ここへ来る前にスピナーに子供と侮られた葬儀屋(アンダーテイカー)は、もし決着がついていなかったらからかってやろうと考えたからだ。しかし、そこ考えも霧散する。

 

葬儀屋(アンダーテイカー)(ウッドカッター)!手が空いてるなら、コッチを手伝え!!』

仕立て屋(テーラー)?」

 

葬儀屋(アンダーテイカー)の頭に響いたのは仕立て屋(テーラー)の声。どうやら、切羽詰った状態のようだ。

 

『すまない。こちらは捕まってしまった』

『はぁ!?』

仕立て屋(テーラー)、落ち着いて』

 

 3人はテレパシーを通じて会話する。これはインプラントの個性の副産物のようなものであり、よく彼らはこれを利用することが多い。何故なら盗聴もされることもなく、また通話料もかからないお得だという理由からだ。

 

『さすがヒーローの卵……してやられたわ!ハッハッハ!』

『いや、お前がいなかったらアレ(・・)が切れねぇだろ!!仕事に支障をきたすな!!』

『貴方、意外と真面目よね』

 

仕立て屋(テーラー)はコホンっと咳払いすると、2人にまた話しかける。

 

『……(ウッドカッター)、本当に、もういいのか?』

『こんな自分の意思を放棄するような生活を続けるならば、一生を刑務所の中で過ごす方がマシだ……ただ、心残りがあるなら…お前さんたちともう少し一緒にいたかった』

(ウッドカッター)……』

 

『わかった。お前の意見を尊重しよう……。

 さようなら』

『さようなら』

『ああ、さようなら』

 

 そこで、ブツリという音が聞こえる。

 

『また、会えるかしら?』

『……さあな………それより今はコッチだ!』

『そうだったわ。

仕立て屋(テーラー)、どうなってるの!?』

 

 

 

「何が、劣化してるだあの野郎………何だあれ…反則だろっ」

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

【開闢行動隊・回収地点】

 

「そういえば、インプラントが連れてきた奴らなんの連絡もないけど、どうなってんだ?」

「さぁな………爆豪勝己を見つける前に、タガネを見つけたかったが……」

「アイツら捕まったんじゃないか!?実はもうトンズラして帰ってるだろ!」

 

 回収地点にいる荼毘とトゥワイスは、全員が集まる前にインプラントが連れてきた3人のことを思い出す。あの3人のリーダーである仕立て屋(テーラー)とはここへ来る前から何度か話しているが、仲がいいというわけでもなかった。腹のさぐり合いをしていた、と言ってもいいだろう。

 

──「互いに爆豪勝己を捕まえたら連絡をし合おう。タガネのほうは、競ってるわけだし連絡なしで」

 

 しかし、話しているうちに彼はあまり嘘を言わないことに荼毘は気が付いた。協力する、と言ったら最後まで協力するつもりではいるのだろう。荼毘は仕立て屋(テーラー)のみを一応は信用している、と言ってもいい。

 

「あれ?まだこんだけですか」

 

 回収地点にやって来たのは、トガヒミコだった。

 

「イカレ野郎、血は採れたのか?何人分だ?」

「一人です」

「一人ぃ!?最低三人はって言われてなかった!?」

 

 トゥワイスはトガに質問する。

 

「仕方がないのです。殺されるかと思った」

「つーかよ、トガちゃんテンション高くねえか!?

何か落ち込む事でもあったのか!?」

「お友だちができたのと、気になる男の子がいたのです」

「それ俺!?ごめんムリ!!俺も好きだよ。」

「うるせえな 黙って…」

 

 賑やかな3人の前に、Mr.コンプレスを踏み倒す形で飛んできた3人の雄英の生徒…出久、轟、障子が現れた。

 

「知ってるぜこのガキ共!!誰だ!?」

 

 出久たちは、お茶子の個性【ゼログラビティ】で身体を浮かし、それを梅雨が舌で思い切り投げ、障子が軌道を修正し飛んできたのだ。

 また出久たちの戦闘が始まり、障子がMr.コンプレスがさんざんこちらに見せびらかしていた、小さな玉にされた爆豪と常闇を奪い返す。それを見て逃げようとした3人の目の前に、ある1人の男…仕立て屋(テーラー)が姿を現した。

 

──新手の(ヴィラン)!!?

 

仕立て屋(テーラー)!お前、なんで血まみれ!?なんだよ、あんまり怪我してないな!」

「雄英の生徒か…っ!つーか最悪だ、回収地点ここかよ。おい、全員この場から逃げ……っくそ、もう来た」

「おい、どういう意味だ!」

 

 トゥワイスの言う通り、仕立て屋(テーラー)の姿はボロボロで、至るところから血が出ている。仕立て屋(テーラー)は全員にここから逃げるように言うと、草むらの方へ出久たちを蹴り飛ばす。

 

「!!?」

 

 突然の攻撃に3人は動揺するが、起き上がったその瞬間蹴り飛ばされたことで、自分たちの命が助かったことに気が付いた。

 出久たちがいた場所に大きな刃物のような何が、空から落ちてきた。まるで、ギロチンのように。それ(・・)は地面を抉ると、霧散し形をナイフへ変える。

 

「今避けるとか、本当に勘弁してよ。人数増えてるし…はぁ……もういい加減に諦めろ、いろいろと」

 

 そのナイフを持つ人影を見て、出久たちは驚愕した。

 

「地飛沫…くん?」

 

 その人影は、血まみれになってフラフラと前に進む鏨だった。

 

「チシブキダガネ!ステ様の弟子!」

「見つけてたのか、仕立て屋(テーラー)

「見つけたけど、このザマだ」

 

──地飛沫くんの様子がおかしい……?

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「死柄木くん、クイズです」

「は?」

 

 羊羹を綺麗に食べ尽くしたインプラントは、先ほどまでの機嫌の悪さはどこかに行ってしまったようで、いつもの笑顔に戻っていた。

 

「タガネの個性【赤の庭(レッドガーデン)】の使用最大時間は、今のところ五分〜十分ってところだけど…もし今、この時、タガネが個性を最大に使えたら……いったい個性をどれだけの時間使えると思う?」

「急になんだ?そんなの知るわけないだろ」

 

 インプラントの質問を死柄木は蹴る。

 

「ヒントね」

「聞いてないし」

 

 死柄木は諦めてそのヒントに耳を傾けた。

 

「タガネの個性は、体内から出た血を操るんだけどさ、使用時間…血液が体外に出た時間なんだけどさ…それがなかったら……なかなか怖いと思わない?」

 

 インプラントはそう言うと緑茶を飲んでニヤニヤと笑う。

 

「いったい、体外に出て何時間まで……いや、何年までの血を操れるようになるんだろうね…しかも、今あの子がいるのは少なくとも弱肉強食、食物連鎖が行われている森の中だ……」

「インプラント」

「どうかした?」

「それほとんど答えだぞ」

「あ」

 

 それからしばらく、2人に会話は無かったがその沈黙を破ったのは、やはりインプラントだった。

 なんと、インプラントの腕が落ちた(・・・)

 

「……うん、もう少し行けると思ってたけど…やっぱりダメだった……」

「ガタがきてるとは聞いたけど……どうするんだ?」

「ま、新しい身体(入れ物)は目星が付いてるし……あ、そうだ!いい機会だこの身体のこと、教えてあげようか」

 

 インプラントは落ちた腕で拾い、まるでボールのようにして遊び始める。

 

「いらない。何言ってるんだお前」

「この身体の子は環野境也っていう名前で、結構面白い個性を持ったヒーローだったのさ」

「………」

 

 話し始めたインプラントはもう止められない。死柄木はインプラントに話を止めさせることを諦めた。

 

「でも、どんどん周りのヒーローに追い抜かれていって彼は焦った。そこで目を付けたのが個性婚」

「確か二世代、三世代で問題になっていた、より強い個性を受け継がせるための配偶者を選ぶ……」

 

 そこで聞きに徹していた黒霧が個性婚について思い出す。

 

「そ。彼はある一人の超絶美人で強い個性を持つ、当時まだ高校生のお嫁さんと結婚し子供を作った……んだけど、彼は不祥事を起こし、ヒーローを辞めることとなった。お嫁さんには子供がいたし、子供がいたせいで中卒だったから仕事へ行ってもろくな給料も貰えず、それなのに彼はヒーローを辞めさせられたショックで毎日酒を煽っていた……結局借金塗れの日々さ」

 

 インプラントは投げていた腕を、今度はライターで炙り始める。人が燃えるその臭いに、死柄木は少し眉を潜めた。

 

「インプラント、机は燃やさないでいただきたい」

「はいはい」

 

 黒霧は注意するが、インプラントはいまいちはっきりしない返事を返す。

 

「で、「いい加減働け」ってねお嫁さんは彼に言ったんだ。すると彼はお嫁さんを殺しちゃってね」

 

 インプラントはケタケタと笑う。

 

「どんなに強い個性持ってても、一度は愛してた旦那さんだ。抵抗できなかったんだろうね……。

 子供はどうなったと思う?」

「その様子だと、子供は生きてないな」

「いや、生きてるよ。彼は酒を買う金のために、子供を最悪の場所に売ったんだ」

 

 つまり、その子供もこのヒーロー社会に苦しめられた1人…。

 

「あ、ちなみにねそのお嫁さんの名前「血飛沫(チシブキ)(ヤスリ)」って言うんだけどね!」

「血飛沫……鑢!?」

 

 死柄木はその名前を持つ人物に心当たりがあった。

 

「あれ〜?そういえば、雄英に名字の漢字は違うけど同じ音の名字の子、いたような〜?」

 

 わざとらしいインプラントの言葉を聞いて、死柄木は昔を思い出す。

 

──「私、血飛沫鑢って言うんだ!キミの名前は、何かな?」

 

「ヤスリ姉ちゃん……」

 

 




鏨の設定濃すぎる件。そんな時にはこれ、魔法の言葉「二次創作だから!」で許してください。
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