「昨日話した通り、まずは "仮免" 取得が当面の目標だ」
「はい!」
A組の教室にて、相澤は仮免取得について語る。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然、取得の為の試験はとても厳しい。仮免といえどその合格率は例年5割を切る」
「仮免でそんなキツイのかよ」
「そこで今日から君らには1人最低でも2つ…」
相澤が指で合図を送るとミッドナイト、エクトプラズム、セメントスの3人の教師が入ってきた。
「必殺技を作ってもらう!!」
「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!!」
必殺技。
それを聞いて教室は沸き立つ。ヒーローにとって必須と言えるであろう技だ。それを作るということは、彼らにとって憧れにほかならない。沸き立っているのは、もちろん鏨もそうだった。
──必殺技かぁ…楽しみ!
「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え体育館γへ集合だ」
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【体育館γ…通称、
──TDLはマズそうだ!!
──大きいなぁ……。
一同がその名称に心の底で突っ込むが、鏨はなんのことかサッパリわからず、ただ施設の大きさに驚くばかりであった。
「ここは俺考案の施設。生徒1人1人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」
「なーる」
セメントスがこのTDLについて説明をする。上鳴が頷くと、前にいた飯田が手を挙げた。
「質問をお許し下さい!
何故、仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!!」
「順を追って話すよ、落ち着け。
ヒーローとは事件・事故、天災・人災…あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られる事になる。情報力・判断力・機動力・戦闘力、他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など、多くの適性を毎年違う試験内容で試される」
相澤はヒーローの仕事について、試験ではどのような箇所を観られるかを説明する。そして、それにミッドナイトが続く。
「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」
「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有している事になるんだよ」
「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ。例エバ…飯田クンノ "レシプロバースト" 」
指名された飯田は少々驚いた。
「一時的ナ超速移動。ソレ自体ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」
「アレ必殺技で良いのか…!!」
飯田はその言葉にジンとくる。
「なる程…自分の中に "これさえやれば有利・勝てる"って型をつくろうって話か」
「そ!先日大活躍したシンリンカムイの “ウルシ鎖牢” なんか模範的な必殺技よ。わかりやすいよね」
「中断されてしまった合宿での "個性伸ばし" は…この必殺技を作り上げる為のプロセスだった。つまりこれから後期始業まで…残り十日余りの夏休みは “個性” を伸ばしつつ必殺技を編み出す…圧縮訓練となる!……地飛沫、あとでゆっくり説明する」
「ごめんなさい」
鏨は急に多くの説明をされたからか、首を傾げる。恐らく半分聞き逃していると判断した相澤は深い溜息を吐いた。それと同時に、この戦闘時以外の集中力の無さも、どうにかしなければならないと改めて再確認した。
「尚、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も平行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ、準備はいいか?」
セメントスが個性で人数分の山をつくり、エクトプラズムも同様に人数分の分身をつくった。
とにかく、必殺技をつくるのが目的だと、仮免取得の説明を鏨は頭の片隅に置いておくことにする(そもそも隅におけるほどの情報量を持っていないのだが)。
「ワクワクしてきたぁ!!」
それでも鏨も、周りと同じようにワクワクしながら必殺技について考えていた。
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「えっと、必殺技はヒーローに必須だから、その訓練する?ですか?」
「えらいザックリだな。間違いじゃないが」
1人相澤の元へ残った鏨は、わかりやすく、鏨の理解スピードに合わせた説明を聞く。
「えと、だったら先に行きたいとこあるんですけど……」
「行きたい場所?」
「はい、サポート科の…誰だっけ?
「薬師…だとっ!?」
それは、雄英体育祭まで時が遡る。
「そこの君!」
「……なに?」
鏨は1人の男子生徒に肩を掴まれ眉間にシワを寄せる。
眼鏡をかけた青年で、鏨より背が高い。
「君は、地飛沫鏨だよな!」
「………」
「そう露骨に警戒しないでくれ!俺は
鏨は「はぁ…」と曖昧な返事をする。
「2年生ってグラウンド違うんじゃ…」
「いいんだよ!俺の本領は、ここでは全く見せることが出来ないからな!」
「は、はあ……」
薬師はガシッと鏨の手を掴む。
「俺は今!恐らく俺の力が今後必要になってくるであろう生徒に声をかけている!君、個性使うと貧血を起こすそうだな!」
「はあ…」
「俺の個性は【薬創作】!君の貧血を軽くする薬も作れるかもしれない!安心してくれ、評判はいいんだ!」
「はあ…」
「まあ、気が向いたら俺の工房へ来てくれ!きっと役に立ってみせるさ!!」
そう言いながら、薬師は去っていく。
鏨はポカンとしながら、その背中を見送った。
「なんだ、あれ……」
全てを相澤に話すと、相澤は頭を抱える。
「相澤先生?」
「いや、何でもない。薬師か…確かに腕は良いんだが…良いんだが…」
相澤は薬師有人について思い出す。
薬師有人、サポート科に在席している2年生で、薬マニア。自分の個性を活かしてヒーローのサポート製薬会社を作ることを目標としている生徒である。しかもそれはこの段階でもう順調であるという。
しかし、今ではそこそこ大人しいものの、1年時に打ち立てた数々の伝説が、未だに教師たちが彼を苦手とする理由だ。
「……くれぐれも、くれぐれも気を付けろ」
「はい!」
鏨は手を挙げて返事をする。
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「……ここでいいの、かな?」
鏨はサポート科の研究室へやってきた。
「……しつれいします」
鏨が入ると、そこにはグロッキー状態の生徒が数名いた。
「ふぁ!?」
思わず叫び声を上げると、その声に反応して、1人の生徒がこちらへ向かってくる。
「地飛沫!地飛沫じゃないか!?」
「あ、どうも……」
それは先ほどの状態は目の錯覚かと疑うほどの爽やか笑顔を見せる薬師だった。
「みんな起きろ!久々の客人だ!」
「ひ、久々って……今、新薬開発のことを論争して…」
「また学校に泊まり込んじゃった…先生に怒られる…」
「あ、なんか忙しそうだから、俺はこれで……」
鏨は思わずドアを閉めようとするが、それを薬師に阻まれる。
「遠慮するな!俺は君なら新薬開発のヒントをくれるとそう思っていてな!」
「いやいやいや、本当にしつれいしました!ってか力強い!!」
必死にスライドドアを閉めようとするが、薬師の思わぬ力の強さになかなかドアが閉まらない。というか、ドアから覗く薬師の爽やかな笑みが怖い。
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「さて!今回の新薬開発チームに加わってくれた!地飛沫鏨だ!」
激しい攻防の末、鏨は折れた。
というよりも、そうでもしなければ鏨が困ることになっていたので、初めから折れる未来しかなかったのだが。
「よろしくー」
「よろしく?」
ざっと見てこの場に5人の生徒がいた。
驚いたことに全員眼鏡だ。
「だが、地飛沫が何のためにここに来たか、俺たちは理解している!仮免許取得試験、だろう?」
「あ、うん」
「なので、俺たちはこれから全力で地飛沫をサポートすることにした!」
薬師はグッと拳を胸に当て、ニッカリと笑った。
「地飛沫の個性は【赤の庭】。血液を多く消費する個性だ!
他人の血液も使えるが、血液型でその精度が変わってしまう!だから、地飛沫は自分の血液を使っている…だよな?」
「うん、合ってる…ってかどこで調べたの?」
薬師の説明を聞いて、生徒たちはノートに情報を書き込む。
パイプ椅子に座った鏨は、出されたお茶を少し訝しげに見ながら薬師に尋ねる。
「根津校長に直談判して、聞いてきた!」
「いつの間に!?」
「さっき、俺たちのチームメイトが行ってくれたぞ!」
薬師はいつの間にか7人に増えた生徒の内2人を指差す。
「個性【テレポート】です」
「個性【手紙】です」
個性【テレポート】
一瞬のうちに移動ができるぞ!ただし、行ける場所は行ったことのある場所のみ。一緒に移動できるのは2人まで!
個性【手紙】
封筒に宛先を書けばなんでもその人の元へ送れるぞ!物の移動も、本人が「封筒」だと思った物に入れれば速達できる!
「さて、俺たち薬師製薬会社(仮)の歴史にまた、新たな1ページができるぞ!!」
薬師製薬会社(仮)は「おー!」とさっきまでのグロッキーを思わせないやる気に満ちた顔で、拳を上に突き上げる。
「なんだ、これ」
薬師くんはかなりの爽やかボーイです。
そういや、2年生って全然出てこないなー、と思ってやらかした感じですてへぺろ(´>ω∂`)☆