barroco   作:千α

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「というか、俺は詳しくアンタの個性知らないんだけど」

「言っていなかったか?」

 

 鏨は盛り上がる薬師製薬会社(仮)の面々を見て、あきれ半分で薬師に聞く。このテンションに当分はついていけそうにはない。

 

「俺の個性は前も言ったが【薬創作】だ。まあ、簡単に言うと、新たな薬を閃く個性だな!」

 

 薬師は胸を張る。

 

「でも、それって他の人と話し合う意味ないんじゃないの?」

 

 鏨はその薬師の言葉に納得しかけて、あれ?と首を傾げる。すると、薬師は不敵に笑う。

 

「この個性は、普通に使えないんだ」

「普通に使えない?」

「そうだ。俺の個性は、あくまでそこ(・・)に至った時の閃きだ。その閃きのためには前段階を踏まなくてはならない」

 

 薬師はそう言うと、さっそく新薬の話し合いをする薬師製薬会社(仮)を見る。

 

「その前段階には、誰かと議論し、実験を繰り返さなくてはならない。そしてその全てのアイデアが繋がった時に、新薬の作り方がわかるようになっている。

 俺の個性は、誰か(・・)がいないと意味がない。それでも、俺の大事な、自慢の個性だ!」

 

 鏨は、へぇーと頷くが、イマイチよくわかっていないようだ。

 

「例えばこの液体薬!」

 

 薬師は棚の上に置かれた瓶を取り出す。

 

「これは、5徹した末に創り出した笑い薬だ!」

「はぁ…」

「実はうちのメイトが3人服用したんだが、全員2時間30分キッカリ爆笑を続けて動けなかった。(ヴィラン)に襲われた時、これを使えば笑いすぎて襲ってこれない。その間、ヒーローに連絡ができるようになる!」

 

 鏨は、またへぇーと頷くが、今度は本当に関心していた。これがあれば、襲われても個性を使わず撃退できる。しかも、爆笑というものは、かなり体力を使う。なかなかに(ヴィラン)対策に視点を置いた薬だと言えるだろう。

 

「まあ、俺たちは地飛沫が必要になるであろう薬を作っておく。なにか、要望はあるか?」

「んー、強いて言うなら、貧血どうにかしたい」

「了解だ!

 地飛沫も、まだ用事があるだろう?そっちへ行っていていい。試作品ができたら連絡しよう」

「うん。じゃ、よろしくー」

 

 鏨は手を振る薬師製薬会社(仮)の面々に軽くおじぎをしてからTDLまで戻る。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「あれ?飯田くんと麗日さんと緑谷くんは?」

「今サポート科に行ってるよ」

 

 鏨は上鳴に話しかける。

 

「そっかー、みんな頑張ってるんだね」

「俺も結構試行錯誤してみてんだけど、けっこー難しいよな」

 

 鏨はうんうんと頷く。

 必殺技については、もうほとんど完成に近いだろう。そもそもそれを前提とした技は幾つか持っている。まあ、個性劣化のほうをなんとかしなければ意味が無いのだが。しかし、記憶の片隅にはあの林間合宿で個性を自由自在に操っている自分がいた。

 

──火事場の馬鹿力?ってやつ、かな?

 

 もしあの状態を維持できるのであれば、と考える。そもそも自分は個性を上手く使える時と使えない時のムラ(・・)が大きすぎる。

 

「地飛沫はもう必殺技とか考えてんのか?」

「うん。まあ、個性使用時間をどうにかしないと、マトモに使えないけどね」

「ああ、うん。頑張れよ」

「がんばる」

 

 遠い目をした鏨は力なく笑う。

 

「地飛沫、ちょっといいか?」

「どうしたの、轟くん?」

 

 鏨が、体力的を付ければ個性使用時間延びるかな?と思いいたり、ワイヤーを取り出した時だった。轟は鏨を引き止めた。もちろん、鏨は引き止められる。

 

「訓練に付き合ってくれないか?」

「俺が?」

 

 鏨は首を傾げる。正直、自分の個性が轟の個性の訓練に役立つとは思えない。

 

「個性じゃなくて、地飛沫の相手を翻弄する動きで訓練したい」

「俺の動き?でも、それ…」

「個性の同時発動、咄嗟の判断でも動けるようにしておきたい。頼む」

 

 そこまで頼まれてしまったら、断る理由が無くなってしまう。自分も丁度、体力作りをしようと思っていたところだ、タイミングがよかった。

 

「うん、いいよ」

「そうか、すまないな」

「大丈夫。俺、サポート科の人の作ってる物がができるまで、暇だし」

 

 ならそれまで頼んだ、と轟に言われて鏨は頷いた。

 

「そういえば、地飛沫はコスチュームはどう改良するつもりなんだ?」

「……?」

 

 鏨が首を傾げると、周りにいたクラスメイトたちが躓く。

 しかし、コスチュームの改良なんて考えてもみなかったのである。急にそんなこと言われても困る。

 

「俺、個性は傷付けば傷付くほど有利になるから、これでいいかなー?て」

 

 轟は鏨のコスチュームをジッとみる。

 薄い。それが鏨のコスチュームを見た感想である。紙装甲にも程がある。唯一守られてそうな場所といえば、マフラーをしている首元と厚手グローブをした手、あとブーツを履いた足だけだ。それを言うと、鏨はニッコリと笑う。

 

ステイン(師匠)がね、なんか、この部分だけは守っておけって」

 

──動脈があるからな。

 

「なんでだろうね?」

 

 何故ステインがこの箇所を守れと言ったのか、鏨は全く理解があるできていないようだ。

 

「でも、コスチューム改良…ちょっと、やってみたいかも?」

「……顔、隠してみるとか?」

「顔?…お面、とか?」

 

 轟はそう言った鏨の相談相手になることにした。コスチュームのことで、本気になって悩む2人はとても微笑ましかったという……。

 

「今はいい、かな?後で考えてみる。

 それより、轟くんの訓練始めよう」

「ああ、わかった。よろしく頼む」

「うん、がんばる」

 

 鏨は拳をぐっと握った。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

【2日後】

 

「あれ?地飛沫くん、そんなお面持ってたっけ?」

 

 出久はいつもマフラーを巻いている首元に、もう1つ付属品が付いていることに気が付いた。それは口元だけを隠せるようになっている狐面だ。

 

「これ?なんか、この間、轟くんと、コスチュームの改良の話してて…それで、くれた」

「くれたの!?」

「高そうだから、いいって言ったんだけど、埃かぶってるだけなら、もったいないからって……」

 

 鏨は嬉しそうにして、その狐面を口元に被った。出久は轟のほうを見る。本当にいいのか?という意味を込めて。

 

「……弟が欲しかったんだ」

「地飛沫くん同じ歳!」

 

 今まで4兄妹の末っ子だった轟からすれば、姉、兄という存在は憧れでもあったのだろう。鏨のことは大切な友人だとは思っている、だがどうしても鏨の弟属性が轟のそういった側面を刺激したようだ。

 

──でも轟くんの気持ちがわからなくもない。

 

「ただ、戦闘に関してははそんなこと言ってられないな」

 

 もらった狐面を嬉しそうに付け外しを繰り返す鏨を見て轟は呟く。

 

「あの林間合宿の時みたいには個性を使えていないみたいだが、それでも、地飛沫は身体の使い方が上手い」

「うん、僕もそう思うよ」

 

 1度鏨の動きを参考にしようとしたことがあった。しかし、程なくしてからそれは無理なことだとわかる。鏨の動きは基本的に次どんな動きをするかわからない。「右にから行こう、やっぱり左」といったふうに直感型で、判断することが素早くできる。そして、それに対応する身体の使い方。それは鏨の下半身の柔らかさと、バランス感覚などを使ってできること。その2つが合わさってこその、鏨の動きだ。

 

「地飛沫くんの動きは、地飛沫くんだからこそできることなんだ…」

「まあ、その直感が戦闘時とか訓練時にしか使わないってのは…もったいないな」

「そうだね…」

 

 鏨の直感は、日常生活においてはほぼ使われない。それはそれで、鏨がこの生活を日常だと思えている証拠なのだが…。

 

「緑谷くん、轟くんどうかした?」

「ううん!何でもないよ!」

「……?」

 

 戦闘時と日常生活の時とのギャップが凄まじい。

 と、その時鏨は背後で起きた爆発音を聞く。

 

「!?」

 

 やはりと言っていいのか、それは爆豪の仕業であった。

 

「あ、危なっ」

「チッ、邪魔だ地飛沫!」

「あ、うんごめん…」

 

 鏨は爆豪に睨まれて謝る。別に怖いとかそんなのではなくて、本当に鏨は爆豪の邪魔になっていたからだ。

 

「ん?っていうか今名前……」

「……チッ」

「また舌打ちされた!?でも、名前!爆豪くんが名前!緑谷くん、轟くん、爆豪くん名前!」

「うん、良かったね地飛沫くん」

 

 興奮しているようでいろいろと抜けてはいるが「緑谷くん、轟くん。爆豪くんが俺の名前呼んでくれた!」という意味なのだろう。その嬉しそうな顔が微笑ましい。

 

「……これが、弟」

 

 ※鏨は轟くんと同じ年です。

 しかも誕生日は轟の方が後になっています。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 こうして、訓練開始から3日経った頃、薬師に開発してもらっていた薬が出来上がったのであった。

 

「久しぶりだなTDL!」

「な!?薬師!?なんでここに!?」

「久しぶりです先生方!!」

 

 薬師の登場に、先生方は驚きを隠せない。

 

「あれ?薬師さんと知り合い?」

 

 聞くと相澤は遠い目をした。

 

「相澤先生!相澤先生ではないですか相澤先生!」

「……久しぶりだな」

 

 薬師は相澤を見つけると、そのまま相澤のところまで向かった。面識があるようだ。

 

「地飛沫、知り合い?」

「うん、サポート科の2年生」

「よく2年生に頼めたな…」

 

 相澤は若干薬師の言葉をスルーしているが、仲が悪いというわけではないようだ。いったいどんな関係なのだろうか。

 

「あの子、もともとヒーロー科で彼の生徒だったのよ」

「ミッドナイト先生!」

「それ、マジっすか!?」

 

 その意外な言葉に、生徒たちは驚く。

 

「レスキューポイントを稼ぎに稼いで合格。昨年除籍処分したクラスの中で唯一最後まで残ってたんだけど…ちょっとある事件起こしちゃってね…自主的にサポート科に編入したのよ」

「ある事件?」

「モウ、薬師ノ個性デノ事件ハ起シテ欲シクハ無イナ」

 

 教師たちはうんうん、と頷いた。

 

──本当に何があったんだー!?

 

「さて、地飛沫!これが、君専用に開発した薬だ。無難に血製剤と呼んでいる!」

「ありがとう……」

 

 鏨は薬師に手渡された筒状カプセルに入った錠剤をまじまじと見る。

 

「効果が出るまで時間が掛かるからな、休憩時に飲むことをオススメする!だが、これで貧血はだいたいは解決できるだろう。

 簡単に言うと、これは血を作る薬だ。水と一緒に飲み込まなくても飲みやすいようにしてある!ただし、血が大量に流れている時や飲み過ぎには注意しろ。逆に悪影響を及ぼすからな」

 

 鏨はカプセルの蓋を開ける。このカプセルは、1つずつ錠剤を取り出せるようになっているらしい。口の部分が狭くなっている。

 

「まだ、改善の余地はあるが、それは今後の地飛沫の反応を見てみないと、どこをどう具体的に改善するか、目処が立たないからな」

 

 何かあったら知らせてくれ!と言い、薬師は工房に戻ろうとするが、そのまま扉に激突する。

 

「……また、新薬を開発したら、持ってくる」

 

 そして何事も無かったかのように、しばらくの沈黙のあと扉を開けた。

 

「………ミッドナイト、薬師ヲ眠ラセテ来テクレナイカ?」

「全く、いったい今回は何徹目なのよ……」

 

 

 

 

 

 こうして、仮免許取得試験当日がやって来た!

 




もっと薬師くんたち製薬会社(仮)メンバーと絡ませたかったけれど、グダリそうなのでやめました。
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