鏨はこの一次試験はもちろん合格できると確信した。
なぜなら、鏨の得意分野は奇襲である。不意を付くのは1年生の中では1番上手いとよく言われる。本人はヒーローっぽくないなどと嘆いているが。
「じゃ、俺は向こう行くね」
「え、地飛沫くんまで!?」
爆豪と轟がクラスメイト達と離れたあと、鏨も出久にそう宣言してその場を離れる。あと、あそこにいると嫌な視線を感じるのでそれを避けたいというのもある。
──…視線がまだ付いてくる。あの人は、何を見てるんだろう?
だから、鏨は目の前にいた彼女にすれ違い様にこう言ってやるのだ。
「血の匂い、消せてないよ」
「……!」
もうお前の存在はわかっている、と。だがそれは彼女の個性の問題で、気にするべき存在ではないかもしれない。しかし、彼女からは嫌な感じしかしないのだ。だからこそ、警戒して警告しておこうと鏨は周りに聞こえないようそう言った。
「ご忠告ありがとうございます」
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「この辺りには誰もいないな」
「そうだな…雄英の人達を狙っていたけど、見失ったし」
彼らはターゲットを見つけるために、少し入り組んだエリアへ来ていた。同じ高校の人間達とは度重なる連戦によってバラバラになってしまっていたために、今では2人になってしまっている。
──それにしても、どうしてこんな所に来てしまったんだろう?
その視界の悪さのせいで、数歩先にはまた違う道に出会うため、いったいいつ相手と遭遇するかわからない。その証明に、先程から彼らを狙う攻撃が止まない。
「姿が見えないってのは、厄介だな」
「お、おいこれって……!」
気が付けば、彼らは至る所に少量ではあるが血が転々とある行き止まりへと着いていた。
「ここで…何が……!?」
すると、彼の脇腹に鈍い衝撃が与えられる。
「なんだ!?」
「雄英の……確か、地飛沫!」
突然現れた鏨に驚く。しかし鏨はそんな余裕を2人に許すことは無く、すぐに【赤回路】で目の前から姿を消して、2人の後に回り込む。
──2つ!
またも、鏨はボールをぶつける。
ナイフと違って少し扱いづらいが、それでも混乱する相手を仕留めるには余裕だった。反撃をする時間は与えない。
──本当に上手くいった。
鏨はまず、ボールをぶつける場所を決めてから、自身の個性が活かせるようなセッティングをし、めぼしい人物に目を付けて追いかけて、分断してここまで誘導してきたのだ。
上手くいくとは思っていなかったが、ここまで上手くいってしまうと、
そうこうしているうちに、相手を翻弄する動きで完璧にこの2人を仕留めることに成功してしまう。
「なんか、反撃なくて、動き足りない」
物足りなさそうに鏨は呟いてから、辺りを見渡す。あの嫌な視線はすっかり無くなった。
──一応、みんなには伝えておいた方がいいよね。誰を見ていたのか、結局よくわからなかったし……。
鏨は試験管の指示通りに控室に移動する。
もしかしたら、クラスメイトの何人かは控室にいるだろうという期待を抱いて……。
「!!」
「!?」
控室前に辿り着く直前、鏨は冷や汗をかいた。何故か目を輝かせている夜嵐イナサと遭遇してしまったからだ。
「こんな所で会えるなんて!」
「ア、ハイ」
思わず敬語である。
「俺は夜嵐イナサっス!」
夜嵐は鏨に手を差し出す。恐らく握手を求められているのだろう。
「………………地飛沫鏨」
引き下がらないと見た鏨は、渋々と夜嵐と握手をする。
ちなみに、夜嵐が今回の試験の初めで派手なことをして脱落者を120名を出したのを見ていた鏨は「うわ、俺には絶対無理」など考えていたりする。
「地飛沫鏨!!いい名前だな!」
「そ、そう?」
鏨は少し俯いて照れる。チシブキという発音が、どうしても"血飛沫"のほうを連想させ、名乗ると微妙な顔をされる鏨はこの反応が新鮮だった。
「……何でここに?初めに合格してたでしょ?」
「トイレだ!」
「そう…」
鏨と夜嵐は控室に入る。中には鏨が予想していたよりも多くの人数が集まっており、少し呆気にとられる。
──やっぱり、待つのは効率悪かったな…。
控室を見渡してみるが、クラスメイトはまだいなかった。
「あ、机にあるのは勝手に飲み食いしていいようだぞ!」
「うーん…他人が用意したのは、あんまり、好きじゃないから……飲み物なら、持ってるし」
「流石!準備万端だな!!」
薬用にボトルを腰のケースにしまっているので、飲み物に関してはこの場にある物は手を付けなくても大丈夫だ。ただこのボトルのせいで、少し動きづらくなったのが不満だったが。
「一応飲んどくか」
鏨は錠剤入れを取り出して薬を口に放り込みボトルで流し込む。大した量の血では無かったが、それでも念のためだ。
「そういえば、地飛沫は雄英の中では1位通過だな!」
「こういう、不意打ちとかなら、得意だから……」
「何かコツとかあるのか!?」
「……3ヶ月、サバイバルしたら、身に付くんじゃない?」
「なるほど!」
雄英の中では1位……別に自分が他の人達よりも特別優れているとは思っていない。だが、これだけ先に合格している人数がいて、その1人めの通過者が1年の夜嵐だ。1年の差があるだとか、そんなことは言っていられない。鏨はそう思い、この時夜嵐にしっかりと意識を向けた。
「アンタにとって、ヒーローって、なに?」
夜嵐を見て、なんとなくそう尋ねなくてはならないような気がした。
「俺にとってのヒーロー…熱さだ!!」
「熱さ」
「そう!その熱さが、人に希望とか感動を与える、伝える!!」
クワッと目を見開いた夜嵐に若干引きながら、鏨はその言葉を受け止める。
──……言うだけなら、誰でも出来る。
「地飛沫は?」
「俺?えっと……支え、かな…?」
「支え?」
鏨は頷く。
「ヒーローって、いるだけで人の心を支える存在だと、思う。それだけで、安心するし…オールマイトと………に、何度も救けられた」
──ステインやキサゲも、俺にとってはヒーローだけど。でも、ここでは言えないな…。
口を滑らせそうになったが、鏨はなんとかその名前を言うのを我慢した。
「地飛沫は、オールマイトが好きなのか!?」
「う、うん…」
「俺も好きだ!他には誰が好きなんだ!?」
「え…と、相ざ……イレイザーヘッドとか、リカバリーガールとか」
鏨は実のところ、ヒーローにあまり詳しくない。というのも、鏨にとってほとんどのヒーローが信じるに値しない人間だったりするので、そんな人間のことを知ろうとは思っていないからだ。
「イレイザーヘッド?聞いたことがないぞ!?」
あんまりメディアに出たくないんだって。と言うと、夜嵐はなるほど!と手を打った。そして、そこまでヒーローを知らない鏨にヒーローの話で花を咲かせる夜嵐を見て鏨は。
──誰でもいいから、早く来て──!!
と、心の底で救けを求めた。
・
・
・
──けっこういんな。
一次試験を通過した轟は、辺りを見渡すこともなく鏨を見つけた。というのも、そばにいた夜嵐の声が、自然と轟の目を引いたのだ。
「やっぱりヒーローは熱い!」
「ソウデスネ…」
小さくなってしまっている鏨を見て、轟は2人がいる方へ歩き出す。
「あ!轟くん!」
轟を見て、鏨はすぐに駆け寄った。
「良かった!通過したんだ!良かった!」
「地飛沫、落ち着け」
鏨はグイグイと来られるのが苦手なタイプだ。しかし、それでも夜嵐にいつもの露骨な嫌悪を向けていないところを見ると、なかなか話し込んだようだ。そのくらい、相手を理解出来たようだ。
轟はふと、鏨の後ろにいる夜嵐を見た。夜嵐は轟を睨みつけていた。しかし、すぐ鏨に「良かったな!」と声を掛けてる。
「………?」
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出久を襲った
しかしどこにも見当たらないと、彼女は落胆する。彼、地飛沫鏨は出久と同じくらい興味のある人物だ。
彼女、士傑高校の女子生徒に変身したトガヒミコは鏨とも話してみたかった。あのステインの弟子であり、ヒーローを目指す彼と。
──髪の毛、切っちゃってたな……でもどんなタガネくんもタガネくんがたら、いいけど!でも、勿体ない。
月光に照らされ、長めの髪の毛を揺らしながら血塗れになってこちらへ向かってきたあの時、個性の発動後に血が霧散する瞬間はとても綺麗だったとトガヒミコは感じていた。頬が赤くなるのが自分でもよくわかった。
──ステ様とタガネくんを並べてみたら、本当に素敵!ステ様になってタガネくんと一緒に過ごす、毎日が楽しいに決まってる!タガネくんの
そのためにも、鏨を早くこちらの味方に引き入れたい。死柄木もそれに賛成しているようだし、開闢行動隊は元々そのつもりだ。しかしそれが実行できていないのはあのインプラントの仕業だと言えるだろう。
『タガネとキミらの交流は全力で阻止するつもりだし、緑谷少年のファンになっちゃったから、雄英高校と敵対してる連合から脱退するぜ!てへぺろこつーん☆〜(ゝ。∂)ねぇねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち!?m9(^Д^)プギャー』
といった趣旨の手紙が連合に届いた時はもう死柄木が大変だった。一瞬でその手紙が粉々になった。
その言葉通り、インプラントの妨害は凄まじく、何度かチャンスを潰されているし雄英に寮ができてしまったせいで、もっと手出しができなくなってしまった。
しかしそれでも諦めることはない。特に死柄木は、鏨になにか並々ならぬ思い入れがあるようだ。
──タガネくん、もしかしたらもう通過しているのかも……?
そう考えたトガヒミコは、いち早くターゲットを見つけるのであった。
とりあえず、連合の鏨贔屓。
二次創作ですから!!