barroco   作:千α

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久々の投稿です。




 

 

これは、悪夢なのだ。

そう悪夢だ。

 

今、自分自身に降り掛かっているこの不運は全て夢なのだ。

 

そう思いながら、モニターに映る映像と、アナウンスを聞く。

 

そして……。

 

「無理ッ!!!」

「どうした地飛沫!?」

 

鏨は地面に大の字になった。

 

 

 

 少し時間は遡る。

 それは、第一次試験をクラスメイト全員が合格し、喜びを分かちあっていた時に起きた。

 突然モニターに注目するように言われ、先程の試験の会場が一瞬にして崩れ去ったあと、次の試験の内容が発表された。

 

「救助…救助か……」

 

 そう救助。第二次試験は救助演習を行うことだった。

 しかし忘れていけないのは、この地飛沫鏨。彼は初対面の人間とはほぼほぼまともな会話ができない。救助とは、要救助者を安心させるような声掛けも必要であるが、鏨がそんな器用な真似をできるとお思いだろうか?無理だ。

 救助だけならばできる。しかしアフターケアが下手、かなり下手な鏨にはこの試験は苦でしかない。

 

「リカバリーガールに言われた通り、せめて愛想よくする練習するんだったな」

 

 落ちると確信した鏨にできることはみんなにエールを送るくらいだ。

 落ちると確信していても、試験は最後まで受ける気ではいる。落ちても自分はまだ1年なのだから、来年がある。それに、この試験で得るものがあるかもしれないと鏨は二次試験の準備を始める。

 

「地飛沫くん、もう大丈夫なの?」

「緑谷くん……うん、もう大丈夫」

 

 先程よりもだいぶん落ちついた鏨は出久と言葉を交わす。

 まだ不安はあるが、だが訓練通りにやることを目標として、鏨は覚悟を決める。

 

『ヴィランによる大規模破壊(テロ)が発生!』

 

 その時けたたましい警報が鳴り響くと同時に放送が流れ始めた。

 

『規模は◯◯市全域、建物倒壊により傷病者多数!』

 

 鏨たちがいた建物が箱のように開き、そこから次々と受験生が飛び出していく。要救助者、この会場各地にいる"HELP・US・COMPANY"略して"HUC(フック)"たちを救助するため、みんな思い思いに動く。

 そこで、鏨はふと後ろを振り向いた。

 あ、と気づいたのは、救助者が来た時に備え、数名の受験生が集まっている様子だ。

 

「………」

 

 鏨が見たところ、コスチュームから戦闘特化の個性を持っている人は少ないのではないだろうか、と感じることが出来た。

 気がつくと足はそっちに向かっている。

 

「あの、なんか、すること……」

「じゃあ、あそこの瓦礫を…」

 

 安心できる場所を確保するのもヒーローの役目だと、鏨はそこ場に留まることにした。演習とはいえ、本当にテロが起きたのであれば、近くにまだ(ヴィラン)がいると想定される。なら、少しでも戦える人がこの場に留まることには意味があるだろう。

 

「キミ、個性は医療系なの?」

「えっと……簡単な治療、なら…」

 

 尋ねられた鏨は、思ったことを正直に答える。尋ねた本人は少し呆気に取られたが、なるほどと頷いた。

 

「じゃあ、もしもの時はよろしく頼むよ!」

「うん……」

 

 鏨は救護所を安全な場所となるよう瓦礫を撤去しつつ、辺りを警戒する。その間に、何名かが帰ってくる。その背中にはHUCの人間達だ。鏨は彼らを救護所に誘導し、今度は救護所がわかりやすいよう、旗を立てる。

 

「地飛沫くん!この人、軽傷のようだから治療お願いできるかしら?」

「はい」

 

 何もかもが適切、という行為ではないが人を救けることに専念して他者と協力する。入学当初では見られなかった鏨の一面だ。

 救護所の整理があらかた終えることができた鏨は、本格的に軽傷者の治療に入る。救助はかねがね順調のようで、次々とやって来るHUCの面々。治療班はそんな彼らの対応に追われていた。

 その時、救護所の近くで爆発が起きる。

 

「!?」

 

 そこから現れたのは、ヒーロー番付No.10のギャングオルカ、そして彼のサイドキックたちだった。

 

(ヴィラン)が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は(ヴィラン)を制圧しつつ、救助を続行して下さい』

 

 それを聞いた鏨たちの行動は早かった。

 救護所付近にいた受験生たちは救助したHUCを安全な場所に運ぶ準備をし、その場から離れる。

 鏨が見たのは、続々と集まる受験生。そして、ギャングオルカに立ち向かう轟と夜嵐。何か嫌な予感がした鏨はギャングオルカの所へ向かうか思案するが……。

 

──今はだめ、かな……。

 

 ギャングオルカのサイドキックを、最後尾で足止めする鏨は今の状況では無理だと判断する。救助している受験生たちは、どの人も手一杯だ。その中で戦闘を担当する者がいなくなれば、もし追いつかれたら……その想像が鏨の脳裏によぎった。

 

──でも、轟くんなら善戦できなくても、俺たちのためになんとか時間稼いでくれるはず!

 

 鏨はそう信じていた。

 

 

 が、2人の戦いを見て鏨は踵を返した。

 何名か受験生が避難の援護へ来てくれていることもあって、もう鏨は自由に行動ができることもある。しかし何より──轟と夜嵐が、2人の個性がぶつかり合ってしまっている瞬間をみたら、()()()()()()()()()()()()

 

 

 出久は、初めに殿を務めがギャングオルカの個性により戦闘不能となった真堂を避難させようと動く…しかし、周りのことが見えなくなってしまった轟と夜嵐は個性を同時(・・)に発動しようとする。このままでは近くにいる真堂が危ないと、出久が動いた時だった。

 キラリと太陽に光るそれ……。

 

──ワイヤー…まさか!!

 

 目の前に出てきたワイヤーに、出久だけでなく目の前でワイヤーを見た轟は動きを止める。これはステインと戦った時に見た…。

 

──これは、援護するためのワイヤーじゃない…!?

 

 そのことに気が付いた轟は後ろへ飛び退いた。一方、個性で上空に浮いていた夜嵐は身動きが取れなくなっていた。下を見ると、この試験で仲良くなった(と夜嵐が思っている)鏨が片手に見えないソレと、もう片手に自分の方へと伸びるワイヤーを持った鏨がこちらへ向かってきているではないか。

 

「地飛沫!どうしてここに!?」

 

 避難を手伝っていたのを見ていた夜嵐は、鏨がこちらへ戻ってきた鏨に驚く。轟も同じように自分の横を通り過ぎる鏨を見る。

夜嵐を地面に引きずり下ろし、そして鏨は2人に言い放つ。

 

「邪魔!!」

 

 鏨は自分の親指を噛むと、懐からナイフを取り出しギャングオルカに向かって投げつける。しかしギャングオルカはそれを易々と交わす。後ろの方でギャングオルカのサイドキックの悲鳴が聞こえたが、2人は気にすることなく戦闘を始める。

 この隙に、出久は真堂を避難させた。

 

「地飛沫くん!ギャングオルカは超音波を使って……!」

 

 鏨に助言しようとした出久。だが、ギャングオルカは超音波を放つ動作に入ってしまっている。出久が駆け出そうとした時、鏨の姿が消えてしまった。

 

──地飛沫くんの【赤回路】!いったい、どこにいったんだ!?

 

──超音波の攻撃は見ていないはずだが……勘の冴えた奴だ……。

 

 すると、後ろからまたサイドキックのざわめきの声が聞こえる。

 

「こ、こいついつの間に!?」

「セメントで固まらせろ!!」

 

 サイドキックたちのセメントガンを交わしながら、鏨がこちらへ突進して来ている。

 

──初めの一撃で、何か仕込んだな……。

 

 ギャングオルカの思う通り、鏨は最初ギャングオルカに放ったナイフだったが、交わされてサイドキックに当たってしまったそれを利用した。

 ちなみに、鏨はこれを狙っていたわけではない。本当にギャングオルカを狙っての一撃だ。狙ってやるほど鏨はあまり頭は回転しない、勝手に身体が動くのだ。良くも悪くも彼は脳筋だからだ。

 セメントが鏨の左肘に直撃するが、ちらりと見ただけで気にしない。が、セメントが固まってきたのを見ると左腕をナイフで刺し、抜いたナイフを横に振る。すると、ギャングオルカに向かって血飛沫…を針状にしたそれが飛んでくる。

 

──なるほど……戦闘慣れしているな。

 

 相手を翻弄する動きでギャングオルカのみならずサイドキックたちまでもを引きつけ、避難への時間稼ぎをしていることは鏨の戦い方でよくわかった。鏨はギャングオルカたちには真正面から戦えば負けてしまうと感じ取っているようで、その動きは無意識に相手へ次の手を悟らせないようなものになっている。

 針状の血飛沫が飛んでくる瞬間、また鏨の姿が消える。今度はどこだと、出久たちもサイドキックたちも辺りを見渡すが、ギャングオルカは至って冷静であった。

 

「だが……──甘い!」

「!?」

 

 針状の血飛沫から、鏨が飛び出しギャングオルカへ蹴りを入れようとする鏨。だが、それを読んでいたギャングオルカに足を掴まれてしまう。鏨はそれに驚き咄嗟に個性を発動し、鏨の足を持つギャングオルカ目掛けて血の針を伸ばすが、ギャングオルカは素早く手を離し、鏨はそのまま地面に落ちた。頭を打ったのか、鏨は呻くだけで起き上がろうとしない。

 

「地飛沫くん!」

 

 ギャングオルカがそんな鏨に手を伸ばそうとしたその時、ギャングオルカの眼前に炎が迫る。

 

「!?」

 

 それを避けるギャングオルカは、鏨を庇うようして立つ轟と夜嵐を見据えた。

 

「地飛沫、悪かった……!」

 

 轟の言葉に、鏨は安堵の笑みを浮かべ……。

 

「ほんとにね…」

 

 呆れたように言ってみせた。

 




夏休みにやっと入ったので、今月はあと2、3話書きたいなーという目標を立ててみました。頑張れ、私!負けるな俺!とにかく頑張る。
あと友人が今のヒロアカ原作の展開めっちゃ好みらしくて煩いです。ところで、あなたはいつになったら試験後の展開を考えてくれるのかな……?もう自分で勝手にやっちゃうよ!?と脅しをかける毎日です。
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