barroco   作:千α

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話は全然進んでないよ!




 地飛沫鏨という存在は、轟にとって衝撃的なものを与えた。

 

 出会い頭から彼はヒーローというものを語り、それが何かを訴えていた。あの時自分に向けられた冷たい目は、あの頃の自分を見抜かれていたからなんだろうと、今ではよくわかる。

 しかし、鏨も自分自身もクラスと打ち解け、そしてあの(・・)路地裏での一件から2人の距離は急激に近くなり、鏨の方からよく話しかけてくれるようになっていた。少し幼い面がよく目に映るため、自分たちより年下のように接していた。弟がいたらこんな感じなのだろうかと考えるくらいには鏨と仲がいいと思っている。

 そして、神野区での爆豪と鏨誘拐事件で、鏨が今後も(ヴィラン)に狙われる可能性が出てきた。いや、下手をするとそれ以外(・・・・)にもだ。鏨は類葉町の出身であると同時に、ヒーロー殺しステインとの関係が深い。もしも、鏨とステインの関係が様々な人間に伝われば?一番最悪な答えは、世間では非難され、ステインの信者のような人間に持ち上げられること。

 今まで見てきたステインの信者たちは、過激な人間(ヴィラン)が多く、また今ではそれが目立っている。もしも…もし、最悪な事態が起きてしまえば……。

 

 しかし、そうではないのだ。鏨は自分と同じ、ヒーローを志す学友だ。人一倍ヒーローに対して熱い思いを持っている仲間だ。

 

 

 

「地飛沫、悪かった……!」

「ほんとにね…」

 

 いつものよく知っている轟に戻ったと、鏨は安堵する。しかし目の前がボヤけてしまってその場に倒れ込む。

 

──あー、脳揺れたなこれ。気持ち悪い。

 

 その後のことは、鏨にはよくわからなかった。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 ボンヤリとした何かを見て、鏨は目を擦る。

 

「……相澤せんせー?」

「"先生"だ伸ばすな」

 

 医務室に運ばれたようで、消毒液の匂いが鼻につく。

 寝起きも相成って頭がユラユラと動くが、鏨は起き上がる。

 

「全く、また無茶なことを……」

「ごめんなさい…でも、あの時うごかないとなーって」

 

 ボーッと天井を見上げる鏨は、試験中にギャングオルカと、あの戦闘を繰り広げたとは思えないほど抜けている。寝起きはいつもこんなに感じなのだが、やはり普段と戦闘時ではON/OFFが激しい。

 

「……あ、試験……」

「合否発表はまだだ…もう動けるか?」

 

 鏨は包帯の巻かれた頭が気になるのか、それを不満そうに触りながら返事をする。動かないよう固定された左腕を見て鬱陶しそうにしているが、相澤に無言で首を横に振られたので鏨は大人しく固定されておくことにした。

 

「先生、やっぱり人って…変わるの、難しいね」

「だから、正すんじゃなかったのか?」

 

 鏨は自分の怪我を見て、自分が何故気絶していたのかポツリポツリと思い出し、そう口にする。

 鏨は何度も何度も、相澤と話した。自分の不安や考えをしっかり受け止めてくれるものだから、鏨はついつい話してしまうのだ。相澤は自分を雄英に逆推薦してくれた恩人、そこ(・・)に嘘偽りなどなかった。だからこそ、自分の心がブレそうになった時、今1番近くにいて、1番信頼できるのは相澤しかいない。

 

「うん、そう……そう。そうです、うん」

 

 轟にあの目を見て、また不安になったのだ。

 嫌な目をしていると、あの日。みんなと初めて会った日。爆豪の態度に、クラス全体の緩さに腹立たしさを覚えた鏨だが、もう一つ、気に食わないものがあった。轟のあの目である。今ではそうではなくなったのだが、あの一瞬だけ見た目でまた腹立たしさを覚え、つい……。

 

──……邪魔とか…轟くんに、酷いこと言っちゃった…あと夜嵐くん。

 

 気に食わなかった轟が、体育祭で出久との試合を経て変わったのは彼を見ていてよくわかった。出久が言う通り、人は変われるのだと、そう心の底から思えた行事であった。

 

「はぁ…」

 

 やはり、人を正すのは一筋縄ではいかないようだ。しかしやると宣言したのだから、と鏨は使命感に燃える。

 

──俺も、緑谷くんみたいになりたいな……。

 

心のどこか(・・・)では、ずっとそう思っている。

シクシクと泣きべそかいて、思うだけしかしないのだけれども。

 

 

 

 

「あ、地飛沫くん!もう大丈夫なの?」

 

 クラスメイトたちと合流し、鏨はいつもの光景にホッとする。ハイタッチをしたりハグしたり。しかしみんな共通しているのはとてつもなく緊張しているということだ。

 

「地飛沫、試験どうだ?」

「んー、途中気絶しちゃったから、難しい、かも?」

 

 上鳴に尋ねられたのでそう返し首を傾げる鏨だが、約数名は鏨のこの試験での活躍を知っているため、なんとも言えない顔をする。実際二次試験では、鏨が避難中に受験生があつまってくるまで、警護に当たっていたこともあり、無事に避難が完了したとも言える。

 

『皆さん、長いことお疲れ様でした。これより発表を行いますが…その前に一言、採点方式についてです。

 我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました、つまり…危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。

 とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認下さい…』

 

 そのアナウンスが流れ、受験生たちの前に合格者の名前が出される。受験生たちは、その中に自分の名前があることを願い…名前を探す。

 

「た…た…」

「鏨ちゃん、名前じゃなくて名字で探すのよ」

「あ、そっか」

 

 ち、ち…と10回ほど唱えた時、鏨はそれを見つけた。

 

【地飛沫 鏨】

 

 目を擦る。

 

「………梅雨ちゃん、俺、あるよね?」

「あるわよ」

 

 歓声を上げ、感極まったのかその目には涙が浮かんでいる。隣にいた蛙吹にポケットティッシュを貰い、涙を拭いた鏨はまた自分の名前があるか確認する。

 

「ある…ある〜〜!」

「どんだけ嬉しかったんだよ!?」

 

 そういえば、蛙吹とは逆の隣にいる轟はどうなんだろう、とチラリと轟の様子を見る。

 

「……轟くん?」

 

 ジッと見つめるだけの轟を見て、鏨は轟の名前を探す。

 自分より下にある轟 焦凍という字を見つけようとするが……。

 

「あれ?」

 

 何度確認してもない。

 自分のことでないのに焦る。心臓がバクバクとして落ち着かない。冷や汗が出る。

 

「轟!!」

 

 そこへ、夜嵐がやって来る。地面にぶつけるほど深く頭を下げ、夜嵐は轟に謝る。

 

「ごめん!!あんたが合格逃したのは俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」

「元々俺が撒いた種だし…よせよ。お前が直球でぶつけてきて気付けた事もあるから」

──これまでの道程、奴の息子だって事。ヒーロー目指してく上で背負ってく事…。

 

 轟は鏨が思っていたよりも落ち着いた様子だった。轟が落ちて残念だという気持ちもあるが、何故かそれを見て鏨は納得した。

 

──轟くんは、この人に会えて良かったんだ……。

 

 頭を下げる夜嵐とそれに応える轟を交互に見て、そう感じた。

 

「轟…落ちたの?」

「ウチのツートップが両方落ちてんのかよ!」

 

 クラスメイトたちの意外そうな声を聞くが、鏨はこれで良かったんだと納得する。以前、キサゲに人生で起こる一つ一つの出来事に、意味があるのだと聞かされたことがある。それはこういうことなのかと。

 

『えー、全員ご確認いただけたでしょうか?続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますのでしっかり目を通しておいて下さい』

 

 再びアナウンスが流れ、係員が一人ひとりにプリントを配る。鏨はプリントを貰い、そこに書いてあることを確認した。

 

「地飛沫!お前何点だった!?」

「上鳴くん、俺……初めて、85点とか取った…」

「85!?」

 

 減点された理由には何故か「猪突猛進 by.ギャングオルカ(要約)」とあるが気にしない。

 

「いや、気にしろよ」

「何故かじゃねぇよ、めっちゃ危なかったぞお前の戦い方」

「ん」

 

 クラスメイトたちに指摘された鏨は思わず口を一文字にして、今度は気を付けますという意味を込めて頷いた。

 




次回辺りで試験編終わるかな?
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