──血のニオイがする……。
鏨は地面に転がったままだ。それでも、必死に腕を拘束しているワイヤーを取ろうと試みる。
血のニオイがするということは、ステインと運悪く遭遇したヒーローは、
──でも、少量だし……まだ、死んでない。
そう言い鏨は自分自身を落ち着けさせる。
鏨のワイヤーは、切断することもできる。だからこそ、今焦れば自分の身を傷付ける可能性が高い。普段ならば傷付くことは気にはしないが、ステインが相手なら話しは別だ。
ふと、鏨は顔を上げる。
ステインの戦闘に、変化があったからだ。
「人数が、増えた……」
遠くから聞こえる足音から、鏨はそう判断する。
少なくとも、あの場で動けている人数は三人。数分前までは二人だったから……。
「……考えられる人数はステインと動けなくなったプロのヒーローと、あと加勢が多くて三人……四人が相手か……」
──人数多くなったら、ステインの不利だ……。
鏨はただ、ステインの心配をしていた。
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ステインの目の前にできた氷を交わす。
「己より素早い相手に対し、自ら視界を遮る……愚策だ」
ステインと戦っていたのは、轟だった。
後ろにはステインの個性で動けなくなっている出久、飯田、そしてプロのヒーローであるネイティブがいた。
「そりゃどうかな」
轟は左の個性を発動し応戦しようとするが、その前にステインの刃物が彼の左腕に突き刺さる。
「!?」
「おまえも良い…」
「上……」
轟が上を見ると、そこには刃物を構えたステインがいた。轟を攻撃しようとしたステインを止めたのは、急に動けるようになった出久、そして……突如轟の横に現れた……。
「緑谷くん、たちだったのか……」
突如現れたのは、赤黒い髪に赤いマフラーの少年……。
「ち、地飛沫くん……!?」
「いったいどこから出てきたんだ!?」
「個性使った。えっと……飯田くんが無事で、良かった」
それは、鏨だった。
──【赤回路】を使ったか……。
ステインは鏨が使った個性の能力をそう判断した。
【赤回路】それは鏨が血のある場所から血のある場所に移動することができる、
──ワイヤーを解いて、さっき流れた血を使ってここに出てきたか……。
「そうか、そういえば地飛沫も保須に来てたんだったな……」
「うん、加勢に来たよ……」
轟は、鏨が保須へ来ていたことを思い出す。そんな轟にニッコリと笑ってみせた。
「そうだ!地飛沫くん、あいつに血を……」
「知ってる」
「え?」
「飯田くんと、そこのヒーローさんはさしずめA型か、B型ってところかな……」
出久がステインの個性の能力を言おうとしたところで、鏨はそう言った。驚いた出久は鏨の横顔をみる。一瞬、その顔は悲しみに歪んでいるように見えたが、スッと出久たちを安心させる笑みを向けた。
「……ステイン、この人たち殺すの?」
「ああ、そこの二人は殺しはしないが……そこの二人はダメだ」
鏨はステインに話し掛ける。鏨の問に、ステインはまず出久と轟に目を向けた後、飯田とネイティブに目を向ける。
「そっか……じゃあ、俺はステインと、戦わないといけなくなった。飯田くんは、俺の大切な友達だから……」
「……タガネ、友達は選べ」
「ステインに言われたくない」
「今、インプラントを思い浮かべたな?」
まるで、旧知の仲のように話す二人にこの場にいる誰もが疑念を抱いた。
「地飛沫、お前……」
「……話は、後で」
轟の言葉を遮り、鏨はナイフを右手に持つ。
「後で洗いざらい吐いてもらうからな……」
「うん。
…ステインが血を摂り入れて動きを奪うのは、知ってるよね」
「う、うん……」
鏨は早口でステインの個性の説明を始める。
普段の鏨とは打って変わった雰囲気に、三人は驚く。
「あれは、血液で奪える時間が長くなる個性……とりあえず最大は8分。時間稼げば個性の効果はなくなる」
「……長いよ、8分……」
「……」
連れて帰るしかないな。
この鏨を見て、ステインは決めた。このまま雄英にいれば、鏨は間違いなく本物から離れる。
ステインの脳裏に浮かぶのは、かつて戦友
──「私たちは、やはりこのままでは駄目だと思う……」
ステインにそう言い残し、姿を消したキサゲを彼はまだ信じていた。だからこそ、血縁関係は無いがキサゲの息子である鏨を、己の弟子である鏨をここまで腐らせた場所に鏨を任せることはできない。
出久、轟、鏨の三人の攻撃を交わし、後ろの二人を殺し…そして鏨を奪取する。今のステインの目的はそれだ。
だが、少しステインにとってこの状況は不利だ。
「さっさと二人担いで撤退してぇとこだが…」
「ステインがそんな隙くれるとは思わない。三人いるし、緑谷くんと轟くんは二人遠くに連れて行って、プロを呼んできて」
「!?それじゃあ、地飛沫くんはどうするつもり……!?」
「二人とも血を流してる、だからここは俺に任せて欲しい」
出久は気が付いた。鏨は僅かだが、震えていた。その目には怯えが見える……。
「……地飛沫くん……僕も残るよ」
「緑谷くん、今の聞いてた!?」
「確かにそれが良いのかもしれない、でも…それで地飛沫くんに何かあったら……!」
「それより人命救助優先!飯田くんたちが目的なんだ!早く遠くへ……」
「俺も緑谷の意見に賛成だ。俺も残る」
「轟くんまで!?」
鏨は出久を説得しようとするが、轟に遮られる。
「確かにあいつは強え。だが、多人数との交戦は不利になるはず……ならこのまま三人でたたみかけた方がいい」
「でも……」
「人命救助優先なんだろ?なんでお前がそれに含まれない?」
「俺なんか、どうでもいいよ……!」
轟は鏨の胸倉を掴む。
「俺
「……轟くん……」
「自分の命は大事にしろよ!」
自分の命を大事にする?
そんなこと、考えたこともなかった。誰かを守れるなら、自分の命がどうなってもいい。死んでも、誰かが喜んでいるなら…それでいい。そう思っていた。
俺なんか…命を投げ出す、それくらいしかできないから。
「でも……俺はみんなを守らないと……」
「なら、僕らに地飛沫くんを守らせて」
「緑谷、くん……」
「地飛沫くんに何かあったら、僕は悲しいよ……」
緑谷は二人の前にたち拳を構える。それに合わせるように、轟もステインに体を向ける。
「だから、僕らも一緒に戦わせて!」
わからない。二人が何を考えているのかが、わからない。
だけど……。
──自分の、命。
そうか、俺も生きてたんだっけ……?
「轟くんは血を流しすぎてる。僕と地飛沫くんで気を引きつけるから、後方支援を!地飛沫くんも、それでいいよね……!」
「え」
「相当危ねぇ橋だが…そうだな。
三人で、守るぞ」
その言葉が、鏨に染み込んだ。
幼い頃、守られる存在だった。みんな、横に並べさせてくれなかった。いつだって後ろに並べさせられて……だから、
──なのに、こんな俺を、同列に扱ってくれるんだな……。
「……うん」
震える声を必死に抑えて、鏨は前を向き二人の横に立つ。
前には背中姿じゃない、師匠。隣を見れば……仲間がいた。初めての経験で、どうすればいいのかわからない…それでも、もう自分の目の前を遮る物はない。
「やっと、目の前が開けた……」
デクくんと轟くんの口調これでいいのだろうか。別人になってないだろうか。と考えていたら二日ほど経っていた。
とりあえず、鏨は自分の命を大切にするなんてこと頭になかったよ、て話です。