私が記憶を失ったらどうなるのだろう。
お嬢様に見捨てられ、路頭に迷って自殺するのだろうか。
それとも、それはそれで運命なのだと吹っ切れてそのままふらふらと暮らすのだろうか。
私ではなくお嬢様が記憶を失ったら?
それでも私は、お嬢様から拒絶されない限りメイドとして奉仕し続けるだろう。
それだけお嬢様は私にとって大切な存在であり、命の恩人であり、私から突き放すなどすることのない人物なのだ。
それでは、上条当麻が記憶を失ったら?
特に仲のいい友人というわけではない。
ただ、道案内をしてくれて。
私の好奇心に導かれ再会しただけの、相手。
そんな彼が、記憶を失ったら、私はどうするのだろう__
迷いの竹林の薬師とは性別も身長も違うまるでカエルのような医師に教えられた病室に入ると、そこにいたのは私の知らない透明な上条当麻だった。
「……えっと?」
誰だろう、とその目は言っている。
「制服から言って、常盤台……と、いうことはお嬢様……うーん」
私は心の中で苦笑した。
私はお嬢様ではない、お嬢様に仕えるメイドが本職である。
「お、お名前は?」
「十六夜咲夜よ」
「十六夜、さん?」
「咲夜でいいわ。私も当麻って呼んでたし」
「!?」
なんか驚いているようだが、そんな変なことだろうか。
下の名前で呼び捨てって
「じゃ、じゃあ咲夜は。俺の、何だったの?」
「そうねぇ、恋人?」
「こ、こいっ!?」
「冗談よ」
ちょっとからかってしまったが、許してほしい。
なんか……この少年は今ならなんでも信じてくれるからかいつもと違う意味で楽しい。
からかいがいがある。
「よ、よかった……」
「本当のところ、私もよくわからないわ。あなたが記憶を失った瞬間に立ち会ったのは確かだけどね」
そういえばインデックスには会ったのかと聞いたら、会った、と帰ってきた。
「どうだった?」
「そもそも、なにも覚えてないからなぁ」
「……そうね。でも、ほら。懐かしさとか、そういうのはなかったの?」
「ない、かな。なぜだか泣かせちゃいけないって思ったけど」
インデックスは、おそらく傷ついていただろう。
あの事件のあと私は寮監に門限破りだか無断外出だかの罰として寮のだだっ広い廊下を永遠に雑巾掛けしていた。
中途半端にやってもバレなかったのだとは思うが、寮監になぜか見張られていたし、それにより能力も使えないしでずっとやってた。
まあ、私の能力は使ってもバレにくいのでトイレに行くと言って、コンビニにアイス買いに行って食べたりもしたが。
美琴と黒子に何をしていたのか聞かれたが、曖昧に答えた。
「そう」
「なあ、咲夜」
「なに?」
彼は少し迷ってから、ようやく口を開いた。
「思い出って、どこにあると思う?」
当麻の声に少し言葉に詰まる。
私は少し悩んで、こう答えた。
「……心に、じゃない?」
そうだよな、と透明な少年は笑う。
私はそのまま病室を後にした。
本当に科学的なことを言えば、『脳』と答えたかもしれない。
けれど、私はそうは思わないのだ。
なぜなら、そんなのは似合わないから。
ただ、それだけである。
次はいつになるのやら。
番外編を挟むか挟まないか、挟むとしたらちょっと遅れるかもしれません。
すぐ2巻の内容に行くなら早いかもしれませんが……