次の日、私は気まぐれで飛んだセピア色の空で美琴を見つけた。
「__美琴」
「っ、咲夜!?いつここに!?」
「その質問、私に言うの?」
「そ、そうよね……咲夜は黒子以上に神出鬼没なのよね……」
なんだか疲れている様子の美琴の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
彼女は隠しているつもりらしいが、隠しきれていない。
「……何があったの?」
「っ」
けど、彼女はポーカーフェイスを装った。
彼女に何があったのかはわからないけど、あのマネーカードの日の一件が関わっているであろうことは安易に予想できる。
「ねぇ、みこ__」
「……どうせ、咲夜にはなにも出来ないわよ。私だって出来ないんだから__」
消え入りそうな声だった。
「……私はあなたに心配されるほど弱くないわ」
「それは、咲夜が思ってるに過ぎないでしょ」
美琴の目の光は、弱々しく今にも無くなってしまいそうで。
「そうね、それはよく知ってる。今までも何度も負けて来たから」
「え?」
「全てから浮く巫女に、パワーだけで打ち勝つ魔法使い。巫女なんて酷いものよ、私が止めたはずの時の中で動き始めるの」
赤い霧の異変で霊夢と対峙したときには本気で怖いと思った。
お嬢様とはまた違う、格の違う
あれだけで私は負けた気がした。
最初は勝てると思っていたのだ、こんな小娘に負けるわけがないと。けれど、その相手は敵うはずもない巫女で、よくわからないチート能力を所持していて。撃ち落とされた瞬間、私はそれを認められなかった。否、認めたくなかった。
そして、お嬢様が負けたときそれはまた更に悔しくてなぜこの巫女はこんなに強いのかという疑問しかなかったし、正直いつ反撃するかと睨んでいた。
しかし宴会で見せた彼女の素顔はとても気持ちがよくて、すぐにそんな気持ちなど消え去ってしまったのた。
『ほら、あんたも飲みなさいよ』
『……私はお嬢様の付き人ですから』
『いいじゃない、私が直々に仕込んだ日本酒よ?』
「それはまた、すごい人」
「でしょ?あなたにもいつか戦ってほしいわ、あの子が乗るかは別としてね」
「?」
「面倒くさがりなのよ、あんな強い力を持っておいてね」
と、私は苦笑する。
美琴はそっか、と言うだけで特に大きな興味を示すことはなかった。
「巫女はわかるけど、魔法使い?」
「ええ。魔法使いを名乗ってるってだけだけど、強いのは認めるわ」
……現に霊夢によりも負けてるし。
まあ、断然魔理沙の方が紅魔館にやってくるのだから当たり前なのだが。それをいったら、パチュリー様や小悪魔の方が圧倒的に魔理沙に負けてしまっている。
パチュリー様は一応、魔理沙の才能を見出していると小悪魔が言っていたので手加減しているのかもしれない。
「美琴、本当に何が__」
「あり、なんで二人してこんなとこに?」
振り返ると、そこには当麻の姿。
美琴はちょっと嬉しそうな顔をした。きっとこれで話題が反らせるとでも思ったのだろうけど、当麻と別れたら再び問い詰める予定だ。
「偶然よ、偶然。そっちは?どうせ補習なんだろうけどね」
「ぐっ!?なんで分かるんだよっ」
「……なんとなく?」
「勘!?」
そんなに私は勘は優れていないはずなのだけど、不幸な当麻にとってはすごいものらしい。
「で、なんの用?」
「いや、用ってわけではなく……帰り道一緒ならなんとなく一緒に帰りたいなと」
「……なんとなく、ね」
「常盤台のお嬢様に向かって何となく帰りたいなーんてその位置に着くまでに一体どれほどの男どもが努力を重ねているのか」
当麻は自覚あるお嬢様って最低だな。と言ってコイツを見習えと言うように私を見た。
「美琴は冗談だと思うけど」
「そのとおり。どこに通っているかではなく、そこで何を学んでいるかが重要よね」
「そうね、どこに通わなくても能力を持ってる人間がここに二人もいるし」
「……アンタって原石だったの?」
「いや、原石……なのか?」
「原石って珍しいの?」
「珍しいってモンじゃないわよ」
「ふぅん……」
私は原石に当てはまるらしい、そして希少。原石は珍しいらしいが、そんなこと言ったら幻想郷はどうなるのだろう。ほとんどの人が、原石である。
「で、お前妹は一緒じゃないのか?」
「あー……」
ミサカは彼女のクローンなのだけど彼がそれを知るわけがない。
美琴は私になにも言わないように目配せしてくる。
「まあいいや、ちょっと気になっただけだし」
昨日、私とミサカは共に男子寮までジュースを運んだ。そして、スフィンクスと名付けられたあの猫のノミを取ろうとなんか突飛なことを始めようとする(ゴキブリをすぐに殺す殺虫剤を猫にかけようとしたり、ハーブであぶろうとしていた)インデックスと秋沙を止めてミサカが電撃でノミを落として行った。ちなみに私は役立たずもなんなのでホームセンターで殺虫剤を頂いてきた。入る際、時を動かすのが面倒だったので強行突破したのは余談である。
「ねぇ、あれってなんて言うの?」
私は空に浮かぶ楕円形を指差した。
「飛行船よ。これぐらい、外にもあるだろうし見えると思うけど?」
「……私、田舎の出だから」
そうか、飛行船というのか。
よくわからない言葉を流しながらぷかぷかと浮かんでいる。
私はよくわからなかったが、いつの間にか美琴の表情は何か変わっていた。
「私、あの飛行船って嫌いなのよね」
「なんで?なんか面白いじゃない」
「機械の決めた政策に人間が従っているからよ」
美琴の目は、さっきの目とちょっと似ていた。何かを思う目だ。
「えーと、『
一応聞いたことならある。
黒子が天気予報とやらを見たいと言っていたので明日の天気は雨だと言ったことがある。それから天気予報を見たら本当に雨だと出ていたらしく、
実際はそんな大層なものではなく、大気の流れを汲み取っただけである。お嬢様の種族柄、晴れと雨には敏感なのだ。
その時に、詳しく聞いた。
これは天気を予言するだけでなく、数々の実験の演算を行っているのらしい。ただしこれは噂でしかなく、誰も本当のことはしらない。
「『
美琴はそうつぶやいて、寮とは反対方向に向かい始めた。
「どこいくの?」
「ちょっと野暮用。先行ってて!」
私と当麻はぽつねんとそこへ立ち尽くす。
私はため息を吐いて、当麻に別れを告げると寮に帰った。
当麻から電話がかかってくるのはこの夜のことだ。
夏休みですね。思いっきり更新します。