愛とはなんだろう。
十六夜咲夜は愛がわからない。
恋なんてしたことないし、親に愛された記憶なんて残っていない。
レミリア・スカーレットへの忠誠は一種の愛なのかもしれないが、ここで記述するべき愛ではないだろう。
愛とは。
「__……」
沈黙。当麻は何かを考えるように、窓の外を見ていた。
私はふぅ、とため息をつく。
私に今の彼の気持ちなんてわかるわけがない。親に捨てられた、私が。
捨てられたことを恨んだ過去もあったが、今はこれでいいと思っている。
これが私の【運命】で、変えようがないものなのだから。
私の母だった人は一流の吸血鬼の殺し屋の娘だったそうだ。銀色の髪と群青色の瞳をもっていた。幼い私にものの投げ方を教えたのも、彼女である。美人で、スタイルもよくて、小さな村の人気者だったと聞いたことがある。
そんな彼女を妻にした父親だった人は弱い人だった。黒髪に、蘇芳色の瞳。私からみた曾祖父は強かったらしく、その容姿を受け継いでいたそうなのだが、弱かった。
ただ私は無害な人物の人殺しをするほど間抜けではなかったので、殺すまではしたことがなかった。
そんな、父方の曾祖父の血と、吸血鬼を殺し続けた一族の末裔の血を受け継いだ私が一般人でいられるわけがない。
吸血鬼はおろか、人を殺すことすら躊躇がなくなっていった。
そんな私を、父だった人と母だった人は捨てた。
スカーレット家に仕えるようになっても、私を一員として迎えてはくれたが愛なんて感じたことがない。
あの館は別に、私がいなくても平気なのである。
「当麻?」
返事はない。
「私は愛なんてよくわからないけど、あなたは捨てられたんじゃないのよ」
「……わかってる」
その様子に私は小さくため息を吐いて、窓の外を見た。
「すみません」
「なんですか?」
入れ替わりによって、運転手になっている妹様くらいの男の子に声をかける。
「ここで降ろしてもらえます?」
「あ、ああはい。えー、と七……」
「これでお願いします。お釣りは取っておいてください」
私は二万円を置くと、当麻を引きずってタクシーから出た。
別のタクシーにのった火織たちには連絡していないが、まあいいだろう。
「いきなりどうしたんだ?」
「どうもしないわよ。ふざけたことを考えているみたいだから、頭冷やしてもらおうと思って」
当麻の左手を取り、浮いてみる。
……どうやら、左手なら浮けるらしい。
「!」
「ふふ、驚いた?きっとすぐに目がさめるわ」
私はそのまま、猛スピードで海の家まで飛ばした。
着いたら
もちろん、ミーシャも、私とは別のタクシーにのった火織も、残った元春もいなかった。
彼女曰く、みんな当麻と私を探してくれているらしい。
「父さんは?」
「浜辺じゃないかな?」
謝っておきなよ、といってくる彼女に私はかるく微笑みを返す。
「__当麻。もしいやなら私がいく。けど、あなたならきっと、」
「ああ。俺は自分でいく」
「だと思ったわ。いってらっしゃい」
幻想郷には親無しが多い。
だいたい親がいるのかすら不明である。
魔理沙は『霧雨道具店』に父がいるようだけど、破門にされたと聞いた。
私もどこかで親だった人は生きているかもしれないけど全くの消息不明で今どこに住んでいるのかなんて全くもってわからない。
だから、私にはこういったことに免疫がない。
親がどうしたとか、小さい頃はどうだったとか。そんなことの話にはなることがほとんどなかった。
まあ、霊夢なんかは先代に大切に育てられたようだけどもういないし、早苗に関しては向こうの世界で病死したと聞いた。
小さい頃の話はまずしない。常盤台の女子寮で時々話題に上る程度であり、それでも誕生日の日なんかに「何時生まれ?」「8時59分よ」「えーっ!あとちょっとじゃん!」みたいな話ししかしない。つまり、たいしたことがないのである。
「咲夜!」
火織が駆け寄ってきて、二人で当麻と刀夜の会話が終わるのを待つ。
しばし無言だったのだが、やがて火織が口を開いた。
「私はあまりこういったことは話さないのですが……。なんだか、咲夜には話したいのです」
「なに?恋愛相談かなにか?」
「ち、違います!」
軽くからかってやると、素直に火織は顔を赤らめる。
ちょっと可愛いなぁ、なんて思っていたのだが、すぐに真剣そうな顔になってしまった。
「……私は幸運な人間です」
「へえ」
「だから、周りの人間を不幸にしてきました。だから、私は……、自分が許せない」
火織が話したのは、火織の過去の話。
火織がここ日本の天草式宗教に居て、
彼女は自分が選ばれたものであることを悔やんでいたそうだ。くじを引けば当たりを引いてしまう。それはつまり、別の人間の幸運を奪っていることになる、と。
「すみません、こんな話きいてもらってしまって」
「いいわよ別に。あなたもあなたなりに悩んだんでしょ?けど、別にそんなもんなんじゃない。幸運に恵まれたなら、それを振りまかないと。それでこそ、プリエステスなんじゃないの?」
幸運を持っているのなら、その幸運で他の人々を救ってやればいいじゃないか。
火織なら、簡単に答えにたどり着きそうなものなのだが。
「そう、ですね」
火織はちょっとだけ笑った。
2000こえました。
いやぁ……この神裂火織が悩んでそれを咲夜に話すシーンはどこかでいれる予定だったんですよ、当初は4章ラストの予定だったんですが、ここに移動しました。
なるべく週一更新できたらいいな。