GODウソップのワンパンチ   作:サボリ魔ー

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ごめんなさい。他の作品は手が回らないんです。


一撃目 英雄撲殺 ※殺ってません

「何やこれ」

 

 目を覚ますと鼻があった。長い鼻だ。この距離からだとただの小高い肌色の丘である。気色悪い。

 

 どうやら俺は寝ていたようだ。いや、この鼻は一体なんなんだよ。

 

「って、俺のか⁉︎」

 

 狂気爆発。俺のだ。

 鼻が膨れるとは、不思議な現象もあったもんだ。いや、長くなっているだけのようだ。御茶ノ水化はないようで安心した。

 

 鼻だけがおかしいのかと体を触れ回る。

 股間に手を当てたが、感触がない。両脚の太腿の肉に挟まっているせいで、治さねば、といつも思わせ、手を股間に運ばせるあの魔性の袋がない。

 

「ないっ! いや、小っさいっ!」

 

 危なかった。お稲荷さんだったのが、冬の外気に当てられて縮こまり絞り上がって皺くちゃのカマキリの卵状態になっていただけだった。

 良かった良かった。

 いや、小さくなってるのも大問題だけどね。これじゃあ、大人のおじさんを名乗ることは出来ないなぁ。

 

 俺は股間の無事を祝うと、ほかのところはどうでも良かったので、手当たり次第に周囲を漁っていた。

 

「これは、……パチンコ?」

 

 部屋を物色していると、大事そうに置かれた緑色のパチンコを発見した。

 これは何なのだろうか。いや、パチンコだというのは理解できるが、部屋から覗ける窓の向こうは長閑な物で、一向にパチンコの出番があるとは思えないのだ。

 

 バチン! バチン! と高校の時に、筋トレとしてエキスパンダーを引っ張っていた時の事を思い出しながら、ゴムを引き延ばしては手を離し、炸裂する音を楽しんでいた。

 パチンコをバシンバシンとするのをやめないまま、俺は更に物色を進める。

 

「これは……?」

 

 二枚の写真がある。

 一枚は鼻の長い少年が今の俺のようにパチンコいを引き延ばした状態で固まり、後ろで父親らしき人物がパチンコの玉を発射する方へ指を指している。教わっているのだろうか。

 顔立ちは似ているが、決定的に違うところがある。

 

 鼻が高くない。

 

 それは兎も角として、もう一枚だ。

 此方は、若く綺麗な女性が笑っている写真で、若干色褪せている。

 ただ、鼻が非常に高いところを見るに、この女性はこの隣の写真の少年の親なのだろう。

 

 というかね。鼻が高いってさ、まるで、

 

「今の俺みたいだなぁ。はっはっはー……、え?」

 

 ガシリと俺は1枚目の写真を掴む。

 俺は写真を凝視して、少しずつ何かを思い出す。

 少しずつ、少しずつ思い出す。

 

 だけど、決定的なピースが足りない。

 

 

 

 俺は駆けた。右手には写真を持っている。服はノースリーブで、肩から胸を通って半ズボンの膝から抜ける風は妙に涼しい。腰には謎の布が巻かれていて、風を切るたびに靡く様子は、西洋劇のような独特の感覚がある。

 

 それも、俺の予想が確実であれば、必然のことだ。

 

 俺は駆ける。

 これも予想だが、何処に走ろうとも確実に見えてくるものがある。例え、ここが地球であって俺の住んでいた日本だったとしても、確実にあるものだが、この世界は特に顕著だ。

 

 何故なら、それが無ければ物語にならないから。

 

 森の中を駆ける。

 身長が低い為に上の方で邪魔をする枝の被害を食わなかったが、矢張りどことなくこの状況を知っている。

 

 いや、読んでいた。

 

「ハァ、ハァ……!」

 

 森林の邪魔する視界の中。木々の茶色と舞う葉の緑の隙間から覗けた青色。

 昔からこんなに体力があったとは思っていない。驚きだが、心配にもなる。

 

 この世界が、あの世界なら。

 

 そして、俺が本当にあのキャラなら。

 

 

 

 

 

「……やっ、ぱ、……りか……」

 

 俺は息を切らして辿り着いた。

 

 海。

 

 海に来た理由としては、顔を見るためだ。

 それだけなら、海に来る必要はなかった。

 だけど、確信のために、理解するためには必要な事だったのだ。

 

 何よりも、自分を納得させるために。

 

 小高い肌色の丘は、鼻。頭につけたバンダナは、ドクロのマークが刻まれている。バンダナからはみ出た髪は、チリチリのモジャモジャ。目の端にピッピッピッと生えた下睫毛に分厚い唇。

 

 俺はゆっくりと自身の体の全体像を確認し、手に持った写真と見合わせる。

 

 矢張り、全てが同じだ。

 つまり、そういうことだろう。

 

 

 ーーー俺は、ウソップになったのだ。

 

 

 

 ウソップ。

 超人気漫画ONEPIECEのキャラクターであり、主人公のモンキー・D・ルフィを船長とする麦わら海賊団の狙撃手。グランドラインに入る前から参加している古参である。と言うよりも、俺がアラバスタの後から読んでないから知らん。

 父親はヤソップと言い、未来の海賊王、麦わらのルフィに麦わら帽子を託した赤髪のシャンクスの船に乗る、一流の海賊だ。

 母親の名前はよく知らないが、あの写真の様子を見る限りだと既に故人だろう。

 

 俺はぺたりとその場に座り込む。

 身体的疲労も尋常ではないが、精神的疲労も尋常ではない。何よりも、ウソップというビビリになっている事が一番、精神的な苦痛である、

 キャラクターは嫌いではない。寧ろ好きな部類に入るのだが、いかんせんビビリモードに入ると喧しいのだ。しかも、それをずうっと引っ張ってギャグギャアと騒がしい。

 こいつの何処を好きになれと?

 

 そんな俺ですが、モグラの時に見せたウソップの男らしさは尊敬してます。

 マジカッケーっす、ウソップさん!

 

「ハァ……」

 

 息は整ったが、溜息をつくのを止められない。

 ぶっちゃけ、この世界は死亡フラグが多いのだ。悪魔の実に魚人、バロックワークスとかいう秘密結社もあれば、腐敗した海軍もある。一方で、こっちはパチンコ持ってパチンパチン。ハリボテ作ってパカンパカン。

 これで一体どうやってwktkしろと?

 

 幸いと言えるかも定かではないが、ウソップには狙撃の才能がある。それも史上類を見ないような凄まじい。

 これを使えば……、

 

「……いや、待てよ。……逆に……そうか!」

 

 俺は思った。

 ウソップには才能が無かったのだろうか。

 本当に射撃の才能しか無かったのだろうか。

 ああ、嘘の件は無しだ。ありゃ下手くそ過ぎる。

 

 ウソップは父親のようになりたかった。それは憧れであり、尊敬でもある。

 しかし、それが視野狭窄になっていたとしたら?

 

 そうだ、チラと見たこの前のジャンプでは、ウソップは“GOD”と呼ばれていた。それも王下七武海に海軍、果ては主人公であるルフィも差し置いて、だ。

 そんな“GOD”に不可能なんてあるのだろうか?

 いや、あっていいのだろうか。

 

 答えは、否だ。

 

「よし……、やるか」

 

 俺は決意した。

 ビビリから“GOD”への変貌を遂げたウソップに出来るだけ近づく為に。

 願わくば、より早く、より強く、より高くなれるように!

 

「そうと決まれば、サイタマ先生直伝の筋トレだな。……神が宿っている先生と、存在自体が“GOD”。どっちが強くなれるか、勝負だな」

 

 俺は駆け出した。

 十キロの距離を走るためだ。

 

 

 

 

 

 狙撃? 知らない子ですね。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 三年後、最弱の海に化け物が生まれた。

 

 その強さは際限が無かった。

 

 ある海軍はこう言った。

 

「あ、彼奴はやべえ‼︎ か、海王類を、い、一撃で、肉塊に変えちまいやがった‼︎」

 

 何を馬鹿な、と本部はその海軍の言葉を鼻で笑った。当たり前だ。最弱の海にそんな奴がいるはずがない。

 しかし、次にバタバタと駆け込んできた海兵の報告には本部があるマリンフォードが震撼した。

 

「が、ガープ、ちゅ、中将が、ひ、東の怪物にっ、……い、一撃で、倒、されま、した」

 

 この情報によって本部は荒れた。

 だが、二度ある事は三度ある。別の海兵が、電々虫を通してなされた報告には、更に海軍は困惑した。

 

「東の怪物は、海軍に入隊したいと言い、ガープ中将の船と共に現在、東の海を渡航中であります」

 

 ーーーーーーーーーー

 

 俺は今、船酔いで寝込んでいた。

 それもこれも、一人のおっさんのお陰だった。いい意味でも悪い意味でも。

 

 最初は意味の分からん事を言って殴りかかってきたが、取り敢えず殴り飛ばしたら、おっさんは倒れる寸前で素晴らしい助言を残したのだ。

 

 ーーーお主、海軍に入らんか?

 

 俺は天啓を得たりと思うと同時に、自分の愚かさに気づき恥ずかしくなった。

 そうだ、死亡フラグを回避するなら何もしないのが一番だ。だが、俺は“GOD”としてウソップ様の役目を果たさねばならない。

 しかし、海賊になるにはカヤに下手な不安を与えてしまう。

 では如何するか、と思っていた時の天啓だった。

 

 確かに、変なネズミに、憎たらしい鉄拳、ブラック過ぎる海軍の社長の斧、果てはいきなり殴りかかってくるおっさん、と海軍に対する印象が壊滅的だったのは認めよう。

 しかし、だからと言って、海軍の全てが腐敗しているわけではないのだ。そう、アイスクリームを食べるズボンを履いたスモーカー大佐がいる!

 俺は後悔した。偏見で海軍の印象を決めつけ、論外とばかりに思考の隅にも留めて置かなかった俺の行いに対して。

 

 これではダメだ。偏見で人を決めつけるような器の小さい人間では“GOD”に成れる筈がない。

 “GOD”への道は遠い。

 

 いや、遠いからと言って、手を伸ばさないのではダメだ!

 そうだ、船酔いで寝込んでいるからと何も出来ないのか⁉︎

 

 いや、出来る。

 それは感受性を高くし、疲労をも癒し、無限の想像力を与えてくれるものだ。

 

 その名も、座禅。

 

 そうと決まれば。

 

 

 夢想である。

 

 

 

 

「おい、お前が行けよ」

「イヤだよ! 怖えじゃねえか!」

 

 ガープ中将の船はゆっくりと風のないカームベルトを渡航していた。

 昼食時であり、訓練も休憩で甲板では思い思いの行動をとる海兵で溢れかえっていた。

 

 その中で、二人の男がある部屋の前で何かを押し付け合っていた。

 

「いや、相手は子供だから大丈夫だって!」

「それでガープ中将はのされちまったじゃねえか!」

「いやいや、東の怪物と言えど昼飯にくらい出てくるだろ」

「そ、それはそうだが……」

 

 如何やら東の怪物と呼ばれる、ウソップに何方が昼食完成の報告をするか選んでいたようだ。

 報告とは言うが、相手は上司でもなければ、海兵になる事を希望した入隊希望者である。しかも、自分達よりも遥かに身長の低く、明らかに子供とわかる相手だった。

 

 だが、子供という小ささであるのに、自分達の雲の上の存在であるガープを一撃で伸してしまったのだ。それが故に、子供であることが逆に男たちは怖かった。

 ウソップが東の怪物と呼ばれる理由は簡単なことだ。彼が名乗る前に敵は全滅しているからだ。

 しかし、それだけではない。

 

 この最弱の海を越えると、グランドラインと呼ばれる王者の海がある。グランドラインは広く、其処にはこの海では想像も出来ないような強者が蔓延っている。そう、この海はまだ弱者も弱者。この海の海賊なんて井の中の蛙なのだ。

 しかし、そんな強大な海もまた駆け出しなのだ。その向こう側にある新世界という極悪の海の。

 

 新世界。

 それは強大な海、グランドラインを超えた海賊の中でも指折りの者達が凌ぎを削る海である。その海に到達した者たちが挙って喧嘩など始めたら、それこそ世界は容易く壊れてしまうだろう。そんな不安定で虐殺的な海なのだ。

 その海に屈指の戦力を誇る国がある。

 その名をワノ国。

 

 ワノ国は新世界も悠々と駆け抜けるような猛者揃いの島である。そして、ある言い伝えが猛者たちの中にはあり、如何なワノ国の猛者とはいえ、それを聞けば皆して震え上がる程のものだった。

 それこそが怪物、天狗であった。

 

 そして、天狗最大の特徴が、叡智を宿すと言われる高い鼻であった。

 そう、ウソップは人間としてはあり得ないほどに鼻が高かったのだ。そして、その伝承を知っていたある海兵が、ウソップの強さと鼻を目にするとすくみあがって、心臓麻痺でぽっくりと逝ってしまったのだ。

 

 その時からだった。ウソップが東の怪物と呼ばれ、誰も関わろうとしなくなったのは。

 ウソップも一人を望んでいたので、なるべくしてそうなった感は否めないが、ウソップとて伊達や酔狂でやっているわけではなかった。ウソップは一人でも頑張ったのだ。

 それが悪かったとは言わないが、余計に逸話を広めたのも事実である。

 

 ーーー曰く、東の怪物は、素手で海を割った。

 ーーー曰く、東の怪物は、謎の魔術で体を若く見せている。

 ーーー曰く、東の怪物は、空をかけることも出来、その秘術によって、明日にでもこの海を蒸発させることが可能。

 

 事実ではないが、否定もできない。

 ウソップは正真正銘の人間である。魔術も使えなければ、秘術も使えず、空も飛べない異常に強い一般の人だ。

 否定できないというのは、単純に異常な強さがそれを可能とするのだ。

 ウソップは素手で海を割ったことなど何回もあるし、近頃は本気を出していないので分からないが、溜まりに溜まったエネルギーを発揮すれば、確実に海は蒸発するだろう。

 若返りの方法などは、憑依した事実があれば事足りることだろう。

 

「お前が行けよ!」

「いや、お前が行けって!」

「いや、俺は本当に無理だから!」

「それを言うなら俺だって!」

 

 子供の姿が、怪物が化けの皮を被った姿と思うと、怖くて怖くてならなかった。大の大人二人と言えど、根源的な恐怖は拭えなかった。

 

「おまーーー、」

「おい、ウソップ! ご飯じゃ!」

「「ちゅ、中将!」」

 

 二人がみっともない言い争いを過激化させ、遂に左の男が泣き落としを使おうとし出した時、ある男が割って入った。

 その男は、白髪という年老いた部分が見え隠れする老齢だったが、全身肉ダルマという形容が相応しい筋骨隆々な肉体は、年などという惰弱な概念を殴り壊しているようだ。

 現れた男は二人の男の諍いを無視して、ウソップの部屋に近付きドンドンとドアを叩いて、男たちの諍いの論点であった部分をいとも容易く攻略させた。男たちは、その人を喜びと尊敬を込めて、中将と呼んだ。

 つまり、男は、ウソップに殴り倒されたおっさんである、モンキー・D・ガープであった。

 

 ガープの呼びかけの後、十秒もしてウソップの部屋のドアは開いた。

 

「……すみません。寝てました」

「それはいかん! 子供は遊ぶもんじゃあ! よし、ワシともう一回殴り合いじゃあ!」

 

 男たち二人は尊敬の念を捨てた。こいつ、これが目的だったんじゃね? と。

 

 しかし、男たちの思いは知らずに、ガープは距離をとった。まるで、問答無用とばかりに。

 子供に大人気ないことだが、ガープは一度ウソップに負けており、その雪辱を果たしたいのだ。

 そして、それ以上に理解していた。ガープとて戦場を生き抜き、数多の海賊と拳を交えてきたのだ。そうして培われてきた経験は、四皇と言われる海賊と並べても遜色ないほどだ。

 その自身でさえも絶対の信頼を置く勘が告げているのだ。

 

 ーーー彼奴にはどう足掻いても敵わない。

 

 そして、それは海賊王、ゴールド・ロジャーと相対した時でさえも感じなかったものだ。

 つまり、こいつはロジャーよりも強い。

 

 しかし、それは長年追っかけ回していた自分を否定されたようなものだった。まるで最高と認めたライバルをこんな年端もいかぬ小僧に、雑魚と一蹴されたようだった。

 それは自身の信念において、認めるわけにはいかなかった。

 

 故に、ガープは自身の勘をぶち壊す為に、ウソップに拳を向ける。

 

「ハァ……」

 

 ウソップのため息一つ。

 それが戦闘開始のゴングだった。

 

 ガープは音を置き去りにし、暴風を纏って駆けた。

 男たち二人には全く視覚で捉えられなかった。

 

「「う、ウワアアアア!」

 

 遅れて、暴風が男たちの立っていた場所に襲いかかってきた。目を凝らせば、先程までガープが立っていた甲板は、バキバキと見るからに無残な姿に粉砕している。一体、どれほどの力を込めれば、ああなるのだろうか。男達では想像することも出来なかった。

 

 ガープは正しく本気を出していた。六式という将官クラスが使うものをフルに使用し、覇気と呼ばれる、修練さえ積めば悪魔の実を食べずして最強の力を得ることも出来る能力も使い、ウソップに迫ったのだ。

 踏み込む一足一足の速度も尋常ではない。成りたてほやほやの准将程度では目で追うことすら叶わないであろう速度で、ガープはウソップの目の前まで接近した。

 

「ぬぅえい!!!」

 

 ガープは全身の力を込め、六式も覇気も全てを拳に一点集中し、あらん限りの力で打ち抜いた。

 踏み込みは、幾多の海を超えた最高の足で。最高に柔軟な筋肉の捻りから発生した回転力は大砲の爆発力さながらの物で。

 そして、この海の王を打破せんとした紛れもなく最強の拳で。

 

 打ち抜いた。

 

 速度は雷速を超越し、神速にまで至った。

 

 ズドオオオオオン! 人が出せる音ではない音が船、いや無風のカームベルト中に響き渡った。

 轟々と空気が爆破したように煙を上げ、ここら一帯は煙が蔓延したまま消える気配はなかった。

 ガープは倒したとは思わなかった。先程勝てないと下した相手に最高の一撃が決まったから、と勝ちを確信するような愚か者ではないからだ。

 とはいえ、先程の攻撃が自身の持てる全てを放った最高のの攻撃であることもまた、事実。その為に、手傷は与えられたとは確信していた。

 

 

 

 しかし、

 

「……こんなものなのか?」

 

 煙の向こうには無傷の、奴が立っていた。

 

「なっ!」

 

 ガープは驚愕したが、一瞬で感情の鳴りを潜めさせ、距離を取ろうとした。それは偏に、ウソップが最強であるということを理解していたからだ。

 だが、『最強』を相手に一瞬の隙は大きかった。

 

 飛び退いた距離は数値にして、15メートル。

 それを海軍最強と囁かれる事もある程の猛者、ガープに反応させずに接近したのだ。

 目の前に拳を振り上げたウソップがいる。しかし、ガープにはそんなもの見えていなかった。

 

 ガープに見えていたのは、『死』だけだった。

 

 

 

 ウソップの拳は、早くも、速くも、疾くもなかった。

 ただし、見たものは皆、

 

 ーーー『死』を知った。

 

 

 

 ペしっと子供特有の柔らかい指に額を叩かれる。

 ガープは『死』を見た時、無意識に膝を折り、瞼を閉ざしていた。

 

「ガープさん。飯にしましょう」

 

 目を開いたガープが目に入れたのは、人間とは思えない高い鼻と子供らしい笑顔。

 

「……あ、ああ。……如何やら今回もワシの負けのようじゃな」

「よおし! じゃあ、早く行きましょう!」

「うむ。……じゃが、先に行っとってくれんか? 考え事があるんじゃ」

「え? あ、それなら仕方ないですね。もうガープさんも爺さんなんだから、体には気をつけないと」

 

 

 ガープは数回、瞬きをして現実に引き戻された。

 負け宣告をするものの、ウソップは勝負が終わった、としか思っていないようで、嬉しそうに食堂に向かっていった。

 

「余計なお世話じゃ」と苦笑いで呟く。未だ現役である自身を、孫と同じ歳の子供が一撃で自身に『死』を直視させたことに世界の広さを改めて知ったのだ。それは苦笑いもしたくなる。

 

 ロジャーが死んでからというもの、多くの海賊達は海に出た。弱者も、強者も、馬鹿も、天才も、外道も、聖人も、醜い者も、美しい者も、色々な奴らが海を渡った。

 

 しかし、これが終止符だ。

 

「フッ……」

 

 ガープは笑う。

 ウソップの生き方では海軍は性に合わないだろう。それは短い付き合いでも分かる。

 彼奴は恐らく、窮屈を嫌うだろうし、何よりも天竜人を見れば拳を使わずには居られないだろう。

 

 だが、確実にこの世界は変わる。

 

 海賊はウソップに恐れを抱くだろう。

 それは四皇もまた、同じことだろう。

 そして、例え、四皇が総力を挙げてウソップと戦おうと、ウソップは一瞬で、一撃で倒してしまうだろう。

 

 ウソップの前では、善も悪も関係ない。

 

 そう、絶対的な力があるからだ。

 

 

 

「ハァ……。ルフィ、エース……」

 

 ガープは小さな小島に置いてきた孫二人を思い出していた。

 厳密には一人は血の繋がった家族ではないのだが、ガープとしてそれを補って余りある愛情を注いでいるのだ。これを孫と言わずしてなんというか。

 

 ガープは英雄と言われていたが、やはり人間だったのだ。絶対的なものを知って、孤独が怖くなる。異常なものを前に、独りでいるのが心細くなる。

 

 死を知って、大切なものを抱きしめていたくなる。

 

「……これじゃあ、本当にジジイではないかっ!」

 

 空元気である。

 しかし、其処から始めることしかできないのもまた事実。

 

「ガッハッハッハ!」と高笑いし、弱い心を吹き飛ばす。こう弱々しくてはガープではないからだ。

 自分で自分のキャラクターを理解しているのは、なんとも言えないが。

 

「よし! 序でにこの海王類も捌いておくんじゃ!」

 

 ガープは笑顔で自身の後ろ側に視線を向ける。

 覇気というのは三種類ある。その中で主に攻防に使う二種類、『武装色』と『見聞色』があり、つい先程から見聞色で感知していた存在に対して、漸く目を向けたのだ。

 

 其処には、顔を肉塊とした海王類がポツンと佇んでいた。

 如何やって立っているのかは分からない。

 

 それもウソップの能力なのだろう。

 ウソップの強さは自身の理解の及ぶところではない。理解できるのは自分がアリで、ウソップは何か強大な生物であるとだけ。

 もしかすると、像かもしれない。獅子かもしれない。

 もしかすれば、国かもしれない。海かもしれない。

 

 星かもしれない。

 

「ガッハッハッハ!」

 

 無敵なウソップに勝てるわけがないかもしれないが、此れから何度も触れ合う機会がある。

 とすれば、ウソップの強さの秘密がわかるかもしれない。

 

「……じゃが、禿げたくはないのう……」

 

 ターバンから見えない髪。

 モミアゲがあるはずなのに存在しない。

 襟足くらいは、と見てみりゃ、肌寒そう。

 本当に思う。

 

「何をやったらそうなるんじゃ……」

 

 子供というのに、無類の強さのために犠牲にしたのが髪だとしたら可哀想なはなしである。




続き書こうか迷ってますが、続けるとほぼ確実にグダグダに成る確信がある。
因みにウソップ君は、カヤちゃんに「俺は正義の味方になる」とか言ってます。メリーさん大爆笑。
クソなメリーを他所に我らがエンジェル、カヤちゃんは「カッコイイ!」と目を輝かせています。メリーさん苦笑い

結構真面目に元気付けているウソップ君、チョーイケメン。
髪はないけどね。



髪は死んだ。
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