「はーい、お茶どーぞ」
コトン、と目の前に置かれたカップに視線を落とし、太猿と野猿は大混乱していた。
目の前にいるのが本当にボンゴレ10代目だとして、この時代の10代目ではないというのはどういうことなのだろうか?
というか、確かにボンゴレ10代目は死んだはず。アレが身代わりだったとは到底思えない。
「ねー、色々と考えてるみたいだけどー・・・お茶、冷めちゃうよー?」
「おい、テメェら!10代目の茶が飲めねェってのか!あ゛ァッ!?」
っていうか、嵐の守護者(だという少年)のガラが悪い。どこのチンピラだ?と問いたい。
「こらこら隼人、お客さんを威嚇しちゃだめでしょ」
「10代目っ!お客さんじゃなくて捕虜です!!」
のほほんと太猿と野猿の向かい側のソファーに座ってお茶をすするツナに、獄寺が反論する。
「うん、まぁ、今のところはねー・・・っていうかぁ、そこまで扱い酷くしなくても良いと思うんだよ?だってさぁ、ウチとミルフィオーレは違うでしょ?」
「甘いぞ、沢田」
ツナの言葉をそう断じたのはラル。その肩にはリボーンが座っていて、ツナは首を傾げた。
「リボーンもそう思う?俺、甘い?」
「・・・いや」
(ぜんっぜん甘くないと思います)
なぜか心の中の声まで敬語である。ラルは知らないから甘い甘いと言えるのだ。何も酷い扱いをすることだけが厳しさではない。
ツナは絶対に自分達に有利に運ぶように目の前の2人を使うつもりだ。だから、今のうちに油断・・・いや、懐柔?しておくべきと考えているのだろう。
「ふふっ、さすが俺の先生だね」
ニコニコと笑うツナに悪意も害意もないのに、背中に冷たい汗が流れる。
「おい、リボーン」
非難めいた視線を向けてくるラルに、リボーンは首を横に振る。
「オメェはツナがどういう人間か、まだわかってねェんだ。見てりゃそのうちわかる」
「・・・しかし」
「あ、そうそう。この2人さぁ、リボーンの同胞の身内みたいだよー?」
「ああ、そいつらは元ジッリョネロファミリーだ。大空のアルコバレーノがボスをしていた。俺が良く知っているのは前ボスのアリアだが・・・ユニにも面識がないわけじゃねぇ」
「姫を・・・知ってるのか!」
「ああ。太猿とかいったな?・・・ジッリョネロとはアリアの母親、ルーチェとアルコバレーノ候補として知り合ってからの付き合いだから、結構長いんだぞ」
「呪われた赤ん坊・・・アルコバレーノの話はそれとなく聞いたことがあるが、本当に赤ん坊のまま姿が変わらないんだな」
太猿が呆然と呟く。
「大空のアルコバレーノだけは呪いの形が違うからな・・・で、ユニに何があった?」
「白蘭に騙されたんだ!!γ兄貴も・・・姫も!!」
野猿がわめく。ツナはその心の中を読み、きゅ、と眉間にしわをよせた。
「白蘭かぁ、気に入らないなぁ」
「姫は操られてるんだ・・・姫を取り戻さない限り、俺達は」
太猿が悔しそうに言うのを見て、リボーンはツナに視線を向けた。
「おい、ツナ・・・」
「んー?」
「コイツ等を何に使うにしても、ユニが人質に取られてるんじゃ、大して効果はねぇぞ」
「ああ、別にあっちとぶつけるために捕虜にしたんじゃないよ。何か情報を持ってないかと思ってね~。知りたいことも知れたし、別に帰ってもイイよ?」
どうやら既に太猿と野猿が知り得る情報をすべて読みとったらしい。リボーンや獄寺、山本はそれに気付き、ああ、と納得した。
逆に慌てたのは太猿と野猿の方だ。
「ちょ、ちょっと待て・・・」
「い、良いのかよ!?」
「うん、別にイイよー?2人を取り戻しに来るような人は、どうせジッリョネロ出身だろうしさー・・・真正面から戦うのめんどくさい」
(((((ごもっとも!)))))
これにはラルを含めて全員が納得してしまう。
ジッリョネロの事情を聞いてしまった今、戦ってめんどくさいのは問答無用でぶっ飛ばせないこちらの方だ。あちらはユニの為ならなんでも出来るだろうし、死に物狂いだろう。
「迎えに来たら、帰してあげるから・・・ね、お茶どーぞ」
再び勧められ、太猿と野猿はようやくお茶に口をつける。そうすると、喉はカラカラで水分を身体が欲していたのだと気付く。
「・・・うまい」
「普段、お酒ばっかり飲んでるから、たまにはこーいうのも良いでしょ?」
「な、んで・・・?」
普段の行動を見たわけでもないのに言い当てたツナ。太猿と野猿はそれに驚いて目を瞠る。
「あー、俺ねぇ、読心術が使えるんだよね。だから2人の考えてることとか、状況とか、ぜーんぶ読んじゃった。ゴメンね?」
あはは。と笑うツナを呆然と見つめ、次の瞬間、2人はサァッと青ざめた。
先程の会話で随分いろいろなことを脳裏にうかべやしなかっただろうか?それを全部読まれたとしたら・・・。
「兄貴にどやされる・・・っ」
「何情報全部もらしてんだ、とか・・・!うああ・・・それでなくても兄貴の機嫌は絶賛下降中なのに・・・!」
「そりゃ大事なお姫様を人質に取られて、下げたくもない頭を下げてるんじゃ、機嫌も悪くなるよね~。酒浸りだしー」
「うわぁああ!完全に読まれてるぅう!!?」
太猿と野猿をおちょくり始めたツナに、リボーンは溜息を吐く。ああは言ったが、この2人をただ単に帰すわけにはいかない。それはツナもわかっているはず。―――たぶん。
それに、残りの守護者も集めなければならないし、こちらの戦闘方法も学ばなければならない。
やることは山のようにあるのだから、ここでもたもたしている暇はないはずなのだ。
「ツナ・・・」
もう、以前のようにツナの心を読み取ることはできない。たぶんそれは意趣返しのようなものなのだろう。
だが、まだ話せない。どうしてもその覚悟ができないでいる自分に、リボーンは深い溜息をもらしたのだった。