「・・・ふぅ、久しぶりだ。並盛」
久々に戻った並盛に、彼はフッと目元を緩めた。
ツナがミルフィオーレに殺されて守護者が集まったのはその密葬の時。それ以降は皆バラバラに動いていた。
元々、ツナがいたからこそまとまっていた守護者。中心となるツナを欠いてしまった今、いくら獄寺が説得に走り回っても簡単にはまとまらないというものだ。
とはいえ、そろそろ過去のツナがやって来ている頃だと予想して並盛に戻って来たのだが、ミルフィオーレのブラックスペルの者達がウロウロとしていて移動にも時間がかかってしまった。
「哲、最近の並盛の様子は?」
「いたって静かなものです。一度、工場跡の方で戦闘があったようですが・・・その痕跡からは何もつかめませんでした」
「ふぅん・・・まぁ、過去の彼はとても臆病だったからね。基地の中で震えているのなら・・・無理にでも動いてもらわないと」
過去のツナを使えるようにすることが自分の役目だ。そうしないとこの状況が覆ることがないとこの時代のツナが言っていた。
しかし、短時間でどこまで過去のツナを鍛えられるのか、それは彼――雲雀の手腕というよりも、ツナ自身の努力が無いと難しい。
「恭さん・・・」
「まぁ、それでも逃げ回るようなら・・・残酷な現実をつきつけてあげるだけだよ」
ニィ、と笑った雲雀に、草壁は過去からやって来たのだというツナに激しく同情したのだった。
***
「ここか・・・」
戦闘の痕が未だに残る工場跡に佇み、γは周囲を見回す。
血痕もないところからすると、互いに大きな怪我は無く戦闘が終了したということだろう。つまり、アッサリと太猿と野猿が捕まったということで・・・。
「そんな実力者が、ボンゴレにいたのか・・・?」
今までのボンゴレとあまりにも印象が違い過ぎる。
ボスが死んで自棄になったのとも違うようだし、ボンゴレ10代目の右腕と恐れられている嵐の守護者の仕業とも思えない。
それに、捕虜をとっていながらこちらに何も接触が無いのもおかしい。
「一体、何を企んでやがる・・・?」
そう呟いた時だった。
「はぁーい、お客様~か~くほ~」
「「ラジャー!!」」
「なっ!?」
全く気配の感じなかった場所から少年達が突然現れ、γに殺到する。
不意を衝かれたγは為す術もなく抑えつけられた。
「大物、げとー!あ、でも一応確認させて?お前が電光のγで良いんだよね?」
幼さが残る甘い顔立ちの少年がニコニコとしながら訊ねてくる。γは問われるままにコックリと頷いた。
いつものγならあっさりと口を割ったりしないし、抵抗だってしただろう。
だが、今の自分の状況が、武器もろくに持っていない子ども達によるものだということで、すっかりショックを受けてしまっていた。
「やりましたね!10代目!」
「うん、やったね~」
パチン、と抑えつけられているγの頭上でハイタッチする少年達。
γが10代目?と呟いて首を傾げると、先程質問してきた少年が自分を指差した。
「そうだよ~、俺がボンゴレ10代目の沢田綱吉でーす!あ、過去から来ました~!よろしくね!」
明るく挨拶した少年に、γはあらん限りに目を見開いた。
「・・・はぁああああああっ?!」
***
「・・・ありえねぇ」
ボンゴレの基地に連れ込まれ、まずγが発したのはそんな言葉だった。
太猿や野猿が捕虜とは名ばかりの放置プレイ中なのはおいておくとしても、γまでもが全く危険視されず、拘束するどころかお茶まで出される始末。
「え、お茶ダメ?アンタもコーヒーでしかもエスプレッソ派?うっわめんどくさっ」
「んなこと一言も言ってねぇっっ!!」
肩で息をしつつ、γは目の前に座っているボンゴレ10代目だと名乗った少年を睨む。
「なーんだ。ちょっとからかっただけなのにー・・・短気は損気だよー?」
「どういうつもりだ?」
いちいち少年の言葉にイラッとするが、γはグッと堪えて短く問う。
「えー・・・そっちのお姫様の件はなんとなーくわかったんだけどー・・・白蘭ってのと入江ってのの情報が知りたいなーって思ってさ。こっちの二人も良く知らないみたいだしー」
(なぜにこんなイラつくしゃべりなんだ?ふざけてるのか?おちょくってるのか?というか俺が素直にしゃべると思っているのか、この少年は!!!)
とまぁ、γのイラつきが最高潮に達した時だった。
「よし、情報ゲット~・・・じゃ、部下2人連れてって良いよー」
「はぁっ!?」
(まだ俺は何も言葉を発していない!なのに情報ゲットとはどういうコトだ!?)
疑問符いっぱいの表情で少年を見れば、アッサリとネタばらしをしてくれる。
「えー、知らないの?ボンゴレの超直感♪」
「っ、そんな精密なもんじゃねぇはずだ!!」
「あー、それにプラスして、読心術~。超直感+読心術でリーディング的なことができてしまうのです~♪すごくね?」
(それが本当ならすごい。すごいとも。が、なんでこんなにイラつく話し方なのか!!)
「フン、すっかりツナの術中にハマってんな。混乱して情報ダダ漏れなんだよ、オメーらは」
そこで初めて黒衣のヒットマンが口を開く。
「っな・・・」
γの意識はようやく少年――ツナの外に向いた。
その姿を確認した時からボンゴレ10代目の家庭教師だったという黄のアルコバレーノ・リボーンであることは気づいていたが、彼もまた死んだはずの存在だった。
「まぁ、ツナの理不尽な強さとサドっぷりに混乱するのもわかる気がするがな・・・」
幾分か同情のこもった視線に居心地の悪さを感じて、γは話題を変えようと試みる。
「そ、それより、なんで生きてるんだ?アルコバレーノは皆死んだはず・・・」
「過去から来たこの俺は殺されてねーからな」
「・・・過去」
「そっちの仕業じゃねーのか?・・・この時代のボンゴレにそこまでの余裕があるとは思えねーしな」
リボーンからそう訊ねられて、γは首を横に振った。
「知らねェ・・・少なくとも、ブラックスペルは関与してねェ」
「ブラックスペルが関与してないなら、ホワイトスペルだよね?・・・さて、入江正一は日本に来てて、今は彼がミルフィオーレの日本基地の責任者かぁ」
「っ・・・マジか」
そこまで正確に読みとられているとは思っていなかったγは息を呑んだ。
「うちにちょっかい出してくる悪い子は退治しないと・・・ね?」
ふふ、と笑うツナの背後に黒いものが見えた獄寺と山本はぞぞっと鳥肌が立った。
「この未来に進む過去からじゃなくて、別の過去から呼んじまうからこうなるんだぞ。
過去から呼び寄せたのが白蘭だろうが入江だろうが、はたまた別の奴だろうが、ツナにケンカ売ったのは間違いねェ」
「リボーンさん・・・でも、10代目の匣兵器がありません」
幸いにして獄寺と山本には未来の自分達が残してくれた匣兵器がある。ランボは戦力外にするとして、現時点でツナだけが匣兵器をもっていないことになる。
「匣兵器なんぞ無くてもツナだったらなんとかなるんじゃねーか?・・・むしろ、匣兵器を与えたら・・・」
それでなくとも危険人物なのに、超危険人物にランクアップしてしまうではないか。
「リボーン・・・聞こえてるぞ~」
「いや・・・事実だろうが!」
「えー、そんなことないよー。危険人物なんて酷いなー」
へらへらと笑うツナにため息をついて、リボーンは獄寺と山本に向き直った。
「とりあえず、オメーらはその匣兵器の使い方をマスターしろ。ラル、しばらく面倒を見てやってくれ」
「構わないが・・・沢田はどうするんだ?」
「当初の予定通り雲雀を探させる。ツナ1人の方が機動力があるからな」
ツナ1人ならば死ぬ気の炎の放出で空が飛べてしまう。そうなれば地上の敵はほとんど気にしなくて良いはずだ。
リボーンがそう言えばラルは納得したのか、ツナの傍にいたくて抵抗する獄寺と山本を引っ張ってトレーニングルームに行ってしまう。