10年前の面影がしっかりと残っているその2人を視界に納め、ツナは口元をほころばせた。
「ビアンキ、フゥ太」
「ツナ・・・本当に10年前のツナなのね」
淡く微笑むビアンキに10年前の過激さは見当たらない。さすがに落ち着いたのかとツナは目を細める。
そして、駆け寄ってきたフゥ太を見上げ・・・見上げ?
「でかっ」
「ん?・・・あは、ツナ兄よりおっきくなっちゃった」
ニッコリと笑って自分の頭のてっぺんからツナの頭上で手を水平に動かすフゥ太。
そのしぐさにちょっとイラッとなんかしてない。・・・本当にしてない。してないってば。
「それで・・・何かわかったの?」
「あ、そうだった。ビアンキ姉」
「ええ、そうね」
背の話題を避けるように話を逸らしたツナに乗っかる形で、フゥ太とビアンキは書類の束を机の上に広げた。
「・・・んーっと、これはミルフィオーレの基地?」
「そう、その入り口のありかよ」
「なるほど、そっか・・・なんか足りないと思ったら、その情報を抜き取るのを忘れてた」
ポン、と手を打つツナにフゥ太とビアンキは首を傾げ、その存在をようやく視界に入れた。
「・・・ッ!電光のγ!?」
ボッとビアンキの指にはめられた嵐のリングに炎が灯る。
「おお~、さすが姉弟。ビアンキも嵐なんだ」
「感心している場合じゃないでしょ、ツナ!これはどういうこと?」
γを警戒しながら訊ねるビアンキに、ツナは肩を竦めた。
「うん、まぁ、気付いてないのはわかってたけど・・・その間もγは何もしてないんだから、わかるでしょ?」
「でも、拘束も何もしないで・・・」
「大丈夫だよー。リボーンが見張ってるし・・・本人も諦めちゃってるし」
ねっ?と同意を求められたγはそっと視線を逸らしながら頷いた。
「・・・お前を敵に回そうなんて、もう思えねェよ」
その諦めきった表情にビアンキは何があったのか不思議に思ったものの、女の勘というかなんというか、聞いたらいけないような気がして口を噤む。
「ところで、隼人兄と武兄は?・・・2人も10年前と入れ変わっちゃったんでしょ?」
フゥ太が2人の姿が無いことに気付いて首を傾げると、ツナは大変良い笑顔をうかべて答えた。
「良い実験台(太猿や野猿)が手に入ったからさー、ラルと一緒にリングと匣兵器での戦闘訓練してるよー」
「良い・・・」
「実験台・・・?」
「それは聞いてやるな。とりあえず、アイツ等には未来の2人が残した匣兵器があるからな。その訓練をさせてるんだぞ」
「そういうことだったのね・・・あの子、隼人は大丈夫かしら?」
「ああ、大丈夫だよ。隼人も武も大してショックは受けてないし。・・・それよりも問題なのは京子ちゃんとハルかな。あの子達まで巻き込まれちゃったから。ビアンキが来てくれて良かったよ、ラルは初対面だし、知ってる大人の女の人がいてくれれば2人も安心するから」
「わかったわ、京子とハルは任せて頂戴」
「うん、よろしく。・・・フゥ太にはランボとイーピンを頼みたいんだけど・・・大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、ツナ兄。ほんの少し前まで僕がランボの教育係みたいな役目をやってたし」
「そっか・・・助かる。何せ、これから入江正一?っていうのをボコりに行くのに子どもを連れてくのは危ないしね」
「ボコ・・・え?」
まだ10年前の可愛らしい容姿のツナから物騒な言葉が出て、フゥ太はよせばいいのに思わず聞き返した。
「入江正一をボコるって言ったんだけど・・・ああ、そっか言って無かったね。俺、フゥ太達の知っている沢田綱吉じゃないんだ。こことは違う時間軸から来たからね」
「そ、そうだったの?!・・・確かに雰囲気違うとは思ったけど、10年前のことだから勘違いかなって」
フゥ太は困ったように笑い、ビックリした、と呟く。
「ビックリさせちゃってゴメンね?・・・でも、俺達も混乱してるのは確かだし、俺達の時間軸の過去にちゃんと帰れるかどうかもわからないだろ?だから、フゥ太達にも協力してほしい」
「もちろんだよ!どんな理由でこんなことになっちゃったのかわからないけど・・・でも、ツナ兄達を元いた所に戻すのに、出来る限り協力するよ!」
「私も可能な限り調べてみるわ、ツナ」
「ありがとう、フゥ太、ビアンキ・・・頼りにしてるよ」
これが大空属性を持つ者の引力なのか、この時代にやって来たツナが基地に腰を落ち着けた途端にバラバラになっていた仲間達が戻って来た。
残るは晴と霧。
彼等もまた、大空を望み、動きだしていた。
***
―― 旧黒曜ヘルシーランド
激しい水の流れに身体を持って行かれそうになりながら“彼女”は懸命に三叉槍を床について身体を支えていた。
「骸様・・・ボス」
(2人の無事な姿を確認するまでは、倒れるわけにはいかない)
雨の炎により体力を奪われながらも、踏ん張る“彼女”の目の前にいる白い隊服――ホワイトスペル――の男は目尻をぴくぴくと痙攣させた。
「ヒッ・・・無駄だ。ここにはお前の仲間などいない。ククッ、存分に可愛がってやろう」
(ああ、こういうのなんて言うのだったか。昔、入院していた時にテレビで見たような気がする)
「あ、思い出した・・・“変態”」
「なッ・・・へ、んたッ・・・」
ビシッと指をさされて告げられた言葉に、男は言葉を詰まらせて顔色を赤くしたり青くしたりしている。
どうやら心配するまでも無く“彼女”はとても図太い神経をしているようだ。
“彼”は自分の知るのと少し違う“彼女”に首を傾げつつ、そろそろ“ネタばらし”をしようと力を解放した。