「クフフ・・・」
その特徴的な笑い声に、クロームは瞳を輝かせる。
「骸様!?・・・どこ、ですか?」
辺りを見回しても骸の姿は見当たらず、幻聴かと首を傾げる。
が、敵(グロ・キシニア)にも同じように聞こえたらしく、鋭い視線を辺りに向けている。
「六道骸!!どこだぁ!!どこにいるぅ!!」
「クフッ・・・ここ、ですよ」
己の背後から聞こえて来た声にギョッとしてグロが振り返ると、そこには雨の炎ではなく、霧の炎をまとった匣兵器のフクロウがいた。
「ムク、ロウ?」
ポツリと呟くクローム。
「・・・ッ、ま、まさか!」
以前交戦した時のことを思い出したグロが気付いた様子を見せると、雨フクロウ改め霧フクロウに憑依している骸は至極楽しそうに笑った。
「クフフ・・・グロ・キシニア、あなたの匣兵器に少しばかり細工をさせてもらいました」
スイ、とクロームの方へと飛び、骸は彼女に囁く。
「幻術はイメージを鮮明・・・リアリティにすればするほど威力があがります。お前が最も信じるものをイメージしなさい」
「最も、信じるものをイメージ」
そう言われて思いうかぶのは、自分をあの地獄の日々から助け出してくれた骸と、そんな骸の“器”ではなく、“クローム髑髏としての自分”を認めてくれた犬や千種。
そして・・・そんな自分達ごと包み込む“ボス”の姿。
「私の、武器は」
クロームの指にはめられている霧のボンゴレリングから霧の炎が噴き出す。
「そうです、強く、イメージして・・・」
クロームの幻術を援護をするために骸が近付いたその時、彼女がまとう霧の炎が変質し、勢いよく燃えあがった。
「―――んなっ!?」
グロの叫びが聞こえたが、骸自身も叫びたい気持ちでいっぱいだった。
10年前の骸、犬、千種。ここまでは良い。予想もできていた。クロームが拠り所とするのは黒曜の面子であることは間違いないのだ。
が、アレはなんなのか。
「・・・ふふ・・・私の中のボスのイメージって・・・アレなのね」
術者当人も明確にイメージをしたわけではないようだが納得はできているらしい、アレ。
一言で説明しろというのならば“悪魔”だ。背中に蝙蝠の羽、頭からはひょんと触覚が生え、想像上のものではあるが良くある悪魔の尻尾的な何かまでもが付いている。
っていうか、自分の知る沢田綱吉は悪魔だっただろうか?いや、むしろ甘ちゃんというかどこか詰めきれない感じの・・・っていうか、クロームの方もちょっとおかしい気がするのだが、気のせいだろうか?
「なんだ!!このふざけた生き物は!!」
「ふざけてなんか、いないわ。このボスは“小悪魔”ちゃんよ!」
本格的にクロームの発言がおかしい。
“悪魔”ではなく“小悪魔”と宣言するクロームに、彼女の中の沢田綱吉はどんなイメージなのだと小一時間ほどひざを突き合わせて問い質したくなる。
ゆらり、と“小悪魔”ツナが動く。
どんなことを仕掛けてくるかわからないためか、グロがじりじりと後退していくのを呆然と見つめる、10年前の骸達―――に憑依した10年後の骸。
「ふふっ・・・さぁ、お仕置きの時間だね」
目を細め、“小悪魔”ツナが宣言する。
(ホントに、誰!?)
なんてツッコミを入れる暇もなく、“小悪魔”ツナは炎をまとった拳を容赦なくグロの腹に叩き込んだ。
「ぐふぉ!!」
「まだまだぁ!!」
ズドドドドド!
身体中に拳を叩き込んだ“小悪魔”ツナは、最後に渾身の力を込めてグロのアゴにアッパーを決めると、くるりとクロームの方へ向き直り、ニッコリと笑ってみせた。
「終わったよー、クローム♪」
「ボス、すごい!」
キャッキャッと喜び合う2人を遠い目で見つめながら、骸はその違和感の正体に気づいた。
「そうか・・・時間軸の違いが」
「ん?」
「骸、様?」
キョトンとこちらを見る2人に骸はふるふると首を振り、クツリと笑った。
「まぁ、無駄な力を使わずに済んだのは上々・・・クローム、お前はボンゴレの連中と合流しなさい」
「骸様は?」
「僕はやることがあります、しばらくは連絡が取れなくなりますが心配は無用ですよ」
「・・・はい」
素直に頷くクロームから、“小悪魔”ツナに視線を向け、骸は何とも言えない表情をうかべた。
コレが黒曜ランドで戦った時の相手であったなら・・・そう考えてふるりと身を震わせる。
「・・・時間軸が違えばここまで違いますか。できれば、本物を見たいような見たくないような」
呟いた後、チラリとボッコボコにされたグロへと視線をやり、そっとため息を漏らす。
と、その時。ゆらり、と有幻覚の身体が歪んだ。
「あ・・・骸様・・・」
「そろそろ、お前の方も慣れない戦闘で限界でしょう。しばらくのお別れです」
その言葉と共に有幻覚の骸達やツナが消え、クロームの意識が遠のく。
「――いっ・・・おいっ、無事か!!」
倒れかけた瞬間に声が聞こえて、クロームはふらつく身体を三叉槍で支え、声の聞こえた方向を向く。
「・・・あ、」
「おお、極限に無事だったか!!」
ニカリ、と眩しい笑顔をうかべた人物は、自分の知るその人よりも大人になっていて。
それでも、共にヴァリアーと戦った記憶はまだ新しく、安堵すると同時に気が抜け・・・クロームの意識はそこでプツリと途絶えた。