「笹川了平、推参!」
「先輩!」
「芝生頭!!」
「了平さん、それに・・・ッ、クローム!」
何やら抱きかかえていると思って視線を下げた先でぐったりとしている少女にツナは仰天して駆け寄った。
「なに、大きな怪我はしておらん。・・・しいて言えば、炎の使いすぎだろう」
「炎の・・・じゃあ、クロームは1人で戦ったのか」
山本が気遣わしげに了平の腕の中にいるクロームをのぞきこむ。同じようにツナも覗きこんで、その腕に抱かれているものに気づいた。
「武、1人ってわけじゃないみたいだよ?」
「ん?・・・ああ、えっと、ムクロウ・・・だっけか?」
「ふふ、骸もクロームのことを心配してたんだろーね」
そっとクロームの頬を撫で、ツナは目を細めた。
そんな様子を見て、草壁が複雑そうな表情をうかべるのを見逃さず、リボーンはこの時間軸の黒曜組とボンゴレの関係を悟る。
そんなシリアスな空気の中でパタパタと軽い足音が複数近付いてくる。
「はひー、すっごい音でしたけど、何かあったんですか!?」
「皆、だいじょう、ぶ・・・って、お、お兄ちゃん!」
「おう!京子!!極限に無事だったようだな!!」
「う、うん。私はツナ君達に助けてもらったから・・・それよりも、お兄ちゃん・・・その子って」
「うむ!クロームはちょっとばかり体調を崩して倒れていたのだ!!医務室に連れて行かねばならん!!」
「じゃあ、クロームさんは僕が医務室に運ぶよ」
メッセンジャーである了平が席を外すのは避けたいと、フゥ太がそう言って席から立ち、クロームの身体を了平から受け取る。
「すまんな」
「ううん、了平兄は状況をツナ兄達に説明してあげて。・・・あ、京子姉、ハル姉も・・・クロームさんの看病を手伝ってくれるかな?」
「え、あ・・・はひ!わかりました!」
「お兄ちゃん・・・」
「大丈夫だぞ!京子!・・・なぁに、次に行われる相撲大会の話をするだけだからな!!!」
(ああ、めちゃくちゃな言い訳をする辺りが了平さんだ)
なんて感慨にふけっている間に、フゥ太が京子やハルをつれてブリーフィングルームから出て行った。
「・・・それで、わかりやすい指示とは何なんだ?」
いい加減しびれを切らしたラルが問いかけると、了平は懐からメモを取り出す。
いつもならば「極限に忘れた!!!」などと叫んでいそうなものだが、10年後の彼には学習能力が付いているらしい。
「1週間後、ボンゴレが全地域で反撃の狼煙を上げる。・・・その際に、ボンゴレ日本支部もミルフィオーレの基地を襲撃すること、との命令だ。
ボンゴレ本部の方もお前達の存在は知らされているが、実力まではわかっていないからな。参加する、しないは沢田に任せるように、極限に説得してきたぞ!」
そう言って胸を張った了平を見て、ツナは苦笑をもらした。
「大変な役目を負わせてしまったようですみません・・・」
「いや・・・それが最後の命令となってしまったことは、悔やまれるな。それで、どうする?お前の性格は良く知っているつもりだが・・・」
了平の気遣うような視線に、ツナはコトリと首を傾げ・・・まだ彼に説明していないということを思い出した。
「あ、俺、違う時間軸から来たので、まったく問題ないです。隼人や武が匣兵器の扱いに慣れてきたら突撃かまそうかなーと思ってたくらいですし」
「・・・そ、そうか・・・」
「うちの子達に手ェ出しといて、放っておくなんてできませんからね?・・・ふふっ」
その時のツナの笑顔は、まるで聖母の皮を被った悪魔のようで、その場にいた者は揃ってぞわりと鳥肌が立つのを感じた。
***
――風紀財団アジト
「・・・そう。沢田がそんなことを」
「へい」
会議に参加していた草壁の報告に、雲雀は口元を緩ませる。
「なら、“彼”の杞憂は無駄だったってことだね。自分自身のことだからこそ、見え難いのか」
「へい・・・それから、クロームの居場所をヴァリアーに知らせたのは六道骸である可能性が高いです」
「・・・だろうね」
「クローム髑髏にお会いになりますか?」
雲雀はその問いに淡い笑みをうかべる。
「いいよ。彼女から聞きだせることはないだろうし」
「わかりやした。引き続き調査は続けます・・・ああ、それと、例のクロームと接触していた男の正体が判明しました。
名前は、グイド・グレコ。17歳のイタリア人・・・15人を殺した凶悪犯で、1年前に脱獄しています」
「・・・ナルホドね。ソレが今の」
「ええ・・・十中八九、骸の“器”でしょう」
器が誰であれ骸自身の姿を模すことが多いというのに、クロームと接触する際にも器自身の姿で会っていた時点でその用途は知れている。
「奴は、どこに潜入しているんだろうね・・・?」
***
――イタリア・ミルフィオーレ本部
ホストコンピュータが設置されている情報管理室で、人影が揺れる。
その手には小型のノートパソコンを持ち、そのノートパソコンから伸びるケーブルはホストコンピュータに接続されている。
「・・・ああ、見つけた」
ようやく目当ての資料を探り当てたことから安堵の声が漏れる。まだ幼さの残る男の声は情報管理室の中に小さく響いた。
すぐさまその資料をとある場所へと転送し、ホストコンピュータへの接続を“その痕跡ごと”消す。
ニィ、と口の端がつり上がるのは、機嫌が良い証拠といえる。
「後は、実力を測っておくべき、か」
“今の”自分が戦うとして、どの程度通用するのか。もし必要ならば“あの場所”から出てくることも考えなければならない。
予想される中で最悪の場合、しばらく自分は使い物にならなくなる。当然、その余波は他に向かうことになる。が、“アレ”の身柄は既に“彼等”が抑えているから何とかするだろう。
“彼等”とて、この状況下で手駒が減るのは困るはずだ。
本来、配属されるべき者から奪い取ったその位置。それはこの時のためのもの。
男――グイド・グレコは、小型パソコンを抱え、配属場所――ミルフィオーレ・ホワイトスペルのボス、白蘭の部屋へと向かった。
白蘭は昼食に出ていていなかったが、すぐに戻ってくると判断して彼の帰りを待った。
「やはり、入江正一は優秀。些細な情報で本部の状況を知ってしまった」
呟くようにそう言えば、部屋の扉が開け放たれる。
「当然だよ。正チャンは僕の最も信頼する部下、だもの」
「白蘭、様・・・聞いてらしたんですか?」
特に慌てず、グイド・グレコは小首を傾げる。
「ふふっ・・・いいよ、もう。そういうのは面倒でしょう?ね?グイド・グレコ・・・いや、六道骸君?」
「それは・・・いつから?」
ざわり、と空気が揺れる。
「随分前から、ね・・・君にダチュラの花を飾ってもらったことがあっただろう?アレの花言葉は“変装”なんだ」
ニコニコと笑ったまま白蘭はそうのたまった。
「ああ、その頃からあなたの視線がくすぐったかった。・・・もう少しばかり、遊びたかったんですがね」
「やだなぁ、遊びを超えてボンゴレの仕事を始めてしまったのは、骸君の方だろ?」
「クフフ・・・ボンゴレ?僕を彼等の仲間のように言うのはやめていただけませんか?沢田綱吉は、僕の標的でしかない」
グイド・グレコの身体を霧が包み込み、その霧が晴れるとそこにはグイド・グレコとは似ても似つかない痩身の男が立っていた。
その左目にうかぶ“六”の文字。
「へぇ、君が骸君か。・・・うん、悪くないね」
白蘭は満足そうに微笑み、そして視線を骸の指に走らせる。その指にはめられた高ランクの3つのリングが骸のやる気を示している。
「僕はこの時をずっと待っていたんです・・・その身体を乗っ取る、この時を、ね」
「・・・まぁ、食後の運動にはなるかな?」
骸の持つ匣兵器は霧の属性の中でも特にレベルの高いものだったが、白蘭に焦りは見えない。
凄まじい殺気がぶつかりあい、ビリビリと空気を振るわせた。