――並盛・ボンゴレ日本基地
「・・・がはっ!!」
イタリアで骸が白蘭と戦っていた頃、日本のボンゴレ基地では突然クロームの容態が悪化した。
「クローム!!」
その知らせを受けたツナが駆けつけると、京子やハルは既に連れ出された後で、ビアンキだけが顔色も悪く、その場に立っていた。
「もう、手の施しようがないの!・・・内臓が、消えてしまっているのよ!!」
骸の完璧なフォローがあったはずのソレに、ツナは嫌な感じがした。
「・・・骸に何か・・・いや、それよりも今はクロームを何とかしないとね」
元々、幻術で補われていた内蔵だ。酷な話だがクローム自身に補わせる他にないとツナは理解していた。
「沢田・・・」
草壁から報告を受けてやって来たらしい雲雀が病室の入り口に静かにたたずみ、ツナの名を呼ぶ。
ツナはその落ち着いた様子に、彼もまた同じことをしに来たのだと気づいた。
「ねぇ、雲雀さん・・・ボンゴレリングで幻術を強化することは可能ですか?」
「・・・うん、可能だよ」
それは、他の誰のものよりも説得力のある肯定だった。
***
――イタリア・ミルフィオーレ本部
「ぐっ、う・・・」
床に落ちた折れた三叉槍。
顔面半分を血に染めた骸は己の武器の成れの果てを見つめ、白蘭と“今の自分”との力の差がかなりあるということを認めるしかないと悟る。
ともかくも、白蘭の謎に包まれた戦闘データを取れたことでよしとするしかない。
「ねぇ、骸君・・・今、その器を捨ててこの場は戦略的撤退としよう、なんて考えてるでしょ?でもねぇ、ここはとーっても特殊な結界で包まれていてね、それはできないと思うんだよ」
敵の長口上(ながこうじょう)をいつまでも聞いているつもりはない。
「・・・クフフ、楽しかったですよ・・・っ、なっ!?」
骸は器との繋がりを切ろうとして、何かに弾かれたことで、白蘭に再び意識を向けた。
「ふふっ、だから言ったでしょう?特殊な結界を張って、光や電気の波はおろか、思念の類も通さないようにしているんだよ?
ここから逃げられると思わない方が良い。君の能力はなかなかに厄介だからね、今の君はボンゴレリングも持っていないことだし、いっそ、本当の死をむかえちゃおうか」
す、とマーレリングをはめた手をかざされ、骸はきつく白蘭を睨みつける。
(まさか最後の手段を使うことになるとは。まぁ、この器は既に限界ですし、クロームは・・・この結界のせいで既に危ない可能性もある。ボンゴレに期待するしかありませんね)
万が一のことも考え、自分の意識をわずかながら本体にも残している骸は、このメインで使っていた“骸の意識”を切り捨てる選択をした。
複数の身体に自分の意識を乗り移らせることのできる骸だからこそできる荒業だ。
白蘭もさすがにそこまでは予想していなかったのだろうが、骸はその生い立ちから誰よりも慎重に行動してきた。唯一のイレギュラーはツナとの戦いの時のみ。
「・・・ッ」
白蘭との戦闘データは諦めた。せめてこの部屋に入るまでのバックアップは取れていると信じるしかない。
しかし、すべての情報が遮断されているということは、この器のダメージが本体へは向かわないということ。それだけは感謝しなければ。
「ふふ、バイバイ・・・」
白蘭の持つマーレリングから放たれた炎が何かの形を模り――骸の意識は途絶えた。
***
――並盛・ボンゴレ日本基地
雲雀の協力を得てクロームに幻術で自分の内臓を復元させたツナは、一端、ブリーフィングルームへと戻った。
「十代目・・・」
「・・・ツナ、クロームは?」
「うん、大丈夫。持ち直したよ」
不安そうにツナを出迎えた獄寺と山本にそう答えれば、2人ともホッと胸を撫で下ろす。
骸や千種や犬といった黒曜組とはあまり仲が良いとは言えないが、黒曜との繋ぎ役として並盛をよく訪ねてくるクロームに関してはきちんと仲間という意識がある。
というか、猫を被るのをやめたツナの相手は獄寺や山本、了平だけでは心もとなく、クロームがいると少しばかり態度が和らぐので、本気でクロームが無事でないと困る、というわけである。
「しかし、一週間後の作戦にクロームは連れてけねーな・・・」
「んー、そーだねぇ」
あくまでも冷静なリボーンの言葉に、ツナはコトリと首を傾げる。
((相変わらず、可愛い!!!))
途端に、獄寺と山本から不穏な気配――妄想してるとまるわかりな態度――を感じるが、そこは黙殺しておく。
「・・・クロームの空けた穴には、俺が入る」
どうしたものかと考えていれば、ラルがそんなことを発言し、ツナの機嫌が一気に悪くなった。
「あのさぁ、ラル・・・自分の命を軽く見るのはやめろって言わなかったっけ?」
「っ、別に、そんなつもりはない。・・・ただ、俺は・・・」
ほんの少しも、コロネロの後を追おうという気持ちが無い。とは言えないだろう。だが、ラルはゆっくりと首を横に振り、まっすぐにツナを見つめた。
「ほんの少しでも命を粗末にしようとしたら、凍らせてでも止めるから。良い?」
それがツナの許しだと気付いたラルはきゅ、と唇を噛み、コクリと頷いた。