いくら炎の力が強くとも、それをコントロールできなければ意味が無い。雲雀はまっすぐに突っ込んでくるツナの姿をしっかりと視認していた。
(まだ、こんなものか?)
いささか落胆しつつ、突っ込んでくるタイミングにあわせてトンファーを振る。
ガッ!!
「っ!」
何かにぶつかった音と共にその反動が腕に来る。咄嗟に後ろへと飛んだ雲雀の視界に氷の破片が散った。
「・・・いったぁ。何この炎、じゃじゃ馬も良いトコじゃん」
文句を言いつつ、ツナが痛そうに腕を振る。
パラパラと辺りに散る氷の破片は、どうやらツナが零地点突破Fast editionを自分の腕にかけ、氷をまとわせていた名残のようだった。
(アレでトンファーの力を相殺したのか)
やはり“沢田綱吉”はどんな状況にあっても雲雀を楽しませてくれる。
「沢田綱吉・・・それだけじゃ、僕には勝てないよ?」
「わかってるっての・・・あー、しかし、コレは慣らすのにしばらくかかりそーかな」
ツナはぶつぶつと呟き、チラリと雲雀を見る。
その観察するような視線に混じる殺気に雲雀は口の端をつり上げる。
「続けようか?」
「ああ、そうだな」
雲雀の言葉に頷き、ツナはⅩグローブVer.V.R.に力を込め始める。
「・・・また突っ込む気か?!」
ラルの声がトレーニングルームに響く。
ツナは口元に笑みをうかべ、ある目的を達成するために勢い良く炎を後ろに噴出した。
「2度も同じ手は食わないよ?」
雲雀はムッとしつつトンファーを構え、今度こそは一発懐に叩き込んでやろうとカウンターのタイミングを計る。
まっすぐに突っ込んできたツナの腕が伸びてくる。雲雀はその腕を避けトンファーをツナの腹に叩き込む。
ドゴッ!という鈍い音と共にツナの身体が吹き飛ばされる。
「10代目っ!!」
「ツナっ!?」
獄寺と山本が心配そうに声を上げ、タイルが割れたことによる煙幕が晴れるのを祈るように待つ。
その間、γは雲雀の表情を確認していた。あの攻撃はヒットしていないと勘が訴えていたからだ。
その勘が当たっているらしく、雲雀は自分の持つトンファーを不機嫌そうに見やってから、ツナのいるだろう場所へ視線を向けた。
その一連の様子はリボーンもラルも気付いていたようで、静かに成り行きを見守っている。
そして、煙幕の中でゆらりと影が動いたかと思ったら、バシュッ!と何かが飛び出てくる。
「あっ!」
「アレは、雲雀の匣兵器?!」
「速いっ!!」
凄まじい勢いで突っ込んでくる匣兵器にも雲雀は余裕の笑みを見せ、懐から匣兵器を出し、炎を注入する。
「うっわ、まだ持ってんの?」
呆れたように呟く声が聞こえてそちらに視線を向けると、すっかり晴れた煙幕から現れたツナにはほとんどダメージが見えない。
先程の攻撃はヒットしていなかったらしい。獄寺と山本はホッとした様子でツナを見てから、雲雀の方へと飛んでいった匣兵器を振り返る。
ガキィン!!
その瞬間ツナの放ったハリネズミと雲雀の放った匣兵器がぶつかり合う。その姿は同じハリネズミ。
「ええー、いくつハリネズミ持ってんのー・・・?」
自分を閉じ込めて壊されたハリネズミ、自分が奪ったハリネズミ、そして雲雀の放ったハリネズミ。
少なくとも3つは持っていたことになる。
「匣兵器のコピーでもしてんのか?」
何気なく言った山本の言葉に、γはギョッとする。
もしそうだとしたら、雲雀はリングだけでなく匣兵器も使い捨てできるほど持っているということになる。
ミルフィオーレがどれだけの戦力を注ぎ込んで雲雀の匣兵器を破壊しても、次から次から出てこられるのではたまったものではないだろう。
そこまで考えて、そう言えば自分はもう敵対する気0だったと思い出す。
ボンゴレの戦力はハンパではない。
実験台にされているから良くわかる。まだ匣兵器を使い始めたばかりである彼等の戦闘センスの伸びしろは果てしないとさえ思える。
「これ、いけるんじゃないか・・・?」
このまま彼等にかけてしまおうか、とγは洗いざらい告白してしまう覚悟を決めた。そして、γが覚悟を決めたのと前後して、ツナと雲雀の戦闘も決着がつこうとしていた。
ぶつかり合ってからしばらく拮抗していたハリネズミ同士だったのだが、雲雀の放ったハリネズミが球針態となってツナのハリネズミを取り込んで破壊する。
「ああっ」
「マジかよ~」
悔しげに叫ぶ獄寺と山本に肩を竦めて見せ、ツナは再び腰を落とす。
「沢田綱吉」
「なに?」
「覚えておくといいよ、大空の炎は全ての属性の匣兵器を開匣することが出来るが、その能力全てを引き出すことは出来ない。
まぁ、大空属性専用の匣兵器もあるそうだから、悲観する必要はないよ。で、その辺りの学習させる予定、あるの?」
雲雀は最後はリボーンへ向けてそう問いかける。
「ラル」
「ある程度は説明が出来る」
「そう、ならそっちの教育は君に任せよう。・・・残りの戦闘訓練は引き続き僕がやる。明日も楽しませてよね、沢田綱吉」
ヒラリと手を振った雲雀はさっさときびすを返して、トレーニングルームの唯一の出入り口であるエレベーターへと向かっていく。
「チッ、えっらそうに」
「まーまー、獄寺・・・でも、ツナが専用の匣兵器持ってたら絶対に勝ってたのなー」
言いたい放題に言って帰っていった雲雀に対し、素直に怒気をあらわにする獄寺と笑顔のまま殺気を放つ山本に、リボーンは良い発破かけになったらしいと満足げに笑う。
「とりあえず、このⅩグローブVer.V.R.の扱い方に慣れないとなぁ・・・ラル、匣兵器の説明しててくれる?炎の出力調整とかしつつ聞いてるから」
「ああ、わかった」
ミルフィオーレの基地への突入までの時間はあまり無い。とにかく匣兵器の学習と同時進行を申し出たツナに頷き、ラルはその傍に立つ。
それを確認したリボーンは獄寺と山本を振り返った。
「さて、俺達も修行を再開するぞ、ビアンキ、獄寺は任せた」
「ええ、いきましょうか、隼人」
「ああ」
「山本」
「おう、どこでやるんだ?」
「もうちょっと下の階に、良い場所があるんだぞ」
「そっか、りょーかい!」
ニカリと笑って頷く山本から視線を外し、リボーンはγに視線を向けた。
「どうやらオメーは俺達に聞いてもらいたいことがあるらしいが、それは夕食時にでも聞いてやる。それまでに簡潔にまとめとけ」
「・・・わかった」
お得意の読心術かとも思ったが、γがそわそわとしていたのに気付いたのだろう。
γは心配そうにこちらを見てくる弟達へと視線を向けた。
「お前らの意見も聞きたい」
「あ、ああ」
「γアニキ・・・わかった」
その一言だけでγが何を考えているのか大体の想像がついた太猿と野猿だったが、今までボンゴレの中で捕虜(?)として過ごしてきた中で、同じような考えを抱いていたため、素直に頷いたのだった。