「あー、れ?」
ふと気づいたらそこは真っ暗な廊下だった。
ツナはことりと首を傾げる。
今までトレーニングルームで雲雀と新技のチェック(という名の戦闘)をしていたはずである。
「あ、だんだん思い出してきた。調子乗りすぎて炎の出し過ぎをやらかして、ぶっ倒れたのかぁ」
あの新技はなかなかに炎を消費するようである。
「XANXUSが銃を使ってジェットと攻撃に使ってたのを参考にしてみたけどぉ、思ってみればとんでもないスタミナがあってこその荒業だったわけだよなー・・・」
うん、あのスタミナ魔人・・・。過去に帰ったら普段どんな特訓してるのか聞いてみよう。
なんて思考を飛ばしていた時だった。
「・・・ボス?」
「おんや、クロームじゃん」
ファミリーの紅一点、クロームとばったりと出くわした。
「ここ、私の夢の中だと思ったけど・・・ボスの夢の中?」
「いやー、どっちかってーと、骸の残留思念的な何かだと思うよ?・・・っていうか、クロームは大丈夫?」
「大丈夫。だいぶ、炎の使い方もわかってきたから、そろそろ起きれると思う」
「おお、さすがぁ」
過去ではなんでか一番ツナに影響を受けていて、黒曜組から苦情が出るほどの変貌ぶりを遂げたクロームだ。
グロ・キシニアとの戦いで見せた才能の片鱗を既に開花させたようである。
「・・・ねぇ、ボス。さっき骸様の残留思念って言ってたけど、骸様はどうしたんだと思う?」
「たぶんだけど、潜入かなんかしてて失敗して、余裕がなくなってるんだろうなぁってとこかな。でも死んでないと思うよ?骸の本体は“あの場所”にあるからね、バックアップ用の意識は残してるはずだし」
「うん、私もそう思う。・・・だから、これ、何かのメッセージかと思ったの」
そう言ってクロームが差し出してきたのは、骸の持つ三叉槍の残骸だった。
「ありゃりゃ、相当派手にやられたみたいだねぇ」
「うん・・・」
「・・・クローム、骸が心配なのはわかるけど、今は自分のことを最優先に考えるんだよ?」
「はい、ボス」
コクリとクロームが頷いた時だった。
さらさらと三叉槍の残骸が砂のように崩れ、クロームの掌からこぼれ落ちていく。
その残骸からわずかな幻術の匂いを感じ取って、ツナとクロームは顔を見合わせた。
「・・・ま、ただじゃやられないよねぇ」
「・・・もちろん、骸様だから」
2人が妙な納得をしたことに抗議するかのように、真っ暗だった廊下に、白くて丸くい装置のようなものが出現する。
そして静かに起動したその装置の中がチラリと見えて、ツナは目を丸くした。
「・・・あー、なるほど。こっちの過去に未来のみんなが行ってるわけじゃないってことは確定だね」
「ボス・・・冷静に分析しないで・・・この白くて丸い装置がある場所がどこにあるのかわからない以上、どうなるかわからないのに」
「まぁねぇ・・・でもま、大丈夫でしょ。殺されるならとっくの昔に殺されてるよ。・・・っていうかさ、これを見たらちょっとした疑問がわいたんだけどね?」
ツナはスゥ、と目を細めた。
目の前の装置にはどうにもおかしな部分がある。“それ”がこれに収められているということは、今、皆が信じ切っている情報はもしかしたら嘘なのかもしれない。
もっとよく見ようとツナが白くて丸い装置に近づいた時だった。
「近づくな!!!」
ブン、と目の前を拳が横切る。反射的に避けなければ顔に直撃コースである。
「あっぶないなぁ・・・」
「ボス!」
たとえ夢の中であろうと、痛いものは痛いのである。わざわざ殴られてやることもない。
「ふーん、入江正一?・・・そうか、これはお前の夢か」
「・・・っ」
苛立たし気にこちらを睨み据える入江正一の姿が過去のものから現在のものに変わる。
「それはお前の元にあるの?」
笑みをうかべて尋ねるツナに対して、入江正一はグッと詰まったようなうめき声をあげる。
笑顔の悪魔と称されるほどのツナの殺気混じりの笑顔はなかなかに破壊力があるらしい。
「ボス、この人・・・」
「うん、そーだねぇ・・・どうやら、いろいろあるみたいだけど?」
人を惑わす霧の術者と、未来予知やら読心術(本気で心を読んでくるヤツ)やら超直感やらを持つボンゴレボスが揃っていて隠し事などできるはずもない。
まるっと素っ裸にされたような感覚に陥った入江正一は、ずりずりと後退る。
「ふふっ、そんなに警戒しなくても食べたりしないよぅ?」
猫なで声がここまで恐ろしい人物もいないだろう。
「そうよ、ボスはとっても優しい」
そんな人物の横で、そんな風に説得されても、なんだかとっても説得力皆無だ。
「うっ・・・痛たたた・・・」
というわけで、持病と化している胃痛を発症した入江正一がしゃがみこんだ瞬間、幻術の世界が崩壊していく。
「・・・あ」
「あーぁ、時間をかけすぎたかぁ・・・まぁ、骸もここまでは想定してなかっただろうし、しょうがないよね」
ツナとクロームの意識を入江正一の夢に繋ぐ分の力だけでも惜しかっただろうに、ミルフィオーレを共通の敵としているツナ達に情報を寄越す意外と律儀な元悪役である。
おかげで様々な情報が手に入ったのだから、この未来で会うことがあったなら色々とお礼を言っておこうと思う。まぁ、本人は嫌がるだろうが。
「・・・」
じっと恨めし気にこちらを見やってくる入江正一に、ツナはニィ、とあくどい笑みを向けた。
「またねぇ、入江正一、クン?」
去り際のそのセリフに、入江正一は全力で拒否するようにブンブンと首を横に振ったのだった。