「痛い・・・胃が痛い・・・ナニアレ、何なのアレ、めちゃくちゃ怖いんだけどっ!!」
うたた寝から目覚めた正一は開口一番にそう叫んだ。
背後でビクッと誰かが身じろいだ気配がして振り向くと、己の監視役であるチェルベッロの2人が控えていた。
「「・・・入江様?」」
「ああ・・・報告?」
ため息混じりに尋ねると、白蘭からの通信が入ったとのこと。
慌ててジャケットを羽織ってブリーフィングルームに向かうと、マシュマロを頬張りながらも元気そうな上司の姿がそこには映っていた。
「白蘭さん!!」
「ん、正チャン。・・・あれ?顔色、悪いね?」
「あ、当たり前です!!無事だったんですか!?あの伝令役は!?」
何とか「白蘭と連絡が取れなかったせいで青いのだ」というように誤魔化した正一に、白蘭は追い打ちをかけるように告げる。
「ああ、彼なら明日、変死事件として新聞にでも載るんじゃない?名前は少し変わると思うけど」
「じゃあ・・・」
「それでねぇ・・・彼、中身は六道骸クン、だったよ」
「!!?」
ギョッとする面々を見やり白蘭はなおも続ける。
「でさ、彼にしてやられちゃって。こちらの情報が少しずつボンゴレに流れるようにコンピューターに細工されてねぇ・・・たぶん、アレの情報も洩れちゃったっぽいんだよね」
「つまり・・・」
「そ。ボンゴレ側がアレの存在に気づいて、こっちに攻撃を仕掛けてくる可能性が高いってこと。
現に大規模な反転攻勢の作戦が練られているようだし、それに便乗して日本でも過去の10代目ファミリーが動き出すかもしれないね」
正一は白蘭の見立ては間違いないと確信して、深い深いため息をつく。
またね、というツナの言葉はそれを意図していたのだろうし、そうでなくては彼等に例のモノを渡せない。
「わかりました・・・γは部下共々行方不明、グロ・キシニアはボロボロで回収、扱い難いのがいないのは逆に好都合だ」
「・・・おっ。ってことは?」
白蘭の合いの手に正一は懐からリングボックスを取り出して指にはめ、彼を見上げる。
「僕が直接迎え撃ちますよ・・・もう、他人のやり方を見てイライラしてお腹が痛くなるのは勘弁願いたいので」
「ふふ・・・最も信頼する部下がそう言うなら、僕はもう何も言わない。・・・任せたよ、正チャン♪」
「・・・じゃあ、しばらくは放っておいてもらえますか?」
くるりと白蘭に背を向けた正一は一方的に通信を切る。まだ何かを言いたげだった白蘭だが、そんなものは相手にはしていられない。
「「入江様」」
「非常招集だ。すぐにハンガーを上げてくれ。白いのも、黒いのもだ!」
「「はっ!」」
チェルベッロに指示を出した正一は、中央のハンガーへと足を向けた。
その間、頭に過ぎるのはあの過去のツナとクロームの姿。彼等と直接まみえることになると思うとチクリと胃が痛む。
(綱吉君・・・無事この件が終わったら、本気で良い医者を紹介してくれ・・・)
***
「ねーリボーン、うちの子達、マジ天才じゃね?俺、すっごい鼻が高いんだけど」
「・・・まぁな」
というか、全部ツナのせい・・・なんて反論は許されていない。
トレーニングルームからやたらと上機嫌で帰ってきたツナに、獄寺と山本の特訓の成果を報告したら、先のセリフである。
どうやら相当機嫌が良いらしい。新技がそこまでの出来だったのか、それとも別の理由か。
「10代目!」
そこに大きな猫を頭に乗せた獄寺が特訓から戻ってくる。
「お疲れ、隼人!で、そのやたら可愛いの、なぁに?」
「匣兵器の一部ッス!ちょっと馴らすまで時間がかかったんスけど、まぁ、何とかなりました!」
「さすが隼人だね♪じゃ、後でγと実戦形式でやってみせてね?」
「はい!!」
γは知らない間に獄寺の試金石として利用されることが決定したようである。
「しかし、武のは燕で隼人のは猫かぁ・・・動物型の匣ってのは多いのかね?」
「姉貴のはサソリでしたしね」
「ビアンキらしいよねぇ・・・あーぁ、大空専用の匣、どっかに落ちてないかなぁ・・・」
落ちてはいないだろう、とは思うが、ツナにだけ匣兵器がないのは何か意図されてのものなのだろうかとリボーンは勘ぐる。
この日本支部の地下アジトの状況を見るに、この時間軸の未来のツナはかなり用意周到な人物であると伺えるのに、なぜか自分の匣兵器をこの場に残していないのだ。
「大空の炎を扱う者自体が珍しいんだ・・・そりゃ、当然、匣兵器も数は比例して少なくなるだろ。量産品とオーダーメイドくらい価値が違うと考えた方が良いな」
「あー・・・そうなるのー?・・・じゃあ、ミルフィオーレの基地に殴り込みに行くときに、匣兵器を物色していこうかねぇ?雲雀さんじゃないけどさ、匣兵器に予備があると楽だしさ」
「じゃあ、リングとかもかっぱらっちまいましょうよ!!特に雲のリングは雲雀のヤローが使い捨てにしやがるし、いくらあっても足らないでしょうし!」
獄寺がツナに同調してそんなことを言い出す。
まぁ、必要なのはわかる。わかるのだが・・・ツナに影響され過ぎじゃないだろうか?てか獄寺ってこんな性格だっただろうか?
「話を聞いてると、マフィアじゃなくて強盗団のようだな・・・」
ぼそり、とラルが呟く。
殴り込みで物色し、かっぱらう・・・まぁ、確かに強盗のセリフのようだが、本人達はいたって真面目に話し合っているつもりである。
組織のトップとナンバーツーがこの調子で、これに山本が加わって更にカオスになること間違いなしである。
「まぁ、イイじゃねぇか。別に敵がどうなろうと関係ねーだろ?」
「・・・お前達はミルフィオーレを甘く見てるんじゃないのか・・・?」
「そう言われてもな・・・こいつらは猿兄弟はともかくとして幹部クラスのγを生け捕ってくるんだぞ?しかも無傷で」
「それは、不意打ちだからだろう。ミルフィオーレだって基地に乗り込まれたならそれなりの対応はしてくるだろうし、地の利はあちらにあるんだ、油断は禁物で・・・」
真面目なラルは色々と考えているようだが、むしろ、ツナの超直感をすり抜けて罠を張られること自体がありえないと思っているリボーンである。
とはいえ、ツナの底力をまだまだ理解していないラルにそれを説明しても理解できないだろうと考えて、曖昧に頷いておいた。
「まぁ、警戒するに越したことはねーな」
(心配するだけ無駄なような気がするのは、気のせいじゃねーと思うんだがなぁ・・・)
その予感は数日後、ドンピシャで当たることになるのだが、今はまだ誰も知らない。