「―――暗い、狭い、息苦しい」
ボソ、っと呟く。どうやら狭い何かに閉じこめられているようだ。
ぐっと手を突き出すとアッサリとそれは外れた。
「まぶしっ・・・」
とっさに目をつぶり、少しずつ明るさに慣れてきたところで恐る恐る目を開く。
「おー・・・森?・・・で、コレは棺桶、だよねぇ・・・?」
想像するに、この状況はあまりよろしいものではないような気がする。
「あー・・・俺、死んだ?コレ」
そうとしか思えないのだが、まさか自分が10年後に死んでいるとは思わなかった。
「ん~?でも、なんだろう、この違和感・・・」
どうにも妙な力を感じるのだ。それは、リボーンが立っていた場所から感じた力と酷似していて。
「じゅ、10代目・・・!?」
しばらく考え込んでいた時、聞き知ったものよりも少し低い声が耳に届く。そちらに視線を向ければ、己の守護者を成長させた姿がそこに有った。
「隼人?」
「・・・へ!?」
「アレ?隼人じゃない?」
「い、いえ!自分は獄寺隼人ですが・・・その、隼人、と呼ばれたことはなかったので・・・」
その言葉にツナは納得した。自分があっさりと死んでいること自体おかしいと思っていたが。
「なるほど、これ、別の時間軸だわ」
「え?」
「いや、この時間軸って・・・俺、大人しいのかな?」
「ええ?」
戸惑う10年後獄寺に、ツナはニッコリと笑ってみせる。
「あのさ、この時間軸のヴァリアーとの戦いってどうなったの?」
「え・・・と、ですね・・・XANXUSが9代目の実の子どもではないことが判明して、貴方が勝って正式な10代目候補として認められました」
「流れはほぼ同じか・・・ね、XANXUSってその後どうなったの?」
「おそらくイタリアで罰を受けて・・・今現在は、忌々しくも10代目を認めず、9代目直属を謳って暗殺部隊を率いています」
「なるほど、ね」
どうやら自分のいた時間軸とはかなり違う歴史を刻んでいるらしいと知り、ツナは余計なことを口にしない方が良いと判断した。
「10代目、もし過去に帰ったら、この男を探してください」
10年後獄寺の取り出した写真を見て、ツナは首を傾げる。
「これ、誰?・・・ボンゴレ関係者?」
「いえ、この男さえいなければ・・・ミルフィオーレはここまで台頭することはなかった・・・そして、貴方も・・・」
悔しげに言う10年後獄寺に、ツナはこの時間軸の10年後の自分の死を確信した。
「そっか・・・俺、やっぱ死んだんだ」
「・・・申し訳ありません!!俺が、俺があの時、無理にでも10代目と一緒にいれば・・・!」
「ううん、君が後悔することないよ。この時代の俺がそう命じたんだろう?」
性格やなんかは随分違うようだが、考えは似通ったものがあるのだろう。そもそも、同じ存在だし。
「10代目・・・」
しかし、この儚げ美形に成長した10年後獄寺を見るに、だいぶ落ち着きを身に付けたらしい。
「こっちのも10年経てば落ち着くかな?」
「はい?」
「ううん、こっちの話。・・・で、今、どういう状況なのか教えてくれるかな?」
「はい。・・・実は・・・」
ぼふん。
「・・・あー・・・状況説明してもらおうと思ったのに」
肝心な所で10年バズーカがやらかしたらしい。
目の前でキョトン、としている14歳の獄寺は状況をあまり理解していないようだった。
「・・・隼人?」
「あ・・・俺らも、10年バズーカにやられちまいました、か」
「うん、同じ時間軸の隼人だね」
ツナがそう言えば、獄寺は首を傾げた。
「え?どういうことです?」
「どうやら、ここは違う過去から派生した未来、らしいんだよねー・・・。ヴァリアーとの関係も険悪みたいだし」
「そうなんですか!」
キラン、と獄寺の目が輝く。
「・・・嬉しそうだねぇ、隼人」
思わず苦笑いをうかべると、獄寺は慌てた様子で手を振る。
「い、いえ!そ、そんなことはありません!例えヤローがお可愛らしい10代目とイチャついてようが、ムカついて邪魔だとか思ったりしてません!」
本心ダダ漏れだ。
「ああ、邪魔だなーって思ってたんだねー」
獄寺や山本の気持ちには気付いてはいるものの、どちらかを選ぶことはできない。守護者に対しての気持ちは信頼や親愛であって、恋情ではないから。
ならば、XANXUSはどうか。
迫られればドキドキするし、つい流されてしまってもイイかも、なんて思ってしまったりする。これは恋情なのだろうか?
そんなことを考えていたツナに、獄寺が不審げに声をかける。
「10代目・・・10代目がこちらにいらしてから、何分経ってますか?」
「―――あ。あぁ・・・なんか戻れないみたいだねぇ」
既に5分以上は経過していることに気付いたツナだったが、さほど慌てることもなく溜息をもらした。
「ど、どうしましょう・・・」
「慌てても仕方ないって・・・まぁ、とりあえずここがどこなのか調べないとね」
「そ、そうですね」
慌てる獄寺をなだめ、ツナは立ち上がり棺桶から出た。
その瞬間、わずかに感じた殺気に、ツナはそれをバックステップで交わす。
「っ・・・ムカデ?」
うぞうぞと動く多足の虫、大きさをのぞけばそれはムカデと称するものだと思う。が、大きさは通常のものよりもかなりあるし、何やら紫色の炎のようなものまでまとっている。
「10代目!」
「隼人、アレ、なんだろねぇ」
「わ、わかりませんが・・・あの炎」
「うん、死ぬ気の炎に似てるねぇ」
ツナの扱う死ぬ気の炎を間近で見ているせいか、獄寺もそうではないかと思ったらしい。
のんびりと話していたら、ギチギチと音を立てて再びムカデが襲ってくる。
「ん~・・・なんか、人工物っぽい?」
ガシッとムカデを掴んだツナは、死ぬ気の炎ならば、と零地点突破First Editionをかけた。
溶けない氷に包まれたムカデは、そのままボトリと地上に落ちた。
「―――どうやら、少しはできるらしいな」
「!・・・誰だ!」
「隼人、あそこの枝の上」
聞き慣れない声に獄寺が反応し、ツナはその声の主の位置を特定して指さした。
太い枝の上に立っていたのは、妙な気配の女だった。