「何者だ!」
獄寺が警戒の声をあげる。ツナ自身もいつでも反撃できるような態勢をとって、女が降りてくるのを待った。
「・・・オレはボンゴレファミリーの門外顧問機関チェデフの一員で、アルコバレーノのなりそこない・・・ラル・ミルチという」
「アルコバレーノの・・・あぁ、それで妙な気配を放ってたんだ」
人間のような、人間じゃないような、そんな不思議な気配。リボーン達アルコバレーノの気配とは違うからすぐにはわからなかった。
「それにしても、随分な挨拶じゃねェか・・・いきなり攻撃してくるなんて」
「フン・・・この時代では実力の無いものはすぐに殺される。敵の手に渡りむごたらしく殺されるくらいならこの手で殺してやった方が親切だと思ってな」
「ふぅん・・・随分とひねた“お嬢さん”だね」
「なっ!」
ツナが挑発するように言えば、ラルはいきり立ってツナを睨む。
「自分のせいでコロネロが死んだとか、悲劇のヒロインぶるつもり?」
「!!」
ツナの読心術は最初から全開だ。ボンゴレ所属とはいえ初対面。敵か味方かもわからないのに信用できるはずもない。
「俺さァ、この時間軸の沢田綱吉じゃないんだよねぇ・・・だから“ここ”の沢田綱吉がどんな人物だったかは知らないけど、一緒にしないでくれる?―――ああそれと、自分のせいで、とか思い込んでるヤツ、俺、大っ嫌いなんだよね。だからやめてくれない?」
「っ・・・」
ラルは息を呑んで黙りこみ、ツナをマジマジと見つめる。キツイ言い方をしているが、それはラルを叱咤する意味合いを含んでいることに気付いたからだ。
コロネロの死を知ってラルが塞ぎこんだ時、同僚の誰もが気を使って当たり障りのない同情の言葉を口にした。
それ自体が悪いわけでもないし、ラル自身、そうっとしておいて欲しかったからありがたいとすら思ったものだ。
だが、目の前にいる少年はアッサリバッサリその感情をぶった切った。つまり、状況に甘えて楽な道を選ぶなと怒っているのだ。この場合の楽な道とは、仇打ちと銘打った死に場所探しのことだろう。
「10代目、こんな奴は放っておきましょう。“死にたがり”に殺されるなんてアホらしすぎます」
獄寺までそんなことを言いだし、ラルは思わず感心してしまった。
「お前達は・・・どんな育ち方したら、そうなるんだ・・・?」
「―――聞くとこ、ソコ?」
そもそも、時間軸が違うって言ってんだから、もっと他のこと聞けよ!とツッコミを入れつつ、ツナは、この少し抜けている父の同僚に、情勢を聞くことにする。
それから同じ場所にずっと留まっているのは危険だからと棺桶のあった場所から移動し、水場で休憩している間に大体の状況を聞いたツナと獄寺。
「で、つまり、そのミルフィオーレとかいうファミリーがボンゴレを潰しにかかって来てるわけか」
「ああ、そうだ。・・・アルコバレーノは皆死んだ。本部は数日前に壊滅し、9代目や家光達は生死不明、山本の父親は死亡、その他にも何名か関係者が死んでいる」
「・・・そう」
思ったよりも酷い状況に、ツナも言葉少なに頷く。
「しかし、まさか・・・この時間軸ではボンゴレリングを砕いちまうなんて」
「狙われ、利用されるよりは、というコトだ・・・最後まで反対した守護者もいたようだが」
獄寺にそう返したラル自身、納得していない部分もあるようだ。
「まぁ、ある意味思い切った性格してるよね、この時間軸の俺も」
肩を竦めたツナは、自分の指にはまるボンゴレリングを見つめる。
「・・・このリングが武器になるとはねぇ・・・俺達の時代じゃ継承の証以上の意味はなかったのにね」
このリング自体に力があるとは理解していても、武器とまでは考えなかったのだが。
「俺達の時間軸でもいずれはこのリングが武器になるんでしょうか?」
「まぁ、なるんじゃない?だって、リングに力があるのはもう知られてるわけだし」
「ですよね・・・」
獄寺が神妙な表情で頷くので、ツナはバシン、とその背中を勢いよく叩いた。
「――い゛ッ!!?」
「あ、ゴメン・・・ちょっと強すぎた?」
「・・・い、いえ」
ちょっとどころではなく痛かったらしい。獄寺はその場にしゃがみ込んで涙目になっていた。
「なんていうか・・・気にしなくても大丈夫だよって言いたかったんだけど・・・本当にゴメン」
「お・・・お気になさらず・・・俺の鍛え方が甘かったんッス」
「いやいや、何を想定しての鍛え方だよ、それ・・・まぁ、大丈夫なら先を急ごうか。この状況だとリボーンもこっちに来てる可能性もあるし」
「その前に、リングにこのチェーンを巻き付けておけ。・・・リングの波動で居場所を知られかねん」
ラルが差し出したチェーンを受け取ると、ツナと獄寺はそれぞれのリングにチェーンを巻き付ける。
「あ、コレさー・・・マーモンがおしゃぶりに巻いてたのと似てない?」
「似てますね。ほぼ同じ働きなんじゃないですか?」
「帰ったらマーモンに聞いてみよっか・・・コレの仕組み」
「そうですね。今から対策を練った方が良さそうです」
「―――お前達の時間軸では、ヴァリアーと懇意なのか・・・?」
不審げに問うラルに、ツナはこっくりと頷いた。
「まぁね~。俺とXANXUSなんてちょー仲良しだもん」
「・・・・・・10代目ぇ」
事実を事実として告げただけなのに、獄寺が涙目だ。
まぁ、自分の好きな相手に気持ちに応えてもらえないうえに、別の相手と目の前でいちゃつかれたら獄寺でなくとも涙目になるだろうが。
「XANXUSと沢田が仲良し・・・想像がつかないな」
「あはは、だよねー!」
ついでに、この目の前にいるツナにも違和感を抱いているラルである。この時間軸の沢田綱吉と面識があるからこその違和感。
「・・・まるで別人だな。確かに先を見通す余裕があるところは似てなくもないが」
少なくとも、こんなにはっちゃけてはいなかった。
「まぁ、別人っちゃ別人なんだろねー」
10年後獄寺やラルから聞いた話を総合すると、己とは違う考えの持ち主であることは知れる。そうツナが言うと、獄寺は面識のあるラルに訊ねる。
「・・・この時代の10代目はどのような方なんだ?」
「どのような、と言われてもな・・・オレだってそれほど親しくしていたわけではない・・・バジルならば、少しは―――っ!!」
ラルは言葉の途中で立ち上がり、辺りを見回す。
「―――ラル?」
「敵だ。・・・隠れるぞ!」
ラルの指示に従い、ツナと獄寺は近くの草むらに隠れる。
そして、先程までいた場所に現れたのは、記憶にも新しい、例のアレだった。