Gのレコンギスタ[外伝] アメリアン・ソルジャー 作:榊原啓悠
新たなるG
緊張と不安が、全身をこわばらせる。
何度となく気持ちを和らげようと深呼吸するが、なかなか思うようには落ち着かない。
父のため、家のため、これまで培ってきた全てをここで発揮しなければならない。
「でなくっちゃ、頑張ってきた甲斐がありませんもの……!」
慣れない作業着の胸をぎゅっと掴んで、自分に言い聞かす。
全てはアメリアを、本来あるべき姿に戻すため。
「どうか私にご加護を……スコード……」
荒れ果てた荒野の真ん中にポツンと建つ眼前のアメリア軍テキサス駐屯基地を睨みながら、少女―――ティアラ=ブリーチは呟いた。
※※※※
「資料は読みましたか?」
「あぁ。けれど、あのカタログスペックは本物かい?」
「コンピューター上の計算では、ですが。少なくとも《ジャハナム》なんかとは比較にならない性能なのは、保証します」
軍服に身を包んだ二人の男が、コツコツと靴音を響かせながら兵器廠へ続く渡り廊下を会話しながら行く。少尉の階級章を襟に付けた方の男がやや信じられないといった顔をすると、隣を歩く技術屋らしき男は少しだけ頬を緩ませた。
「大陸間戦争のエースパイロットである少尉のためのモビルスーツです。これくらいの性能は、あってしかるべきでしょう」
「おだてないでくれ」
「ご謙遜を。カイル=ガウェイン少尉」
やがて兵器廠へ辿りついた二人は、安全ヘルメットを被って目的のモビルスーツのもとへと向かった。白亜の巨体を横たえたそれは、既にそのほとんどが完成しているらしく、新品のコックピットはそこに座るべき主人の到来を待ちわびるかのように計器のランプを点滅させていた。
「これが噂に聞く《G系》か。《ヘルメスの薔薇の設計図》は恐ろしいな……いや、宇宙世紀の技術は、と言うべきか」
「海賊部隊にいるアイーダ様の《G-アルケイン》や、このまえ鹵獲した《G-セルフ》のデータも反映させてあります。操作系はユニバーサルスタンダードですけど、触った感覚は全然違うと思います」
「名前はあるのかい?」
「《G-イシュリア》です」
「いい名前だね。僕の好みだ」
周囲の作業音も気にならぬといった様子で、できたての《G-イシュリア》を見つめるカイル。28歳の誕生日を迎えてなお、モビルスーツを見るその瞳は少年のようであった。
「こいつと宇宙艦隊があれば、キャピタル・タワー占拠などたやすいことです」
「この機体も、カーヒル大尉の立てたキャピタル・タワー占領作戦があればこそ……か」
「面識がお有りで?」
「大尉には大陸間戦争でも何度かお世話になっている。カーヒル大尉のいる海賊部隊……メガファウナのクルーにも、何人か顔見知りはいるんだ」
「さすがは、カイル少尉でありますね」
「本当なら、僕も彼らとともに行きたかった……。だが、おかげでコイツのパイロットに任命されもした。だったら、その巡り合わせには感謝しなくっちゃいけないだろう」
「ん? お前、誰だ?」
カイルが視線を《G-イシュリア》から外すと、会話していたハズのメカニックが通りすがった清掃員の方を向いて何やら話しかけていた。
「きょ、今日からここで清掃のお仕事を始めた者ですわっ」
ややうろたえた様子で、清掃員のキャップを目深にかぶった少女が受け応えている。海賊部隊の戦友たちのことは取り敢えず忘れて、カイルはそちらに歩み寄っていった。
「ここは機密区域だから、入っちゃいかんよ。……あ、すみませんカイル少尉」
「構わないよ。……きみ、ひょっとして迷い込んでしまったのかな?」
「ひゃいっ……申し訳ございません」
「ここは入り組んでいるから、僕が案内しよう。安全ヘルメットも無しにうろつくのも危ないから……」
「いえっ! 自分ひとりで、戻れますからっ、では!」
エスコートしようと手を差し伸べた途端、清掃員少女はバタバタと慌てた挙動で走り去ってしまった。差し出した手を所在無さげにぶらつかせていると、傍らのメカニックが顎に手を当てて低く唸っているのにカイルは気付いた。
「どうしたんだ?」
「いえ、清掃員にしちゃ言葉遣いとかが達者な気がしまして」
「というよりも、たまたまここに来たという方が怪しいけどね」
「とすると……!」
「キャピタルか、ゴンドワンか。僕の方で追っかけてみるよ」
※※※※
人ごみをかき分け、基地内を探し回ること数分。だが、兵器廠での目撃情報を最後に手がかりも途絶え、カイルは彼女への疑念と、姿が見えないことへの苛立ちをますます募らせていた。
「くっ……。うかつだった。まさかとは思うけど……うーん」
カイル=ガウェインはモビルスーツパイロットとしては優秀な男である。欧州の大国ゴンドワンとの大陸間戦争においても大きな戦果をあげ、こうして最新鋭モビルスーツのパイロットを任じられて召喚されるほどの信頼もある男だ。しかし……
「ちょっと抜けてるっぽいからなぁ、僕……。はぁ、もうすぐ30になるってのに」
以前、作戦で一緒になったクリムトン=ニッキーニの容赦ない言葉が脳裏に蘇る。大統領の息子で天才パイロットである彼だが、年下の彼にああまで言われしまっては大人の自分が立つ瀬がない。
「あ、あの!」
「カイル=ガウェイン少尉、ですよね!」
自身の至らなさに消沈していたカイルの背後から、やや喜色を含んだ声色の呼びかけがかかる。表情を作って振り向くと、そこには若いパイロットと思しき青年たちがいた。初々しい外見からして、恐らく士官学校を出たばかりなのだろう。
「大陸間戦争の英雄とこんなところで会えるだなんて、こっ、光栄でありますっ!」
「ぜひ実戦での体験などをお話していただきたくっ!」
「おっ、おう。あいや、英雄だなんて、そんなふうに呼ばれるほど僕は大したもんじゃ……」
こりこりと頭皮を人差し指で掻きながら、照れ笑いを浮かべるカイルだが、心情的にはまんざらではない。思わず清掃員の少女のことを忘れて彼らの相手をしようとした―――まさにその時。
『emergency! emergency! 総員、敵襲につき第一種戦闘配備!』
「サイレン!?」
「ゴンドワンが攻めてきたの!?」
鳴り響く警報が、新兵たちの表情を戦慄で支配していく。そして、彼らに囲まれるカイルもまた、三十路手前のやや腑抜けた男のそれではなく、大陸間戦争を生き延びてきた“いくさびと”の顔つきになっていった。
「……兵器廠に戻らないと……!」