Gのレコンギスタ[外伝] アメリアン・ソルジャー   作:榊原啓悠

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戦場の宿命

『少尉、危ないッ!!』

 

 ミノフスキー粒子によるジャミングの彼方から、聞き覚えのある若い声が聞こえる。それがつい先程まで共に戦場を飛んでいたエフラグパイロットの新兵であると気付いた時には、カイルと《G-イシュリア》の狭間にエフラグはその機体を滑り込ませていた。

 

 当然、直上からサーベルで突撃して来た《G-イシュリア》がこれを避けられるはずもない。エフラグは《G-イシュリア》がサーベルを持ってふり下ろそうとしていた右腕部の挙動に叩き伏せられ、そのまま火と煙を吐きながら撃墜されていった。

 

「ぐッ―――」

 

 黙祷を捧げるのは後だ。自分の判断ミスで窮地に陥り、そのせいで若い命を散らせてしまったそのことに対する罪悪感と自責の念は当然ある。だが、今はそれに浸っている時ではない。

 腹の底から噴き上がるような感情の嵐を封じ込めて、カイルはビームワイヤーを発射した。狙いは、《G-イシュリア》の右腕だ。

 

『くっ、またしても……!』

 

 接触回線が開き、パイロットの少女の声が聞こえる。だがそんなことはどうでもいい。ビームワイヤーに引っ張られまいと踏ん張る《G-イシュリア》は膠着状態に陥った。カイルは《グリモア》の背部スラスターを吹かしてグンと上昇し、一気に《G-イシュリア》の斜め上方へと飛び上がった。

 

『ぁんっ!?』

 

 当然、上昇する《グリモア》に引っ張られて《G-イシュリア》の右腕はグイと上方へ開かれる。がら空きになった腹部を咄嗟に左手のシールドで覆うが、そんなことは関係無い。カイルは防御姿勢をとったシールドの上から、《グリモア》の高い格闘性能を発揮した強烈な飛び蹴りを叩きつけた。

 

『きゃあぁああぁ―――ッ!!』

 

 いかに大気圏内機動に優れたバックパックを装備しているとはいえ、中のパイロットがそれに耐えられるかは別問題だ。ならば、戦闘開始からずっと続く常軌を逸した高速挙動で疲弊したパイロットに更なる負荷をかけてしまえばいい。中のパイロットがGに耐え切れずに内蔵を吐き出して死んだとしても、機体さえ無事なら問題無いのである。

 

「容赦はしない……。このまま仕留める!」

 

 普段のおっとりとした彼からは想像もつかないような恐ろしい声で殺害を宣言しつつ、カイルがビームワイヤーを引っ張る。キックで吹き飛ばされそうになっていた《G-イシュリア》を強引にこちら側へ引っ張り戻すためだ。

 

『がっは……!?』

 

 接触回線が、《G-イシュリア》のコックピットに座っているであろう少女の尋常ならざる喘ぎ声を伝えてくる。これならば、もう強引にバックパックで加速をかけてこの拘束から脱出しようとは思わないだろう。

 

「このまま海面まで、一緒に落ちる!」

 

 身動きの鈍くなった《G-イシュリア》を両腕で捕まえて、一気に海面まで飛び込む。タイミングと入水角度を間違えれば、カイル自身も海の表面張力で大変な衝撃を受けかねない危険な行動である。しかし、エフラグ無しでの空中機動のやりすぎで既にスラスターは焼け焦げており、もうこれ以上の戦闘行為は不可能に近かった。

 

『ぁぐ……まだ、まだぁ……!』

 

 だが、しかし。《G-イシュリア》の少女は未だその体力を尽かしてはいなかったのである。

 

「ぐおっ……!?」

 

 界面衝突一秒前といったタイミングで意識を復活させたティアラは、バックパックのスラスターを点火。自らを封じ込めようとする《グリモア》を巻き込むカタチで、飛沫をあげて水上飛行を始めた。

 

「ああぁあぁ―――――ッ!!」

 

 それはティアラの叫びか、それともカイルの絶叫か。お互い絡み合ったまま水上を平行にまっすぐ飛び続けるうち、その加速とGが二人から残り僅かな持久力を奪っていく。

 

 しかしながら、いかに大気圏内用超高速バックパックとはいえ、想定以上の重量を抱えたまま水平飛行はできない。ティアラの気合も虚しく《G-イシュリア》はやがて水面に滑り込むように叩きつけられ、《グリモア》もろとも太平洋に沈んでいった。

 

 

 

「ぁ………」

 

 意識が途切れるその刹那。

 カイルは、大陸間戦争の従軍経験に連なる己の軍人としての半生を太平洋の深い青の中に幻視した。

 


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