Gのレコンギスタ[外伝] アメリアン・ソルジャー   作:榊原啓悠

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白い悪魔

 ティアラが接近する《グリモア》に気付くのと、《G-イシュリア》が落下を始めたのは、ほぼ同時のことであった。

 

「バックパック無しでミノフスキー・フライトは無理……だから!」

 

 執事のギャリソンから教わった通り、脚部スラスターで落下スピードを軽減する。半ばパニックに陥ってはいたものの、ティアラの操作は正確だった。

 

 だが、対する《グリモア》の熟練度を前にしては、それももはや児戯に等しい。

 経験を根拠とするカンでタイミングを合わせ、《グリモア》はジャンプして《G-イシュリア》の背面から回し蹴りを叩き込んだ。

 

「んぐぅッ―――!?」

 

 飛び出したエアバッグに顔面を突っ込ませ、ティアラが衝撃に悶絶する。そしてその直後、《G-イシュリア》は蹴られた勢いのまま一気に地表へと落下した。だが、OSが地表に激突するタイミングで受身の挙動をオートでとらせ、《G-イシュリア》は大破には至らない。ティアラが立ち直った頃には、既に《G-イシュリア》は兵器廠脇の地表に膝立ちで着地し終えていた。

 

「あの《グリモア》、なんという―――!」

 

 だが、肝心の《グリモア》の姿がどこにもない。上空に視線を滑らせても、さっきまでそこにいたはずの、あの特徴的な坊主頭のシルエットが無い。

 

「消えた……あんッ!?」

 

 瞬間、ティアラを襲う二度目の衝撃。どうやら《G-イシュリア》が受身をとっている間、《グリモア》は背後に回り込んでいたらしい。背後からの衝撃にたたらをふむ《G-イシュリア》をなんとかバランスをとらせて振り返ろうとすると、再三の衝撃がティアラに襲いかかった。

 

「あうッ……手玉に、とられて……!」

 

 金属同士が擦れ合う、嫌な音が聞こえてくる。どうやら《グリモア》は《G-イシュリア》に組み付いて取り押さえようとしているらしい。

 

『接触回線で聞こえるな! 今すぐそれを降りて投降しろ!』

 

《グリモア》のパイロットからの接触回線が、ティアラの耳朶を震わせる。抵抗すらままならぬまま捕らえられつつある現状に思わず涙目になるが、ここで弱気になってはいけない。なけなしの勇気を振り絞って、ティアラは毅然とした態度を自らに強いた。

 

「それはできませんし、しません! 舐めてもらっては、困ります!」

 

『そ、その声、さっきの清掃員の……!』

 

 接触回線のくぐもった通信音声で、《グリモア》のパイロットが驚愕の声をあげる。だが、向こうのリアクションにいちいち付き合ってやる道理などありはしない。この一瞬の隙を突いて、ティアラは一気に《G-イシュリア》の肢体に力をこめさせた。

 

「スコ―――ドッ!!!」

 

 ティアラの叫びに応えるがごとく、《G-イシュリア》の白亜の装甲の隙間やクリアパーツから、フォトン・バッテリーの光が噴出する。その瞬間、《グリモア》の拘束は瞬時に振りほどかれ、ティアラは振り向きざまのパンチを叩き込んだ。

 

 

 ※※※※

 

 

「ぐあぁぁああぁああぁッ!?」

 

《G-イシュリア》の鉄拳が、受け止めようと構えた《グリモア》のシールドを粉砕する。カイルは眼前のモビルスーツの想像を遥かに超えた性能に驚愕し、思わず恐怖の叫び声をあげて後方にバックステップをとってしまった。

 

「なんというパワーだ……。くっ、無傷で捕らえるのは無理か!」

 

 だが、闘志が萎えることはない。敵の驚異度を冷静に判断しつつ、カイルは手加減がこちらの死を招くという現実を認識し、敢えて使わずにいたサブマシンガンを構えた。

 

「発砲するッ!」

 

 咄嗟に回避へ移ろうとする《G-イシュリア》だが、しかしそうは問屋が下ろさない。サブマシンガンの銃口下から射出したビームワイヤーで即座に身動きを封じ、カイルはサブマシンガンのトリガーを引いた。

 

 吐き出される無数の弾丸が、やむを得ずガードの構えをとった《G-イシュリア》へと殺到する。弾き出される薬莢の落下音、着弾時の炸裂音と金属音、そして舞い上がる土煙が二機の間を埋め尽くしていく。至近距離でサブマシンガンの直撃をもらえば、まず間違いなく大破は免れない。せっかくの高性能モビルスーツをスクラップにしてしまうもったいなさと、コックピットで泣き叫んでいるであろうパイロットの少女への同情心を感じつつも、カイルはマガジンの弾が切れるまで《G-イシュリア》に向けて撃ち続けた。

 

 カイル=ガウェインは軍人だ。意味のない人殺しは忌避すべきだが、戦場で武器を伴って現れる敵を殺害することに躊躇はしない。その行動に疑問も持たない。ヒューマニズムや正義感などというものが、戦場という極限の地獄では何の役にも立たないことを知っているからだ。

 普段は気の抜けた青年である彼も、こと戦争という状況下においては情け容赦の無い職業軍人としての顔を覗かせる。無欲さがたたって未だに少尉から昇進する機会を逃してはいるが、戦果だけで考えれば、彼は既に“撃墜王”を名乗れるだけの撃墜スコアを誇っていた。

 

 ―――だがしかし、である。

 

「な、に――――――!」

 

 前段を撃ち尽くしたというのに、《G-イシュリア》は健在。それどころか、ほぼノーダメージとすら言っても過言ではない。白亜の装甲には多少の弾痕は残っているが、駆動系にはなんの損傷も与えられた形跡が無いのだ。

 

「じ、《G-イシュリア》は化け物か……ッ!!」

 

 硝煙の中、カメラ・アイをぎらりと光らせる《G-イシュリア》。その光は、内に秘めたフォトン・バッテリーの胎動か、それともティアラ=ブリーチの燃る闘志の現れか。

 

 いずれにせよ、この《G-イシュリア》がこれまでカイルがくぐり抜けてきた50を超える戦闘経験に無い未知の敵であったことは、言うまでもない。

 

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